犬も歩けば棒に当たるという諺がある。 推理物の主人公が出かけると絶対事件が起きるから家で大人しくしてろこの疫病神もしくは死神が バーローという意味だ。 だが主人公が引き篭もりでは展開が進まず作品が売れず作者がおまんまにありつけない。 だから出先で何が起ころうと誰が死のうと主人公たるもの行かねばならぬのだ。 という訳で神のというか私の見えざる手により一本槍魁子は悪友・猫神狐狗狸と共に人里離れた山 奥へと来ていた。 魁子はジャージ、狐狗狸は探検家ルックという格好だ。 「・・・あれ、おかしいな。あたしは何でこんな山奥にいるんだろう」 「そこに山があるからさ。そして山には浪漫があるからさ」 「いや浪漫とか知らないし。手伝えばバイト代弾むっていうから来ただけだし。ってかこんな山奥 と知ってれば来なかったし」 「とか言いつつ途中で帰らずちゃんと現地まで着いて来てるじゃないか。全く魁子はツンデレだな ぁ。可愛いぞハハハ」 「帰ろうにも帰り道が分からないんだよ!つーか道がないし!てか何でここまで来るのにヘリなん だよ!あたしら降ろしたらさっさと行っちゃったし!」 「魁子・・・」 魁子はギャアギャアと喚いたが当然狐狗狸はどこ吹く風で涼しい顔をしている。 それどころか 「道がないならヘリで行く。自然の理さ」 とか言いやがった。 「自然界にヘリはない!つかやっぱ道ないのかよ!どーすんだこれから!?」 「どうするも何もツチノコを捕まえるに決まってるだろう。それともキミはガイアとでも戦いつも りだったのかい?グラップラー刃牙の読み過ぎだぞ」」 「何かガイアがお前を殺せとあたしに囁いてる気がするんだけど」 「幻聴だろう。精神衛生には気をつけたまえ。キミは我がKMR(言霊ミステリールポタージュ)の大 事な戦闘員なのだからね」 「当然の様にあたしをKMRに組み込むなよ・・・まぁでもツチノコ探しが目的か。それが分かっただけ でも大分気が楽になったよ」 「そうだとも。先月僕が潜入した米軍基地に比べればこんな森ただの草むら同然さ」 「お前その内本当に死ぬんじゃない?」 「心配無用。僕は弱いが生命力は強いのだ。東日本のプラナリアとは実はこの僕の事さ」 「汚水で簡単に死ぬじゃんそれ」 じゃあクマムシでなどと狐狗狸はいい加減な事を言う。 「それよりもそんな事はどうでもいいんだ。物珍しい環境に目を奪われて僕たちの本来の目的を見 失ってはいけないぞ。僕たちの目的はあくまでツチノコなのだ」 「あたしの目的は早く帰る事だけどな」 「それなら問題ない。ちゃんと時間になれば迎えのヘリが来る手筈になっている」 「じゃああたしはその時間までここでじっとしてるよ」 「ちなみにもし捕まえる事が出来たらある人物は10億円で買い取ってくれる事になっている。死体 なら半額の5億だが」 「よし!ツチノコ探すぞ!」 「実に分かりやすいリアクションをありがとう。それでこそ僕の親友、いや心友だ」 ベタなやり取りをかわした2人早速はツチノコ捕獲に向けて動き出した。 「ではまず罠をしかけよう。生物捕獲の基本だね」 「まさかあたしに落とし穴でも掘れってんじゃないだろうな」 「ハハハ漫画の読み過ぎだよ魁子。ツチノコの様なUMA相手に落とし穴の様な子供騙しが通用するも のか」 そう言って狐狗狸が取り出したのはメガホンの様な形をした謎の筒だった。 「これぞ今最もトレンディな罠、『デグチホソナール』だ!!」 「おいこれどっかで見たぞ」 「この捕獲率脅威の120lを誇る『デグチホソナール』にかかればツチノコの1匹や2匹ちょちょいの ちょいさ!でもモンゴルマンだけは勘弁な!」 「・・・うん、まぁいいんじゃないかな。お前がそれで幸せなら。万が一罠にかかる事もあるかもしれ ないし」 「よしじゃあ早速仕掛けよう!魁子!キミも手伝いたまえ!」 「はいはい」 いつもの様に呆れつつも魁子は渡された『デグチホソナール』をソコイラ中に設置する。 