第七十三話 黒騎士と魔王 前回のあらすじ 何時ものように旅を続けるヒース一行、ある日の夜アリシアはヒースと距離を縮めようと 夜の散歩にヒースを誘うが謎のロボットが二人を襲撃。交戦するもアリシアが倒され さらにヒースは四肢を折り曲げられ、湖へと捨てられてアリシアは連れ去られてしまった 俺は…どうなったんだ、たしか分けのわからない機体と戦っ 「アリシアッ!!」 ベッド? 俺は湖に沈められたはずだ、それに手足の骨を曲げられたし…夢だったのか? 良かった…一安心して汗をぬぐった所に、ヴェータ達が入ってきた。 「おはよう、酷い夢を」 「ヒース起きたのか! 何があったんだ!」 何があった? 俺は寝ていたんじゃないのか? 周りを見ていなかったからもう一度周りを見ると ベッドがいつくもある。そして独特の薬品の匂い…病室だ。何故か俺が病室に寝ていて ヴェータ達が取り乱したような反応をしているし、それにアリシアがいない…そうか やっぱり夢じゃなかったんだ。だがどうして手足が治っているんだ? いやそれより先だ 「襲われたんだ、アリシアはさらわれた…ディオールに連絡したい」 「もうしておいた。それよりも機体の特徴を教えてくれ」 アリシアが…俺がいたのに…紙にあのアリシアをさらった機体を描いたが、ヴェータ達に心当たりは無いらしい 証拠品として早々に送られて、これ以外には「古の天使」や人を捨てたような物言いが手がかりになった 「アリシアの手がかりも残せないなんて、最悪だ…」 「ヒースお前は良くやった、見つけた時は瀕死でもうだめかと思ったぞ」 朝になって俺とアリシアがいないのに気づいて、近くに禁忌が転がっていて戦闘の跡から 湖の中を探してみたそうだ、俺の髪が水に浮かんでいたのが目印になって見つけたそうだ 「一人で良くやったわ、だから今は休んでなさい」 「…休んでる暇は無い。」 「無茶よ! 場所だって分かった無いじゃない!」 確かに場所は分からない。だがアリシアはこうしてる間にも苦しんでいるかもしれないんだ 助け出さないといけないアリシアをあれから助けなければいけないんだ 「ヒース落ち着いてよ、何時もの貴方じゃない」 「そうだ! 何時もはこんな時だってそんな感情的になんないじゃん!」 包帯を解いてベッドから起き上がろうとしたが、二人の言葉で少し落ち着いた。 感情的か…確かに今の俺は感情的かもしれない。情報が入るまで動きようが無いんだ。 今は落ち着いて時がたつのを待つしかない。 「アリシアはディオールの第一王女なんだし、殺すより生かしてる方が使い道が多い」 「ヴェータお前っ!!」 一瞬ヴェータに殴りかかりそうになった。自分でもなんでこんな行動に走るか分からない よく分からない感情が暴走して、悔しいような感覚で頭がいっぱいだった 「話は終わってない。攫ったと言うなら殺されはしていないだろう」 「ふぅー驚いたじゃんかよ…どうしたんだヒース?」 ヴェータの言うとおりか、それに俺が騒いでいてもアリシアの無事が決まるわけでもない それなのに、それなのに不安と怒りが収まらない、自分が自分でなくなっていくようだ シーツが破けるんじゃないかと思うぐらいに握り締めて、気をそらそうとしても無駄だった 「くそっ…」 ここは…そうです、私はあの時ヒースさんと二人きりになりたくて、ヒースさんを連れ出して 「はっ!?」 ここは…牢の中? ヒースさんは!? ヒースさんはどうなったの!? まさかそんなっ!! いえそんなはず無い 「ヒースさっ 動こうとしたけど、枷で両足と両手首を壁に繋がれ、さらに鉄製の首輪を嵌められて動く事ができませんでした どうやら連れ去られて幽閉されているようです。周りを見ると古風の煉瓦造りの冷たい牢屋の中で周りに人も無く 手足が動かない以上は自分で逃げるしか無いですね。パンツァーシュナイダーさえ出せばアンジェラで 「きゃああああっ!!」 パンツァーシュナイダーを取り出そうと、魔法を使おうとした瞬間に電気のような物が首輪から流れ 魔力の流れを遮ってしまう。首輪は私の魔力を封じるための物だったようですね… 「ほぉ、目が覚めたか」 誰かの声がして顔を上げると、鉄格子ののぞき窓がついた重たい扉が開いて、漆黒のフルアーマーを着た ヒースさん位の背丈の男性が入ってきました。けどまるで氷のように凍てついた空気を纏わせ兜越しでも分かる 恨み辛みを込めた、絶望が具現化したような瞳を見た時、背筋に悪寒に似た寒気が走りました 「あ、貴方は」 「魔王とだけ言っておこう。ディオールの姫君よ」 魔王…どうやらテロリストとは違うようで、暗黒帝国の魔王レヴィアさんとは違う。本当に悪い魔王のよう 抵抗するように気を保とうとキッと睨み返しても、まるで気にもしないという風に魔王は私の目の前へ 「あの古の天使は偽りの物か、本物はどこだ? 第一王女である貴様が何故に所有してない? 女王が持っているのか?」 「古の天使…?」 何の事でしょう? 少し考えたけど遠まわしにアンジェラの事を指していたようです。アンジェラは古代文明の機体で 私のは4体製造されたレプリカとして作られたのですから。本物は発掘されて今は妹のキャスカの物だったはず 「いったいアンジェラで何をする気ですか」 「この世を紅蓮の色に染める為の力とする」 目的が良くない事なのは予想できましたが、やはり…キャスカの身を危険に晒すわけには行かない。 「私は知りません。まだ本物は発掘されてませんもの」 「偽るなら、それ相応の罰は覚悟せよ」 「あぁああああっ!」 首輪からまた電撃のような衝撃が走り、10秒ほどで開放されると魔王はまたさっきと同じ質問をします ですが私とてディオールの第一王女、妹を危険に晒しはしません。ここで耐え時間を稼ぐ事ができれば ヒースさん達がディオールに連絡をいれてキャスカの避難の時間稼ぎや攻撃の下準備になるはず… 「信じている目をしているな…」 「あぐぅうっ!」 また衝撃が走ると、今度はさっきよりも痛みが長く続き、喋らなければ苦しみが長引く事を伝えていました けれど私の口を割る拷問であれば、殺してしまえないはず。何時間でも耐えて見せます 「それでいて昔の私のような目をしている」 「昔の…あなた…? ぐうっ!」 「絶望をお前にも語ろう、人は皆魔王だと言う事を」 人は皆魔王? 「私は元々は人だった、愛するべき人も存在し勇者と呼ばれていた。」 「それなら何故…」 「沢山戦った、だが最後の戦いで魔王と呼ばれた者を倒し帰れば、人は皆私の力を異端の目でしか見なかった」 「だから魔王になったと言うの?」 「愛した者も最後には私を裏切った。心とは魔王のような邪悪へと簡単に染まってしまうのだよ」 そんな…けど 「だからと言ってすべての人がそんな事は無いでしょう」 「いたとしても一握りだ。そんな人など…紅蓮の世界に焼かれれば良い」 「それでは貴方も魔王じゃないですか…」 「正義など執行する気は無い。私は魔王となるだけだ」 この人はもう…人の心を失ってしまったの? けれども私はどんなに人から迫害されても心を捨てず 未来を手に入れた人を知っている、この人のやろうとしている事は魔王の名を借りたエゴでしか無いもの 「私を裏切った恋人は我が刃に取り込んだ。あの女の想いが私を守るという言葉のとおりな」 「取り込んだ…?」 「生体パーツとしてバリアユニットに取り込んだ。