某日の午前中ごろ、場所は某国としかいえないが。分厚く古風だが古き良き時代を感じさせる、石造りの宮殿の中。 終戦後に結成された連合国の首脳による会談が行われていた。内容が内容だけに空気は濡れた布のように ピタリと肌につくように重く、1名ほどは腹がキリキリとしていた。理由は簡単だ その1名を除く各国の王族が皆、目も口も笑っているがイラだった雰囲気を隠せていない。 「昨今の国同士の連携は…」 「やはり蟠りは簡単に消えません。ですが…」 唯一、ここで王族や国のトップと違うのはカリメア合衆国だった。本来ならば超頭領であるファットマンが来るはずだが ここにはいない。病欠だそうだが、ファットマンには鍛え抜かれた身体とポジティブすぎる精神があるので 気からも身体からも病気になると思えない、何か裏があるのでは? と言いたげに代理の外交官を横目で見るなどしていた 「げ、現在のラグナロクや凶党は確実に力をつけ…」 「NIがバックにあるはずだ…だが証拠が無い」 外交官に余裕がないのは理解できる。彼は内心恐れている、イライラしている王族とのいざこざなど 国家間の問題につながらないかと、そんな短絡的なことにならないと思ってはいたが 今回のこの王族のイライラに、彼に降りかかる重い雰囲気は冷や汗の湿気が混じったものになっていた。 この世界の王族は温和な者が多く、イライラを感じても笑って流す事が多い人物が殆どだが何故 こんなにも苛立ちを隠せないか…理由はここには無い。それを見に一度ここから離れよう 「何で俺らを連れてくるかね?」 「しゃーねーよ、護衛が少ないんじゃ見栄えが悪いんだとよ」 「それにしたって私達が来るのはどうかと思いますよー」 まず最初に文句を言ったのはウィズラドの騎士団長ウォルズ、次に仕方がないと言いながらも明らかにイヤと言いたげなのは 闇の国の王子にして最強の戦士バルス、そして最後に気の抜けるような声の主はディオール機士団の団長ローザ 「………」 「すっげー筋肉じゃのー触ってよいか?」 「すいません父がご無礼を…」 こっちの筋骨隆々と言う言葉を人にしたような男は、ザイクリンデの星天騎士団の一人シロウ・ケン そしてちょっかいを出してる老人はスリギィの円卓の騎士のランスロット。100tハンマーで突っ込みを入れたのは その息子のガラハドである。周りには各国のエースや騎士団がずらりと、これは全て護衛についてきた者達で 会議室のぴりぴりした空気はここにある、戦争が終わり一段落と思いきや消耗した今を狙ってテロリストが活発になっている そんな時に、形にもっと気を使うべきと家臣に推され、戦力をかなり割いてしまって皆、本国が心配なのだ エース一人で一騎当千が珍しくないこの時代、一人でも多くエースパイロットを本国に残しておきたいのだろう 「ですから、そのテロ組織がどこになるか不明ですが」 「規模からして砂時計の可能性はゼロじゃないな」 近頃のNIの動きは、闇の中でうねるように暗躍していた。テロリスト相手に根が張るが 軍用の高性能マナスレイブを提供していると言われている。が決定的な証拠が無い 「現在NIは新兵器を開発してるそうですが、実態は掴めていません」 今回、一番戦力を裂く破目にあったディオールの女王、エヴァック=テレサ=ディオールがため息をつく。 本来なら彼女と機士団長のローザだけの予定だったが。今回はベテランの機士を殆ど連れてくる事になった 他国に見劣ってはディオールの名に傷がつくと、大臣達に強く押された結果こうなっている。 幸い軍のほうのエースは何とか連れてこないですんだが、戦力を裂いたのはやはり気になるようだ。 さてその頃、ディオールの首都のディオール城では… 「暇だなぁ…」 広く多少、子供っぽさのある部屋のカーテンのついたクィーンサイズとキングサイズの中間あたりの 大きなベッド、ふんわりとしたその上には、ベッドの大きさに反比例していて埋もれてしまうのではないかと思うような 小さな女の子が転がっていた。彼女はエヴァック=キャリコ=ディオール。ディオール三姉妹の末っ子である 「お母様たち、上手く会談すすめてるかな?」 ごろごろとベッドの上を転がり、キャリコは欠伸をしていた。遊び相手がいなくて暇なようだ するとノックの音がして、キャリコがベッドから起き上がりどうぞと許可を出すと… 「キャリコ様。お勉強の時間です」 「えっもうですか!? 分かりました今行きます」 キャリコは人前では王女らしい口調で振舞う。