鋼の咆哮〜METARIC WAR CRY〜(改訂) いったい何度目の夢か忘れたが、俺は夢の中で一人の女性を愛し続けている。 何度となく唇を重ね 幾度となく舌を交わし 際限なく彼女の中に入り 永遠に彼女の中に己の猛りと欲望を放出した。 彼女の名前は、晶。 愛してやまない大事な双子の妹。 俺の名前は、彰。 病みつづけ罪深い、カインの末裔。 俺は死んだ実の妹を愛し続けている。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 八卦掌の掌打を受け止めるが勢いに負けて吹き飛ばされる。 前回の任務を教訓に近接戦闘の訓練を頼んだが、相手が悪かったかもしれないな・・・・体中が すごく痛い。治療のことを考えるともっと痛い、主に精神が。 「おいおい灯室よう、それで終わりとか言わないよな?」 「すんげえ痛いです。勘弁してください」 「だらしねえな。男だろ?頑張れよ」 「先輩、同じような状況になってから29回目なんですけど?いい加減マジで死にそうです」 先輩こと、神谷狼牙に近接戦闘訓練をつけてもらおうと頼んだが何をトチ狂ったのかこの 先輩、ガチで戦闘を始めやがった。喧嘩を売ってきた一年坊をボコボコにしたのを知って の快諾だったみたいだ。 どうして血の気の余った馬鹿が多いんだこの学校!どいつもこいつも献血に行って血を 抜いてもらってこい! 「なんか言ったか?」 「何も言ってないですよ先輩。俺は完全にギブです」 「まあ、初めてにしちゃOKかな。でだ、戦って思ったんだがお前は素手の戦闘に向いてない」 「本当ですか?」 「ああ、本当だ。お前の戦い方、動きを見てるとどうも能力偏重系の感じに見える」 「能力第一主義ってことですか?」 「いや、それに近いだけってだけだ。修正はできるが時間かかるな」 「どれぐらいかかります?」 「後100回ぐらいは死に掛けないと無理だな。それぐらい体に染み付いちまってる。 本能に近いな」 「勘弁してくださいよ、何かこう手っ取り早い方法ないですか?」 「うーむ・・・・・お前「得物」を使ってみる気はないか?」 「武器ですか?確かに鉱物精製の延長線上で出来ますけれど、どこまでやれば良いんでしょ うね?一朝一夕でどうにかなるわけじゃないでしょうし」 「それは努力と根性だ!」 マジな目で言ってるよ。 努力と根性は嫌いじゃないが・・・・・・してみる価値はあるかな? ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 妹を異性として見始めたのは5歳ぐらいからで将来は妹と結婚して幸せにしようと考えていた。 父さんはいつも言っていた「男の拳は大事な物の為にある」と、だから俺の拳は妹のためにあり、 家族を守るために振るうと心に誓った。 だが、その思いは7歳の時に崩れる。 住んでいた町を未曾有の大地震が襲い直撃を受け壊滅。 生き残ったのは全人口の半分ほどで俺は両親と大事な人を失った。 大地は陥没し、土砂崩れが起きて家が押し潰される。 父さんは、俺を庇って家の残骸に押し潰され、腕と足を残して死んでしまった。 母さんは、妹を庇って割れたガラスに首が切断され、体を残して死んでしまった。 妹は、土砂の下敷きになって体がぐしゃぐしゃに潰され、頭を残して死んでしまった。 俺は、右腕を失い、左手を失い、顔を失い、足を失い、内臓はグチャグチャに飛び出していたが生き ている。 そんな死に損ないを見つけたのがサイオニクスガーデンの救助班だった。 傷つけないようにPSIでそっと運ばれる。 痛いのか熱いのか寒いのか解らない中で俺は必死に叫んだ。 「誰か……晶を助けて、僕の命をあげるから助けて!」 誰も応えてはくれない。 どうにもならないのを知っているからだ。 でも、答えが聞きたくて叫ぶ。血が口から溢れ出し腹からの出血も酷くなる、俺の救護にあたっていた 一人が静かに言った。 