センチメートル・ヴァルキリーSS 『商店街の死神』  これは、どこにでもありそうな日常風景に小さな戦闘妖精が紛れ込む世界のお話……。 「おはようございまーす! 筍は起きてます?」  まるで鮮血のような赤い長髪を後ろで三つ編みにした少女が  登校前に寝坊癖のある友人、竹村筍を誘いに来ていた。  彼女の名は十三湊冥亜、cmV開発者の父とアメリカ人の母を持つ女子中学生である。 「あらあら、ごめんなさいね冥亜ちゃん。あの子ったらまだ寝てるみたい……」 「あはは…いつも通りですね……」  筍と呼ばれた少女の母は呆れたような声で階段の上に向けて大声を出す。 「十影ー!! 筍が起きないなら、いつものアレやっちゃいなさい!!!」  二階にある筍の部屋……。  長い黒髪の少女が体温によって天国と化した布団の中で  何度経験しても抜け出せない二度寝の快感に酔いしれていた。  そこに思いっきり威勢のいい声が響く。 「筍っ!! 起〜き〜ろ〜!! また遅刻しちゃうぞ!?」    短い黒髪と緑色のの忍んでいない忍者服の少女…そう、文字通り小さい少女だった。  だが、その体から生える緑色の巨大な尻尾は彼女が大きさ以外に人間ではない事を物語る。  彼女の名は十影、この世界で売られている食玩の戦闘妖精センチメートルヴァルキリー(通称cmV)の一種である。  十影が身長15cmの体から張り上げる声は下手な人間よりうるさかった。 「むむ〜……うるさいなぁ〜……」  十影の大声に負けじと布団を被る筍。 「ほ〜う、そういう事しちゃうんだ。じゃあ母ちゃんの言うとおりアレだな!!」  ジャキーン!!  十影は両手に大きな鉤爪を装備した。  ギ…ギキキキキィーッ……  ちゃっかり耳栓をはめ、十影は筍の枕元で鉤爪をガラス板を引っ掻き始める。 「わひゃあ!? そ、その音やめてぇーっ!!!」  数分後、筍は十影に急かされるまま大急ぎで制服に着替え、  階段から転げ落ちるように降りて……こようとしたらあと三段という所で盛大にコケた。  制服のスカートは大胆に開かれ、ストッキングごしに白い下着がはっきりと見える。 「筍……もうお母さん情けないわ……」 「あっちゃー……あいつまだ寝てら……」 「………………」  呆れた様子の二人の間で日本人離れした白い頬を赤面させる冥亜。 「おっはよー冥亜……」 「お、おはよう……相変わらず朝からにぎやかね……」 「そうそうお母さん、朝ごはんは?」 「おう、あんみつでも流し込んでいきな!」  奥から筍の祖父の声が聞こえてくる。 「お義父さん! どこの世界に朝っぱらからあんみつ食べる女子中学生がいるんですか! 小倉トースト作っといたから、それ食べながら行きなさい! 冥亜ちゃんずっと待ってるのよ!?」 「わかったってば〜! あはは、ごめんね冥亜……行ってきまーす!!」 「はぁ〜…やっと静かになったね母ちゃん」 「いつも悪いわね十影、あなたも早く朝ごはん食べなさい」 「は〜い!」  こうして、二人の少女は商店街の中を走って学校へと向かう。 「ねぇねぇ冥亜、昨夜のアニメ童話世界見た?」 「う、うん…いいないいなって絶対元ネタがアレよね……。あっ、食べカス落としてるよ筍〜!」  一見どこにでもいる仲のいい女子中学生であったが、彼女達には最近新しい共通点ができた。それは……。 「今日さ、学校終わったら冥亜ん家に十影連れて遊びに行っていい?」 「え〜……ちょっと恥ずかしいかな〜……」 「いいじゃないの、減るもんじゃないんだしさ〜。 実の娘をモデルにした死神型cmVって何気にすごくない?」 「あはは……パパは死んでも治らない、筋金入りの万年厨二病だから……フッ…………」  乾いた笑いの後に諦観を通り越し、達観した表情を浮かべる冥亜はひどく大人びて見えた。 「あんたね〜……その表情、こないだまで小学生だった人じゃなーい! そ、それ以上に限定タロットシリーズってのを一足早く見たいんだってば〜!!」  そして放課後……。   