第七十二話 黒騎士と何でもない日 前回のあらすじ 旅を続けるヒース達、そんな彼らが偶然立ち寄った村では丁度ハロウィンをしていた。 祭りに参加する一行は仮装を楽しむがやはり不運が付き物か。子供達のデマで デートスポットと言われて行ったが、悪霊たちと戦う羽目になり散々な目にあった。 「ザイクリンデの雪解け水は惜しいですよね〜」 「私の友達も好きな子いるよー、けど高いんだよねぇ」 「あれってただの雪解け水じゃなくて、ろ過とかすげー手間かかるんだよな?」 俺の名前はヒース、記憶が無いから詳しくは紹介できないが。まぁ単純に強くて便利なのが取り得だ それ以外は特に取り得が無いのが特徴かもしれない。記憶を探して旅をしているんだが 今回はその旅を共にする仲間を紹介しようと思う。俺の紹介はこんな所だし仲間達の事からか 「リュウグウのミネラルウォーターもあるな。あれも高いぞ」 「手間がかかるのは分かるけど高すぎるわよ! 一箱で1万なんて無茶苦茶よ!」 「まったくだなぁ、ザイクリンデのは一箱2000円だしまだマシか」 俺の仲間たちは位が高かったりして、よく考えてみればかなり目立つメンバーだな。 「姉さまもリュウグウのミネラルウォーターは使うのを躊躇してたな、消費期限をオーバーして泣いてて可愛かったんだ…」 彼はヴェータ・スペリオル。暗黒帝国の皇子だが母が庶民の出で王位は継承できないらしい そもそもする気がないんだがな。最初は仲が良かったわけでは無かった。と言うよりも姉の事が好き… 悪く言えばシスコンで、姉の暗黒帝国皇帝レヴィア・スペリオルと仲がよかった俺を恨んだりしてた 「いや、姉さまが泣くのが可愛いなんてそんな鬼のような事っ!」 「けどちょっと納得しちゃうなぁ、レヴィアさん何しても可愛いんだもん」 その後にお互いの勘違いで仲が悪くなったが、ある時に仲直りをして友人になったのが始まりか それ以来はいい友人として危機を救ってもらったりもした。 「私さ、会った事ねーけど魔王なんだろ? 皇帝なら魔皇とかじゃね?」 「そんな言葉じゃ分からないようなツッコミを…」 「きっとあれなんだよ、魔王は称号なだけで位と関係ないんだよ」 乗機の邪龍騎ズメウはドラゴンタイプの機体だ。パワースピード共に強力の一言。一国の皇子の機体だけはある パイロットのテクニックと合わせてまさに邪龍の如し活躍を見せる。武器は槍や炎さらには胸のドラゴンの口など 炎獄剣「ヴァニッシングセイバー」も扱いこなし。さらにパワーアップした超龍騎ズメウになる事も可能だ。 「けどプルレイニアの雨水も美味しいらしいよ?」 「あっ飲んだ事あるけど何だか甘いんですよね。」 次にウェンディの事を紹介しよう。銀の戦刃の異名を持つ女剣士で彼女とも勘違いが始まりで出会った 酷い勘違いだったから言いたくないが。まぁ親の仇と勘違いされた後に誤解を解いたんだがその後に 路銀が無い事に気づいて、二人で宿を借りて路銀が溜まるまで一緒に住んでいたんだ。 剣の腕はもちろん良いし一人旅をしてたからか家事も出来る。スタイルも良く盗撮された事もある 「雨水ってきたねーような気が…」 「ちゃんと消毒とかごみも取ってあるし、あそこの雨水は綺麗だから大丈夫よ」 さっき話したヴェータとはお互いに惹かれる所があって、すれ違いをしながらも最後には結ばれ ヴェータは皇子だがレヴィア閣下の計らいでウェンディの仇取りの旅を共に戦っている。 二人の仲はいたって良好、いや良好すぎて時々見てるこっちが楽しくなってくる程に愛し合ってる 「エベリウスの霧の露も美味しいんだってよ」 「エベリウスの霧? わーっ出たら凄く高そう」 扱うのは愛剣であり風の魔剣サイクロンエッジから召還される、ソードマスター。名前の通り接近戦が得意だ 体中に刃を備えている為、迂闊に接近戦を持ち込めば体がズタズタにされ素早いから攻撃も当らない。 