憎しみで面白いほど防御が硬いぞ」 酷い…この人を救う事はもう…この人の負はあまりにも大きすぎる…世界を滅ぼそうとするのも この人ならやりかねない…お願い早くキャスカに連絡を…キャスカ無事でいて… 「おしゃべりはここまでだ。さぁ古の天使の在り処を言え」 「あぁああああっ! 絶対に…絶対にっくっぁあああああ!」 私は耐えて見せます。この人の復讐は止めなければなりません。どんなに裏切られたからって それを理由に罪も無い人を巻き込んで復讐をしていいはず無いです。だから私は折れません… 「ヒースさん…」 アリシア、アリシア…アリシアが心配でしょうがない、今すぐアリシアを助けに行きたい。 だが場所も分からないのでは、如何する事も出来ない… 「くそっ…」 「そのうち連絡が来るはずだ、待つんだ」 ヴェータの言うとおり、連絡が来ればすぐにでもアリシアを助けに飛び出せる。だが焦燥感とでも言うべきか ジワジワと心が乾いて行く。アリシアの事を思うと助けれなかった事への苛立ちやアリシアの身の不安 怒りが混ざり合い、余計に感情を高まらせて行く。理性的になろうとしても爆風のように感情が吹き飛ばしてしまう 「ヒース貴方すこし変、何時もなら静かに待ってるのに…」 「あぁ、自分でも何でこうなったか分からない。」 「こういう事が無かったからさ、私らはヒースがさらわれて慣れてるし」 「ふんっヤカリだって貧乏ゆすりしてるじゃない」 俺はさらわれる事が多かったが、考えてみれば皆の方がさらわれる確立なんて高いんだ。皆は強いし さらおうとするバカもいなかった。だが今回は俺を狙う奴らがアリシアに矛先を変えたようなものだ 何であの時にOKを出した? あの時にもっと警戒していれば…ベッドで安静にしてる自分の不甲斐なさで狂いそうだ 「俺はバカだ…あの時、アリシアに寝てるように言っていれば…」 「後悔してもしょうがないよ、今はアリシアを助ける事を考えよう」 ペルソルナが俺を慰めるように、その小さな手で俺の背中を叩く。確かにペルソルナの言うとおりだ 落ち着いて考えろ…俺に何が出来る? アリシアを救えなかった俺に…あの機体を倒す事ができるのか? いや、一つだけある… 「むっ来たか、ディオールからの報告だ」 「アリシアどうなったんだよ?」 「安否は不明だが敵の正体は分かった」 「何でも良い! アリシアはどこにいるんだ!」 つい声を荒くしてしまったが、落ち着くように宥められて深呼吸をした。それで敵の正体なのだが 魔王と呼ばれる元勇者、ある時を境に一国を落とし国を生きる者のいない地獄へとして 他国との関係を絶って密かに存在していたそうで、何をしているかは誰も分からなかった 「眠っていた魔王が目覚めたと言う事だ」 「アリシアをさらったのは人質だよね?」 「それもあるだろうな」 「後はヒースの言ってた古の天使って所から察すると、アンジェラが目的っぽいな」 「アンジェラは古代文明の機体のレプリカだしありえるね」 「本物は虫刺されが持ってるのに…長女のアリシアが持ってるって勘違いしたかしら」 くそっアリシアだけじゃなくアリシアの妹まで! だがアリシアの妹はディオールへの避難が完了したそうで こちらから先手を仕掛ければ何とかなると言う。確かに相手は魔王だが一人しかいないのでは魔法で兵を作っても 何れは限界が来て、そうなってしまえば数で押し切れる。だがそれには軍団の編成などでしばらく時間がかかるらしい 「時間がかかる…テレサになら…」 最低でも出陣は明日。だがそんなに待っていられないアリシアが心配でたまらない、場所は分かっているんだ 俺の切り札を使えば刺し違えるくらいは出来るはずだ。もしも失敗したら足を引っ張る事になるだろう 最悪のケースを考えると、何も言わないで行くよりは連絡をいれて先行するべきだ 「ヒース何する気?」 「すまん、テレサと話すから待ってくれ…」 「ヒース…本当に君らしくないぞ」 「せめてテレサに謝っておきたいんだ。そして頼みたい事がある」 ヴェータは止めようとしなかった。メディナは止めようとしたがアリシアを守れなかった事を謝罪するべきだと言うと 納得していないが渋々見逃してくれた。通話が可能になるとテレサが俺の声を聞いて少しだけ言葉に迷ったようだ 「ヒースさん…」 「テレサ突然の通信を許してくれ。今回の件は本当に申し訳ない…約束を守れなかったすまない…」 「ヒースさんは良くやってくれました、後はこちらで」 「償いは俺の手でする、たのむ俺を先行して魔王と戦わせてくれ」 疲れきったテレサの声が聞こえなくなったが、空気の音は聞こえて通信が切れないのは分かったが これには場が凍りついた。自分でも無礼を承知で言っている、幾らアリシアを助けたいと言う考えで 頭がいっぱいの…いや、親しくてもこんなに後先を考えない俺の言葉はテレサの怒りを買った様だ 「ヒースさんあなたっ!」 「無礼は承知だ、だが何もしないでいるなんてできない! テレサ俺を魔王と戦わせてくれ!」 「今度こそ本当に殺されます。貴方まで失いたくない! それに」 「テレサ女王こんな俺に勿体無い言葉です。ですが最悪の場合でも相手の戦線に穴をあけれるかと」 テレサはやはり優しい。娘を守れなかった俺の為に心配してくれている。だが俺はアリシアを守ると約束した あのアリシアの笑顔を失うかもしれない。そんなの絶対にイヤだ…死んででも取り戻してやる 「テレサ俺は死にません。魔王の居場所と許可を」 「ヒースさんっ!」 「たのむテレサ俺にやらせてくれ! アリシアを連れ戻す!」 数秒の沈黙はまるで数分、数十分もの沈黙に思えた…そして最初に開いたのはテレサの口だった 「…分かりました。そこまで言うなら策はあるのですね?」 「ある。」 「こちらからは明日、軍団を送り出します最悪の場合はそれまで生き残ってください」 「ありがとうございます…戦況の連絡を定期的に送る、最悪の場合は役立てて欲しい」 「分かりました。場所は後でそちらに送りますご武運を」 最後まで俺の事を気遣ってくれるテレサに答える為にも、アリシアを必ず救い出さなくてはならない 腑に落ちないように通信が切れると、俺はベッドから降りて包帯を引き剥がした 「皆、聞いての通りだ…行って来る」 「まて何で行って来るなんだ?」 「皆まで巻き込むわけには…危険すぎる」 「バカ野郎!」 パシンっと乾いた音がした。ヤカリの手が俺の頬を叩いた音だ。それで静まる事もなく ヤカリが俺の肩を掴んで、俺の目をにらむように見つめていた。 「お前なんでそうなっちゃうんだよ! 一人で悩みすぎだ!」 「ヒース僕らは仲間だろう? 何故一緒に戦う選択をしてくれない」 「危険だからって黙って見てれないよっ!」 そうか…いつの間にか、良く分からなくて昔のアリシアのように一人で抱え込んでいた ヤカリの平手打ちで目が覚めた。皆に何だかんだと言って残ってもらおうとしていた 一人だけで走ろうとしたいた。周りに仲間たちがいる事にも気づかないで 「すまん…」 「私らだってアリシアが心配なんだ、ヒース一人で行かせない」 「幸い。私たちはこの前のでパワーアップしたばっかりだしね」 差し違えだなんだ一人だけの事と考えていたが。アリシアの事は俺だけの問題じゃない 俺たちは一緒に今までやってきた仲間なんだ、皆もアリシアを救いたい気持ちは一緒だ 「何か考えはあるの? むやみに突っ込んでも勝ち目はないよ?」 