「お父さーん、今から冥亜ん家に行ってくるからバイトはなしね」 「珍しいな、いつもは小遣い目当てでやるなと言ってもバイトしたがるくせに……。 おおそうだ、新作の抹茶チョコレートいちごパフェを作ってやるから、冥亜ちゃんに持って行ってあげなさい」 「あなた! うちは出前なんてしてません!! 大体、いきなりそんなもん持ってったら十三湊さん家に迷惑でしょ」 「行ってきまーす」 「筍、祖父ちゃんと父ちゃんって変なとこで似てるよな」 「十影〜…それは言わない約束でしょ」  それから数分後、筍と十影は十三湊家に到着した。  インターホンを押す筍。  ピンポ〜ン♪  「は〜い…あっ、筍? すぐ開けるわね」  冥亜の部屋に通される筍と十影。 「おばさんはどうしたの?」 「うん、今日は友達の結婚式に行くから遅いって」  冥亜が自室のドアを開けると、そこには黒づくめの私服を着たcmVがいた。 「あら冥亜、その子達がいつも話しているお友達ですか?」  冥亜と同じく眼鏡をかけており、落ち着いた物腰と大人びた外見は成長した冥亜そのものと言っても差し支えなかった。 「へぇ〜…この子が…限定、それもオリジナルだからどことなく雰囲気が違うかも。 あんたと同じcmVとは思えないよね。十影?」 「う、うるさいな〜。オイラだって量産版とは違うオリジナルなんだぞ?」  しばらくお菓子をつまみつつゲームや雑談に興じる二人と二体。  我慢できなくなったのか、十影がメアに絡みだした。 「なあなあ、オイラと勝負してよ〜」 「あ、あの〜…一応パパからもらった誕生日プレゼントだから……」 「大丈夫だってば、十影も手加減するからさ!」 「いいじゃないですか冥亜、私もたまには運動してみたいですし。 彼女と殺し合うつもりなんてありませんよ」  そこへ冥亜の携帯が鳴る。 「あっ…ちょっとごめんねみんな…もしもし……ママ? パパが? うん…わかった、今から買っておくわね」 「どうしたの?」 「うん…今夜パパがお友達を連れてきて家で飲むから、適当なお惣菜とお刺身を買ってきてって」 「え〜、オイラとメアの勝負は〜?」 「何言ってんの、また今度にしなさい!  …よく考えたら、私もそろそろ帰らなきゃ怒られちゃう」 「うふふ…いつでも相手になりますよ?」  こうして、冥亜とメアは筍と十影を送りがてら商店街に向かった。 「くださいな〜」 「おっ、いらっしゃい冥亜ちゃんに筍ちゃん! 今日はトリモモが安いよキミィ!」 「じゃあそれとコロッケに唐揚げを」 「十影、あんたそれ何度見てんのよ。 私、そういうの残酷すぎて苦手……」 「すっげー…すっげー……」  この肉屋の店主、小山一代は客寄せのデモンストレーションとして牛殺しを敢行。  闘牛の横綱を見事倒し、その一部始終のビデオを店頭で流していたのである。  十影はその達人技の虜になっており、この店に買い物に来て目を輝かせつつビデオを見るのが楽しみだった。 「次はお刺身か…まだ魚河岸さんにあるかなぁ」 「ああ、それなら親戚のよしみで電話しといてあげるよキミィ!」  冥亜達が今から行こうとしている魚屋「魚河岸」には一代の妹が嫁いでおり、親戚関係にあった。   「ありがとうございますおじさん……」  ペコリとお辞儀する冥亜に目を細める一代だが、すぐ険しい表情になってこうつけ加えた。 「そうそう、そのセンチ…なんとかってのを連れてたら気をつけなさい。 最近、この辺で野良センチがしょっちゅう襲われてるってさ」  その言葉に眼鏡の奥の目つきを変えるメア。 「ひょっとすると、野良犬や野良猫ではないのかもしれませんね……」 「ああ、そう言えば生ゴミも犬猫やカラスとは違う荒らされ方だね。気味の悪い話だよ……」  冥亜達は不気味さを感じつつも魚屋に向かった。 「いらっしゃい! 伯父さんから電話で聞いたよ?」  彼女達を出迎えたのはそこの一人娘、魚河岸さばき。  結構面倒見がいいお姉さんで、魚を一人でさばけない主婦が増えているのを見かねて  常連客相手に魚のさばき方講習会を格安で開くという一面も持つ。  