■日本分断YAOYOROZ■ 顔瀬 良亮(かんばせ りょうすけ) http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B4%E9%C0%A5%A1%A1%CE%C9%CE%BC 綾川 景(あやかわ けい) http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B0%BD%C0%EE%20%B7%CA 東雲 天司郎(しののめ てんじろう) http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%C5%EC%B1%C0%20%C5%B7%BB%CA%CF%BA ----------------------------------------------------------------- 「良亮君ストップ!」 久々に名前を呼ばれたもんでびっくり。小走りに寄って来たのは病室で俺を 取り囲んだ看護士の一人だった。あの時はあんまり注意して見てなかったので解らなかったが 随分と若く見える。 「院長先生の許可も出て無いのに無闇にヤオヨロズを使っちゃあいけないよ。  少しづつ慣らしていかないと何が起こるか解らないからね。」 俺の目玉は少なくともヤンキー共を再起不能にするぐらいの力がある。 でも例えば、本気を出したらどうなるのか、どうやって力を加減するのか、なんてのは全然知らない。 今俺は「ざっけんなよ!」って軽く頭をはたくぐらいの気持ちだった。 ただ、俺の脳みそが腕に指令を送る前に、目玉のほうが反応したのだ。 俺が頭をはたくぐらいなら何も怖いことは無い、まぁ脳に病気があるとかなら別だけどもさ。 じゃあ俺の目玉から生えたでっかい腕ではたかれたらどうなるのだろう。 頭蓋骨とか陥没するんじゃなかろうか。効果音は「ドグシャア」。「メメタァ」とかでも良い。 …問題は、そんな危うそうなものが頭をはたくぐらいの気持ちで動いてしまう事だ。 「女子の前で勃起とか言ってんじゃねーよ赤っ恥かいただろ、ぺちん」が 「女子の前で勃起とか言ってんじゃねーよ赤っ恥かいただろ、ドグシャア」 に変わりうる。 「スタンド、って知ってる?ほらあの有名なマンガに出てくる…」 「知ってます、つか、大ファンです。何でその話を?」 「聞いておいた方が良いっスよお兄さん。すっげー解りやすいから。」 ちょっとマイノリティ入っちゃってる男子なら誰でも知ってる。あのマンガ。 作者が全然歳取らないので有名。ゲームも出た、すっげぇ完成度高い格ゲー。 中学生ぐらいの頃めちゃくちゃハマったわ、そういや。 「お、知ってるのか、オッケ、なら話は早い。すっげぇ初期の頃にさ、主人公の母親が自分の守護霊を  制御し切れなくて死にかける、ってのがあったよね?」 「あー、ありましたね。高熱がどうとか。」 「そうそれ、んでさ大分後の方の巻で、列車で戦うとこあったよね?兄弟の刺客で、老化させて…っていう。」 「ええ、あのあたり大好きでした。」 「あの兄貴のほうがさ『その言葉を頭の中に思い浮かべた時には…』云々って台詞、言ってたよね。」 「ええ、まぁ意味解らん信念だな、と思いましたけど…」 「そう、あの言葉あまりに危険な感じするよな。どんだけ短気なんだよ、ってさ。」 なぁんとなく、この人が何が言いたいのかわかってきた。 「えと…慣らしておかないと今の二つの例みたいになる…って事ですか?」 うーむ決して解りやすくは無いと思うぞ、シノノメ。 「お、理解が早い。君の持ってる能力…ヤオヨロズって呼ばれてるものだけど…についての詳しい話は  柳先生にしてもらうんだけどさ。まぁ下手をすると他人も自分も傷つけかねない代物って事さ。」 「すんません、えっと…すんませんした。」 とりあえず謝っとく。草食動物は逃げたり身を護らなきゃ生きていけない。 「いや、オッケ。ヤオヨロズ使いは必ず通る道だから。大方シノになんか言われたんだろ?」 「ひでーよケンさん。なんかあったら俺のせいかよ!グレるぜ!」 「グレる根性もないだろ?シノの三日坊主っぷりはおれが一番良く知ってるんだぜ。」 