「大人しく明日一緒に行くのが最善じゃない?」 「考えはある、人間がいないなら話は早い盾を使う」 周りが少し沈黙した。盾をその目で見たのはヴェータだけだが威力は有名だ。禁忌と俺が有名なのは この盾の恐るべきパワーにあると言っても過言ではない。 「なるほどね、聞いた事しかないけどやれるの?」 「あぁ。行ける」 「威力は僕が保障する。どこの国が領地にするか知らんが今は魔王の国だ問題ない」 どんなに数をそろえても奇襲できれば大丈夫だ。ごたごたしてるのかテレサから連絡は無いが メディナの魔法か何かで地図になるような物を送ってもらえば何とかなるだろう。禁忌とバイクは外 一度バイクにエネルギーを送る必要もあるし外に出ないと。外に出て初めてわかったのだが 小さな村でこの病院のすぐ近くが村の外だった、まぁ少し遠くが物騒だし人が少なくても仕方がない 「…む? 逆に連絡が来た?」 「誰からだ?」 「テレサからだ、場所を教えてくれる…と思うが止めるかもな」 テレサは最後まで腑に落ちないようだったし、止めに来るかもしれないが 「ヒースさん、聞こえますか?」 「テレサ聞こえる。すまな 「こちらから支援物資を送ります、メディナちゃんに変わってください」 意外だった。てっきり止めに来ると思ったのに…メディナに手紙を渡すと、メディナがちょっと遠くに行き パンツァー・シュナイダーで何かを書き始めた。良く分からんがこっちはこっちでやっておかないと 禁忌を次元層に返して、バイクに乗るとエネルギーはまだ貯蔵されてるらしく、まだまだ大丈夫だった 「大丈夫か、エネルギーを送り続ければ…」 早くテレサと代わってくれないかと、メディナのほうを見ると地面に書いているのは魔法陣のようだった 背の低い雑草が生えて書き難いのかアン・ギェーラを呼び出して書いてた 「書きました、いったい何を転送するのです?」 「分かりましたしばらくしたら送られると思います、有難うメディナちゃん」 さて、また手紙が帰ってくると俺が用件を話す番になった。説得され…なかった。 すんなりと場所を教えてくれて。魔法で手紙の裏に地図を書いてくれるほどだ 「テレサありがとう。」 「あなたの声、まるで別人のようで止めても無駄だと思ったけど…今は違いますね。いつものヒースさんの声」 いつもの俺の声か。あの時は一人で抱え込んでたから人が変わっていたのだろう。自分でも今は落ち着いてると思う 「さっきはすまなかった…」 「いえ、アリシアの事を思ってくれての事ですもの。」 まだ疲れが残っているが、少しだけ穏やかな声にテレサの身を案じた。身体を壊してしまわないよう 皆と一緒にアリシアを救い出さなくては。俺を心配してくれたテレサの為にもアリシアの為にも 「感謝します。次はアリシアの声も一緒に送ります」 「期待しています…最悪の場合、逃げて生き延びてください」 「分かりました、それでは」 通信を終わらせ、バイクに乗ってさぁ出発…と行こうとしたが、メディナが書いた魔法陣があったんだ 何が送られて来るんだ? 武器か何かだと思って皆が魔方陣から少し離れて待っていると 「出てきたな、いったい何が来るのだろう」 「きっと光属性の武器だと思うぜ? 魔王が敵なんだし」 「そんな安直なわけないじゃない。きっと…」 雑談が途切れた、まず現れたのが…白い巨大な物で次が翼で次が巨大なブースターで 「「「「「輸送機ぃ!?」」」」」 綺麗にみんなの声が被った。いや輸送機かすら危うい流線型過ぎるしなんだこのバカみたいにデカいブースター テレサいったい何を考えて…兎に角ここじゃ迷惑だ。しょうがないので次元層にしまって村から離れた場所に出してみた 「…どうする?」 「乗るしかないだろう。きっと使えるはずだ」 はぁ…なんだか怖いなと思いつつ、入り口を探すと機首と思われる場所の近くにあった。驚いたのは コックピットが入って直ぐだと言う事だ。なんだか造りも簡素でパイロットスーツが幾つか用意されてた 「中は広いわね、席もいっぱい」 「あれかしら? 旅客機?」 メディナの言うとおりかもしれないが、あまりにも操縦席と客席が近すぎる。操縦席を見ると操縦桿などはなく 液晶パネルがそれの代わりのようだ。ヴェータが弄ってると上のモニターに…ディオールの保守派の奴らだ 「えーこほん、ヒース君お久しぶりだ! 今回はこの奇襲用の超音速ジェットをそちらに送ろう!」 あぁ、大体分かった。つまりこれで一気に奇襲をかけるのか…少々心配になりつつも早く動けるならと これを使う事にしたが…なんだか皆不安そうだ。俺だって不安だ…説明が長いな本当… 「あぁあああああっ!!」 「強情な王女よ、その愚かさで身を滅ぼすか」 気を失ってしまえば楽なのに。気絶する前に衝撃を止めて気絶しないようにしてる 「絶対にイヤです…私にはっはぁああっ!」 「やはり気に入らんな、その目は」 「私には希望があります! 大切な人がいるんですっ!」 負けれないこんな人に折れてたまるものですか。どんなに苦しくても助けがくるまでは耐え抜いてみせます 「信じるなら勝手に信じればいいさ。続きだ」 「あぐぅうううっ!」 だんだんと電撃が強くなり、威力が最大になった瞬間に頭の中が真っ白になって、身体から力が抜けて行くのが イヤでも分かりました。正確な時間なんて分からないけど長い時間の電撃のような衝撃であまり体力が無い私では 限界のようです。相手もそれをわかっているのか拷問の手が止まりました 「流石に限界か休ませてやろうそれまで良く考えろ」 「考えは変わりません…!」 「そうか、最後に教えてやろう。お前を守っていたあの男は死んだぞ」 えっ… 「くっでたらめを言わないで!」 「考えればいい。お前と一緒にいたのに何故いないかな」 大丈夫、ヒースさんは強いですものきっと逃げ切ったはずです。今は休みましょう… 「…まぁいい、希望は絶望という道を作る為にあるのだからな。」 「言っていなさい、私は信じます」 「あの男を随分と信用しているようだな。」 「貴方とは違う…私は信じる事をやめません」 もう何も言わず、魔王は去っていきました。嘘だったんですねやっぱり…私を惑わす為の嘘 けど私はそんな事では折れません。ヒースさん… 「わぁあああああああああぁぁぁぁあっ!!」 「しいいいいいぬぅううううううっ!」 「きぃいいいゃああああああぁああああ!!」 「とめてぇえええええええええええぇぇぇえ!!」 「止めれるか! 喋るな舌を噛んだーっ!」 「私は舌が無いけど無理ぃいいいいい!!」 この超音速ジェットは確かに速い。自動操縦で操作も楽だ。だが速すぎてちょっと死にそうになってくる パイロットスーツを着る事になってサイズも皆に丁度だから、とても準備が良いのだが…だがな 「落ちるっ意識がーっ意識がーっ!!」 「機械だけど落ちちゃうーっ!!」 意識が飛んでいきそうだ、パイロットスーツやシーツのおかげで多少は負担を減らせるがこれは酷い 「保守派の奴らテストに使ったかー!!」 絶対に奴らテストついでにこれを渡したな! テレサのことだうまい具合に騙されたのだろう。 それか俺たちの支援という事で兎に角速い事を考えたに違いない。何でこうも極端な 「っー!」 だがアリシアの為だ、これは大分使える方だろうこれだけ速ければ敵に捕まる事もないだろう 考えていたよりもかなり早く到着しそうだ。