ちなみに冥亜や筍の母も彼女に色々教えてもらったという。 「ありがとうございます、さばきさん」 「いいっていいって、常連さんにはサービスしなきゃね!」 「なぁメア、野良cmVを襲ってるって奴らをオイラ達でやっつけられないかな〜?」 「そうよねー、そしたら私達商店街のヒーロー…じゃなくてヒロインよね!」 「相手の正体が掴めない以上、油断は禁物ですよ二人とも」  先の一代と同じように、さばきも険しい顔になった。 「実はね…うちもやられてるんだよ…野良猫かと思ったけど、それにしちゃ食べ方が器用と言うか……」 「なっ、なんだてめぇら!? 売り物の魚に何しやがるんでぃ!!!」 「お父さん!? 何やってんだよあんたら!!」  売れ残った魚に八つの小さな人影が群がっていた。  メイド服を着たcmVだが、その服は一様にボロボロで、顔や体も傷やツギハギで痛々しかった。  さばきの父が追い払おうとするが、異形のcmV達はまったく意に介さず食事をやめようとしない。  それにさばきも加わるが、何度払いのけられてもcmV達はひたすら食べ続けるのであった。 「やだ…何あれ!」 「あれは第13弾ノーマルのゾンヴィーナですね……」 「出番よ十影! 思いっきり暴れてきなさーいっ!!」 「おうともさーっ!!」  筍の号令を受け、十影はゾンヴィーナの群れに向かっていった。 「あ゛〜?」 「間の抜けた声出してんじゃねーっ!!」  ブゥン!!  速さと重さの同居した尻尾の一閃でゾンヴィーナ三体が吹き飛ぶ。  それ自体のダメージや棚から床に落ちた衝撃で頭部を損傷した者は動きを止めたが、  一体は手足があらぬ方向に曲がってもゆらりと立ち上がった。 「う゛え゛へへへ〜……」 「うげ…気持ち悪りぃ奴……」  尻尾での打撃に加え、鉤爪を使ってゾンヴィーナを倒していく十影だったが、  先の立ち上がった個体を含めて四体を倒した頃にはさすがに疲れが見えてきた。  その隙に乗じて一体のゾンヴィーナが物陰から彼女に襲いかかる。 「(やべっ……)」  ところが、そのゾンヴィーナはピタリと動きを止め、頭頂部から縦一文字に斬り裂かれる。  両断されたゾンヴィーナの身体の間から見えたのは、骸骨を模した禍々しい鎧と漆黒のマントを纏ったメアであった。 「……油断はするな…………」 「お、おう……」  十影は先ほどまでのメアとはうって変わった抜き身の刃のような鋭い眼と、  鼓膜から心臓に一気に冷風が吹き抜けるような凍てついた声に息を呑んだ。  そこに残る三体のゾンヴィーナが化け物じみた跳躍力でメアと十影に襲いかかる。  十影は忍者型だけあってか、棚から棚に飛び移りつつ攻撃をかわしていく。  一方のメアはマントを翻しつつも本能任せの攻撃をすり抜けるように回避し、  手にした巨大な大鎌でゾンヴィーナ達を次々と斬り倒していった。 「亡者は死神に勝てない……」 「へへっ、ちょろいちょろい!」 「やったね十影! 限定タロットcmVの強さもよーくわかったわ!」 「きゃあーっ!!」  最初に十影が倒したゾンヴィーナの一体が息を吹き返し、冥亜に飛びかかっていた。   「冥亜!」  冥亜の危機を見て素に戻ったメアに隙ができた。  ドボォッ!! 「くはっ……!」  巨大な腕が唸りを上げてメアの華奢な身体を殴り飛ばす。  その腕の持ち主は、隠れて食事していたそれまでの八体とは別のゾンヴィーナである。  ただし、魔改造で取り付けられた巨大な右腕の他にフレームが露出した左腕や、  はみ出した臓物、そして完全にイッた目つきが稼働時間の長さを物語っていた。 「せいやっ!!」  一方、冥亜に飛びかかったゾンヴィーナは鋭い手刀で叩き落とされていた。先の肉屋の店主一代である。  魚河岸での騒ぎを聞きつけた彼は八百屋やパン屋といった商店街の血の気が多い面々を引き連れ、騒動の元凶が暴れる現場に駆けつけたのであった。 「大丈夫か冥亜ちゃん!」 「肉屋のおじさん…ありがとう、それよりメア!!」 「危ない! 