登場人物 柿崎・はやて 聖白百合女学園高等部に通う2年生の少女。17歳 茶髪ショートカットで、前髪をヘアピンで留めている 育ち盛りでたゆんたゆんな巨乳が特徴。制服の下にストッキングを穿いている 大らかな性格でお調子者だが、どこか憎めない所のある関西娘 趣味は食べ歩きで、色事にも通じているおませさん。好物はステーキと苺 勉強や運動はそれなりにできるが、恋愛となると話は別 毎回色んな生徒に一目惚れしてはアプローチを仕掛けているが、毎回「いいお友達」で終わってしまう 現在進行形でその記録は更新されており、その度にクラスメイトに慰めてもらっているという… 宇井田アサミ(ういた あさみ) 赤毛をおさげにした、見た目は小学生の高等部2年生。 ゲートボール部所属。ちびっ子呼ばわりされると猛烈怒る。 口は悪いが友達思いで、失恋記録更新中の柿崎はやてを 友人たちと一緒にからかいつつも慰めるのが日々の役割。 ゲートボール部のエースであり、近所の老人会ではアイドル兼強敵として認識されている。 将来は福祉関係に進みたいのだが 身長が伸びないと身体介護は厳しいといわれているのが悩み。 早乙女・浅海(さおとめ・あさみ) 聖白百合女学園高等部に通う2年生の少女。16歳 長い赤髪を2つの三つ編みにしており、青いツリ目を持つ 小学生と間違われる程の身体つきが特徴で、縞模様のソックスをよく穿いている 同級生の柿崎・はやてとは小さい頃からの腐れ縁で、主にツッコミ担当 表情の起伏が激しく、荒い口調と粗暴な性格が目立つヤンキー娘として有名 だが根は優しく、特にはやてが失恋で落ち込んだ時にはさりげなく慰めている ゲートボール部所属で、小さい頃から祖母と一緒にやっていたせいか、結構優秀 普段からスティックを持ち歩いている程好きだが、「年寄り臭い趣味」と馬鹿にされるとキレる なお、宇井田アサミとは何かと共通点が多く、初めて顔を合わせた時には驚いて気絶した程 一部では「実は片親違いの姉妹」などと噂されているが、本人は否定している ■失恋同盟■ 「聞いて、あさみちゃんたち」  柿崎はやては、二人の少女へ話しかけた。  少女たちは双子と思ってしまうほど瓜二つだ。違いがあるとすれば、おさげの数と瞳の色。  おさげが一つで、瞳の色が濃い茶色なのが宇井田アサミ。  おさげが二つでブルーの瞳が早乙女浅海。  共に同じ名前で同じ髪の色、身長も測ったように一緒なので一卵性の双子と間違われることがある。  しかし二人は別人であり血縁でもない。  それは不思議な偶然で、そしてはやてはこの奇妙な二人と親しい友人だった。  「私、悲しい目をした女の子にあったんや」  またか。とふたりのあさみは思った。  惚れっぽいのも相変わらず、振られる早さも相変わらずだ。  一月ばかりフラフラしていると思ったら、つまりいつものが始まっていたのだった。 「これはきっと運命や思うの」  キラキラとした眼でうっとりと呟くはやて。  それをわりと冷めた目で見る二人。  うん。振られる運命ね。 「で、その新しい恋の相手は誰?」 「B組の春日菖蒲いう子。ずっとな、寂しーい目をして一人で帰っとう。  ぎゅーっと守ってあげたいオーラ発散しているんや」 「で、そこに惚れたと」 「うん。まるで深窓の令嬢や。べっぴんやし」 「勝ち目は?」 「バッチリや。心に傷を負った女は宿り木を探すもんやし、私の愛で暖めてあげればイチコロやで」  はやての作戦とやらは一度として成功したためしが無く、小細工を弄している段階ですでに勝ち目は薄いのだが  その不屈の精神はたいした物だと思う。  落ち込み方もすごいのだが、立ち直りも早い。  恋多き乙女、と自称するがただ単に移り気なだけでは無いのか。  と時々突っ込みたくもなる。  今回もまた連敗記録を更新することになりそうだ。 「はやて、よく考えてからにしろよ?」 「そうだぞ、手負いの獣は噛みつくっていうしな」 「あさみちゃんたちは心配しすぎや」  しかし痛い目にあって帰ってきても、それをなだめるのは二人のあさみの仕事である。 「二人とも同じような事言うて……人生そないに谷ばかりやあらへんで」  そう言ってから改めてはやては二人を見比べる。  長い付き合いだから区別が付くが、髪型を一緒にされたら見分けるのは難しいかも知れない。  しかも二人ともゲートボール部所属だから余計にややこしい。  面白い偶然だとは思うのだが。 「しかし言うこと一緒で年も一緒、見た目も同じやと、ほんまに双子みたいやね」 「まあ誕生日が違うから、2号のほうはただ似てるだけだけどな」  早乙女 浅海の方がほんの少しだけ誕生日が早い。  