海上都市バッカニア勝手にFSS 『波間に揺れる陽気な人々』 登場人物(予定) ・ザクロ・シロツキー ※以下設定文 12歳。膝下まで届くアホ毛つき銀髪に青眼の少女。左目は眼帯。 明るくよく笑う元気な子だが常に他人を茶化しからかうような言動をとる。 でも実は寂しがり屋さん。 多数のタンカーや大型客船、戦艦や空母などを繋ぎ合わせた 海上都市国家「バッカニア」の正規軍に設置されたハーピー部隊に所属。 「バッカニア」ではハーピーユニットに有名な海賊の名前をつける習慣があり、 ザクロが使用するのは「モーガン」と名付けられている。 何の変哲もない茶色の錆がかった黒い武骨な外観で特に武装も見られない。 だが半径数十km空域に侵入した敵の全身に「痛い」以外何も考えられないほどの 激痛を与える低圧マイクロ波照射装置や 鋼鉄だろうと切断する原子振動ワイヤーで出来た投網の発射装置を隠し持つ。 ・トルッティ=アーキ ※設定無し、オリジナル ・船長と愉快な仲間たち ※設定無し、オリジナル -------------------------------------------------------------------------------- 視界三百六十度を覆う大海原は最早今の地球にとって珍しいものではない。 数度に渡る世界大戦の末、地球が遂にその巨体を傾いで以来、豊かな水の星と言われた地球は その大地の殆んどを失い、治りかけの傷のごとく、瘡蓋紛いの陸地を残すのみとなったのだ。 後に「大海難」と呼ばれたその前代未聞の水害は。遠い昔に陸の宗教者が予言した通りに四十夜続き 全てを呑み込む無慈悲な水の勢いは150日間衰える事が無かった。 水は罪も無い数多の陸上動物たちを巻き添えに、文字通り地の上に住まう我々人類の九割を洗い流し 人類が築き上げた、神をも恐れぬ傲慢にして不遜な、乱立するバベルの塔を全て押し崩したところでようやく止まった。 生き残った一割の人類は、決して信心深かったわけでも、日ごろの行いがよろしかったわけでもなかった。 唯々運が良かったか、或いは事前に危機を察知していた地位の高い人物であったか。 前者に属する人々は己の幸運を天に感謝し、また僅かに残された大地で生き残るために結束し始めた。 後者に属する人々は祖国の復興を夢見てまず自国(と呼ぶには心許ないほどに、手狭な陸地ではあったが) の人々を纏め上げる事に執心した。 地球がその身を呈して、多大な犠牲を伴いつつも浄化したはずの人類は何も、何一つとして変わらなかった。 民族至上主義、選民思想、狭い土地を聖地と呼ぶ…それらは支配者に押しつけられたものでは無く、徐々に人々の心を蝕む 焦燥から自然発生したものであった。やはり人類には大地が必要であったのだ、それを失った人類は大地を求めて 無意識の内に闘争を繰り広げるよう、団結し、戦の準備を始めたのだ。 人々はお互いの土地を奪うべく、血みどろの闘争に身を投じんと躍起になる俄か戦士に様変わりした。 残された僅かな資源と人材を投入して「大海難」以前の兵器をサルヴェージし、食料の供給よりも、法や自治の整備よりも 人類はまず武器を握ったのだ。そして前史と変わらぬ、お互いに銃口を向けあうかの如き、長い長い睨み合いが始まったのであった。 …あの「天使」達が、海から陸から空から、あまりにも神話とかけ離れた、怖ろしい姿を現すまでは。 -------------------------------------------------------------------------------- さて、全海の皆さん初めまして。この記事に目を通してくれている君に幸あれ! そして情報の海に住まう方々はお久しぶり。体一つで世界を飛び回る渡り鳥、トルッティ・アーキです。 何故長い間姿を晦ましていたから随分色々な噂が流れたね、魚の餌になったんじゃあないかとか アンゲロイの餌になったんじゃあないかとか…僕がそんなにおいしそうに見えるのかい? 僕の末路を面白おかしく書き立てた方々には悪いんだけれど、今僕が記事を書いているのはモービーディックの腹の中じゃあないんだ。 何故行方を晦ましていたのかってのかって?そりゃあ取材の為に決まっているだろう! 