行っちゃダメだ!!」  メアに駆け寄ろうとする冥亜を止める一代。 「ぶえ゛へへへへへへへぇ〜っ!!!」  重い右腕のハンデを物ともせず、最後のゾンヴィーナは不気味な笑い声を上げながら疾走する。  メアも先のダメージこそあるものの、ふわりと浮遊しながら起き上がって倒すべき敵を赤い瞳で冷徹に見据えていた。 「(衝撃波を使えば店や人に被害が出るな……ギリギリまで引きつけて……斬る)」 「が!?」 「?」  ゾンヴィーナに突如緑色の物体が巻きつく。  まるで蛇が獲物を捕えたかのようにギリギリと締めつけを強めるそれは……切り離された十影の尻尾だった。 「すんげーパワー……このままじゃ振りほどかれちゃうな! あんまり使いたくない奥の手だけど……爆!!!」  ドゴォォォォォン!!!!  十影のかけ声と共に尻尾が光を帯び、小爆発がゾンヴィーナを呑み込んだ。 「十影……いいのか? 大事な尻尾を……」 「さっきの借りは今のでチャラな! 大丈夫大丈夫、一週間で完全に再生するからさ」 「あんたねぇ!! 店の中で奥の手使ってんじゃないわよー!!」 「怒んなよ筍〜……この辺の売り物はもうあいつらが食べちゃってるじゃんかよ」 「そういう問題じゃないでしょ……」 「メア、大丈夫?」 「冥亜、まだ近づいてはいけない……後始末が残っているようだ……」 「えっ? オイラの奥の手をモロ食らったのに?」  先の爆発の煙の中から人影が現れる。 「ガ…ガガ……」 「いっ!?」 「………………」  それはゾンヴィーナであったが、爆発によって服はおろか劣化していた皮膚などがすべて剥がれ、  骨格標本のようなフレームだけがスケルトンのようにヨロヨロと彼女達に向かって歩いてきた。 「うっわ〜……グロいなこりゃあ」  露骨に顔をしかめる十影をよそに、メアもゾンヴィーナに向かって歩き始める。 「お、おい! そんな無防備に近づいていいのかよ!?」 「私は死神、彷徨える亡者を冥府にいざなう義務がある」 「グガ…ガガ……!!」  無理な魔改造で取り付けられていた右腕を失い、体中を軋ませながら左腕を振り上げて獣のように襲いかかるゾンヴィーナ。  メアはそんな彼女の虚ろな眼に自らの視線を合わせた。  赤い瞳が妖しい光を帯びて輝きだす。 「ガ!?」  その瞬間、ゾンヴィーナの頭脳に膨大なイメージが流れ込む。  極寒・灼熱・激痛……ありとあらゆる地獄の光景がリアルな感覚となり、ゾンヴィーナの頭脳を駆け巡った。  通常のcmVより知能が低めに設定されている彼女でも…いや、動物的な本能を重視しているからこそ恐怖は倍増する。  先に死んでいった仲間のゾンヴィーナ達が自分を暗い闇に引きずり込む映像を最後に、ゾンヴィーナの意識は途絶えた。   「グ…ガ…ギィィィ……」  呻くような断末魔を上げた後、フレームだけとなったゾンヴィーナは文字通り生命を失った骸となってその場に崩れ落ちた。 「終わった…のか?」  メアは無言で頷き、瞑目しつつ静かにつぶやいた。 「冥府の門は開かれた……さらばだ…………」 「メア!!」 「十影〜!!」  決着がついたのを確認し、マスター二人が二体に駆け寄る。 「しっかし、派手に暴れてくれちゃったねぇ……」 「「ごめんなさいさばきさん……」」 「ま、あのまま放っといて売り物を台無しにされ続けるよりはマシだよね。お父さん?」 「おうよ! あいつらをとっちめてくれたんだ、これぐらい安いもんでぃ!!」  細かい事は気にするなと豪快に笑う魚河岸父娘にホッとする二人と二体であった。 「オラ、さっさと歩け!!」  八百屋の店主にどやされつつ、根暗そうな青年が一同の前に引き出されてきた。 「八百超さん、そいつは何なんだい?」 「こいつ、さっきから物陰でこの騒ぎをデジカメで撮ってやがったんだ。 なんでそんな事してたんだ!? 正直に言えコノヤロー!!!」 「うう……じ、実は独自のレシピで凶暴化させたゾンヴィーナの性能テストがしたかったんです。 