「星降る荒野を目指す者」 ―――――― 空とは、夢の領域である。 人は雲間に楽園を、天使を、神を見る。 雲一つない青空を何度見ようとも、そこには何かがある気がしてならない。 美しき鳥が舞い、生物の王ドラゴンが君臨するその世界に人々は焦がれ続けてきた。 各地を巡れば、馬のみならず変わった動物に乗る騎士は大勢いる。 その中でとりわけ竜騎士が尊敬を集めるのは、空に最も近い存在を従えるからだ。 そして、それゆえの魔法、それゆえの道具。人工の翼は世界中で羽ばたいている。 無論、風と雲と太陽には目もくれず、夜の大空の虜となる者も数多といる。 星座、占星術、月の伝説。 夜空に焦がれた者が紡ぐ夢は、儚く綺麗で魔術的だ。 月に狂って獣となり、星に魅せられて流れ星の如く散る。 青空に楽園を見るならば、夜空には魔界を見るか。 アスティナス荒野。 空の欠片が落ちてくる、穴だらけの大地。 ロマンチストは詩を作り、暇な学者は持論を戦わせ、逆上せ上った狂信者は神だ魔王だと騒ぎたてる。 この世ならざる未知の石から生まれた晶妖精「ゼラ・ウィオ・バリホ」の発見が 空の果てにあるという黒い大穴のように人々をその地に吸い寄せた。 昼と夜、双方の探究者を。 ――――――  ルーペス=コープ 街道を一人の神官が行く。 その背には民の希望と神の教え。 その歩に迷いはない。しかし、彼を進めるのは彼の意志ではなかった。 羽虫が闇の中の炎に吸い寄せられるように、疑うこともなく進んでいただけたった。 信仰が道を照らしだすと思っていた。それは今も変わらない。 けれど、道は一つではないと分かった。信じられるものが増えたから。 全くもって、光の力を持つ自分より皆はずっと眩しい。 自分の光は何を照らせるか。空を彩り夢を与える星にはなれぬ。 なれば、せめて眼の前を照らす灯りとなってみせる。 ――――――  パリス・クラウゼン 人工の翼からも見放された少女。 彼の地にあるという浮遊石の噂を聞き、彼女は旅立った。 今度こそ、憧れの青空に近づけることを夢見て。 弾む足取りは、それこそ今にも飛び立ちそうなほど軽やかに。 随分歩いて来たんだなあ。 地面に倒れ伏して、今更そんなことに気づいた。 上ばっかり見てたから気付かなかった。土の固さ、身体にかかる重力。この世界に私は確かに在る。 飛ぶために助走が必要な鳥もいるって昔聞いた。きっと私もまだ助走の最中なんだ。 だから、止まってちゃいけない。 駆け抜けるんだ。皆と一緒に。 ――――――  ソディア=カレンダー 最も強く星に魅せられた者。 恋し続けた星が晶妖精という「生きた姿」で現われた。 それは彼女にとってはビッグバンにも等しい衝撃だった。 瞳を輝かせ、彼女は行く。その輝きは、爛々と光る星々に似て。 届かないから美しい?手に入れられないから追いかける? 馬鹿を言うな。夢は、掴めるのだ。 空の彼方、夢想の地の存在だった“彼女”は、今ここにいる。 星は、確かに私の手を取ったのだ。 追いかけて、出会って、次は何をする? 守り抜くんだ。消え入りそうな彼女の光を。 どんなに小さかろうとも、輝いてこその星だから。 ―――――― その星は、確かに生きていた。 だが、暗黒の空の海に生きるのは、星だけではなかった。 「…初めて見る。一生見なくてよかったがな」 耳障りも甚だしい異音を上げて、クレーターの底から大きな何かが這い出す。 古来より、人々は神々による理想郷を空の上に見てきた。 しかし、一方で神話で人々を滅ぼすのは決まって天からの災厄だ。 それは、古の人々もこの者達に蝕まれてきたからではないだろうか。 空からの侵略者フォーリアン。 最初で最後かもしれない魔王と事象龍の共同戦線という奇跡「フォーリアン戦役」の生き残りはここにいた。 この世のものではない生物が、この世のものとは思えぬ叫びを発する。 激震とともに、ゴールドラッシュの地は魔境へと姿を変えていく。 ―――――― 星を追うものは、彼らのほかにもいた。 彼らはその光に希望を見出した。 奴は食欲を掻き立てられた。 「兵卒、騎士…どれでもないな。この星にまだ適応していない新種というわけか」 「この子を食べようとして此処まで追いかけて来たってわけ?大した執念だね」 「こいつはそんな大層な言葉に値するようなものではない。食い意地の張った、ただのデカブツだ」 そびえ立つ異形の中の異形。 体中についたガラス玉のような眼が独り言を呟くように何度も明滅した。 その眼に自分たちは何と映るのだろうか。 取るに足らない生き物か、不味そうな食い物か。 どうでも構いはしない。思い知らせてやるだけだ。 眼の前にいる自分たちが、奴にとってどうしようもない毒物であると。 ―――――― 空の欠片が降る荒野。 彼女が手にしたのは、龍の欠片だった。 一つの星を守るために、一つの星を見捨てる。 冷然たる星の龍の決断に、天文学者は何を思う。 『戦いに敗れたあの異形どもの残党は、月に狙いを定めようとしていた』 「その狙いを反らすために、この晶妖精――いや、お前の一部を切り離してこの星に放ったということか」 止まった時の中で、龍と人間は対峙する。 沈黙を以て答える綺羅星の事象龍に、彼女もまた沈黙した。 月の守護者。 その領域に近づくもの全てを退けてきた夜空の防壁。 悠久の時の中で守り続けてきたその使命の重さは、人間に過ぎない彼女には知る由もない。 だが――だが、ひたすらに使命を果たすだけなのなら 「それは、あのフォーリアン達と変わらない」 闇夜の道を暖かなランプの光が照らしだす。 「力を貸して、かつてあなたの仲間が、未来のために魔王とすら共に戦ったように」 翼のない鳥が星空へと飛翔する。 「お前が星の龍を名乗るのなら、青きこの星も守ってみせろ」 そして、流星群が絶望の夜空を斬り裂いた。 ―――――― 乾いた大気が流れる荒野の空は、いつも以上に星が明々と輝いて見えた。 それはまるで、新たな光を祝福するように。 それは、星の龍の騎士。闇の中、煌煌と星が一つ、生まれ出た。           きらぼし 「空よりの災厄よ――超新星の光に散れ!」 夜明けの空に、希望の明星は輝くか。 ―――――― ※ バレバレな気もするけれど「弱者の反撃」の数曲をイメージしながら書いてみたぜ。 空関連の曲が多いからビビッと来て勢いでやっちまった。 RPG意外でも嘘予告SSやらんかなー。 使わせてもらったキャラの関係者の皆さん、どうもありがとう!