「じゃあそういう訳で悪いけどあたし休ませてもらうから。ごめんな」 「いえいえ、お大事にです会長」 魁子は諸事情で部活を休む旨を後輩の友萌に伝えると部室を後にした。 1人で部活をやらせるのは悪いので友萌にも休んでいいと言ったが健気にも大丈夫ですと笑顔で断 られた。 「あたしもいい後輩を持ったもんだ。きっと友萌みたいな子がいっぱいいれば世界は平和なんだろ うな」 うんうんと1人で頷きながら歩き向かう先は寮の自室である。 大きく立派な部室棟や全校生徒を収容出来る学園寮まであるのはいいがその分移動距離が長いのが ネックで時間がかかるだけでなく新入学生や転校生が迷子になる事も珍しくない。 実際魁子や友萌も過去に何度か迷った事がある。 2年生になった今では迷う事はないが今の魁子にはこの長い移動距離が地味に辛い。 重い身体を引きずってようやく1階へ辿り着く。 さらにこれから長い渡り廊下を通って寮の4階にある部屋まで行かなければならないのだから実に 七面倒くさいったらありゃしない。 「ったく訳分からないもん作るより先に途中の階にも渡り廊下作れっての。1階にしかないって渡 り廊下の意味ないじゃんか」 放課後はほとんどの生徒が部活に打ち込むため人通りは全くなく独り言にも遠慮がない。 それに仮にいたとしてもすぐに気付くだろう。 例えば今のように。 「ん・・・あれは」 渡り廊下を半分ほど渡った辺りで魁子は窓の外の何かいるのに気付いた。 それは赤と肌色の入り混じった奇妙な竜巻でその上何か赤い物まで撒き散らしている。 好奇心の強い者なら近づいただろう。 だが魁子はこのいかにも怪しい竜巻の近くにいたら怪しい物が大好きな迷惑な友人という更に大規 模な竜巻に巻き込まれると予想し一刻も早くこの場を立ち去る事を選択した 「・・・見なかった事にしよう」 ついでに記憶からも消去するとさっさと立ち去ろうとしたが世の中そんなに甘くなかった。 「待て、そこのお前どこへ行く」 心の中で遅かったかと呟き渋々竜巻の方に向き直ると竜巻は消失しており代わりに赤い長髪の美少 年が薔薇の花を咥えてブーメランパンツ一丁で仁王立ちしていた。 変態である。 どの角度から見ても変態である。 人を見かけで判断するなとか言ってる人が見ても変態である。 しかもなまじ顔が美形な分余計に変態度が高い変態である。 「うわぁ・・・こいつか」 変態を前にして魁子が引いていると変態が口を開いた。意思の疎通は可能のようだ。 「宇宙一美しいこの俺が宇宙一美しく踊っているのに何故立ち去ろうとするのだ。立ち止まりガン 見するのが正常な行動だろう」 変態──湯田美樹は自身たっぷりに言い放った。 「さぁ何故なのか聞かせてもらおうか・・・む?よく見ればお前は美しくない男女代表にして我が世 紀末倶楽部のモヒカン共の天敵の一本槍魁子ではないか」 「説明くさい上に失礼この上ないなぁ!この変態!」 「変態?どこに変態が?」 「お前だよ!お・ま・え!薔薇咥えながらほぼ全裸で回転してる奴を変態と呼ばずして何て呼ぶん だよ!」 「アフロディーテ?」 「違う!絶対違う!」 「ふん。美という懸念を理解出来ぬがさつな男女に変態と言われたところで悔しくも何ともない。 むしろ哀れみを感じるほどだ」 「かー!本当にムカつくなぁ!」 「ほう、ならばお前の流儀で相手をしてやってもいいのだぞ」 「あたしの流儀?」 「野蛮でがさつなお前の流儀といえば一つしかないだろう。拳で語るというやつだ」 「へっ。言ったなこの変態。お望み通り・・・あ」 魁子はいつものパターンで挑発に乗りかけたが途中で躊躇いを見せた。 今の自分は部活を休み部室から部屋への移動さえも苦痛に感じるのを寸でで思い出したのだ。 