相変わらずふわふわ浮いてるシノノメとかいう青年。看護士との話しぶりからすると どうも俺よりも長くこの病院にいるようだ。「お兄さん」って事は俺より年下なのか? 「そうそう聞いてよ、このお兄さんがケイちゃん襲おうとしててさー。」 聞き捨てならん! 「してねーって!これはあの針のおばさんにヤられたんだよ!そしたらあの子に会って…」 ミポリン★のお陰で色々大惨事だよ畜生。 「あ、胸はデカイっスもんね。寝てたから溜まってる訳だ。」 「お前俺のこと熟女フェチと勘違いしてね?」 「はぁ…ケイちゃんかわいいよなー。あーいう守りたくなる女の子、超タイプ。  あ、新入りのお兄さんに言っときまスけどケイちゃんと話すには俺の許可が必要っスからね!」 「いや別に話すも何も…」 「二人で空を飛ぶとかロマンチックだよなー…」 ダメだこいつ、脳みそも一緒にお空を飛んでる。 「オッケ、じゃ先生のとこ行こうか。かなり長い話になると思うから、今のうちトイレ行っときな。」 「あ、俺も〜。」   *   *   *   *   * 便所にまで呪文が描いてあったらどうしようと思ったらその通りで、またビビッてしまった。 もういっそのこと廊下も呪文で埋め尽くしとけばいいのに。 「か…はりにゅうどう…どうかくこう?」 「かんばりにゅうどうほととぎす。便所の神様に唱える言葉なんスって。」 「へぇ…あ、シノノメ…君普通に地面歩けるんだ…ね。」 「いやいやドラ○えもんじゃねーんスから、いつまでも浮いてはいないっスよ!」 なんかしんないけど君付けしてしまった。みょーに間が空いてしまって逆に気まずい。 つーか良く考えりゃあ向こうに至っては俺の名前も知らないはずだ。 「遅れたけど、『顔瀬 良亮』っていいます。えーっとシノノメ テンジロウ君だよね?」 「ちょ、先輩!なんで微妙に口調変わってんスか?別に呼び捨てでいいっスよ。高三でしょ?一コ上じゃないスか。」 「あ、やっぱ年下なんだ。つかなんで知ってんの?」 別に面識があったわけでも無いのに、年下だと知った瞬間にタメ口になってしまうのは何故だろう。 「いや、ケンさんに聞いたんスよ普通に。あ、サンダルに履き替えないとダメっすよー。」 二三歩後退して、言われたとおり茶色の便所サンダルに履き替える。 小便器の前に立った瞬間気付いたが、このヒラヒラした服で用を足すのは非常に難しい。 思いっきり前をたくし上げて生脚を晒し、小便がかからないように服の余りを保持した上 がんばってモノを出さなければならないのだ。つーかせめて上下別に作ってくれよ。 勃起が収まっているのが不幸中の幸いと言うか。 「やっぱダルいっスよね、それ。」 ジャージ姿のシノノメはもう放尿している。 「なー。しかもスースーして落ち着かねーし。」 「あ、お得情報なんスけど、女の子も入ってすぐはその格好スからね。だから新入りの女の子来たら  絶対このあたりウロウロするんス俺。しかも恐らくノーブラっスからね。」 「お前ホント超どうでもいいわそれ。…そして超ナイス。」 シノノメはニヤリと笑って身体を震わせて便器から離れた。 ようやくモノの位置を定めた俺の斜め横にスッとシノノメが寄ってくる。ちょっと焦る。 「膝カックンとか無しな。お前巻き込んで大惨事になるぞ。」 「これから先生のとこ行くんスよね?」 ぐっと声量を下げてシノノメが呟く。 「え?あー…らしいね。」 「行くんスよ。だから一つ先輩にアドバイスしときたいんス。」 「な…なんだよぅ。」 俺がビビッて語尾が掠れたわけではなく、一通り出し終えたから身体が震えたのだ。 「『先生』の味方でいたほうがいいっスよ。」 「は?」 一際小さな声で言うと、シノノメは便所サンダルを履き替えて手を洗い 「俺先に出てますわ〜。俺502号室なんで、自由行動になったら来て下さいね。」 さっさと帰ってしまった。 「先生の味方…?どういうこった?」 味方と言われても、相手は医者(なのか?)でこっちは患者(なのだろうか?)だ。 こっちが味方どうこう言える立場じゃないだろうに。 外からケンさんの声が聞こえる。 「おーい、どうした良亮君!下痢?」 「あ、すんません!」 