時計を見ても1時間もしていないのに景色の変化が著しい 景色といっても空の色が森の木の色になったりするだけなんだがな 「死ぬっ死ぬーっ! アリシア助ける前に死んじまうー!」 「いぃいいいやぁああっ! お父さんーっ!! ヴェータ私貴方と一緒ならー!」 「うるさーいっ! あんたらだけじゃないのよーっ!」 だが皆の負担が心配だ。体力面よりも精神面の方が…あれ? なんだこれ? 何か出てるぞ? サーチアイ…あぁエンジントラブルか。エンジントラブ…ちょっとまてっこの状況で!? 「か、体が動かないのに如何しろというんだ!」 「くそっ皆! 機体を出して逃げるぞ!」 その次の瞬間だった。急に天井から光が差し込んだと思うと次の瞬間には空に出ていた。 ふむ…城下町か? だが人気が無いし不自然だ、なるほど…ここが 「皆! 機体を出すんだ落ちるぞ! 炎獄の龍よ我が呼びかけに答えよズメウ!」 「うんっ剣の盟約により出でよソードマスター!」 「ルナこっちこい!」 「うんっヤカリ乗ってー!」 「光より出でし闇に染まりし天使よ!目覚めろアン・ギェーラ!」 「禁忌ーっ!!」 飛べる面々はふわりと地面に舞い降りて、ペルソルナはブースターで衝撃を緩めて着地 禁忌は民家を粉砕しながら着地した。俺だけ被害を出してるが…やはり人気がまったくない 「…目指してた場所のようだな」 「都合がいい、このまま攻め落としてしまおう」 「保守派の奴ら止まるのは脱出装置頼みだったんじゃ…」 あのスピードだと城に突っ込む勢いだった。減速したら確実にかなり通り過ぎてしまう。いやある程度装甲があるし まさか突っ込むつもりだったのか? 攻撃的な着陸の仕方だな…着陸ですらないがな 「行きましょう、じゃないと…」 「遅かったみたいね。派手に暴れたからおまわりさんが来たわよ?」 粉々に砕けちった家から禁忌を動かし、周りを見ると騎士型のSDロボが俺たちを周りを囲んでいた。 サーチアイを発動するとゴーレムタイプのロボで無人機のようで魔力で生成されてるようだ 「城までまだ大分あるじゃん」 「面倒な事になってきたね、けど負けれない!」 足踏みをそろえてゼンマイ仕掛けの玩具のように迫る騎士型ゴーレムの歩みは、建てられていた家を 積み木を崩すように壊して行く。本当に人は誰もいないようだ…こちらも容赦しなくて言いという事か 「行くぞ皆、邪魔者は遠慮せずに倒す!」 こっちも家々を有効利用させてもらうか。盾…を使うにしても俺一人じゃないし乱用は避けるべきだ 切り札は奥の手として残しておきたいしな、ナイトメアサークルで十分だ! 「アリシア待っててくれ!!」 今はどれぐらい時間がたったんでしょう? 1時間それとも30分? 薄暗く冷たい洞窟のような この牢屋の中では感覚も気力も削られてしまう。さっきの拷問のせいで体力が切れているのが追い討ちをかけました 「うっ…」 体が言う事を聞いてくれない。勝手にガクガクと腕が震えて疲れでふらりと意識が消えそうになる 朦朧とした意識の中でこのまま気を失ってしまえば、拷問されても気絶して拷問も中断されて… 「話すつもりになったか?」 けれど、悪夢のまた始まりを告げるように鈍い音を立てて扉が開き、痛みの元凶の冷たい声がこの部屋に響きました このまま気絶してしまえば…睨み付ける体力もなくなっている私は下を向いたまま黙っているけど 魔王が私の前まで近づくと、顎を握り無理やり私を上向きにさせて意識があるか確認したようです 「起きていたか、答えはどうだ?」 「喋る事なんて何も無いです…」 睨みたくても力が出ない。力なく息をしていると魔王は顎を放し、あきらめたようにため息をつきました いい加減に私の口が割れないと思ったのでしょう。表情に出せれば笑っているところでした 「王女よ、先の言葉を覚えているか?」 「なんの事です」 「お前を守っていたナイトが死んだ事だ」 ヒースさんが死んだ…でたらめばかり、信じたくない…いえ信じません。ヒースさんのことですもの ここにいないといって死んだと限りません、逃げ切ってくれたはずです 「少しだけ面白い物を見せてやろう」 「な、何を」 額にガントレットで覆われた魔王の指が紋章の真ん中に突き立てられ、ふわりと光が集まり瞬きをする間に 周りの景色が変わり、私が連れ去られたあの湖が…ヒースさんの禁忌? あっ…あぁっ… 「そ、そんな…」 「お前が気絶してる間の続きだ。否定するも良いがあの結界から逃げれるなら我も倒せたろうに?」 「こんなの嘘です…嘘じゃなきゃ…」 禁忌から引きずり出され、身体をめちゃくちゃに折られ操り人形のようにぷらんと力なく手足を下げたヒースさんは 湖に落とされて、そのまま…そのまま上がってこない…また瞬きをすると景色は冷たい牢獄の中に戻ってしまいました 「王女よ、お前の愛した騎士はもう天へ召された。」 「私はっ私は!」 いや…ヒースさん…死んだなんて…死んだなんて、私いやですこんなのいや…折角、気持ちに素直になれたのに もう貴方はいないの? こんなのイヤ…もっといっぱい一緒にいたかったのに。本当の気持ちを伝えたかったのに 「信じていても最後には裏切られる。さぁ楽になれ」 「ヒースさん…」 「ふっ…いい目だ、その虚ろな瞳こそこの世界の真実だ。さぁ我が腕の中に眠るといい」 ヒースさん…こんな…こんなのって… 「ナイトメアサークル!」 かなり進軍が進んでる。敵は数こそ多いがこっちは少数精鋭で一箇所に向けて切り込んでいる それが幸いしたのか大量生産の弊害を受けて、粗悪な性能のゴーレム達は次々と倒れていった 「本当に数だけだな! 羽虫がヒンディアの巨大生物に挑んでいるようだ」 「象さんだよ! けど囲まれたら押し込まれちゃう! 急がないと皆危ないよ!」 ペルソルナがゴーレムの騎士の鎧の装甲ではなく、間接を狙い剣を突き刺すと一瞬でゴーレムが泥に返った エネルギーを吸う赤い闇の剣の力で、魔力が吸われてしまったのが原因だろう 「結界である程度の数は調整してるけど過信しない事ね」 「わーってる!  ヒースあれだ槍で突撃するの!」 ぞろぞろと銀色の海を作る騎士型ゴーレム達に、ある種の答えとなる攻撃が俺にはあった、だがこれを使っても いやヤカリの事だ何か考えてるのだろう。俺は禁忌に剣の代わりにランスを構えさせ 「ランス・オブ・ダークネス!!」 ランスに盾のオーラを纏わせて、一気に突き進む突撃系の技。これで一時的に道は開くだろうがこの数だ 他のゴーレム共が直ぐに道を塞いでしまう。それが俺の想像だったがヤカリの取った行動でそれは阻止された 「やっちまえルナ!」 「エネルギー満タンだし暫く大丈夫!」 俺がつきぬけた道の横に、ペルソルナの青い剣が生成したエネルギーの壁が出現する。ペルソルナの青い闇の剣は 赤いい闇の剣は奪ったエネルギーを、利用する事が可能で使い方の幅が広くこんな芸当も出来るのだ 「ヤカリにしては中々考えたわね」 「何時も一言余計なんだよ!」 「喧嘩は後にしろ!」 バリアを破ろうと槍と斧が合体したハルバードをゴーレムが叩きつけるが、かなりのエネルギーを使っているらしく ビクともしていない。ゴーレムは泥の時のように避けて通り城の入り口まで…と思ったのだが 「城の外は堀で入り口は無しか」 「道ならあるわ、ゴーレムが雪崩れ込んでくるから行動は迅速にね」 メディナがそれだけ言うと、光の弾を橋を兼用していた城壁に叩きつけて、ロボットが入れる程度の穴を開けて 結界を応用して堀に橋をかけた。