風の魔法も扱いこなす、風の神の加護でパワーアップして神風剣主の称号を得て更に強くなる事も可能だ 「んにしてもあれだな、簡単に水が飲めるのは本当に幸せだ」 「そうそう、昔はペットボトルの水が凄く大事だったのよ」 次はヤカリとペルソルナか、二人とはディオールの近くで暴れてたロボットを止めるので知り合った 世界を回る旅人とその相棒だ。ヤカリは生まれこそ普通だがバクフ人のハーフだそうで頼れる旅の仲間だ。 旅の知識は俺たちよりも詳しい。好奇心が旺盛でクールに見えて困ってる人を見捨てれない程に熱い 「魔法で水出せるアリシア達はすげーよなぁ」 「なに言ってるのよ。魔力が無くなったら出せないのよ?」 また絵も上手だ。ちょっと仲間にセクハラをしたりおっちょこちょいだが、そこは愛嬌だ。偶にやり返されるが この頃は国に行くと王族にお呼ばれしたりして、最初は緊張気味だったが何回もいろんな国の女王にあうなどして この頃は緊張しても慣れた感じだ。マナーの類も旅の途中で知ってるようで場を弁える。礼儀正しい一面もある。 得意な事は色々とあるが、ヤカリは特に絵を描くのが得意でスケッチブックには色んな国の絵が描かれている 「けどシャワーが出来るしすごいよー」 「ずっと一人でしてたらその内に魔力を溜めなきゃいけなくなるし、当番なのはそのせいなんです」 そしてその相棒のペルソルナ。意識を持つロボットでヤカリに突っ込みをいれたりする頼れるような 時々、玩具にされてたりするし頼れない時もある。大きさを自由に変えたり声を出せたりするのは 後付の機能だそうだ。俺と会う前は言葉が喋れなくて苦労したらしい。そのせいか目で言葉が分かるそうだ パワーアップ専用ではないが、形状や質量。機能までも自在な金属を手に入れてそれで遊んだりしてる 「戦闘とかあると大変なのよねぇ…」 メディナはこのメンバーの中で最年少。ディオールの王族の分家だったが現王家の転覆を狙った その為に鎮圧され国外追放。そして親は復讐を狙って闇黒連合の闇の国に所属して 娘のメディナは復讐の為に徹底的に反ディオール教育を叩き込まれて育ってきた。 「けど死ぬほど大変な訳じゃないし、まだ楽な方ですね」 「水の話からずれ始めてるね。他に美味しい水ってあった?」 だが闇黒連合がディオールと停戦、目標をなくしたメディナは一時期は酷い鬱病に陥るが 新しく生きる道を探す為に立ち直った。これはメディナの仲間達の励ましもあるし、きっかけもあったから 立ち直るのも大分楽になっていたのだろうな。その後は俺についてきて生きる目標を探す旅をしてる。 「そうだな、ゲテモノならチェルノマイルの美味しい水か?」 「チェルノマイルなんて行けるのヒースぐらいか?」 少し生意気でトゲのある物言いをするが、我慢強いし根は優しいんだ。よくヤカリと喧嘩をしているが これも喧嘩するほど何とやら、多分だが一番仲が良い。アリシアとはある意味では姉妹とも言えるか? 良く笑ったり本当は明るくて優しくて、純粋ではあるが素直ではないと言った所かもしれないな。 「む? チェルノマイルの水は苦いし皆じゃ体に毒だ」 「やはりそうか…ヒースは頑丈だな」 愛機は強奪したアンジェラを闇の国で改造したアン・ギェーラ、アンジェラよりも攻撃的でパワーが高い。 武器のメイスによる打撃の他に魔法による援護攻撃も可能。攻撃的だがオールマイティに戦える またインフィニティ・ドレスを装備してアンギェーラ・インフィニティにパワーアップも可能だ 「まぁ、ロボットだし」 「けどヒースさんは人間みたいで…暖かい心を持ってます。ただのロボットなんかじゃないです」 最後のアリシアはディオールの第一王女で賢女と名高い。スタイルも良く性格も良いし綺麗だし料理も上手で アリシアと結ばれる王族は幸せだろう。俺と一緒に旅をしてるのは妹が前に旅をしていたらしくそれを見て 羨ましそうにしてたから母親のテレサが行って来いと言い。俺がボディガード兼用で旅についてきている 「まぁ特殊だな。こんなに人間そっくりなロボットも早々いないぞ」 「頑丈で強かったりするけど殆ど人だからね、始めてみた時は人だと思っちゃった」 一人で抱え込む癖があって、その事で苦しんでもいたが今はそれを解消したようで安心している。 