昔々、あるところに竜がいました  その竜は近づく者を石に変える大変『邪悪』な竜でした  『邪悪』な竜は度々村に来ては村に迷惑をかけていきました  村人達はなんど冒険者にその『邪悪』な竜を退治しようとしましたがいずれも返り討ちにあい帰ってきた者はただの一人もいませんでした  ある日困り果てた村人達は『邪悪』な竜を抑えるためついに『生け贄』を使うことを決心しました  『生け贄』には村で一番の美女が選ばれました  その『生け贄』に選ばれた美女は初めは困惑気味でしたが直ぐに事態を理解し、自分が『生け贄』になることを決心しました  そして当日『生け贄』に選ばれた美女が村に別れを告げ、竜のすみかへと向かって行くのでした  その後『邪悪』な竜は村に来なくなり、村に平和が訪れました  めでたし、めでたし ある竜の伝説  はじめまして、私はゼリナッシュ・ヴィトーこう見えても竜をしております  ……とは言っても今は『人間』の姿をしておりますが  だってこの方が正体の竜の姿よりも人間に親しまれると思うんです、たぶん 「……まだやるのですか?」  突然ですが私は今、困っております  と言っても私の命が危ないとかそう言うわけではありません 「うるさい、うるさい!」  むしろ彼女――軽鎧に赤い髪の毛をした女性の方の命が危ないんです、この場合 「あなたは私の大切な、大切な相棒を……、よくも……!」 「……」  私は傍にあった女性の石像につい目をやってしまう  その石像は鋭い剣先を私に向け、鬼気迫る表情で睨みつけていました  他人が見たら多分あまりの出来の良さに褒め称えるくらいその石像は、精巧に出来ていました 「石に変えやがって……!」  この石像が元々人間であったなんて……信じる人は多分少ないでしょうね 「そ、それはその……」  彼女の言っていることは残念ながら、事実です  彼女の相棒は私のせいで石になりました……私のこの呪われた体質のせいで  私この体に宿っている魔力は相当高くて、高すぎて……私の器に収まりきらなくて……  その結果私の体から漏れだした魔力が他の生物に悪影響を及ぼすんです  具体的に言えば私に近づく生物は全て……石化してしまうんです 「この化け物! 貴様だけは、貴様だけは……!」  スチャ  と彼女は腰に下げていた短剣に手を取り、その刃先を私に向けて突き立てて来ました  その目は私に向けた短剣より鋭く、そして憎しみに満ちあふれていました 「私が……殺す!」 「もうやめて! これ以上犠牲者を出したくない……もうこれ以上!」  彼女は私の言葉を聞かずに、そもそも聞く気など持たずに  タン!  その短剣を持って……私に突進してきました  元々、軽鎧の彼女は素早さが高いのか私との差がグングンと縮まっていきます 「やめてぇぇぇぇぇ!」  しかし、私の精一杯の叫びも空しく私に向けられた凶刃は……その動きを止めました 「え、あっ……何、これ……?」  見ると彼女の足と短剣を握りしめたその腕は、灰色に染まり彼女の動きを封じ込めてしまいました 「あたしの体が……石になってる……の……?」  灰色の浸食は収まらず、足から腰へ、腕から肩へ、その浸食はどんどん彼女を人ではなく、物にへと変えていきます 「ひぃ……あっ……」  彼女の先ほど覚悟は何処へ行ったのか、体は恐怖で小刻みに震え完全に怯えきった表情で私を見ていました  瞳には大粒の涙がこぼれています 「なんで、なんで近づいたのよ……! なんで私に攻撃したのよ、しなかったら私は助けることが出来たのに……!」  私の瞳にも大粒の涙がこぼれだしてきました  彼女を助けることが出来なかった、後悔の涙 「私は何もしてないのに、私のせいでまた犠牲者が増える……」  彼女が石化したのは、彼女が私の話を聞かないせいなのに、それでも私は自分の責任として彼女に謝罪した 「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」  許してはくれないけど、それでも私は謝罪をしてしまった 「嫌……助けて、た……す……け……」  不意に彼女の言葉がきれました  灰色の浸食はすでに首から下を覆い、最早声すらほとんど出せない状態になってしまいました 「……ぁうぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ……」  そして彼女が甲高い叫び声を叫んだ瞬間  彼女の人間としての時間を終了させてしまいました…… 「う、ぐぅ……ひぐぅ……うぁぁぁぁん!」  