言葉を噤み尚も躊躇いの表情を浮かべる魁子だったが 「どうした?怖気づいたか?」 「誰が変態なんかに怖気づくか!」 湯田の後押しで結局一戦交える事となった。 魁子は湯田のいる部室棟の壁付近へと移動しつつ自らのコンディションを確認した。 (身体が重くて・・・少し頭痛もするな。それにすっごいイライラする・・・出せていつもの力の7割か 下手すりゃ半分だな) 最悪とまではいかないが状態は悪い。 湯田は変態ではあるが世紀末倶楽部の幹部だ。 こんな状態で戦って勝てる見込みは薄い。 だが喧嘩を買ってしまった以上魁子はやらねばならない。 怒りの篭った目で湯田を睨み付け構えを取る。 「ほぅ。お前は美しくないがその構えはなかなか美しいな。たしか截拳道といったか」 「そうだ。リー先生が生み出した史上最強の格闘術・・・それが截拳道だ!」 叫びと共に魁子の拳が放たれる。 不調とは思えない高速の拳が湯田の顔面に迫るも怪しく蠢いた湯田の腕がそれを弾き落とす。 魁子は更に2撃3撃と拳を放つがそのいずれも捌かれ弾き落とされ一旦距離を取った。 「どうした。お前の力はこの程度か?」 湯田は蛇の鎌首の如く構えた両腕を蠢かせながら余裕の笑みを浮かべた。 「・・・今のはほんの小手調べだよ。すぐにその笑みを消してやるから覚悟しろよ」 「フッ、せいぜい吠えるがいい」 「ゥゥゥオォォォォアチャァ!オワチャァ!ッチャァ!ホワッチャァァ!!」 怪鳥音を轟かせ先程よりも鋭く速い攻撃を繰り出す。 だがそれさえも湯田の奇妙な腕の動きに全て防がれそれどころか 「なかなかの攻撃だが・・・蛇薔薇拳『紅コブラ』」 「っかはっ!?」 反撃まで喰らってしまう。 湯田の腕は激しい攻撃の合間を縫う様に潜り抜け魁子の胸の中心を激しく突いた。 せめてもの救いはその攻撃が拳ではなく五指を固めたものである事。 「っふぅ。変態のくせにやるじゃないか」 それでも強烈な一撃には違いなく魁子は倒れる事もなく不敵な笑みを浮かべつつも胸の痛みに苦し んでいた。 「その減らず口がいつまで持つかな。では次はこちらから行くぞ。蛇薔薇拳『ヤマタノオロチ』」 『ヤマタノオロチ』の名の通り8匹の蛇の如き湯田の腕が魁子を攻め立てる。 絶え間なく攻め立てる8匹の蛇全てを捌く事は困難を極めた。 最初の内は何とか捌いていた魁子だったが徐々に押されついに捌く事が不可能となり両腕を交差し 防御する事で精一杯となってしまう。 しかもその防御する腕も打点の小さい攻撃で赤黒い斑模様になっていく。 湯田の攻撃は一向に止まらず腕の斑模様も増えもはや普通に殴られたのと代わらない状態である。 「フフフ、蛇拳を進化させた俺の蛇薔薇拳は蛇の動きと薔薇の棘の鋭さを併せ持つ。故に腕で防御 をすれば腕が、脚で防御すれば脚がダメージを負うのだ」 「くっ、この変態調子に乗りやがって・・・!」 「減らず口はまだ健在の様だな。ではそろそろ強烈な一撃をプレゼントしてやろう」 「!?」 「蛇薔薇拳『アナコンダ』」 湯田の攻撃が途切れた直後と凄まじい衝撃が魁子の横っ腹を襲った。 「〜〜〜〜っっ!!!」 あまりの衝撃に声を上げる事も出来ず魁子は盛大に吹き飛ばされる。 世界最大の蛇の名に相応しい威力の攻撃の正体は大振りのミドルキックだった。 普段の魁子であればこの様な大味の攻撃喰らわなかっただろうが不調、そして『ヤマタノオロチ』 による連続攻撃のせいで上段の防御に専念させられていた事もあり『アナコンダ』は完璧に決まっ てしまった。 魁子といえど女である以上タフネスの面では男に大きく劣りでかいのを一発喰らった場合それが決 定打になる確率は男よりもずっと高い。 「すぅーー・・・はぁーー・・・」 深く深呼吸をしながら立ち上がろうとするが脚がいう事を聞かない。 