「どんな残酷な結末になっても君は後悔しないね?」 とても哀しそうな声だ。 構わなかった。 晶が生きていてくれればそれでよかった。 「お願い……助けて」 それだけ言うと俺は気を失って2ヶ月以上意識が戻らなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― PC(サイコスト)は能力者が代償として払うもので、能力を使用する際の頭痛・出血・痛みなどが有名だ。 だが、能力者の中には代償を必要としないで能力を行使するやつらも存在する。 そもそもサイコストとはなんだろう? ある教師が言うには、「能力の限界点」。ある教師が言うには「過去への残照」。 前者は解り易いが、後者はとても解り辛い。 「過去への残照」それは能力者となる前の自分に対する未練、戻れない過去への郷愁だそうだ。 PCを必要としない人間は果たして過去を断ち切っていると言えるのだろうか?未来に希望を持つ前向き なやつらなのだろうか? そんなことはどうでもいい、現状の自分が持つコストをどう活用していくのかが重要じゃないだろうか? 限界と容量、分配を上手く行っていく。 その為には他者と自分を比較するのが重要だ。 「質問があるんだが良いか一ツ橋?」 「あふぅ、いつか来ると思ってた日がついに来ちゃったんですね。さようなら子供だった私!そして 美砂ちゃんに勝った!」 何を言ってるんだこいつ? テンション高いし頬を赤らめるな、怖い。 「はいはい、覚悟完了ですよ晶さん!私は彼氏がいませんけれど、テンプレートって事でどーんと質問 しちゃってください!」 「彼氏?いないのか」 「はい!だからOKです!」 「何が?」 「嫌だなあ、晶さん。女の子はね男の子に言われるのを待ってるんですよ」 ……皆目見当が付かん、どうしていつもこいつは頭の中が春なんだ? 神宮路の苦労がよく解る。 「PCについての質問なんだが…」 「大丈夫です!私は晶さんがPCや美少女フィギュア大好きな秋葉系でも、PCを使ってHな一人遊びして ても気にしません!むしろウェルカムです!」 「あのな、PCはサイコストの事だ。俺はそう略してる。お前がどうか知らないけれど」 「……ちぇっ、告白じゃねぇのですか。トキメキを返してください!」 「殴って良いよな、答えは聞いてない」 拳骨を一ツ橋の頭の上に振り下ろす。 鈍い音と「ギャー」という悲鳴が聞こえるが、俺は気にしない。 「あううう、痛いです。それで晶さん、私にPCの質問てなんですか?」 「お前のPCは目からの出血だよな。どのレベルから血が出る?双眼鏡レベル、ミクロレベルかそれとも 感知機レベルから?」 「う〜ん、考えた事はないですけれど銀行の大金庫を透視したレベルでちょっと出ました」 「解りづらいな。貧血起こしかけた時はどんな事をした?」 「100km離れたホテルでやくざが親子の杯を交わすのを見学しちゃいました」 「ホテルの何階だ?」 「最上階のVIPルームです。背中の唐獅子牡丹がかっけぇでしたよ」 すごく理解しづらいが、山や建物などの遮蔽物を貫通して見たと考えられる。 厚さが10km以上ある山を貫通して見ているのだから相当なレベルと見て間違いないだろう。 だが、他人の感覚ってのは当てにはならないな。自分の能力と相手の能力に違いがありすぎると全然 分からない、特に質問した相手がまずかった。 「参考になりました?」 「そこそこ参考になった」 「お役に立てて嬉しいです」 一ツ橋の笑顔を見ると全然役に立ってないと言い辛い。言っても大丈夫なキャラっぽいけど。 まあ、自分でこういうのは試してみないと解らないよな。 そう思い教室を後にした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あれから3ヶ月、包帯でグルグル巻きでミイラみたいだったけれど今日取ってもらえることになった。 