当の私は未だ大粒の涙を流して悲しみました  なんでこの様な結果になったのか  なんで私にこの様な能力がついたのか  そして、どうして人間と友達になれないか  そんな事を考えて 「……ひっく」  現在、私はすみかから数百メートル離れた、小高い丘に来ています  もちろん瞳には涙を宿らせて 「人間はいいな……」  この丘からは人間の町並みがよく見えます  ……最も竜である私の視力がなければ絶対に見れないですけど  人間の町は明るく、そして暖かい光に満ちあふれています  聞こえる声もどこか嬉しそうで……こっちまで幸せな気分になるくらいです 「私も人間と仲良くなれたらどんなに良いか……」  でも私はこれ以上近づく事はできません  近づけば何が起こるか容易に想像できるし、その事態は私にとっても人間にとっても、悲しい結末しか残しません 「どうして、私はこんな能力が身に付いたんだろう……」  私は私が憎くて、憎くて……たまりませんでした  近づく者を全て石に変え、他の生き物のぬくもりすら感じることができない、呪われた自分を  どうしてこんな体に生まれたのだろうか?  そんなことを何度も、何度も自問自答して、そして未だに出口すらつかめませんでした 「……!?」  その時ふと誰かの気配を感じました  すぐさま私は近くの木に隠れて様子をうかがうことにしました 「……夜空が綺麗……」  程なくして私が隠れた木の反対側から、一人の少女が歩いてきました  その星のように綺麗なブロンドの長髪は月夜に照らされキラキラ輝き、純粋無垢なその青い瞳は星空を見上げていました 「これが見納めね……」  その少女は誰とも無く一人呟いていました  その呟きはなんだか悲しくて、私はまた大声で泣きそうになりました  でも泣いたら私が困るわけで、結局私は泣きたいの我慢しつつじっくりと少女を観察しました 「よく、見ておかないと」  そう言って少女は歩き出しました――私の方へ  一瞬、鼓動が早くなった気がします (今こないで……! 来たらあなたを……石に変えてしまう!)  私は心の中でそう呟きました  ここらで移動したら良いと言いますが、ここで下手に移動して姿をさらしたありません  かといって近づかれるとそれはそれで厄介というわけで  ともかく私には祈ることしか出来ません 「クリス〜、時間だぞ〜」  っと祈りが通じたのか、誰か男の声が丘に響き渡りました 「あっ、は〜い……今そっちに行くね」  少女は男の声に反応してすぐさま私の隠れている方から遠ざかっていきます  完全に少女の姿が見えなくなったので私は胸をなで下ろし、チャンスとばかりに背中から翼を出し、そのまますみかの方へ飛んでいきました (あの子誰だったんだろう? かわいかったな……)  すみかへ戻る途中私は少女の事をずっと考えてました  少女は何者なのか、どうして悲しい表情だったのか  分からない事だらけでした  そしてその答えがなんなのか、この時点では何も分かる事は……ありませんし、一生無いと思いました  なぜなら少女と会うのはこれが最初で最後、多分少女が生きてるときには二度と会うことは無いだろうと私は思っていました   しかし因果は巡るモノで、直ぐ後に少女とは再会しました  意外な形で (……誰か居ますね)  私がすみかに帰ってみるとかすかに人の気配がしました (何の目的なんでしょう?)  私のすみかは自分が言うのも何ですが相当不気味で、近寄りがたい場所です  なんたってあるのは石像――私が能力で石化させてしまった、犠牲者達  そんな物なんて誰も欲しくないし、求めてる人もいません……多分 (後は、宝石……?)  私のすみかはなかなか良質な宝石があるらしく、それを求めて時々ここへ来る人がいるんです  でもそうだとしたらいくら何でも時刻が遅すぎます  もう夜も半場過ぎた所……暗くなりすみかにたどり着く道には多くの獣や魔物が活動しています  そんな道、嫌でも通りたくありません (だとしたら、私の命……ですかね)  私は昼間の事を思い出して気が重くなりした  また私は人間を石にするのか、また私は悲劇を起こすのか  やはり私は嫌われる存在なのか (……いずれにしろ出向かなければなりませんね)  ここで留まる訳にはいかず、私は意を決してすみかの中へ入りました 「……はい?」  