やはり『アナコンダ』が決定打となったようだ。 「立てないか。まぁ無理もない。俺の『アナコンダ』を喰らって立ち上がった奴は今まで1人もい ないのだからな。むしろ俺はお前にまだ意識がある事に美しく驚いている」 「うるさい・・・すぐに立つから黙れよ・・・あたしはな、截拳道はな、負けないんだよ」 「減らず口もそこまでいくと立派なものだ。だがもう勝負は着いた」 「負けてない・・・!あたしはまだ戦える・・・!」 「あいにく美しい俺は敗者を更にいたぶる様な美しくない真似はしない。回復するまでそこで休ん でいるがいい」 それだけ言うと湯田はその辺に美しく脱ぎ散らかしてあった制服を何故か上だけ着た。 「待て!逃げるな!行くな!」 湯田を引き止めるべく魁子は必死に叫んだがその声は湯田には届かない。 代わりに奴らに届いた。 「「無様なものだな!一本槍魁子!!」」 突如響く謎の重複声。 「誰だ!この俺の美しい退場シーンを汚す奴は!?」 湯田は声の発信源に振り返る。いや、見上げた。 「「はっ!!」」 声の主達は部室棟の2階の窓から飛び出すと華麗に着地を決める。 「お、お前らは・・・!」 「くっ・・・美しい登場の仕方だ!」 驚くところは違うが魁子と湯田は驚きの声を上げる。 華麗な着地を決めたその正体とは 「「ダブルドラゴン只今参上!!」」 言霊学園拳法部が誇る双子エース・竜崎中と竜崎華、通称ダブルドラゴンである。 「お前らどうして・・・」 「ふん、トイレに行こうとしたら聞き覚えのある怪鳥音が聞こえたのでな」 「それで窓の外を覗いて見たら貴女がそこの変態さんにやられてるじゃない」 「ならば」 「我らの」 「「取るべき行動は一つ」」 そこで2人は鏡合わせの様に同じ構えを取る。 「「貴様の相手、我らが致そう!!」」 「ほぅ、一本槍の敵討ちという訳か。面白い」 「ちょ、ちょっと待て!敵討ち!?何でダブルドラゴンがあたしのってかあたしはまだ──」 「勘違いするなよ」 よく分からない急展開に魁子は慌てて抗議の声を上げたがそれは途中で中に遮られその先は華に引 き継がれた。 「私たちと貴女はまだ決着がついてないでしょう?貴女を倒すのは私たち兄妹なのですからこんな 変態さんに負けてもらっては困るのよ」 ベジータ理論である。類義語でツンデレとも言う。 男なら一度は言ってみたいけど実際言うと恥ずかしい台詞をこの双子は堂々と言ってのけたのだ。 ここまでされては魁子も口を噤まざるを得ない。 「そういう訳だ。お前はそこでパワーアップした俺たちのコンビネーションを見て度肝を抜かして いろ」 「む?ちょっと待て。コンビネーションてお前ら2人で戦うつもりか」 「当たり前だ。何故なら我らはダブルドラゴン」 「いや、堂々と言っても2対1ってのはいささか美しくないだろ」 ダブルドラゴンの時点で2対1になる事は半ば予想出来てたが本当にそうなったので湯田は流石に抗 議を申し立てる。 だがダブルドラゴンの前にそんな理屈は通らない。 「聞いたか華」 「ええ、聞いたわ中」 「奴は卑怯にも我らダブルドラゴンと個別に戦うつもりらしいぞ」 「へそで茶を沸かすくらい卑怯ね。こんな卑怯者初めて見たわ」 「まぁ確かに考えてみればそんな卑怯者相手に俺たちのコンビネーションを使うまでもないな」 「そうね。卑怯者如き私たちのコンビネーションを使うまでもないわ」 「という訳だ。お望み通り1対1で戦ってやろう」 「・・・お前ら俺を馬鹿にしてるのか!美しいこの俺が卑怯者だと!?美しい俺様がそんな卑怯な真 似をするか!まとめてかかって来い!」 ダブルドラゴンのあからさまな挑発に湯田はまんまと引っかかった。 