我侭と言うほどではないが何かを頼む時の慎ましい仕草も可愛らしく。アリシアの第一印象の綺麗に 可愛いが加わり更に魅力的で思わず見惚れてしまう。さらに意外な事にスポーツ観戦は好きらしい フルメタルフットボールはダメだがカリメアンの方は好きだそうだ。前者は最早スポーツと言うより戦争らしい 「作った奴は誰なんだろうなー?」 「きっと腕のいい科学者だよ。それもどこにも所属してない」 愛機のアンジェラは古代文明の機体のレプリカだが性能は現行機に後れを取らない。パイロットに合わせて 戦い方が変わるらしく。妹さんは格闘がメインだがアシリアはそれほど接近戦は得意じゃないからか サポートに回る事が多い。結界を張ってメディナが攻撃魔法を唱えるまでの防御や自分で攻撃魔法を行う パワーアップするとオリジナルのアンジェラを元に作られた追加装甲によりORアナザーへと変化が可能だ 「そろそろ支度をするか、今日は野宿だな」 「ここら辺は盗賊も少なそうだし、安心して寝れるかしら?」 「大丈夫よ、来ても気づくし」 短所もあるが皆とても素晴らしい仲間達だ。俺は随分とひどい扱いを受けていたがそれも昔の事に思える そんなに昔でもないんだが、今が幸せだから昔の苦しみなんて段々と遠い世界の話に思えてしまうのだろう 「今日は冷えそうだな…」 「暖かい物でも作りましょうか?」 アリシアは着替えてエプロンドレスに三角巾をしていた。何時ものディオールのドレス姿では流石に料理は出来ないか 俺は荷物持ちも兼用していて、嵩張る物は俺の特殊能力とも言うべき次元層に保存して使う時に出している。 次元層というのは名前の通り、別の次元とこの次元の間にある層で俺はそこを開く事が出来るんだ。色々と便利だ 「ヒースさんお鍋出してください、今日はお鍋ですよ」 「えっ? 鍋物ってイヤ激戦区じゃん」 「大丈夫ですよ人数分は作りますから」 それにしても…いや、元からなんだが前にも増してアリシアが綺麗だ。少し前は何処か悲しげなところがあって 隣で守ってやりたいと思っていたが。何処か吹っ切れたような感じがする。 「しょうがいれようぜ、暖まるし」 「それじゃあ肉団子を作ってそれに混ぜましょう」 迷いが無いとでも言うべきだろうか? 今のアリシアは前に感じた寂しさのような物が消えて 何か目的でもあるのか、それに一途に頑張っている様な気がしてならない 「ねぇ何すればいい?」 「それじゃあウェンディと一緒に野菜を」 だからなのだろう、こんなに輝いて見えるのは…理由が何であれいい事だ。この旅の目的が 実を結んでるのだから。一緒に旅をしている身としてはとても嬉しい。 「土鍋を使うのはバクフ国の鍋物か。ヤカリは詳しいんじゃないか?」 「そーだな、シチューとかポトフとは別物だから楽しみにしてると良いよ」 本当、アリシアはきっと良いお嫁さんになるんだろうな。きっと人を好きになったら こんな風に思ってやれるだろう。出来れば政略結婚なんてして欲しくないな… 「…ヒースあなたどうかしたの? なんだかボーっとしてるわよ?」 「むっイヤ、何でもない」 俺が考えてもしょうがないのだがな、テレサの事だし政略結婚なんてさせはしないだろう 相手がアリシアの事を思っている奴と結婚させるだろう。その方がアリシアも幸せになる 「ヒースさんご飯ですよー」 それにしても何故だろう、アリシアの事を見ているとこの頃ドキドキする。綺麗だからか? 俺はそういうのに興味はないんだが17や18程度の年齢が好みなんだろうか? 「今行く、待っててくれ」 まぁ前のアリシアと変わって嬉しい、親ばか的な考えなんだろうな。親になる事なんて無いだろうし 貴重な体験だ。だがこの胸の高鳴りは思っていたのと違う…言い表せないが胸が何故か苦しいんだ それでいて落ち着きがなく鼓動が高くなって、仲間が成長した時の喜びとはこんな物だっただろうか? 「我が動くときか…幾日この瞬間を待ち侘びたろうか」 そしてヒース達が知らぬ場所で 「復讐の時は来た」 新しい敵が胎動していた… 「ふぅ…冷えるな」 今日は寒いからシャワーは無しになった。