俺が、俺達がお姉様だ!!SS 『ある昼休みの風景』 「ねぇ、メリッサはどこ行ってるの?」  ここは聖白百合女学園のとある一年の教室前。  荒々しくシャギーの入った赤みが強めの黒髪セミロングと褐色の肌を持つ二年生がガムを膨らませつつ  知り合いの後輩の所在を気弱そうなクラスメートの少女に尋ねていた。 「あ、あの……その……」  ビクビクと小動物のように狼狽する少女に二年生は内心苦笑した。  米軍兵士の父譲りの恵まれた体格と鋭い目つき、  それに以前エアガンを乱射した「前科」の噂で怯えているのだと。  二年生の少女…ケイ・花城はそんな可愛い相手にちょっとしたイタズラ心を起こした。  ガバッ 「ひゃうっ!?」  小柄な少女を豪快に抱き締めるケイ。 「何よ、ビクビクしちゃって……あんまり可愛いとイタズラしちゃうわよ? あはっ♪」  いきなりの強引な愛情表現と首筋にアメリカ産ガム特有の甘い香りの混じった吐息を吹きかけられ、  ウブな顔中を真っ赤にして言葉にならない声を上げる少女。 「ケイ!」  突如廊下に響いた厳しい声。  ケイはそれに動じる事もなく、クラスメートの少女を開放して「ごめんね、冗談よ」と謝ってから声の主の方向へ向き直る。  そこにはオレンジ気味の金髪と青い瞳を持つ白人の少女が、購買で購入してきた昼食の入った袋を持って不機嫌な顔をしていた。  少女の名はメリッサ・ブラウニング。彼女の父はケイの父の上官であり、幼馴染でもある。 「……だーかーらー、あの子にもあんたにも謝ったじゃないの!」 「あなたはいつもそう、私が見てない所ですぐハメを外すんだから……」  場所は変わり、彼女達の所属するサバゲー同好会の部室。  ケイとメリッサはそこで昼食を取っていた。  手製のスパムおにぎりを頬張りながら謝るケイだが、メリッサはなかなか機嫌を直そうとしない。 「大体ね、あんただってケータイの電源を切ってるのが悪いのよ? 学校中を探し回る私の身にもなってよぉ」 「校則では校内での携帯使用は余程の事情を除いては……」 「あー、わかったわかった!! …ったく、今時ケータイを活用しない女子高生なんてギネスに載るわ……」  彼女の父も生真面目なので、よく父がぼやいていたのを思い出すケイ。  しかし、袋から次々と調理パンを出して大胆にかぶりつく「妹」の姿を見ていると自然に笑みが浮かぶ。  彼女はそのルックスから「ドレスでも着ればお姫様みたい」と級友達にからかわれるのだが、  幼馴染の自分の前で気兼ねなく見せるガサツな一面が何とも愛らしく思える。  本当の妹のように思える彼女が、一年後には……。 「ほら、ケチャップついてるわよ」 「あっ、ありがと」  ケイはメリッサの口の周りについていたケチャップを褐色のしなやかな指で掬い取り、自分の口に運ぶ。  やがて二人は昼食を胃に収め、時間がゆっくりと過ぎていった。 「……嫌なのよ……」 「えっ? どうしたのよいきなり」 「私、パパの仕事の関係で一年後にはアメリカに帰っちゃうのに……どうして他の子とイチャつくのよ!!」  突如感情を爆発させ、メリッサはケイに詰め寄った。 「メリッサ……」 「!?」  次の瞬間、メリッサの唇をケイの唇が塞いでいた。 「あんたバカよ……そこまで真面目を通り越すと、ただの不器用なんだから……。 私だって……あんたがいなくなる事が寂しくないわけないじゃないのよ!! でも……ごめんね……メリッサ……」  ケイもいつしか目に涙を浮かべている。 「ケイ、私こそごめん……寂しいのって私だけじゃないのよね……。 でも、私が帰国しても他の子にイタズラをやりすぎないように……約束できる?」 「あんたこそ、向こうのカッコいい女の子に浮気するんじゃないわよ? 日本に帰ってきたら、またサバゲーで男どもをコテンパンにしてやろうね」 「ケイったら、あんまりやりすぎるとまた変な噂が立つじゃないの〜」 「わかってるわかってる! んっ……」 「本当かしら……んっ……」  再び唇を重ね、抱き締めあう二人。舌と舌が唾液と共に淫靡な音を立てる。  しばらくその行為が続いた後、ケイは褐色の頬をほんのり染めながら立ち上がった。  トレードマークのアーミーキャップを脱ぎ、制服にも手をかける。 「ね、今日は……久しぶりに……」 「うん……部室の鍵はちゃんとかけておいてね」  こうして、二人は生まれたままの姿となって甘い時間を共有した。  それからというものの、二人は残された期間を全力で楽しんだという。                                ─終─ 登場人物 「ケイ・花城(はなしろ)」 米軍兵士の父と日本人の母を持つ沖縄出身の高等部二年生。サバゲー同好会部長。 荒々しくシャギーの入った赤みが強めの黒髪セミロングと褐色の肌。 服装はほとんどの場面でアーミーキャップを被り、首からドッグタグをかけているのが特徴。 昔から争い事を見ると血が騒いで仕方ない性分で、感情が昂るとエアガンを乱射する危険人物。 その過激さから大人しいタイプに敬遠されがちだが、ワイルドな魅力を感じる下級生もいるとか。 「メリッサ・ブラウニング」 高等部一年のサバゲー同好会副部長。 オレンジ気味の金髪をウェーブがかったロングヘアにし、青い瞳のタレ目。 級友達からは「ドレスでも着ればお姫様みたい」としばしばからかわれるが、 外見に反して寡黙かつ結構ガサツで男勝りな性格をしている。 特に軍人の父から護身術として学んだナイフ捌きは、文化祭でのやきそば作りで恐るべき戦果を挙げた。 ケイ・花城とはメリッサの父がケイの父の上官という関係もあって家族ぐるみの交友がある幼馴染。 あまり人との会話を好まないメリッサもケイとは気兼ねなく話ができるらしく、 校内で談笑している二人の姿がよく目撃される。 まとまった連休には夜間サバゲーと称して二人で山に出かけるのが好き。