僕の人生は取材のためにこそある、と確信しているからね。 NEC連邦に住む人たちに共通した嫌われ者がいるのは、君達ももちろん知っているよね。 そう、あの忌むべきならず者たち「バッカニア」だ。もしかすると読者の方々の中には実際に被害にあった人もいるかもしれない。 近々EUC連邦軍によって大規模な攻撃が行われるんじゃないかって、話も聞く。勿論、僕もそれには賛成していたよ。 …この取材を終えるまでは。 誤解を恐れずに言わせてもらえば、彼らから受ける被害なんて、彼らから得られる恩恵に比べたら本当に小さなモノなんだ。 これから僕が記すのは数週間の滞在で解ったバッカニアの「真実」だ。 この記事を読み終えた後に「残虐無比な海賊達」というイメージが少しでも変わってくれたならば、これに勝る喜びはない。   *  *  *  *  *  *  *  *  *  * 乗っていた高速旅客船が座席から乗客を投げ出す角度にまで傾いた時、私は死を意識した。 素人旅行家として最前線から孤島にまで足を運び、分断された人類の橋渡しとなろうと決めたのに志半ばで海の藻屑と消えるのか、と。 身を引き裂かんばかりの衝撃に私の意識は吹き飛び、そしてもう二度と目覚めることも無かろうと確信していた。 ところが、ところがである。私は幸運にも目を覚ますことができた。 見慣れぬ薄汚れた船室、コンクリートのように固いベッド。塩臭い毛布に包まれた私は、しかし折れた腕に包帯を巻かれ 横たえられていた。ゆらゆらと揺れる感覚から、ここが旧世代の船舶である事が理解できる。 あの大水害以来荒れ狂ったままの海を行くのは命知らずか、極悪非道のバッカニアだけ── 私を拾ってくれたのが、ただの冒険家であれば良いのだが。 廊下の方から響いてきた足音が、私の居る部屋の前でピタリと止まる。鬼が出るか、蛇が出るか…。 開け放たれたドアの陰からひょっこり現れたのは、前時代のライフル銃を担いだ屈強の男であった。 私の運命は決まってしまったらしい。 「あ、起きてる!おーい、お頭ー!」 これならばいっそ海の底に沈んだ方がマシだった…生きている事を後悔したのは初めての経験だ。 おそらく彼は「お頭」を呼んで私を尋問し、私が身代金をせびれる様な身分の者でないことが解ると、戯れに切り刻んでしまうのだろう。 ふと、私は祖国に残してきた妹夫婦の顔を思い浮かべた。ハルピュイアの乗組員としてアンゲロイと戦い不具者となった私の妹、そして その妹を熱心に看病してくれている義理の弟。政府からの僅かな恩給だけでは、とてもではないが二人で生活していくことは 不可能である。義弟は仕事と看病を両立させようと、体調を崩すまで働き、わが妹は何も出来ぬ己の体を絶望している。 彼らが心中に追い込まれずに済むのは、私の僅かばかりの仕送りがあるが故。私が死んで、僅かばかりの遺産が滞りなく 妹夫婦に渡ればいいが、強欲な役人連中がそれを見逃すとも思えない。 ここはなんとしてでも生き延びなければならぬ、あらゆる出まかせを頭の中で構築しながら、死神の足音を待つ。 蹴破るようにして開け放たれたドア、ずかずかと踏み込んでくる屈強の男たち。 その中に一人、異様なオーラを放つ隻眼隻腕義足の初老の男。僅かに残された前史の書物で読んだ、典型的な海賊船長スタイル。 違うのは武装服装だけ。これが「お頭」に違いない。 恐ろしさの余り唾も飲み込めぬほどに緊張した私を見下ろす幾つもの眼。 ベッドの前に木製のスツールが差し出され、船長はそこにどかりと腰をおろした。 先ほどの船員が叫んでいたのは、前史においてイタリアという名の陸地で使われていた言葉だ。 イタリア諸島の出身である私には聞きなれた言葉であるが、同時に我が地からこのような匪賊に与する者がいる事に 私は失望を隠せなかった。 船長は相変わらずまんじりともせず私の顔を見つめている。眼を逸らせぬ私が沈黙を続けていると、彼が口を開いた 「ハロー?それとも、ヴォンジョルノ、グーテンタークか?おはようやらニーハオではねぇだろうなぁ。」 ゴマ塩髭を擦りつつ眉を顰める船長。どうやら彼は私にどう話しかけたものか迷っていたらしい。 「…二個目、だ、です。」 震える喉で絞り出すと、船長は豪快な笑い声をあげた。 