これで城の中にいける…がゴーレムが雪崩れ込んでくる? 「魔力を節約する為に後ろの道を切り離して作ったのよ、さぁ急いで」 「げっヤベェじゃん!急げー!」 そういうことか、飛べるズメウはとっとと城の中に進入して後に続いて次々とロボが入って行くのだが 動きが少し遅い禁忌は遅れ気味に城の中へ…ゴーレムの大群がぞろぞろとこっちに来てるのが見えた 「ヤバイ!? メディナ結界を解くんだ!」 「今してる! 間に合ってお願い!」 城に入る頃にはゴーレムが文字通り、雪崩のように城へ入る俺たちを止めようと城の堀近くまでやってきた だが雪崩ではなく、この場合は雪じゃなく水だったようだ…メディナが城に入られる前に結界を解いて 結界でできた道で迫ったゴーレムは、溝に流れ込んで行く水のように堀の中へと落下していった 「よし! 穴を塞いでこっちにこれないようにしてやれ!」 「丁度良く木があるしな、ごめんよっと!」 ペルソルナが近く似合った植木を数本引っこ抜いて、俺たちが入った穴に差し込むと道はふさがれた これで外からのゴーレムはこっちにはこれまい。さぁまってろ魔お 「いつの間にこんなに出たんだ!?」 あっちこっちからさっきと同じ、騎士型のゴーレムの大群が地面から生成されている。また無茶をしてくれる 土があればオートでゴーレムが生成されるようだ。城の中に逃げても追いつかれるのは時間の問題 「今度こそ盾で」 「それは最後に取っておけ、メディナ僕と殿をするぞ」 「私が!?」 「広域への攻撃が得意なズメウとアン・ギェーラなら城の入り口を守るのに適してる」 ヴェータが行けと言うように、ズメウが手を振るだがこの数だ流石に二人だけでは無理がある 「待てヴェータ皆で」 「僕らを信じろ! この程度の敵に負けると思ってるのか?」 「しょうがないからやってやるわ! 行きなさいヒース!」 「ヴェータ後で必ず合流しよう…約束だよ」 「負けんなよメディナ! 行くぜルナ!」 「うんっヒースも早く!」 信じるか、共に歩むだけが信頼ではない…ヴェータ達ならここを任せれるだろう 二人に合流の約束をすると、俺たちは城の中へと走った。サイズ的にロボットが通れるのが幸いか 「ヴェータ、メディナ二人とも任せた!」 「任された! さぁこの泥人形共を陶芸にしてやろう」 「ダメよ、こんなのじゃ芸術にならないわ」 「それもそうか、だが初心者の失敗作ぐらいにはなるだろう。吼えろズメウ!」 だんだんと遠くなる二人の姿、炎の吹き出る音が暫く聞こえたが段々と遠くなっていって聞こえなくなった しかし最後まで炎の威力が衰えるような音も無く、二人が余裕なのは明らかだった。 「ヴェータ達は大丈夫みたいって…」 「ここからはダメか、徒歩で行く事になるみてーだな」 「ヤカリ降りて、小さくなるから」 綺麗なのに人がいなく、不気味に静まっているお化け屋敷のような城の通路を走っていたが道が小さくなった ここからはロボでの移動は無理だ。だがバイクでの移動なら可能なはずだ。禁忌から降りると次元層からバイクを取り出し 荷台は邪魔なので取り外しておいた。二人が乗る場所は何とか確保できるはずだちょっと危ないのだが 「ヤカリ後ろに乗れ、ウェンディはサイドカーに」 「ここならスピード違反になんねーし、バイクで城を走るなんて滅多にねーな」 「ちょっと貴重な体験になりそうだけど楽しんでる余裕はないわ!」 ヤカリはペルソルナがいるが、ペルソルナは落ちるといけないし、安定しそうなのでサイドカーに載せて ウェンディは最悪の場合に備えてサイクロンエッジを準備してた。さぁ全体見門の城内暴走と行くか 「行くぞっ!」 綺麗に敷かれた赤い絨毯や汚れの無い床を、土汚れで無残な姿にしながら俺のバイクが爆走する これが普通の城ならメイドにこっぴどく怒られるだろうが、ここには止める兵士も怒るメイドや執事もいない 「ヒースなんか怪しい鎧があるから避けて!」 「分かった!」 ウェンディの言うとおりにすると、通り過ぎた後にガシャンと鎧が倒れる音がした。どうやら 咎める者が一応はいるらしい。この城は鎧が通路を掃除しているらしく俺達に怒りを燃やしてるようだ 「げっヒース前!」 「どうやら起こってるようだ」 暫く走ってると、鎧たちが勝手に動いたのか行儀のなってない俺をお仕置きするのか、武器を持って待ち構えていた 流石にこれは危ないか…だったら、次元層から少しだけ禁忌を出すとジャンプ台にして鎧たちを飛び越えた 「すげーな、貴重な体験しちまった」 「まって追いかけてくる! 早いよあれ!」 バックミラーで確認すると、鎧たちが猛スピードで俺達に迫ってきた。これは面倒な事になりそうだ こうなれば白兵戦で倒してしまおう。スピードを緩めてお冠の鎧たちに逆切れ気味の反撃をしようとした時だった 「先行って! 私が食い止める!」 「ウェンディ!? 一人で出来るのか?」 「大丈夫よ私は銀の戦刃。負けやしないわ!」 迫る鎧たちに追いつかれる前にと、ウェンディが先を指差す…ウェンディを信じよう。 心配そうな俺達に、ウェンディがウィンクをすると俺は追いつかれないようバイクを走り出させた 「ウェンディー頑張れよー!」 ヤカリの声援は、エンジン音とかき消されながらもウェンディに届いたらしく、鉄を叩ききる音が 廊下に響き渡った。俺たちは自分のやるべきことをしなければならない三人の為にも早く終わらせないと 「このまま行くと何処に出る?」 「大広間だ、王座に目標はいると思うから近い」 少し飛ばしていくと、鎧の妨害もなく大広間に到着かなりのスペースがありロボットで行動が出来そうだ この大広間を抜ければ…皆が持ちこたえてくれてる、魔王を倒せばゴーレム達も崩れるだろうし急がなければ 「なぁ、ヒース嫌な予感しないか?」 「…俺もだ」 こんな巨大な広間に、何も仕掛けてないはずが無い…一気に走りぬけようと次の部屋への通路へと アクセルを一気に踏んだのだが、そう甘くも無かった。地震のような揺れで動きを止めてしまったのだ 「くそっやっぱ罠あった!」 ヤカリが悪態をつくと、サイドカーから飛び降りた。送れて後ろを向くとまず見えたのは蛇のような だが大きさ的にドラゴンのような金属で出来た長い胴体。それを迷路のように目で辿ると鎧に包まれた出口が見えた 「ドラゴケンタウロス型か」 「どっちかと言うとナーガか、ルナ行くぞ!」 「今日は大きくなったり小さくなったり忙しいね!」 無理だ、ヤカリとペルソルナが戦うには相性が悪い。あの二人はパワータイプではなくテクニックで攻め トリッキーな武器で思いもよらない攻撃をする。だが敵はどう見てもパワータイプ…小細工が通用しない 「行けヒース! こちとら良い考えは浮かんでる!」 「大丈夫こんなの何回もあったもん!」 「…すまん!」 二人なら何とかしてくれる。今までの皆がそうだったように、ヤカリとペルソルナに後を任せると 俺は再び、静かだった城の中を走り出した。あちこちで爆発音が響き最早、無人の時の静けさは無い 「アリシアもう少しだ! もう少しで」 地図ではもう少しのはずだ。巨大なドアをいくつかバイクで破りながら、そのまま突き進むと 今までと雰囲気概要に違う部屋に出た。聖堂…のようにも見えるが禍々しい装飾が施され 俺は一瞬だけ戸惑った。