シノノメの言葉の意味がさっぱり理解できないまま、「ケンさん」に連れられて院長室へ向かう。   *   *   *   *   * 便所にも窓が無いし、病室にも窓が無い。まぁ予想はついてたけど、俺のいる場所は地下らしい。 ただ、不思議なのは少なくとも今通ってきた場所を見る限りでは限りでは、地下に向かう階段はあるのに上に上る階段が無い事。 どうもここより上の階への移動はエレベーターを使うみたいだ。 エレベーターに乗ると、「ケンさん」は鍵を使って制御盤を空け、「B3」のボタンを押した。 多分俺に見えないように操作していたつもりなんだろうけど、ちらっと見えてしまった。 ボタン横のランプがついていたのは「B4」。って事は俺達が居たのは地下四階って事なんだろう。 それよりもビビったのは「B8」っていうボタンが見えたことだ。この施設地下八階まである訳? 「なんか悪の秘密基地みたいっすね。」 「む、正義の味方だって秘密基地は作るぜ。地上階では普通の病院もやってるからね。色々危なっかしい事が多いもんで  地下にこういう関係の施設をまとめてあるんだ。」 まぁバケモノを操れる子供達がウロウロしてるわけだから当然っちゃあ当然か。 …そういやあまりにいろんなことが立て続けに起こったもんで気にもできなかったけど、この建物 どこにあるんだ?何県?何市?さっぱり解らん。 大体気絶する前の俺の持ち物は?ケータイ、財布…は取られたか。 家族には連絡してくれてるのか?地元の奴らには? 「あの…すんません、色々聞きたい事が、その多すぎてまとまんないんですけど…  ここどこなのかとか…家族に連絡してるのか、とか…」 「うん?え!?早太君とか楠木さんには何も聞いてないの?」 「ええ。つか、色々びっくりし過ぎて…。」 「あー、まぁそこらへんも先生から聞いたほうが早いだろうな。オッケ、大丈夫。」 なにが大丈夫なんだかさっぱり解らんって。エレベーターのドアが開く。 別に地下三階と変わらない殺風景な廊下だ。どうして病院の廊下ってのは気を滅入らせるんだろう。 ただ下の階よりも廊下を歩いてる職員の数が多い。 「こんにちわー。」「こんちわ!」「どうもー。」「どもー。」 通りがかる人たち全員に挨拶されるもんで、ちょっとビビッてしまう。学校じゃ知り合いでも無い限り 挨拶なんかしねーもんなぁ。必死に会釈を返す。結局院長室につくまで全然頭を上げてなかったような気がする。 多分フロアのほぼ中央に位置する院長室。また随分と落ち着かない場所にあるもんだ。 というか、むしろこの部屋で中央のスペースを無理やり埋めてるようにも見える。 年季の入った木のドアをノックする「ケンさん」 「勇顕です。」 「入りたまえ。」 ユウケン…か。すげぇ名前だな「ケンさん」 はいはい呪文が描かれた壁ね。もうビビりもしない。つかむしろ適応してる自分にビビる。 院長室は、窓がなくてその代わりに書類棚が並んでる校長室、ってな感じだった。 調度品やら何やら並んでる豪華な部屋を想像してたんだが、むしろ本物の校長室より質素かもしれない。 柳院長は眼鏡を外して書きかけの書類を置き、席を立った。機械音痴なのか、それとも手書きに何か意味があるのか 未だにパソコンじゃないようだ。机の両端にどっさり書類が積まれている。 「やぁ良亮君。身体の調子は?」 「あ、まぁ、大丈夫な感じです。」 「うむ、楠木君は日本でも五本の指に入る鍼師だからね。ここに入る前よりも調子が良いくらいだろう?」 「あー、まぁ多分。」 「あ、すまん。気にせず座ってくれたまえ。」 曖昧な返事を気にも留めず、院長は棚から三つカップを取り出して、電気ポットのほうに向かう。 ケンさんがさっと気を使う。 「いやいや院長、僕がやりますから。」 「いいから座ってなさい。勇顕君はコーヒーでいいね?良亮君は?」 なんとなく子ども扱いされてるようで、ちょっと意地を張ってみた。 「あ、俺もコーヒーで大丈夫です。」 「お、大人だね。…砂糖とミルクは?」 あっそうか。自分で取りに行くのも微妙だよな。 「…二つずつで。」 「お茶にしとくかい?」 「…はい。」 いらん恥をかいてしまった気がする。 〜続く〜