騒がしい校庭。 運動場の隅では男子生徒たちがバスケットボールに興じている。 向かいの校舎では窓から下に向かって大声で叫んでいる女生徒。 中庭から上を見上げて叫んでいる女生徒。 少しの間をあけて笑い声がこだました。 ここ、サイオニクスガーデンの高等部は、いま昼休みの真っ最中だ。 若干特殊な能力を持っているとはいえ、学生は学生。 退屈な授業から解き放たれ、堪えてきた空腹を解消した生徒たちは短い自由時間を満喫している。 給水塔の前に腰掛け、足をぶらぶらさせながらサンドウィッチを頬張る。 時々コーヒー牛乳をすすり、ふぅとため息。 給水塔の下、屋上では数羽のハトがパンの切れ端をつついている。 俺はサンドウィッチをあらかた食べ終えると、手に握ったパンくずを全てハトに放り投げた。 「あにゃ!?」 奇妙な声が聞こえた。 俺が腰掛けている給水塔は屋上への出入り口の真上に建っている。 下を覗き込むとハトに混じって、でかい女生徒が一人立っていた。 頭には俺の投げたパンくずが付着している。 「…すまん。」 どうやら屋上に出たところに俺が真上からパンくずを撒いてしまったようだ。 「あー。気にしないでいいよ。ちょっとびっくりしただけだから。」 でかい女生徒は上を見上げてそう笑った。 「それで…何か用か?三食。」 頭からパンくずを被ったでかい女生徒、三食花子が隣に座っている。 何か別の、個人的な用事で屋上まで来たのかと思っていたが、あのあと彼女ははしごを上って給水塔の横まで来たのだった。 つまり俺に用があるのだろう。 「うん。こないだのお礼がまだだったなーって思って。」 ああ、そうだった。 一昨日、サンジェルマンのBOXサンド…その最後の一つを三食にゆずったんだった。 あそこのサンドイッチは人気だからな。 「しかし、よくここだとわかったな。」 「大樹くんいつもここでお昼食べてるよね。」 どうやら元から場所はばれていたらしい。 確かに、ここでハトに餌をやりながら昼飯を食うのはいつものことだ。 「大樹くん今日もBOXサンド食べてるなーって思いながら屋上にきたんだよ。」 どうやらメニューまでばれているらしい。 三色の能力は超嗅覚…とはいえ屋上に来る前からBOXサンドの匂いを追って来ているとは、すごいな。 「昨日は違ったよねー。」 「売り切れてたんだ。」 「じゃあ今日は買えてよかったね。」 「窓からショートカットしたからな。」 昨日買えなかったのが悔しかったので、社会の臨先生が教室を出て行くと同時に窓から飛び降りたのだ。 見つかってたら地面に叩き落されてたかと思うとぞっとするが。 「窓から?大丈夫?怪我してなぁい?」 「俺もPKだからな。」 俺のサイコキネシスは、効果範囲はすごく狭いが、その分強度は高い…らしい。 地面に着地する瞬間に静止すれば校舎から飛び降りるくらいじゃ怪我はしないのだ。 「それでお礼なのですけどね、百疋屋の巨大フルーツパフェでどうでしょう?」 三食はニコニコしてこっちを見つめている。 絶対自分が食べたいだけだ…。 「奢りなら何でもいいぞ。」 そういって俺ははしごを降りた。 もうそろそろ昼休みも終わる。 「うん、それじゃあ放課後…」 そう言いながらはしごを降りていた三食の体が鈍い音と共に傾いた。 そのまま仰向けに地面へと落ちていく。 咄嗟に俺は三食の体を抱きとめた。 どうやらはしごと壁の接続部分が折れたらしい。 はしごはぐにゃりと歪んで反り返った形で壁に固定されている。 「ご、ごめんなさい〜。」 どうやら三色に怪我はなさそうだ。 「これは…後で先生に叱られるな。」 「わ、私が重いからかな?それで折れちゃったのかな!?」 三食は半泣きでおたおたとはしごを見上げている。 「違うと思う。」 何故なら俺も似たような体重だからだ。 三食は女性にしては重いが、それでも2mある俺と比べると、そう重さは変わらない。 昼休み終了のベルが鳴った。 「ん…急ごうか。」 「そだね。」 そして三色を地面に下ろし、教室へ向かって走り出した。 「大樹くん。」 「?」 「私をお姫様抱っこできるなんて…すごいねー。乙女の夢が一つ叶っちゃった。」 …確かに落ちてきた三色を受け止めたが。 アレをお姫様抱っこというのか? そうなのかと思うと急に恥ずかしくなってきたので、俺は無視して階段を駆け下りた。