最初は野良cmVだけを狙うつもりだったんだけど、商店街で暴れるなんて思わなかったんだ……。 でも、予想以上にすごいから詳細に記録しようとして……あの……その…………」 「ふざけんな!! 売り物の魚は弁償してもらうからな!!!」 「うちのパンを食い荒らしたのもおまえのcmVだろ!?」 「ひぃぃ〜!! すいませぇ〜ん!!!」  こうして、青年は駆けつけた警官や商店街の人々にこってり絞られるのであった……。 「なんかゴタゴタしてきちゃったねぇ、もう二人とも帰った方がいいよ」 「あーあ、また変な騒ぎに首を突っ込んだってお母さんに怒られちゃうなぁ……」 「筍ちゃんのお母さんには私から電話で事情を話しとくよ!」 「本当にご迷惑かけちゃってすいません」  さすがの筍も、ペコリと頭を下げる(もっとも、バイトの時もしょっちゅうヘマをして客に謝り慣れているのだが)。 「なんか、うちのマスターが色々迷惑かけちゃってごめんな!」 「大暴れした本人が言うなー!!」 「あはは…じゃあメア、私達も帰ろうか」  マントを翻し、普段着モードに戻るメア。 「ええ、それでは失礼します皆さん」 「冥亜、また明日学校でねー!」  ……その夜、冥亜とメアは一緒に入浴をしていた。  髪を下ろし、眼鏡を外した冥亜はサイズこそ違えど本当にメアと姉妹のようである。 「ねぇメア……」 「何ですか?」 「さっきの魚河岸さんでの戦い……あの子(ゾンヴィーナ)達もかわいそうだったね……」 「ええ…でも冥亜…誰かが止めなければ、ずっとあの子達は苦しんでいましたよ?」 「………………」 「私も生まれが違えば、あの子達と同じ境遇になっていたかもしれない……。 同じcmVとしてその悲しさがわかるから、私は死神となって命を狩るのです」 「そういうのって……辛くない?」 「辛くないと言えばウソになりますね……でもね、あなたが見守ってくれるから私は戦えるんですよ……冥亜(マスター)」 「…うん、街中でマスターって名乗ってバトルしまくるのは恥ずかしいけど、 私、あなたのマスターとして恥ずかしくないよう頑張るわね! 何をどう頑張るのかは……今度お父さんに聞いてみよっと……」 「あ、あんまりお父さんを調子に乗せると、またお母さんが呆れるからほどほどにしてくださいね……」  なんだかんだで、冥亜は自分の半身とも言えるcmVと共に生きる決意を新たにするのであった。  これは、どこにでもありそうな日常風景に小さな戦闘妖精が紛れ込む世界のお話……。                         ─終─ ■登場設定■ 十三湊冥亜  13歳。cmV開発者の父を持つ女子中学生。 アメリカ人の母譲りの赤く長い髪と、同じ色で眼鏡をかけたツリ目の瞳が特徴。 性格は真面目で優しく、母と一緒に父に料理を作るのが好き。 13歳の誕生日に、彼女は父からあるプレゼントを受け取る。 それはタロットcmVで父が開発した『死神』のオリジナルであり、 彼女…メア・サーティーンは他ならぬ冥亜をモデルにしたものだった。 冥亜が生まれた時の命名時といい、今回のプレゼントといい、 縁起とかより独特のセンスを優先させるのに妻と娘は苦笑した。 こうしてcmVマスターとなった冥亜であったが、 元来争い事が嫌いな性格からか、メアは友人兼護衛といったポジションとなっている。 「死神騎士(デスナイト)」メア・サーティーン 限定タロットシリーズのNo13「死神」を司るcmV。 骸骨をイメージした禍々しい鎧(兜は顔の上半分を隠すデザイン)と 飛行&ステルス機能を持つ漆黒のマントを纏い、 血のように赤く、ギロチンのように全てを断ち切る衝撃波を放つ大鎌を装備している。 また、cmVの頭脳に悪夢のイメージを流し込んで一定時間の行動不能状態とし、 最悪の場合精神崩壊すら引き起こす能力を持つ(それゆえか彼女には精神攻撃全般が無効)。 戦闘中にはほとんど言葉を発さず、対象cmVへ平等かつ無慈悲に死を与えるが、 武装を外した日常生活における姿は赤く長い髪と瞳の十代前半ぐらいの少女を模したもので、 心を許したマスターにはですます口調でよく喋る世話焼きで心優しい一面を見せる。 