そこで私は……腕を枕代わりにしてスヤスヤと寝ている少女を見つけました  それにしてこの少女どこかで……あっ!  そう言えばさっき丘で見かけた少女……多分間違いなくあの子です 「え、ええっと……とにかく起きてもらえません?」  私はなるべく近づいて(もちろん石化範囲から遠ざかって)その少女に声を掛けました 「ん……あっ……こ、こんばんは」  少女は私の声に気がついたのか急いで起きあがり目をパチクリさせて答えました  何というか、かわいいですね……今すぐ触りたいですけど、私の能力があるので無理な相談です 「私はクリス・マルティアスです、よろしくお願いします」 「私はゼリナッシュ・ヴィトーです、こちらこそよろしく」  私とクリスと名乗った少女はお互いに礼儀欲挨拶をしました  何というか……冒険者にしては偉く礼儀正しいし何より鍛えていると印象はありません  それにお金に困ってると言う印象もありませんし……  私が頭を悩ませるとき、クリスはおずおずと私に聞いてきました 「あの〜、ゼリナッシュさんはここにいる『邪悪』な竜がどこに居るんか知っていますか?」  『邪悪』な竜……村ではそう言う認識なんですね  とりあえず、えっとクリスは私に用があるみたいですが……一応理由を聞いてみましょうか 「その竜にあってどうしたいのですか?」 「……私は」  クリスは口を重苦しく開けてきました 「その竜の『生け贄』に選ばれたんです」  『生け贄』……ですか、そう来ましたか  古くから人間達は厄災のどを避ける際に人柱――『生け贄』を捧げると言います  恐らく冒険者達にいくら頼んでも私を退治出来ないため苦肉の策としてこの『生け贄』を用意したんでしょう  とても悲しい気分です  何故人間は分かり合えないんでしょう?  何故人間は歩み寄れないんでしょうか?  それが疑問で、それが悲しいです…… 「あの、クリスさんは怖くないんですか?」 「怖くありません……この命が村の役に少しでも役に立てば良いと思いまして」  彼女はとてもはっきりした口調で私に笑顔を向けて言いました  その笑顔を見て私は胸が締め付けられるような気がしました  初めて人間が私に向けた笑顔、それも純粋な  それだけに痛々しいと、私は思いました  偏見と誤解に満ちた村の人々に育てられ、価値観を教え込まれた彼女は多分本当の私の事を『邪悪』な竜と認識してるはずです  そして私が相手の命まで取るような『邪悪』に満ちあふれた存在であると 「クリスさん……とっても言いにくい事だけど」 「……?」  このまま彼女を騙すのは良くないと私は判断し、私はその正体を現すことを決心しました  ボン!  私の周りにモクモクと白い煙が立ちこめます 「ゼリナッシュさん……?」  煙が引いたそこには一匹の巨大な竜がいました  ゼリナッシュ・ヴィトーと言う呪われた竜が 「その竜が私なんです……」  私は彼女に言いました 「嘘……」 「嘘じゃないわ! 村の人が『邪悪』な竜と呼んでる存在は、私よ」  これで私を怖がって、考えを変えれば良いのですが……  でも現実はそんなに甘くありませんでした 「だったらゼリナッシュさん、どうか村を襲わないでください! 私の様な小物の命で村が救われるなら、いくらでも捧げますから……どうか!」 「あ、あのその前にさ……話し聞いてもらえない?」  ウン路線変更  私はまたさっきとは逆の過程をたどり、人間の姿で彼女に話しかけました 「……?」  当の彼女は頭に?マークを浮かべて疑問だらけの状態に陥ってました  当然ですよね……さっきまで竜の姿で話しかていましたから  でもこの姿の方が幾分か話しやすいしそれに……竜の姿より安心をさせることができる 「村に迷惑をかけたのは本当よ? 私が村を観察中に間違って人間を石化させてしまった事は何度でもあるわ、だけど……」 「だけど……?」 「村に直接の被害は出してないつもりよ、ましてや村人を襲うなんて、私にはできません」  彼女は信じないと思いました  これまでの人間もろくに話を聞かず、その上問答無用で攻撃する人たちばっかりなことが理由なんだろうな  私は容易に人を信じられず、人間もきっと私の事なんて信じない  そう言う思いが私にはありました 「信じて、くれませんよね……」  でも今回は神が私にほほえみをかけてくれた見たいです 「信じる」 「……え?」 