それをアドバンテージにして時々アサミを格下扱いしたりもするのだが、  同じ気性の持ち主、だいたい口論に発展するのだった。 「誰が2号だ」 「お前だよ、アサミ2号」 「うるせーな。てめえこそキャラが被ってんだよ。髪型まで似せやがって。坊主にしろ」 「お前────ハンマーで叩かれてもうちょっと縮んでみるか?」 「あ?」 「なんだコラ」 「いつも年寄りにチヤホヤされてニヤけやがって。てめえに色恋の話は無理だ。爺さんたちと茶でも飲んでろ」 「俺んちの方がはやての家に近いんだから、俺の方がはやてのことよく知ってるに決まってるだろうが。  それにそっちこそ、この間の試合でスパーク外しやがってどういうつもりだ?   味方の邪魔してどうすんだ。お前老人会のスパイか?」 「ンだと? あたしは年末に虎屋のヨウカン貰う以外に仲良くした覚えはねえ」  にわかに殺気立ってきたのではやてが間に入った。 「はいはい喧嘩しない。女の子やのにそないに血の気多くてどうする」 「チッ。はやてに免じて今日はこの辺にしといてやる」 「それはこっちの台詞だ。いつか決着付けてやるからな」  宿命のライバル同士の対決はひとまず終わった。  いがみ合う二人をなだめるのははやての役目である。  日課ともいう。 「んで、どうすんだよ。リサーチ済みって事はあとは突撃って感じだけどさ」 「予定はバッチリや。今日告白する!」 「行動早ッ」思わず浅海が突っ込む。 「あー。頑張れ。屍は拾ってやるから」  アサミの方はちょっとあきらめ顔でそんな事を言う。 「それはそうと告白って相手呼び出したのか?」 「ううん。菖蒲ちゃん、友達と別れた後正門で少し立っとって、その後一人で帰る。お家までずっと一人や」  そこまで知っているとなると、もうリサーチと言うよりストーキングである。 「自宅まで追跡かよ」 「大丈夫、菖蒲ちゃん気付いてへん」  そういう問題ではない。 「今日こそ失恋記録はストップや」  拳を握り締め、闘魂たぎらせるはやて。  こりゃ保護者同伴のほうがいいな、とお互いに示し合わせたわけでもないのに二人のあさみはそう思ったのだった。 「今日はどうするの?」  答えは分かりきっているのに、春日 菖蒲(かすが あやめ)は鳥辺野 鈴鹿(とりべの すずか)にたずねた。 「中村君と今日は買い物」  最近出来た彼氏の中村という男と鈴鹿はべったりだ。 「はは、アツアツだ」 「ごめんねー菖蒲ちゃん」 「いいのいいの。ちゃんと綱付けておくのよ?」  幼なじみへの恋、という菖蒲の口には出せぬ想いはその男によって打ち砕かれた。  よくある形の別れだ、と割り切ろうとは思っている。そうできないことも理解している。  未練がましいな、と思いつつも友人として側にいることを選択した。 「んもう。よけいな心配しなくて大丈夫っ」 「じゃまた明日の朝ね」  笑って送り出す。これは必要な痛みだ。 「うん。菖蒲ちゃんも気を付けて」  門の陰に隠れていた男と、鈴鹿は連れだって歩いていく。  振り向いて大きく手を振ってきたので、菖蒲は手を振り返した。  束の間の喪失感。  慣れない感覚だ。たぶん、この痛みはずっと続く。  愁いを帯びた目で去って行く二人を見つめる菖蒲。  そして背後から大股で歩いてくる少女、柿崎はやて。  心臓は早鐘のようにうち、血はたぎり、歩幅は大股になり、うっかりすると走り出しそうになる。  告白の時はいつもこうだ。でも迷わない。  目標確認、ロックオン。 「B組の春日菖蒲ちゃん?」 「そうだけど……?」  唐突に呼びかけられた菖蒲の顔には怪訝な表情が浮かんでいる。  はやては大きく息を吸い込んで、それから一口に言った。 「好きや! 付きおうて!」  菖蒲はどこか沈んだ表情ではやてを見返すと、呟くように返す。 「……悪いけどそんな気分じゃないの」  撃沈。  膝から力が抜ける。  強烈や。簡潔にして容赦ない拒絶。さすがは私の惚れた女。  だがしかし。 「せ、せめて友達!友達ならええか!?」  我ながらカッコ悪っ。  と思いつつも諦めきれない自分にちょっと涙。 「変な人……私と友達になってどうするの?」 「友達になって、それから友達以上になる!」  もう自分で何を言っているのか判らない。 「からかうならやめて。お願いだから放っておいて」  菖蒲は踵を返して去っていく。  知ってる。  こういう目をした人は、自分ひとりで耐えることを選んでしまうのだ。  だんだん腹が立ってきた。 「ちょっと待ったあ!」  