ほぼ確実に捕まらないだろうがこれがバイトであるのを思い出し仕事を割り切る事にした。 「罠を設置したら次は足で探すぞ!さぁ猫神狐狗狸探検隊いざ出発!藤岡弘、に遅れを取るな!」 そこからはまさしく苦難の道のりだった。 「殺られる前に殺る!」と言って狐狗狸が蜂の巣にロケット花火を打ち込んで蜂の大群に追いかけ られ逃げ込んだ先の洞窟にいたいかにも主っぽい猪を怒らせ逃げたけど逃げ切れなくて決死の思い で魁子が倒したと思ったら今度は心無い飼い主が捨てたと思しきアライグマ軍団を怪鳥音で追い払 ったり他にも波乱万丈ダイターン3な出来事が目白押しである。 当然ツチノコを探す余裕などあるはずもなく結局足で探した戦果はカブトムシのオス×2とコクワガ タのメス1匹だけだった。 デパートに持っていけばたぶん千円くらいにはなると思う。 「結局ツチノコを見つけられないまま時間になってしまった・・・無念!」 「何が無念だこのアホー!今日だけであたしがどんだけ経験地手に入れちゃったと思ってるんだ! 確実にレベルが3くらい上がっちゃったわ!!」 「何だ、良かったじゃないか。不幸中の幸いとはこの事だね」 「良くないわ!猪と戦った時は本気で死を覚悟したぞ!」 「いや本当にすまなかったと思ってるさ。お詫びと言っちゃなんだがバイト代は3割増しにしておく よ」 「3割・・・?・・・・・・今回だけだぞ」 「うむ、善処しよう」 100点満点の返事である。 だがこの返事に信憑性は全くなくこれからも魁子が狐狗狸に振り回されるのは言うまでもない。 「さて、それはそうと罠の具合はどうだろう」 「あんな罠で捕まえられる訳ないだろ」 「見ろ!3匹もかかっているぞ!」 「ぅ嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」(後半怪鳥音) 「ふふふ流石は『デグチホソナール』だ。日本が誇る珍獣ツチノコをいとも容易く捕獲してしまう とは」 「さ、3匹って事は・・・1匹10億だから・・・30億!!あはあははははうふふアヘアヘアヘ」 「さて、では1匹だけ残して後は逃がすか」 「ちょっと待てぇぇぇぇぇえ!!!」 「Pardon?(訳:何?)」 「何故逃がすどうして逃がす逃がす理由が分からない!お前は本当に人類なのか!?チクショウ地 球の平和とみんなの笑顔ははあたしが守ってやる!さぁ来い!あたしが地球最後の砦だ!!アール マーゲドーン!!」 「何故って3匹も捕まえたら値崩れを起こすだろう。希少価値があるからこそ10億もの値で買い取っ てくれるのだよ。目先の大金に理性を奪われる気持ちも分かるが少し冷静になりたまえ」 「う・・・確かにそうだけどお前にまともな事言われると釈然としないっていうか何かムカつくな」 「魁子は時々サラっと失礼な事を言うね」 「それはお互い様だろ。そんな事より迎えのヘリはまだなのか?」 「うむ、そろそろの・・・おっと、噂をすればなんとやらだ」 狐狗狸が指差す西の夕焼け空から一機のヘリがこちらに近づいてくる。 ヘリは2人の真上で静止すると縄梯子を降ろした。 2人は素早くヘリに乗り込むとようやく一息ついた。 「終わったんだな・・・!」 「あぁ、戦いは終わった。僕らは今日伝説を作ったのだ」 「そういやそうだよな。10億の事で頭がいっぱいだったけどツチノコを初めて捕まえたのってあた し達なんだよな。うわぁ改めて考えると超凄ぇ」 「うむ、学名には『カイコクリヘビ』と付けようじゃないか」 「あたしらの名前が辞書とか動物図鑑に載っちゃうんだな!」 「実に素晴らしいね!」 「ああ、超すごいよ!!」 「ハハハハハハ!」 「あっはははははは!」 「「ハハハハハハハハ!!」」 オーマイキーばりに高笑いを上げる2人が捕まえたツチノコが実は兎を丸呑みしたアオダイショウで あるというのを知るのはこの3日後の事である。