「だってゼリナッシュさんの目は澄んでいて綺麗だから」  ……これってもしかしてもしかするかも?  よし、ゼリナッシュここは勇気を持つのです! チャンスは今しかないのです! 「じゃあ、竜の……それも近づくだけであなたを石に変えてしまう、呪われた竜である私と」 「友達に……なってくれませんか?」  ……ああ、私は今度こそ言ってしまいました  ずっと、ずっと言いたかったこと、叶えたかったこと 「……ひとつ、約束して」 「何ですか?」 「村に迷惑をかけないことそれが条件よ」  そんなの簡単よ、むしろ願ったりですよ 「了解したわ、じゃあ改めて言うわね、私はゼリナッシュ・ヴィトー……竜よ」 「ありがとう……あっ私はクリス・マルティウス、料理や炊飯ぐらいはできます、以後よろしく」  ああ、多分幸せってこういう気分なんだどろうな〜と私の乙女チックな心がそう言いました  多分彼女は最初で最後になる友達、彼女のためなら何でも出来る……そんな感覚がわいてきました  それからの私の生活は控えめに見て幸せだった……と思います  朝はクリスさんが朝食を作ってくれて、昼には色々と外の話をしてくれて、夜には私が晩ご飯を作る  そんな幸せな、少なくとも今までの生活よりは格段に幸せになっと思います  でもそんなささやかな生活は……もろくも崩れ去るのでした  それは私とクリスが会ってから……一ヶ月ぐらいしたある日の事でした  いつものようにクリスが朝食を作ってる時の事です  ガタン!  と、突然何かが倒れるような音が台所に響きわたりました 「……クリスさん?」  何があったんだろうと私は思い、台所へ駆けつけていきました  台所では朝の支度をしてたんでしょうがグツグツと湯がれた鍋――そして倒れているクリスさんの姿でした 「クリスさん! しっかりしてください!」 「……ゼリナッシュさん……?」  クリスは私の声に反応するとよろよろと立ち上がりました 「私は大丈夫です……っ!?」  コホコホ  と、今度は突然せきごみました  何だが私は心配になってきて、私はセリスに声をかけずには居られませんでした 「大丈夫……、クリスさん……?」  ポタ、ポタ  何かが滴る音が台所に響き渡ります  私はおそるおそる、クリスさんの手を見ました  クリスさんの手からは赤い、赤い真っ赤な血が……したたり落ちてました 「クリスさん……、あなた……もしかして病を……」 「ばれっちゃったか……ハハハハ……」  クリスは力無く、それでも私に笑顔で語りかけました 「そうよ……私は病を患っているわ……」 「医者には見て貰った……?」 「さじ投げられてわ、いわゆる不治の病ってヤツよ……」 「そんな……!」 「事実よ、それに医者はこうも言ってた、余命は数ヶ月……ってね」  クリスは何処までも笑顔で、そして寂しそうな笑顔で答えてくれました 「こんな私の命でも村を救えれば良いと思ってた……実際は全然違ったけど」  その時、クリスの目から涙がこぼれ落ちたのは私の見間違え……ではないと思います 「ハハハ、そんな事は良いからさ……朝飯の支度、しとかないとね」 「クリス……」  そう言ってクリスはまた朝食の支度を進めました  その日、私はずっと考えました  私はどうすれば彼女を助けられるか、どうすれば病を治す……でなくとも病の進行を止めるか  答えは直ぐに出ました、あっけないくらい  でもそれは私のこの呪われた力が関係してるわけで……こんな他の解決方法も見つかりません  しかたなくその日の夜、私はクリスに尋ねることにしました 「クリスさん、私はあなたを助ける……正しくは病の進行を止めることが出来るわ」 「どういう事?」  クリスは私の顔を見て、答えて来ました  澄んだ黒色の瞳でじっと見ていました  当の私はまともに目を合わせることが出来ません  なぜなら 「私のこの呪われた力を……石化の力を使えば」  友達であるはずのクリスを……石に変えてしまうのだから 「あなたを石化させて、病の進行を止めてしまえば……そして、この病の治療法が見つかれば、あなたは助かるかもしれない」 「……」 「わかってるわよ、私のしてる事がどんなに辛いことか……でもこれしかないのよ! これしか!」  多分、私は泣いていると思います  こんな方法でしか、彼女を救えない自分を恥じて 「ゼリナッシュさん……」  その時、クリスは突然私にキスをしてきたのです 「……!?」  