道を間違えたかと引き返そうとした時、俺の目に飛び込んだのは 「貴様が…」 気配を消せるのか、さっきまで感じなかった冷たい威圧感は、突き刺すように身体を包み込む 冷たすぎる風や外気は痛みと勘違いする事があるが、それとほぼ同じだった 「貴様が魔王か、アリシアを返せ!」 「ここまで来たんだ。我の名ぐらいは知っているか」 王座に座っていた魔王は、どこか面白そうな笑いを浮かべて立ち上がった。禁忌を呼び出さねば 俺が身構えると待てと言うように手の平を出した。何を考えているんだ? 「お前は王女を助けに来たのだろうが、王女の心は壊れた」 「貴様アリシアに何を…」 「貴様が死んだ物と思ってな、死んだと言ったらこれだ」 魔王が指を鳴らすと、王座の奥から見覚えのある影が…アリシアだ。衣装は着ていたドレスがビキニ風になり 色も紫に近い黒色になっていたが確かにアリシアだ。だが目は紫色の虚ろな瞳へと変わっていた 「アリシア!?」 「洗脳するのが簡単だった。」 「アリシア俺だ! ヒースだ助けに来た!」 「無駄だ。王女の心は閉じ込めた」 怒りで感情が高ぶった。なんて言葉じゃ今の感情は表しきれない、あまりにも怒りが激しすぎて一瞬 禁忌で殴りかかろうとしたが、アリシアへの危険を考えると感情を何とかセーブできた 「何故こんな事を!」 「まだ信じている目をしているな。」 「答えろ!!」 「簡単だろう、攻められても人質兼用の戦力に出来る」 アリシアを駒にしたというのか、イライラに似た…病室にいたときの俺と同じだ。感情を抑えられなくなる 人を心の底から本気で殺したいと思ってる。許せないコイツだけは絶対に! 「術者を倒せば洗脳が解けるのは術の鉄則。貴様を倒す!」 アリシア、待ってろ今助ける! 禁忌でそのまま握りつぶそう魔王に迫るが、それを遮る物があった アリシアだ。動きが止まり後ずさった後。アリシアがパンツァーシュナイダーを取り出した 「まさか…やめろ!」 「古の光よ立ちふさがる敵を討て。アンジェラ」 アリシアがアンジェラを呼び出した。アンジェラも薄い紫と黒のカラーリングに変更され、アンギェーラとは違う 妖しい闇の雰囲気を漂わせる。アリシア同様にアンジェラも洗脳に近い改造を受けたのだろう 「アリシア目を覚ませ!」 叫びは崩れ行く瓦礫の悲鳴に消えた、アンジェラの動きは華麗でアンジェラの動きがダンスだとすれば 禁忌は不器用にステップを踏んでいるとでも言うべきか。アンジェラの動きについていけなかった 「速い! アンジェラが元々は格闘をメインとして作られたのは知っていたが…」 杖は槍のようにもなり、一突き一突き禁忌のコックピットを狙っている。反撃してアリシアを傷つけたくない だがこのままではアリシアを救う事もできない。アンジェラの手足を拘束してしまえばあるいは 「縛られなれてるが、縛るのはできるか?」 剣を持ち替え、鞭を取り出すと一度間合いをとった。至近距離に仕掛ける必要が少しは減る鞭だったら アンジェラの槍を上手くかわしてアンジェラ本体を縛れるはずだ。 「アリシア必ず助ける、待っててくれ」 槍はリーチが長い分、巻きつけようと思えばあっさりと巻きつける事ができる。鞭を振り上げると 巻き付けれると思っていた。だがアンジェラに鞭が伸びたと同時に頭の中で何かが弾ける 「っ!?」 アリシアとの思い出、アリシアとすごした時間がフラッシュバックして攻撃の手が止まってしまった アンジェラを攻撃できない? しかしアリシアはいまや人形。槍の一撃が禁忌を吹き飛ばした 「っげほげほっ! ぇっ!」 「ふっ…信じている目をしていたからな、愛する者を攻撃はできまい」 ダメだ、アリシアのアンジェラを何とかしなきゃいけないのに。アリシアを傷つけるのが苦しい 何時もなら苦しいが攻撃できた。だが今は違う助けを求めるように苦しみが俺を蝕んでいる 「ダメだ、助けるためには…」 割り切ってくれ、アリシアを救いたいんだ。このままじゃアリシアを救う事ができない 動きを封じるだけなんだ、殺すわけではないだろう? アリシアを救いたいならやるんだ! 「っ…くそぉっ!」 心では理解しているはずなのに、鞭を振り上げた禁忌の腕は鞭を振り下げる事も無く アンジェラの杖から逃げているだけ、アリシアを傷つける勇気も無いなんてな 「くそっ俺のバカが!」 アリシア達は俺が囚われた時、俺と戦う勇気を持って俺を救ってくれたのに…なんて中途半端なんだ 俺が自分に嫌気がさした時だろう、その時に動きが鈍ったのだろうか 「かはぁっ!?」 杖が禁忌の装甲の合わせ目を狙って突かれ、衝撃に襲われた。これだけなら何時もの事だった 「力の契約の下に滅びの波動よ貫けハーツスティンガー」 「がぁぁあああ!?!?」 そうか…魔法を使えば直接俺を狙う事も…迂闊だった、アリシアは魔法のプロで俺の弱点も知っている チャンスさえあれば俺を倒すのも容易だろう。衝撃を物の中へと送る攻撃魔法を受けたようだ 「ア…リ…シ… ダメだな、身体が言う事を利いてくれない…心が弱すぎた、結局アリシアを救うことができなかった 懐かしい記憶達が俺の頭の中でレクイエムを開いている。最後に俺を楽しませてくれているのか? ア…」 楽しかったな、苦しい事もたくさんあったけど皆と出会えて幸せだった。たくさんの記憶が…アリシア 「よろしくお願いしますヒースさん」 清楚で可憐で強くて…けど本当は苦しみを抱え込んでしまっていたアリシア。好きな事だって沢山あって… 「すごいです! 本物ですよ本物! 今まで間近で見たことなんてないです!」 「嬉しい…こんなに、こんなに心配してくれてたんですね…」 アリシア…俺は…このまま死ぬのか? 何も終わってないまま…俺は…記憶? そうか、忘れていたんだなこの記憶も。あんなにアリシアがいなくて苦しいのがやっと 思い出せた 「っ!」 体に自然と力が蘇る。突き刺そうとした杖を掴み取り引っ張るとアンジェラが引き寄せられる あの状態からの復活は予想外だったようだ。これならいけるはずだ…洗脳されてるなら 「アリシア! 俺だ聞こえるか!」 アリシアたちは俺が洗脳されたとき、呼びかけて俺の意識を呼び戻した。俺にできるかどうかわからない だがやってみる価値はあるはずだ。 アンジェラを禁忌で抱きつかせ拘束すれば動くこともできないはず 「アリシア! アリシア!」 逃げようとするアンジェラの抵抗もあり、声はかき消されてしまうのだろう。ならば直接届けるだけだ 不安定だがアンジェラのコックピットを無理やりあければ、アリシアはそこにいる 「うわっ!」 だがそう簡単にさせるはずもなく、アンジェラの抵抗で振り落とされそうだ。ここで失敗してたまるか 自分のバカ力に感謝しながらアンジェラの装甲にしがみ付き、コックピットを目指した 「ロッククライミングは初めてか」 暴れるアンジェラと禁忌に潰されぬ様、気をつけて上へ上へと向かうとアンジェラのコックピットの前に つこうとした瞬間に手が滑った。片手だけでぶら下がり急いでもう片方の手をどこかにかけようとしたが それより早くアンジェラが禁忌とぶつかり、その間にサンドイッチの具のように潰されてしまった 「がっ!?」 やはりロボットだと音が違う。