ミイラみたいでかっこ悪いのが終わるのよりも妹の晶に会えるのがとても嬉しい。 お父さんとお母さんも大好きだし会いたいけれど一番大好きで大事なのは晶だ。 朝からワクワクしている。 だけれどみんな悲しそうな感じなのはなんでだろう? いつも明るい圭子お姉ちゃんもなんか暗い。 ガチャガチャ音がしてきたけど何をするんだろう? 「彰君、今日は君の顔の包帯と全身の包帯を取るけれど覚悟はできた?」 圭子お姉ちゃんが真剣だ。なんだろうすごく怖い。 頭の中で誰かの声が木霊する。 怖い。 「これから包帯を取るわね・・・・・・」 ジョキッジョキッ 鋏が顔の包帯を切っていく。 少しづつ少しづつ包帯が落ちる。 誰かの声も少しづつ大きくなっていく。 『どんな残酷なXXXXXXXXXXXXXXXX』 全部包帯が落ちた、目は覆われていなかったけれどやっぱり何もないと気持ちが良い。 風の感触、陽の暖かさ、光の美しさ。 だけれど声が大きくなる。 『どんな残酷な結末になってもXXXXXXXXX』 「ねえ、圭子お姉ちゃん、晶はどこにいるの?」 「鏡を見て、自分の顔を・・・・」 圭子お姉ちゃんの手が震えてる。 何が怖いのかな? 声が聞こえた。 『どんな残酷な結末になっても君は後悔しないね?』 あれ?おかしいよ? 鏡に映っているのは僕じゃない、晶だ。 おかしいよ?僕の手はこれじゃない、お父さんの手だ、左手も違う、晶の手だ。 「うあああああ、ああああああああ、ああああああああああああああああ――――」 「こうするしかなかったの・・・・・ごめんなさい彰君、ごめんなさい」 圭子お姉ちゃんが僕を抱きしめる。 なんで?なんで?なんで?助けてくれるって言ったじゃないか! 晶!晶!晶!晶! 「あきらああああああああああああああー!」 「貴方を助けるにはこうするしかなかったの」 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘ッ嘘ッ嘘っ嘘だ嘘っ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああああああー! みんな死んだなんて・・・・・・嘘だ。 「ああああああああああっ―――――――――――」 空が、地面がキラキラと輝く。 星屑が落ちてくる。 「西東さん、痙攣が起こってます早く鎮静剤を!」 「違うは・・・・・これはPSIの発現?みんなこの部屋から出て!」 「え?なんだこの粒は?石?」 「こっちはルビー?」 「水晶が生えてきたわよ!?」 病室のあらゆるところから鉄、銅、ルビー、サファイア、水晶、様々な鉱物が生えてくる。 「家族を失ったショックからのPSIの発現?生成能力者・・・・嘘でしょ!?」 「鉱物の生成が止まりました」 「彰君も気絶してます」 「この子はどこまで不幸になればいいの・・・・」 悲しそうな圭子お姉ちゃんの声が聞こえた。 お父さん、お母さん、晶、僕はそこにいけないの? ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 訓練室備え付けのシャワーは水の出が悪いとみんな言うが水だけにすれば丁度良い按配じゃ ないか。 水の冷たさと勢いが気持ち良い。 コストの配分練習をしていてかなり自分の能力のペースが掴めてきた。硬いからといって ダイヤばかりじゃ馬鹿にならないな。 自分のいるフィールドにある物質を利用することでコストを下げることができる。 合金や化学組成系のを練成するのもそこそこコストがかかる。 自然にある物質ならば、硬度が高い鉱物でなければ少ないコストで組成可能。 これがここ1ヶ月半程で俺が分析したものだ。 もっと早く能力分析をしておけばよかった。 そうすればあの時俺は・・・・・。 考えても始まらないか。 シャワーの蛇口を閉めシャワー室から出た。 