風邪を引いたら洒落にならない、まぁ旅にはこんな時もある 近くで焚き火をしながら俺は見張りを、皆は似台の中で明日に備えて寝てる。 「そっちは大丈夫か?」 「あぁ、ヒースもこっちに来ればいい」 「俺は見張りだからな。」 荷台の中は隙間風を防ぐ為にカーテンのように布を張って、その中でヴェータが炎系の魔法を利用して 暖を取っているからかなり暖かいはずだ。少なくとも風邪を引くような事は無いだろう 「いいから来い、気配で気づけるだろう」 「むっ」 そういうとヴェータは俺を荷台に引きずり込んだ。外とはえらい違いでかなり暖かい パジャマに着替えてはいない、いや野宿なんだし着替える必要が無いのだろう。 「はい、コーヒーです」 「あぁ、ありがとう」 ヴェータの魔法は荷台の明かりとして使っていたランタンを媒体として暖房としていたらしく それを利用してお湯を沸かしてコーヒーを淹れたようで、暖かい金属製のカップを受け取った。 「こういう時、複数の方が暖かいものだな」 「そうね、一人だと暖を取るのも簡単じゃないし」 流石に熱いのか、飲んだ後に食道が熱くなった気がした。これが本当の体の芯から温まるって事か インスタントコーヒーを考えた人は天才だ。お湯があればコーヒーが簡単に出来るんだからな 「明日は何処か町に着くといいんだが」 「まぁ野宿なんて慣れてるし大丈夫じゃね?」 「私たちは良いけど、メディナとアリシアは例外じゃない?」 ウェンディの考えももっともだ、アリシアもメディナも方やお嬢様、方や王女様なんだ だが二人も俺と旅をしている間が長いし。野宿にも慣れてると言っていた 「人が多いと暖かくなって良いね〜」 「ちぇーっルナは寒くても平気なくせにー」 ペルソルナは寒さ暑さは平気らしい、まぁそうじゃなきゃ不便だよなと思いつつまたコーヒーを啜ると 慣れ…てない、まだ熱いからかまた食道が焼けるような感じがした。こっちのが暖まるだろうか? 「私はもう寝るわ。皆も早く寝ましょう」 「へ? 早くね…あぁうん寝ようぜ」 むっ? 寒いからかメディナとヤカリはもう寝るようだ…俺も見張りに戻ろう。ここにいたら寝てしまうかもしれない 寝なくても生きていけるが、眠い時は寝てしまうしなコーヒーのカフェインが俺に通用するかどうか… 「おやすみ皆」 「僕らも一人旅や兵士だったんだ、気配がすれば起きる」 「だから寝ても安心していいよ。オヤスミ」 まぁ二人の言う事はもっともかも知れないが、皆がぐっすりと眠れるように寝なくても良い俺が起きてる方が 色々と理に適っていると思うんだがな。俺を気遣ってくれてるんだからありがたい話だがな 皆もう寝てしまったでしょうか…起き上がると誰も気づいてないようで、すーすーと寝息を立てていました これなら気付かれませんよね…足音を立てないようにして外に出るとヒースさんが焚き火で暖を取っていました 「ヒースさんちょっと良いですか?」 「アリシア?」 がんばらなきゃ、二人きりになりたいもの 「あの、少し一緒にお散歩でも…」 「散歩? だが見張りは」 「ヴェータさん達もさっき気配でって…お願いヒースさん」 少しぐらいなら平気です、ヴェータさん達は強いし盗賊だって今のご時勢ロボットを使うけど ロボットがいる気配もないし大丈夫…ヒースさんとどうしても二人きりになりたい 「むぅ…分かった、風邪は引かないようにな?」 「分かりました。少し待ってください」 寒い時の為にマントやスカートは魔力を込めれば伸ばせば露出の多いこの服でも大分暖かくなって これで大丈夫でしょう。ヒースさんが焚き火を消すと私たちは少しだけ夜の散歩に出かけました 「何か面白いものがあるだろうか?」 「夜だと朝とは違う風景が見えるんです。