人がつぶれる音なんて聞いた事がないが、俺の潰れる音は金属的で 体に多少の違和感を感じたが、この時は自分の事なんて気にしている暇がなかったのかもしれない 「コックピットはここだが…レバーかスイッチは…」 もう片方の手を突き出し、コックピットにたどり着くと今度は閉ざされた装甲を剥ぎ出さなければいけない 外から開ける方法なんて知らないし、開けるためのレバーの類を探していたらまた潰されかねない  「こうなればこれしかないか」 ならば一番手っ取り早いのは、合わせ目の部分に無理やり指を入れ、こじ開けてしまえばいい 爪先しか入らないような隙間だが、無理にでもこじ開けてやるほんの少しだが装甲が開くが 爪が割れて使い物にならなくなった。だがここからは指が使える。爪で耐えれたんだ指ならいける 「うわぁあああああああっ!!」 ゆっくりとだがコックピットが開かれる。手が滑りアンジェラの装甲に4本の線を描くが そのころには俺が入れる程度のスペースを開く事ができていた 「アリシア!」 「…………」 コックピットは立って操縦するタイプなのは知っていたが、中は触手のようなコードがぶら下がり アリシアの白い柔肌を縛り無理やり立たせ、手枷でパンツァーシュナイダーを握らせていた 「アリシア俺だ! アリシアっ!」 ダメだ俯いたまま、俺に見向きもしない。顔を上げさせるがうつろな瞳には何も映っていない… あの時の俺と同じだ。精神的ショックを与え心を閉じ込めてから洗脳している 「くそっ声が届けば…アリシア目を覚ませ! 助けにきた!」 肩を揺さぶるがこんな事でどうにかなるはずもない。アリシアを拘束していたコードを引き千切り まるで蔦の様にも蛇のようにも見えるコードからアリシアを開放…した時だった アリシアが俺にパンツァーシュナイダーを向けた。ボソボソとした声でだが詠唱も始めている 「アリシア!? なんて事を!」 俺がこっちに忍び込んだのを知ってか、アリシアに俺を殺すように命令を出したのだろう。 止めようとしたが千切ったコードが俺に絡みつき、動きを封じ込めようとした 「ぐっ!? 間に合わっ」 詠唱には十分な時間を与えてしまった。ダメかと思ったが何も変化がない。良く見るとアリシアは 唇を抵抗するように震わせている。詠唱も止まっている…これはまさか 「戻ったのかアリシア!」 「げ…て…」 喜びもつかの間、アリシアの口から出た途切れ途切れの言葉に耳を澄ますと、最初の「げ」と「て」 次は「に」と「け」その次にまた「に」と「て」そして「は」だんだんとまたアリシアの目から生気が… 「逃げろという事か…だが無理な話だ俺は…」 逃げてと言いたいのだろう、途中に入る言葉は詠唱の続きと考えれば納得がいく。だが逃げる? アリシアを助けるまで逃げる気はない。手枷でパンツァーシュナイダーは放せないだが だが無茶があるが俺と同じで、ショックを与えれば…このままじゃ魔法に貫かれる、だったらその前に 「め…つ…のやい…ば…」 「アリシア! 俺はお前の事を」 爆発、そして閃光があたりを包み込む。最後の言葉は爆風にまぎれて聞こえなかったかもしれない 俺が目を開けると体は確かに存在してアリシアの体を抱きしめていた。成功…したのか? 「アリシア…アリシア!? いや気絶しているだけか…もうすぐ終わらせるから待っていてくれ…」 アリシアは気絶して、張った糸が切れたように俺に寄りかかっていた。手枷を破壊する暇は今はないか アリシアを寝かせるとそのまま禁忌に戻るが、果たしてこの状態であれを倒せるだろうか 「洗脳を解いたか、見事だ」 「褒められても嬉しくない。強がっても残るはお前だけだ」 強がっているのはこっちだがな、俺の体はさっきのでだいぶ傷ついている。短期戦に持ち込むしかないが 相手にはバリアが存在する。あの時はロストエンスピートを発動していなかった…やれるか? 「こい、ディアボリア」 「一気にケリをつける…ロスト・エンスピート!」 禁忌が紫色のオーラを纏い、そのまま一撃の重さを求めて大槌を装備、盾に差し込むと 一気に飛び掛った。魔王は余裕を持ってバリアを張るが今回の一撃は簡単に防げないはず 「舐めてくれるなよ?」 「それはこっちのセリフだ!」 そのまま一撃もらった、ビームが発射されたがクラッシュアンカインドでそのまま叩き壊す! 「な…に?」 あぁ、俺の考えはいつもの禁忌なら間違っていなかっただろう。だが今の俺のコンディションや 禁忌の状態を考えると最善じゃない。エネルギーが足りなかったのか大槌は弾かれ、禁忌に直撃した 「もはや声すら出ないか」 「…っぁ…ぁ…」 身体がいう事を利かない。まだ負けれないのに…こんな所で負ければアリシアは…アリシアは フラつく意識に食いしばって立ち上がろうとしたが 「ふんっ…奈落の果てに沈みたまえ。ヘルグラビディ」 声も出なかった。異常な重力をかけられて身体だけでなく鎖まで悲鳴を上げている。 禁忌を起き上がらせようにも、その力すら俺には残っていないのか立ち上がれない 「そのまま地獄まで落ちるといい」 このままじゃ本当に地獄に落とされそうだ。だがこのまま朽ち果ててたまるか アリシアをまた…アリシアを奪われてたまるか…もう少し、もう少しなんだ…戦ってくれ 「何だこのデジャブは…」 感情の補完率100%ロストエンクライシスを開放します。音声入力式なので使用時は技のコードを… またか。俺の記憶は戦いに関係する事が都合よく…まるで…いや今はどうでもいい 手動で行うこともできますが、最初はオートで行う事をお勧めいたします。 「っうぁああああああああ!!」 もう一度、もう一度だけ全開でいくぞ! 盾を使う強化系の能力。それが思い出された記憶… 盾を突き出して音声入力をすれば完成…頼むぞ。 「くっ何だこれはっ!!」 「ロストエンクライシス起動!」 これよりロストエンクライシスの説明を 「いらん! いまは発動だけしろ!」 これで…おいどういう事だ?。盾が浮遊して禁忌の後ろへと移動するとまるで埋葬されるように 禁忌が腕を組む。操作を受け付けず禁忌がそのまま後ろへと下がり始める…そして 「!?」 盾が開いた。自爆技だったのか!? くそっこんな…違う。普通ならもうとっくに俺を焼き尽くしている そのまま禁忌に何かが纏わりつくと。禁忌は棺の中へと吸い込まれるように入っていく 「ちぃっ何をするか知らんが壊させてもらう! デモニックバスター!!」 あれがくる、ダメだ逃げれない棺が閉まる寸前で発射された破壊の光。だがその光はまるで弾ける様に 盾の近くで消え去った。バリアフィールドが展開されているのか? だが考える暇も俺にはなかった ここはどこだ…暖かい…それでいて浮いているようだ…風呂には言っている時のようだが 周りは薄暗く。どこか冷たい色をしている…ここはどこだ? 禁忌の中なのは分かるが 「盾の中? 盾の中はこうなっているのか?」 盾には構造は不明だが不思議な力がある、だがあれは全てを滅ぼす破滅の力のはずだ… こんなに優しい空間だなんて思っていなかった。この盾いったい何なんだ? 「くそっ今度は何だ!」 ふわふわと浮いていると思っていたが、突然の衝撃で夢見心地から引きずり戻された。 周りを見ると何も無い空間から、鎖が出現して俺と同じように禁忌を縛っていた 「何が起こるって言うんだ…開い 鎖が…突き刺さった? コックピットが勝手に開くと何かが飛び込んできた。薄暗くて 何か分からなかったが。胸に違和感を感じた時そこに鎖があるのがはじめて分かった 「これは…っあっぁあああああああああ!!」 