予想外のことで私の頭は困惑気味です  初キスというのもありましたが……それ以上に私の呪われた力が、石化の力が彼女に降りかかるのを心配しました 「クリスさん……私に近づいたら……」  ピシィ!  予測通り彼女に石化の力が襲いかかります  見ると彼女の足は灰色に染まっております 「良いの……どうせ石化するなら、こうやってあなたの傍に居た方が良いと思うから」 「クリスさん……」  そうしてる内にも石の浸食は彼女のその細い足を灰色に染め上げていきます  それでも彼女は笑顔でいてくれました、どこまでも優しい笑顔のまま  そんな彼女に私は  ガバ! 「ゼリナッシュさん……?」  抱きついて来ました 「クリスさん……せめて石になるまでは、あなたのぬくもり私にわけてください」  恐らく生まれて初めて私は人のぬくもりを感じていました 「……分かったわ、ゼリナッシュさん」  そういてる間も彼女の石化の進行は止まらず、彼女の腰の部分を石に変えていきました 「これが人のぬくもりなんですね、暖かいです……」  私は消えゆく彼女のぬくもりを確かめるようにギュッと強く抱きしめました  今なら言えるでしょう、私は彼女が好きでした  私に対してどんな時でも笑顔で居てくれて、私を励ましてくれた彼女を私は好きなってしまいました  そうしてる内に彼女の石化は首から下をほぼ浸食していきました 「ゼリナッシュさん……」  そんな状態でも彼女は私に対して笑顔を崩しませんでした 「ごめんね、こんな事しかできなくて、こんな方法でしかあなたを救えなくて」  私は久々に大声で、泣きました 「良いんです……あなたが私の心配をしてくれて……私は嬉しいんです」  石化は彼女のその綺麗な顔まで浸食していきました 「……泣かないでください……そんなに泣かれたら……」  石化によって思うように口が動かせない中それでも彼女は私に言いました 「安心……でき……な……い……」 「クリス……?」  彼女が言い終えた瞬間  フッ  彼女の瞳から生命の光は消えていきました 「クリス……クリス……」  彼女は石になるときもその輝くような笑顔をしたまま……石に変わっていきました 「私は……なにも……ひっく」  彼女を失った喪失感、罪悪感  それらが私の心を鷲掴みにしていきます 「何もしてやれなかった」  ただ、ただ……彼女に謝ることしか出来ませんでした  と、その時  『ゼリナッシュさん、元気出して』  彼女の声が聞こえたような気がしました  ぱっと、顔を上げるとそこには……クリスの姿がありました  訳が分かりませんが、実際にそこにはクリスがいました 「クリス……さん……?」  頭が混乱しそうになりましたが、よくよく観察してみれば違和感があります  それは彼女の体が透けて見えることとそして……足がありません 『どうやら私、幽霊……この場合生きてるから生き霊ですけど』 『そう言う存在になったと、思うんです』  私は多分、いや絶対に嬉しがっております  だってクリスと話が出来るから、クリスにまた会えたから 「クリス、ありがとう私、がんばれる……絶対にあなたが治るまでがんばれる」 『ゼリナッシュさん……』  まだまだ問題は多いけど私はがんばっていけます、彼女が居る限り、彼女のほほえみがある限り  昔々、あるところに竜がいました  その竜は近づく者を石に変える大変『邪悪』な竜でした  『邪悪』な竜は度々村に来ては村に迷惑をかけていきました  村人達はなんど冒険者にその『邪悪』な竜を退治しようとしましたがいずれも返り討ちにあい帰ってきた者はただの一人もいませんでした  ある日困り果てた村人達は『邪悪』な竜を抑えるためついに『生け贄』を使うことを決心しました  『生け贄』には村で一番の美女が選ばれました  その『生け贄』に選ばれた美女は初めは困惑気味でしたが直ぐに事態を理解し、自分が『生け贄』になることを決心しました  そして当日『生け贄』に選ばれた美女が村に別れを告げ、竜のすみかへと向かって行くのでした  その後『邪悪』な竜は村に来なくなり、村に平和が訪れました 「なんか面白そうな話ですね〜、竜か、どんな姿をしてるんだろ?」 「ビギィまさかとは思うけどその村に行くとか……」 「……ダメ?」 「まあ良いけど、だけど当然私も同行……と言う事よね」 「うん、当然〜♪」 「……後でデザート奢ってよね」 「分かったわ〜、それじゃあ善は急げと言うことでレッツ・ゴー!」