月明かりと夜の闇が世界を変えてくれるんです」 子供の時は怖かった夜も今になると綺麗に思えたりロマンチックに見えるのは少しだけ不思議ですね そしたらヒースさんってば私にも夜が怖い時があったんだなって…もうっ 「私だって夜が怖い時ぐらいあります」 「しっかりしてるから、意外と平気だと思ってたんだがな」 「私だってダメなんです…あの時も言ったのに」 忘れてしまったのでしょうか? ちょっとだけ不安…あんなに私のこと心配してくれてたのに もしかしたらどうでも良かった? ヒースさんを見上げると 「忘れてないさ、ただもう悩んだりしてないから大丈夫かと思ったんだ」 「ま、まだ悩んだりはしてます!」 「むっ? そうだったのかスマン」 悪い事を言ったと、申し訳なさそうな顔をしていました。私も少しムキになってごめんなさいと お互いに謝るとこの事は忘れて、夜の景色のお話をし始めました。ヒースさんによると コレット・ファヴァは月明かりを反射した水路が綺麗だそうです。一度見てみたいなぁ 「月明かりの移った水って綺麗ですよね…」 「あぁ、あれは綺麗だ」 しばらく歩いていると、ヒースさんが足を止めて…もう帰るのかと思ったら森の方へ行ってしまいました 如何したんだろうと追いかけようとしたけど、服が邪魔で…しょうがないからまたスカートを短くして マントも何時もより短くすると、少し肌寒いけどヒースさんに置いて行かれたくないから急いでいると 「あっ…」 湖に出ました、綺麗…さっき話していたように月を写した湖はまるで、鏡の中の世界のようで そのまま吸い込まれてしまいそう。ヒースさんはこれに気付いていたんですね 「くしゅんっ」 「アリシア?あぁっすまないあの格好じゃ不便だった」 またスカートとマントを伸ばすけど、すぐに暖かくはならずちょっと寒い…ヒースさんが何時ものように 次元層からコートを取り出して私の肩にかけるけど、けど私…その他の方法でしてもらいたい 「あの、ヒースさん…」 「如何した? 帰る時は俺がおぶるから」 「違うの、あの…その…」 がんばって、ヒースさんに近づくチャンスだから…少しだけ恥ずかしさもあるからか 少しだけ深呼吸気味のため息をつくと、私は決心を決めました。胸の鼓動が早くなってる… 「暖めてください…」 「あ、アリシア?!」 アリシアが胸の中に飛び込んできた、よっぽど寒かったのか? 顔だって赤いし風邪でも… ピタリと俺に体を預けるアリシアは何時ものアリシアと違い大胆だった。 「お願い、こうさせてください…」 何時もの清楚なアリシアなら、最初に許可を求めてから抱きつくのに今日のアリシアは違う よっぽど寒くても突然、胸に飛び込んでくるなんてしなかっただろう 「どうしたんだ? そんなに寒かったか?」 いや、近くが湖だし寒気が増しているんだ温室育ちのアリシアには酷だっただろう アリシアは何も言わないでただ俺に身を預けたまま離れようとしなかった 「アリシア、どうしたんだ…」 何時ものアリシアと違う、預けられた身体の鼓動はドキドキとその小さな身体に不似合いなほど 大きく息も何処か荒い。何よりアリシアの身体が何処か熱く感じられた。 「っ…」 おかしい、アリシアだけじゃなく俺もだ…アリシアとは一緒に寝た事だってあるのにどうして どうしてこんなにドキドキするんだ? 今まで無いのほど胸の鼓動が早く大きい。 「お願い…抱きしめて…」 「お、俺は…」 俺を上目使いで見上げるアリシアにまた、鼓動が少しだけ早まった気がした…暖める アリシアの小さく華奢な身体を包み込めば良い、前にもやったことがあるはずだ それなのに何故、今は躊躇っているんだ。どうしてこんなに息が荒くなるんだ… 「イヤ…ですか?」 「イヤじゃないが…その…」 分からない、何だこれは何時ものように何で行かないんだ。アリシアが寒いと言ってるんだ 素直に抱きしめて暖めればいいんだ。似たような事は前にだってやっているんだ これぐらい出来る。だが何故だ手が震えて思うように行かない。抱きしめるのが…恥ずかしいのか? 「分からないんだ、抱きしめれないのが」 「ヒースさん…私の事キライ?」 「違うキライじゃない!」 この時に初めて手が動いた。キライの言葉にムキになって反応してそれを拒絶するのに必死に この手でアリシアを抱きしめ…ようとした。