もっともあれだけ卑怯卑怯言われれば湯田でなくとも引っかかるだろうが。 「あたしもあの手に引っかかったんだよなぁ・・・」 部室棟の壁に寄りかかり休んでいた魁子はこのやりとりを見てデジャヴを感じていた。 五重塔で決闘した時も挑発され結局2対1で戦う事になったのだがこのダブルドラゴンはとにかく2 人で戦う様展開を運ぶのが上手いのだ。 何より2対1で戦う事に全く抵抗を感じていないというのが凄い。 「その言葉が聞きたかった。では行くぞストリーキング!」 言うが早いか弾丸の様に飛び出した中は深く踏み込み中段崩拳を放つ。 湯田はその崩拳を例によって蛇の如き腕の動きで捌くと中の喉にカウンターを狙う。 中はそのカウンターを身体を反らせて避けるとそのままバック転で後退する。 更に華がバック転の下を潜り飛び出し追撃の下段崩拳を放つ。 死角からの一撃には湯田も反応出来ず華の拳はちょうどへその辺りにめり込んだ。 「ぐふっ・・・!」 湯田は顔をしかめよろめいたが華は更なる追撃をかける事はせずバックステップで素早く中の隣へ と戻る。 コンビネーションが持ち味のダブルドラゴンにとって片割れが潰される恐れのある単独先行は愚行 でしかない。 2人揃ってこそのダブルドラゴン、2人並んでこそのダブルドラゴンなのだ。 「さぁ行くぞ華!」 「ええ!行きましょう中!」 「「双竜崩拳」」 ダブルドラゴンは湯田の両サイドに回り込み左右から同時に崩拳を放つ。 「舐めるな!『ヤマタノオロチ』!」 湯田は左右同時攻撃を捌くとそのまま左右同時に『ヤマタノオロチ』を繰り出した。 しかしダブルドラゴンはやはり食い下がる事なくあっさりと後退する。 「くっ!猪口才な・・・!」 2対1、それも左右の相手に対して『ヤマタノオロチ』は本来の効果を発揮出来ない。 単純に1人辺りに対する手数が半分になるだけでなく二手に分かれられてはどちらか片方しか追撃 する事が出来ないからだ。 各個撃破をするにも極め技ではない『ヤマタノオロチ』では1人を攻めている間もう1人に対し無防 備を晒す事になる。 状況は明らかに湯田の劣勢である。 「美しいこの俺が負けるはずはないのだ!蛇薔薇拳『青マムシ』!』 激しくうねる蛇の様な腕がダブルドラゴンを襲う。 「「はっ!」」 ダブルドラゴンは避けず気合と共に互いの掌底でその腕を挟み捕獲した。 目標の定まっていない攻撃など2人のコンビネーションを以ってすれば恐れるものではない。 「「てやぁ!!」」 「ぐぅ!?がっ!」 2人は捕獲した腕に膝を叩き込むとそこでようやく開放し上がったままの足で湯田の胸板を激しく 蹴り付ける。 「あいつらこんなに強かったっけ・・・」 一方的な戦いを展開するダブルドラゴンに魁子も驚きを隠せない。 以前戦った時もかなりのコンビネーションだったが今のコンビネーションはさらに磨きがかかって いる。 「ふふふ、見たか一本槍よ。我らは貴様と引き分けた日から今まで以上にコンビネーションを磨き 抜いてきたのだ」 「そして今からその集大成を見せてあげるわ」 「集大成・・・?」 「う、美しい俺を無視して話をするな!蛇腹拳『アナコンダ』!!」 魁子を仕留めた大蛇の一撃だがフェイントがなければただのテレフォンキックに過ぎない。 ダブルドラゴンは一瞥すらせず『アナコンダ』を避けると直列に並んだ。 「怒りに任せて攻撃をしてしまった時点で貴様の負けだ。湯田」 「それと自慢の顔が怒りで醜く歪んでるわよ」 「な、何ぃ!?」 「お喋りは終わりだ!やるぞ華!はっ!」 「ええ中!はぁっ!」 中がその場で大きく飛び上がると後ろに立つ華がバレーのレシーブの様な構えを取った。 華が構える手の上に中が着地すると華は一気に腕を跳ね上げ中を湯田の頭上を飛び越えるほど高く 飛び上がらせた。 