正面にある大きな鏡に自分の姿が映る。 右腕の付け根に接合した傷痕、胸から腹にかけて斜めに縦断した刀傷のような痕、左手の 接合痕、左足首と右脹脛にある傷痕。そして、何よりも目立つ首の傷痕。見えないが背中に 抉られたような痕もある。 人には見せたくない、自分も見たくない傷痕。 父の腕と足・・・妹の顔と左手。 俺は・・・・・・妹の名を持つ、俺は何だ? ガチャッ ドアが開いて、目と目が合った。 「灯室、その傷は・・・・」 「見ないほうがいい」 「でも!」 入ってきたのは、麻生奏詠。 やばいな、素っ裸で鏡の前にいるなんてナルシストみたいじゃないか。 誰よりも見られたくない相手に見られるなんて。 「お前は割と自分事と他人事を混同したがる」 「傷が・・・・だから貴方は人と関わりたがらないのね」 「だからどうした」 「服を着たら?課外授業よ」 ちっ、任務か麻生が呼びにきたってことは今回は麻生とか。 しかし、チームリーダーの麻生が俺を呼ぶってことは上級生との任務か気が重いな。 シャツに手を通しながら麻生に聞く。 「誰からのお誘いなんだ?」 「竜胆先輩からよ」 「QUEENか、面倒な任務だろうな」 「QUEEN」こと、竜胆真弓は俺たちのひとつ上にあたり透視能力を持つスナイパーだ。 父親は、オリンピックのバイアスロン、ライフル射撃の金メダリスト。 そんな射撃エリートの家系に生まれた彼女も蟻の眉間に銃弾を打ち込めるんじゃないかって いう程の射撃能力を有している。 能力を隠して普通に生きていれば未来の金メダリストなのに彼女は此処にいる。 弓道部に所属する彼女の弓を見たことがあるが、ど真中に刺さった矢の尻にもう一本矢を 打ち込むなんて神業クラスの芸当をやってのけた。 ついでに凛とした美しさを持つ美少女で、非公式の秘密ファンクラブがある。そういや 一ツ橋が会員だったな。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ご苦労、よく来てくれたな3人とも」 「ヤッホー、お姉ちゃんだよう」 うわ、なんだこりゃ。 圭子ねえさんは、チビッコ先生を膝に乗っけて俺たちを出迎えた。 嬉しそうな姉さんとは対照的でチビッコ先生は嫌そうだ。 「竜胆真弓、以下2名参りました」 抑揚はないが澄んだ美しい声、凛とした容貌、正に「QUEEN」の名が相応しい。 しかし、こんなちぐはぐなメンバーで何をさせる気だ? 「今回の任務についてだが、アリーシャ=ディスケンスを知っているな?」 「はい、今売り出し中のEUの歌姫ですよね」 「私は彼女の「True」が好きです」 「あらあ、真弓ちゃん結構ロマンチックな歌が好きなのね。麻生さんは?」 「私は「LOVE AND HATE」が好きですね」 TRUEだのLOVEだの可愛らしいのが好きだなお前ら、男でも裸足で逃げ出すくらいおっかな いのに。 「灯室は聞かないのかアリーシャ?」 「あいにくと先輩、俺はヘビメタとかロックしか聞かない」 「そうなのよね、晶はな〜んか時勢のハヤリとかに離れてゴーイングマイウェイだから心配 なのよ」 「悪いことじゃねぇだろ」 「おまえ等ちょっと黙れ!」 俺たちの漫才に怒るチビッコ先生、気持ちは分かるが姉さんがいる時点で微妙にグダグダにな ることぐらい分からなかったのか? 「おまえらの漫才なんかどうでもいい!これを見ろ!」 一枚の写真を机に叩きつける。 痩せ型で顔色の悪い男が写っている。 一見ジャンキーの様にも見えるが意志の力を感じさせる瞳がそれを否定する。 「こいつは?」 「グィード=マルコムス。アメリカの元特殊部隊員で今はストーカーだ」 「キチガイに包丁ね」 「私たちの任務は、スト−カー退治ですか。それなら警察に頼めばいいんじゃないですか?」 「グィード、こいつは能力者だ、勲章をいくつも貰ったな」 英雄か・・・・・・やっかいなこって 続く