エネルギーが制御できない? 苦しいっ身体の中が熱いっこのままじゃオーバーヒートするっ! それだけじゃないエネルギーが鎖を通じて俺と禁忌に流れ込んでくる 「うわぁあああっ!! わぁあああああああっ!!」 自分でも異常なほどのエネルギーの貯蔵量だと自負しているし。それは他からも認められている それなのに、エネルギーがあふれて爆発しそうだ。これは…! その頃ザイクリンデでは書類にサインを書いていた雪の姫が、握っていたペンのインクを凍りつかせた 「…これが彼の…トーイ少し一人にさせてくれます?」 そしてユグドラシルは不安げに枝を揺らしていた 「まさか…おそらく広がっているだろう。皆に伝えるべきか」 そして舞台はまた魔王の城へと戻っていく。ヒースが盾の中でエネルギーを暴走させられている時 外部では魔王がヒースを粉砕せんとバリアを破るべく連続攻撃を仕掛けるが。 「えぇい何故だ何故壊れん!」 だが盾へと一撃が通る事もない。まるで棺の姿のとおり死者の永眠を守るかのような堅牢さに 魔王の苛立ちは頂点を迎えたらしく、ヒースを一度は葬ったデモニックバスターが バリアを破らんと発射された。これには張られたバリアも耐え切れず壊れた… 「ついに…な、何だこのエネルギーは!?」 いや、それは壊れたのではなくバリアが消えたのだ。デモニックバスターは盾に直撃した 挙句その時に盾の蓋が開いたが、盾の損傷はそれだけだった…そしてその中からは 異常なほどのエネルギーがあふれ出していた。そしてそのエネルギーの発生源は… 「はぁ…はぁ…ぅぉおおおおぁああああ!!」 これがロストエンクライシスの正体か、意識が朦朧とする…膨大なエネルギーを俺に流し込んで 強制的にパワーアップさせると言うやりかただ。確かにこれなら…ぼろぼろだった身体も 身体だけは修復されている。精神はこっちで持ちこたえるしかないが。いける 「くそっ姿まで変わっているだと!?」 「勝負だ魔王! これで終わらせてやるっ!」 使い勝手は変わらないはずだ。剣を次元層から取り出すが驚いた事に次元層を開いた時にも エネルギーがあふれ出した、影響は武器にも…取り出した剣には装飾が施され力強く変化していた 「これではまるで…うぁああああっデモニックバスタァアアアア!」 「クレセッ!?」 盾に剣を差し込むと、ただでさえ暴走気味のエネルギーが完全に暴走したらしい。あたり一面が 青白い光で包まれて見えない。だがディアボリアのデモニックバスターが迫る中で悠長に驚いてられない 「ぐぅぅうううっナイトメアサークル!!」 必死の思いで引き抜いたクレセントナイトメアサークルは、青白い世界の中を突き進んでいく これが青白いエネルギーに包まれた世界で最後に見た光景だった。直撃したのか爆発が起きて 爆風で視界が奪われる、その時に目を閉じたがその時には霧が晴れたかのように回りは色を取り戻していた 「バカ…な…バリアがこんな簡単に…」 「やったのか…っうぅううう…」 ディアボリアはその姿を瓦礫へと崩し。勝利した…と思いたい俺ももはや限界だったようだ 体中から力が消えていく…禁忌に繋がれたままでは危ない。エネルギーを空にされてしまう 「うぁっぅ!」 だが禁忌も俺の状態により機能を停止するのか、俺からエネルギーを引き出すのを止めてしまった それとほぼ同時に禁忌の装甲が開き、俺をコックピットから強制脱出させてしまった 「終わったのか?」 「結局…魔王の末路など同じか…」 ひざ立ち状態の俺に、誰かが話しかける。この声は魔王か!? くそっ俺はもう戦えそうに無いのに 声のほうを見るとぼろぼろの甲冑を纏った男が、瓦礫の中で眠るように倒れていた 「魔王まだ生きていたか」 「ふっ…まるで勇者…だった私だ」 だが落ち着いて聞くと、もはや魔王の声に覇気はなく戦うだけの余力は残っていないだろう。 「魔王は…私に人間の醜さを語った。その時はお前と同じように言葉を消し去ったよ」 まるで諦めたように、だが懐かしむように魔王は言葉を続けた。魔王の言葉に耳を傾ける気は無いが 止めを刺す体力もない俺にはどうしようもなかった。 「貴様は…私と同じ運命をたどる…」 「お前と? くだらない…」 「同じだ、お前は私に似ている…最後には心を魔王に落とす」 じょじょにボロボロと鎧が崩れていく魔王に、くだらないと一蹴したが魔王の話はまだ続いた 「どうしてそう言える?」 「大切なものを守る為に戦い、そして魔王を倒す…その果て…」 「貴様だというのか?」 「そのとおりだ、いつかお前も私のようになる…魔王にな」 …魔王か 「確かになりえるかもな」 「その時、お前のその信じている瞳も虚ろになるだろう」 「だがな。それは全てが滅んだ時だけだ」 「なんだと…?」 俺は皆に会う前、苦しんで悲しんで絶望のそこに落とされた。誰も手を差し伸べてくれず自分が誰かさえ分からず さまよい続けたが俺はそれでも、生きる事や信じる事をやめたくなかった。だからこそ言える 「もしも俺がお前と同じで、裏切られたとしても魔王にはならない」 「強がりを…」 「裏切られたからといって、誰かを悲しみの生贄にするほど…俺は弱くない」 「いいだろう…あの世からお前の行く末を見させてもらおう」 これが俺と魔王の最後の会話だった。魔王の最後は見れなかったが目の前が暗くなると同時に 魔王の兜が砕けその下から、俺と変わらぬ顔立ちの男が目を閉じていたのは覚えていた 「……………」 ここは…ベッドの上? 長い夢…ではないな。夢の中で飛ばしたロストエンクライシスの説明があった 読みは間違っていないが、出力の調整やらいろいろと細かい部分を気をつけないとあぁなるらしい 「時間が無いといえ、説明は聞くべきか」 エネルギーは満タン。これでもう安心して良いだろう治るのが早くて何よりだ…が もっと重要なことがある。アリシア達はどこだ? 周りを見回しても人一人いない病室 「…アリシア…」 アリシアが気になる。無事だろうか怪我はしてないだろうか心を病ませていないだろうか ふと顔を上げると、ドアが開き誰かが入っアリシア? アリシアだ 「ぁ…ヒースさんっ!!」 「アリシアすまな うわっ!」 驚いた事にアリシアが飛び込んできた。最初は驚いたが胸の中で泣いてるのが聞こえて 焦ってしまった。いったいどうしたんだ… 「よかった…もう、もう起きなかったらって…ゴメンなさい私のせいで…」 「アリシア、君のせいじゃない俺が守れなかったからだ。もう終わったんだ」 「ヒースさん…ヒースさん…」 アリシアに何か無いかと聞いたが。怪我もなく後遺症の類も無かったようだ。だが俺が寝ている間は 不安でたまらなかったそうだ、2日ばかり寝ていたらしく確かに不安にもなるか 「すまなかった…もうあんな目には合わせない。約束しよう」 いろいろとしなきゃいけない事は大量だ。ヴェータ達に感謝の言葉を送りたいしテレサに連絡もしたい テレサへの連絡はもう終わっただろうか? 禁忌もロストエンクライシスを扱いこなせるようにならないと 「ヒースさん…あの、あの時の言葉…」 「あの時の言葉?」 「私を救ってくれた時、私を洗脳から救ってくれた時の言葉です…」 あぁ…やるべき事は山済みだが…アリシアを救う時 「私の事…好きだって…愛してるって」 俺はとんでもないことを口走ってしまったかもしれない 続く