突然大声で叫ばれて、さすがの菖蒲も足を止めて振り返った。 「一目惚れの何が悪い。同情するのの何が悪い!そんな目した人ほっとくなんて私にはでけへん!」  はやてはずかずかと菖蒲に歩み寄る。 「あれか?菖蒲ちゃんは女同士気持ち悪う思うたちか?」 「……別に、そんな事はないけれど…………」 「なら何で友達になれへんか教えて」 「私はあなたのこと知らないし……」 「知らんことあるんならこれからいくらでも知ればええねん。  私な、好きいう気持ちに性別とか関係あらへん、と思うんや」 「でも私はあなたのこと好きでも何でもないわ。逢ったばかりだもの」 「私が本気なんやからそれで帳消しや」  無茶苦茶な理屈をこねるはやて。 「本気で菖蒲ちゃんとお近づきになりとう思ってる。だから恋人駄目なら友達や」 「ずっと友達だけかもしれないわ」 「かまへん。友達もええもんや」  はやては胸を張って答える。  菖蒲の顔に当惑したような表情が浮かぶ。 「ねえ聞いてもいい?」 「ええよ」 「好きなのに友達って辛くないの?」 「辛くないわけなんかない。でも本当に友達ならそれでええと思う。  言葉だけの友達や無いなら、恋人になれんでも救われると思う」 「……強いのね」 「そんなことあらへん。私いっつも泣いてばっかりや」 「もうひとつ。何で私なの?」 「さっきもいうたが菖蒲ちゃん、失恋した女の子の目しとる。  私しょっちゅう振られるからよう判る。  辛いとき誰かそばに居らんと傷塞がらん。私、菖蒲ちゃん守りとう思った。それじゃだめか?」 「……わからない。ごめんなさい」  菖蒲が顔を曇らせたのを見て、はやてはその傷の深さをあらためて知った。  と同時に胸が疼く。  めっちゃ可愛い。 「ええて。いきなりそんなこと言うたら普通驚くもんな。私いっつもこんなんや。つい先走っとう」  これでいつも失敗するんや、とはやてはちょっと顔を赤くした。 「でも菖蒲ちゃん、話聞いてくれた。これだけでも嬉しいわ」  正しくは呼び止められて、勢いに任せてはやてが喋っていたのを菖蒲がただ聞いていただけなのだが。 「失恋したら痛いのはよう知っとう。心が痛いときほど泣いたり笑ったりが必要や。  ―――女の子はもっと笑ったりせなあかん。せやから今日から友達。な?」  勝手に手を取るとぶんぶん振る。 「あかん、順番まちごうた。自己紹介忘れるなんてどんなや。私、柿崎はやて。よろしゅう、菖蒲ちゃん」  一方的に喋りまくり、不可解な表情が崩れない菖蒲の返事も聞かぬまま、はやては思い出したかのように叫ぶ。 「ああ!ちょっとまっとって。友達なら紹介せなあかん」  物凄い勢いで走り出すはやて。  置いていかれる菖蒲。  その先には少し離れた場所で様子を見守る二人のあさみが居る。  全力疾走してきたはやてにアサミが聞く。 「で、首尾は?」 「恋人だめんかって」 「やっぱりなあ。普通いきなり告白したら駄目だって」とは浅海の方。  初対面で告白はただの怪しい女だ。 「でも友達ならいいって」  駄目駄目じゃん。 「それは無理なんじゃないかなあ」 「私にはわかる。同じ痛みを共有したもの同士や。きっと仲良うできる」 「うん。いつもながらその根拠無い自信はたいしたもんだぜ」 「自信やない、確信や。見とれー、そのうち私の魅力でメロメロにしたる。そんで私、あの子と結婚する!」  女同士は結婚出来ないけどな、と突っ込む気にもならなかった。 「まああれだ。頑張れよ」 「ひとごとみたいに。友達なんやからあさみちゃん達も一緒や。協力バッチリ頼むで」 「「はあ? 」」  二人の叫びが綺麗にハモり、思わず互いに顔を見合わせる。 「あーやーめーちゃーーん! こっちー!」  手をぶんぶん振りながら、大きな声で菖蒲を呼ぶはやて。  何かが間違っている、と言う疑問を拭えぬままこちらへ歩いてくる菖蒲。  自分たちはものすごい面倒なことに巻き込まれつつあるのではないか、と二人のアサミは思い始めていた。 「まあ進展があっただけいつもよりマシか」 「だな」  振り回されるのは今に始まったことではない。  恋多き友人の想いが実るかどうか。  たまには協力してやるのも悪くはないだろう。  菖蒲の方に近づいていくはやてを見て浅海が呟く。 「俺達、はやてにうまくいって欲しいのか、そうでないか。どっちなんだろうな」 「さあな」  曖昧に答えるアサミ。  はやて、意外と鈍いところあるからなあ。  二人が同時にため息をつく。  そのタイミングがあまりにピッタリなので。  二人はお互いの顔を見て、それから爆笑した。 おわり