「「双竜拳超究極奥義!」」 「双!」 「竜!」 「「挟撃掌!!!」」 華に正面から、湯田を飛び越え自由落下する中に背面から同時に、そして対角の位置に放たれた掌 底の衝撃は湯田の身体の中心でぶつかり合い一瞬にして湯田の意識を奪った。 倒れた湯田を邪魔にならないところに片付けるとダブルドラゴンは魁子のところまで歩み寄った。 「見たか。これぞ龍追掌に代わる我らの新必殺技『双竜挟撃掌』」 「前後から同じ衝撃を同時に加える事で身体の真ん中で衝撃を爆発させるこの技は完璧なコンビネ ーションを誇る私たちにしか出来ない世界にただ1つの必殺技よ」 「・・・確かに凄い技だったよ」 悔しいが認めざるを得ない。 衝撃度でいえば魁子の見た、もしくは経験した技の中でも間違いなく一番だろう。 だが1つ疑問があった。 「でも何でわざわざ湯田の上飛び越えたんだよ。普通に前後から攻撃すればいいじゃんか」 「ふっ、分かってないな一本槍」 「そうね、何も分かってないわ一本槍さん」 「俺がわざわざ湯田の上を飛び越え逆さまの体制で攻撃したのにはちゃんとした理由がある」 「まさかその方が派手だからとか言わないだろうな」 「何故分かった!?貴様エスパーか!」 「図星かよ!力入れるとこ間違ってるだろ!」 「いやまぁ相手を陽動して正面からの攻撃を当てやすくする意味もあるんだがな。まぁそっちは後 付で見た目の派手さに拘った結果今の形になったのだ」 「後付ってそっちを優先しろよ・・・。てかネタ分かってたら対処簡単じゃん」 「ふん、そう簡単にいくかな?」 「私たちが試行錯誤で編み出した双竜挟撃掌は一度二度見られたりネタがばれたりしたところでど うにか出きる半端な技じゃないわよ」 まぁ確かによほどの自信がなければいずれ再戦する相手に手の内を明かさないだろう。 単に自己顕示欲が強いだけな気もするが。 「では俺たちはそろそろ行くが・・・その前に一つ聞きたい事がある」 「何だよ」 「湯田の戦いを見て思ったのだが一本槍、お前どこか体調でも悪いのか?前戦った時より明らかに キレが悪かったぞ」 「あぁ、まぁちょっとな・・・」 「やはりそうか。だがよくそんな状態で湯田と戦ったものだ。ちなみに何の・・・」 「ちょっと中、その辺にしときなさい」 「急にどうした華。嫉妬か?」 「違うわよ。それより中、一本槍さんに何か飲み物買ってきてくれる?」 「本当に急だな。だがまぁたまにはいいだろう。華の心遣いに感謝しろよ一本槍」 そう言い残すと中は自販機のある方へ去っていった。 「・・・ありがとな」 「いいのよ、気にしないで。中も悪気はないんだけどやっぱりホラ、男だから」 「んー、まぁそうだよなぁ」 「こういう事は女にしか分からないものね・・・立てる?肩貸しましょうか?」 「ん、いいよ自分で立てる」 「そう、なら大丈夫ね。制服のままってところを見るとたぶん部屋に戻る途中だったんでしょうけ どたぶん保健室に行った方がいいわね。腕もけっこう腫れてるし」 「そうだな。しかし改めて見ると真っ赤だなぁあたしの腕。こりゃ2,3日は腫れ引かないかもな」 「大丈夫よ。うちの保険医は気合が違うもの」 「それもそうか。って兄貴は待たなくていいのか?飲み物買いに行ったままだけど」 「構わないわよ。兄弟の絆は大事だけどこういう時は女同士助け合う方が優先よ」 「何かお前いい奴だな」 「あら、今頃気付きましたの?」 「ははは!」 「ふふふ」 「華、買って来たぞ・・・あれ華?おーい華ー。どこだー華ー」 中が戻って来た時当然そこに魁子と華の姿はなく湯田が1人気絶してるだけだった。 華が戻ってくるまでの30分間の中はまるで飼い主を探す犬の様だった。