「なーにをビビってやがんでぃ!俺が海賊にでも見えるってのかい?」 「しょーがないっスよ。だって船長、顔こええもん。」 「この俺様のどっこが恐ろしく見えるってんだ!えぇ!?」 手下たちに睨みを利かせる船長は海賊そのものである。 「その睨み、じゃあないんですかね?」 思わず口を突いて出た言葉に私は己の口を縫いつけてしまいたくなったものだ。 が、取り巻きの連中からこらえ切れず噴き出す音が聞こえてくると、なんだかホッとしてしまった。 「生まれる時代が違えば、クック船長と同じくらい名を馳せたかもしれませんよ、船長さん。」 船長は茹でダコのように顔を真っ赤にして、精一杯怒りと恥ずかしさを抑えながら言う。 「そりゃあねぇってもんだぜお客人!俺らは精々通行料を頂くくらいで、身ぐるみ剥いでやろうってなわけじゃねぇ!  第一よう、残虐非道な海賊が、海を漂う人間を助けるもんかよ!」 通行料を頂くのは彼らにとっては海賊行為ではないらしい、呆れたものだ。 「まずは助けてくれたことに感謝しよう。ところで、君たちはバッカニア、なのか?」 「おう。アンタ方の乗ってた船がクソ忌々しい天使共に襲われてるのを見たもんで、ウチのお嬢さん方に出撃してもらってよう。  とりあえず追っ払う事ぁ出来たんだが…助け出せたのはあんた一人だった。…すまねぇ。」 女子供も容赦せず海に投げ込むと噂のバッカニアが、人を救えなかった悔しさに膝を叩く、ありえない光景を私は確かに見た。   *  *  *  *  *  *  *  *  *  * ここで少しばかり「バッカニア」という特殊な国について簡単に説明しようと思う。 海上都市「バッカニア」はその名の通り海賊達の集まった、ならず者国家である。国民の男子は皆若いうちから サルヴェージの訓練を受け、また自在に船舶を操れるよう鍛え上げられる。 前史において某国があらゆる科学技術の粋を凝らして作り上げた移動要塞「エルドラゴ」を中心として数千とも 数万ともいわれる船舶がひしめき合うように繋がり、国土の代わりとしている。 現在の変わり果てた世界でしか考えられぬこの国家は、元々が国土を追われたり、自ら逃げ出した者達の集まりであるから 自然人種意識も陸地への憧れも薄く、自分達を「新人類」と称して奇妙な団結を見せた。 陸の者達から「魚人間」と罵られようと平気の平左。ただ気ままに水没した国々の残骸を漁ったり、NEC連邦の貿易船を恫喝したり と案外お気楽な生活を続けている。 さて、それでは少しばかりこの奇妙な都市「バッカニア」を歩いてみる事にしようか。 スタート地点は「エルドラゴ」、国家元首及び官僚たちの住まう、国の心臓部である。要塞中央に設けられた巨大な研究所は 見る影も無く改造され、今では中央議会としての役目をはたしている。余談だが、つい先日国家元首に選ばれた人物は 前史に名のある海賊、エドワード・ティーチの子孫だという触れ込みである。が、なにせお互いの出自を知りようのない 海賊国家であるからして真実だという保証は出来ない。 研究所の敷地内を抜け、小奇麗な特別居住区を抜けると、外縁部に何本もの巨大な柱が聳えているのが見えるだろう。 これは非常時において対物障壁を展開するための施設である。バリヤーとは何を荒唐無稽な、とお思いの諸君、その 感想は間違いではない。なにせバッカニアの研究者たちですら、この障壁がどのような仕組みで動いているのか理解できないのだから。 数代前、エルドラゴにたどり着いたバッカニアの祖先たちが見つけたのは、もぬけの殻となった施設だけだったのだ。 たどり着いた技術者たちによって、少しずつエルドラゴの謎は解明されつつあるが、未だ全てを使いこなせるわけではない。 さて、牽引索を兼ねた大階段(国家移動時には激しく歪むため通行不能になる)を下ると、貴方は厳つい顔の軍人たちによって 厳重なボディチェックを受けることだろう。エルドラゴを取り囲むようにして鎮座する空母の数々は、バッカニア正規軍の駐留基地に なっている。外縁のサルヴェージ屋や海賊達と違い、彼らは鋼鉄の規律でもって己を磨きあげ、足元の不安定なバッカニアを 守るため陸海空全てにその鋭い視線を投げかけている。 〜書きかけ〜