この露骨なまでの二面性は、冷徹なる死神騎士として背負う膨大なストレスから、 精神の均衡を保つ為の保険としてインプットされたのではないかと噂されている。 竹村筍  13歳。大正時代より続く老舗の甘味処「竹生(ちくしょう)」の看板娘。 長い黒髪を黄緑色のリボンでポニーテールにし、よく動く黒目がちなタレ目が特徴。 兄の影響でcmVにハマり、常連客のつてで入手した十影(オリジナル)をメインで愛用。 トラブルに首を突っ込むのが大好きで、ご町内のcmV絡みの騒動に十影を伴って乱入する。 同じ中学に通う十三湊 冥亜とは親友同士であるが、 最近限定タロットシリーズのオリジナルをもらった冥亜がうらやましいらしい。 十影  ノーマル。忍者とトカゲをモチーフにしたcmV。 鱗チックな緑色の忍んでいない忍者服(草影ではそれなりに忍べる)と 爬虫類っぽい瞳と大きな尻尾を持つ黒髪ショートの外見。 基本的に鉤爪と体術をメインにしたスタイルで戦うが、尻尾の重い一撃は強烈。 尻尾を掴まれた場合、即座に切り離して離脱し、 そのまま尻尾を敵ごと爆発させてしまう。 ちなみに、尻尾は一週間で完全に再生する。 ゾンヴィーナ ノーマル。ゾンビをモチーフとしたcmV。 初期状態ではちょっと顔色の悪いトロそうなピンク髪のメイドという風貌だが、 攻撃されて腕が飛んだり顔の半分がフレーム剥き出しになっても 笑みを浮かべながら迫ってくる不気味さとタフさ、そして怪力は敵に恐怖を与える。 また、傷つけば傷つくほど戦意が高揚し、動きも化け物じみたものへと変わっていく。 (某州知事のような全身フレーム状態になっても戦いを止めない) 損傷した部分は破壊されたcmVのものを移植するか、cmVの素で修復できるが、 心理作戦か趣味か、よほどのダメージでなければあえて直さないマスターも多い。 なお、さすがの彼女も頭を一撃で破壊されれば完全に機能停止する。 開発段階では敵をゾンビ化させる能力も検討されたが、コストの関係で未搭載のまま商品化された。 ■童話世界■ いいないいな ヤマト国各地で目撃される妖怪の集団。 褌一丁のマッチョな男二名とクマ・キツネ・ウサギ・モグラが各二匹ずつ夕暮れ時に現れ、 身体を左右に動かして踊る妙なパフォーマンスをして走り去っていく。 一説には子供の守り神とも言われており、 彼らが現れた村では子供達が大きな怪我や病気をしなくなるそうな。 ■非シリーズ■ 小山 一代 40歳。商店街でも人気のお肉屋さん「肉のコヤマ」の店長。 新鮮な各種精肉と素材の味を活かし、絶妙な味つけが魅力の惣菜の評判は上々。 だが、最近は大手スーパーの進出などで客足は減る一方だった。 そこで空手の達人でもある彼は、客寄せのデモンストレーションとして牛殺しを敢行。 闘牛の横綱を見事倒し、話題になるにはなった。 しかし、鬼気迫る表情で残酷に牛を殺すビデオを店頭で流したばかりに客足はさらに減ってしまう。 その代わり、手合わせを願う格闘家が毎日訪れるようになる。 仕方がないので、試合料として二倍の値段で精肉や惣菜を売りつける事で生計を立てている。 魚河岸 さばき 19歳。元禄の頃から続く魚屋の一人娘。 青髪ポニーテールにねじり鉢巻、背が高くスタイルもいいがオシャレには無頓着。 しかし、髪を下ろして着飾ればモデル並の美人だと友人に評される。 男勝りなチャキチャキの江戸っ子で初見では乱暴な印象も受けるが、 実は結構面倒見がよく、魚を一人でさばけない主婦が増えているのを見かねて 常連客相手に魚のさばき方講習会を格安で開くという一面も持つ。 恋愛に関しては不器用で、幼稚園から高校まで相思相愛となったためしがない。 少し前までは両親の熱心な勧めで見合いをいくつかしていたが、 なかなかいい相手に巡り会えず最近は両親・さばき共々あきらめモード。 そんな悩みを振り払うかのように、今日もさばきは店先で威勢のいい声を上げるのであった。