だがそれは月が隠れたと同時に消えてしまった 「見つけたぞ、古の天使を継ぐ王女よ」 「っ!?」 そして月が消えたと同時に、湖が巨大な水しぶきをあげた。いや何かが水しぶきをあげたのか これは…まるで魔王だ。悪魔の翼と獣の豪爪そして胸には巨大なドクロのレリーフそして不似合いな天使の像 「くっこんな時に! NIかどこかのテロリストか!」 「どうでも良かろう。古の天使を差し出せ」 分けのわからない事を、こうなれば禁忌を呼び出して逃げるのが最善だろう皆が心配だ アリシアも戦闘態勢を取り、アンジェラの操作キーであるパンツァーシュナイダーを出現させた 「逃げるぞアリシア! 禁忌!」 「はい! アンジェラ!」 次元をこじ開けて禁忌がやってきて、アリシアもアンジェラを出現させて光に包まれてアンジェラへと乗り込んだ さっさと逃げようとしたが、禁忌とアンジェラがしばらく走ると見えない壁にぶつかってしりもちをついた 「結界!?」 「戦うしかないか、アリシア援護を頼む!」 アリシアと俺がいれば何とかなる。剣で斬りかかったが敵の機体は飛んで逃げてしまう。これは俺が迂闊だった 湖に禁忌が足を踏み入れると、まるで泥のように足に纏わり禁忌が動けなくなってしまった 「罠か!アリシア逃げろ!」 「ヒースさん待ってて今そっちに」 アリシアが俺を助けようとアンジェラをこっちに動かしたが、その前の敵の魔王のような機体が アンジェラの前に立ちふさがった。アリシアのアンジェラは格闘が出来ないわけで無いから 杖で抵抗したがそれより早くアンジェラの腹に爪が叩き込まれ、アンジェラの瞳が虚ろになった 「アリシア? アリシア返事をしてくれ!」 「ヒー…スさ…ん」 「アリシア!!」 目の前が真っ白になったような気分になって、その次に景色が見えたのは禁忌が湖から抜け出して 魔王のような機体と睨み合っていた所だった。高鳴っている鼓動はさっきとは違う怒りの鼓動だった 「貴様よくもアリシアを!! 許さない!!」 「大人しくしていれば殺されずにすむぞ」 「黙れ!」 クレセントナイトメアサークルの構えに移ると、剣を盾に差込みオーラを纏わせると 遠くからではなくこのまま叩き込むべく、あの魔王のような機体へと切りかかった 「ナイトメア!」 だが目の前に出た瞬間、見えない壁が禁忌を拒絶した。機体の頭部の天使の像が血の涙を流していた 奴のバリア発生装置らしい。ここで後ろに下がればよかったが俺は前に進む事にいっぱいで 無理やりにでもバリアを壊そうとしたが、そんな隙を見逃すはずも無かった 「滅びよ、デモニック・バスター!!」 「カッ!?」 禁忌が吹き飛ばされた、どくろから放たれたビームに直撃してしまい体が言う事を聞かない 「ほぉ、外装がまったく傷つかんか…厄介だな」 魔王のような機体が禁忌に近づき、動けないのを確認するとコックピットをこじ開けた 鎖に巻かれた俺を引きずり出し、掴みあげると俺の右腕をへし折った 「がぁっ!?」 「…その目、気に入らんな」 次に左腕を間接の逆に折り曲げると右腕同様、ぽきりと腕が折れた音と激痛が身体に響き渡った 「信じている目をしている」 次に腰の骨を握りつぶし、身体の骨の殆どが言う事を利かなくなった。 「何が…言いたい…」 「人は皆、魔王なのだよ…信じるにも値しない」 そして両足を折ると、湖の真ん中まで移動して俺をぶら下げるように湖に突き出した 「ここで己の無力さに嘆け」 次の瞬間に手が離され、俺は湖の中へと吸い込まれていった。これで死ぬのか… せめて皆にアリシアがさらわれた事を連絡しないといけないのに 「アリ…シア…」 最後に浮かんだのはアリシアの笑顔だった、この笑顔を守れないまま死ぬ事が悔しかった だが俺には最早どうする事も出来ない。月明かりに照らされながら俺の意識は眠りについてしまった 「すまん…」 アリシア…俺はお前の事を守れなかった…皆どうかアリシアの居場所を突き止めてアリシアを救ってくれ 俺にはもう祈る事しかできない。さよなら…皆 続く