公の場での振る舞いはわきまえているようだ。 (お母様がいないけど何時もどおり。平和だなぁ…遊びに行きたい…) さらに場所は変わるが、ディオール国境線近くの偏狭の地にて。透明で見えないが何かが歩いていた ピ…ピピピと、モールス信号か暗号通信のような何かをやりとしている光化学迷彩を施したそれは 巨大なロボットだった。7機のうち6機はカリメア合衆国で愛用されている迷彩風のカラーリングが特徴… と言っても今は姿が見えないが。通常なら迷彩風のカラーリングが特徴のCarimea's Army通称caである。カルシウムではない そして姿が見えればどちらかと言えば細い印象を与えるステルス機を思わせる漆黒の機体はジャスティスカリメア この機体がどこに向かっているかは不明だが、その先には洞窟が近いことだけは確かだった。 「町のほうに行きたいなぁ…けど今はぴりぴりしてるし怒られちゃうかな」 そしてまた場面はディオール城、最上階の隠しテラスでキャリコがのんびりと城下町を眺めていた とは言うが、最上階近くの空き部屋に勝手にテーブルとイスを置いただけなのだが テーブルなどは一度ばらばらにして、数日に分けて持っていく頭脳プレイでだ。 キャリコだけの秘密の部屋にしたかったらしく、まだここは誰にも… 「キャリコ様ここにいたのですか」 「ギルトさんじゃないですか。いかがなされました?」 と言うわけではなく、色々と人を招待してたりする。今来たのはギルト=ヘジット キャリコの執事をしている貴族の青年である。 「来るのはいいですが、ちゃんと誰かに連絡してからにしてください」 「分かりました。どうです? ここで一緒に町でも眺めません?」 「いえ、仕事があるので…用事があれば連絡ください」 行っちゃった、とキャリコがイスに深く腰掛けなおす。素っ気無いような態度に見えるがキャリコのことを 大切に思ってるのは知っているので、キャリコは別にいやな気分ではなかった。 だが暇なのは変わらない。誰かメイドでも呼ぶかと思ったがメイド長のエマが今はぴりぴりしてるそうで 呼ぶのは危ないと諦め、機士団の友人でも呼ぶかと思ったがこっちはもっとぴりぴりしていていそうで 町のほうに行くかと思ったが、いなくなると皆が心配するかと足を踏みとめた。 「騎士団の人たち殆どいないし、心配なのかな?」 今日はやけにピリピリした空気を感じ、母親達のいない今は取り越し苦労になる事を願いながら 皆が動いている事が分かっていたため心配をかけさせたくなかったが ちょっとだけなら…と、城下町へと足を運ぶために自室へと戻っていく。9歳の少女には 多少長い道のりだが、2番目の姉のキャスカに似て活発な彼女はすぐに部屋に戻っていた 「えっと・・・すぐ変えるしあの道でいいかな?」 キャリコはよく誘拐される事が多かったため、ある特技が身についていた。予知能力というほどではないが 彼女はその歳で、危なげな場所を大体把握してしまったのだ。善人のフリをした誘拐犯が自然と好む遊び場 人気が少なかったり隠れる場所が多く付回すのに都合のいい場所。多少治安が悪い場所などがどこにあるか 殆ど把握してしまっている。彼女の捜査で人攫いが何人か検挙された事もあるほどである。 そのためキャリコは抜け出す前にどこに行くかを書き、もしも自分がさらわれた時に探して欲しい場所を書いている。 「ごめんねギルトさん…ちょっと出かけます」 町で目立たないように、ドレスから普通の服に着替えるとキャリコの脱走が始まる。 脱走ルートは秘密なので書けないが、人目どころか機械の目すら欺く場所があるらしい そこには彼女が信頼できる魔術師に結界と技師に警報を備え付けさせある程度の安全性を持たせ 脱走ルートとして活用していた。彼女以外の者が使おうにも結界で最初から入れないし もしも入れても警報が鳴り響きたちまち兵士達に囲まれる仕組みになっていた。 「ちょっと遊んだらすぐ帰らなきゃ」 長居をすると誰かが部屋に入って騒ぎになるかもしれない。小さな身体を急がせ人気の多い通りへと歩いていくと 賑わいのある大通りへと出た。平日だからか休日ほど人は少ないが。それでもここは人は多いほうだ 彼女が用があるのはこのとおりの店ではなく、ここを抜けた場所にある公園なのだが。 人気の多いとおりを行けばさらわれる心配は無いだろう。と、今までの経験で危険を回避し また店の並びなどを把握し、建物の間に隙間のある場所からは出来るだけ離れていた。 狭い場所でも意外と女性なら入れる事もあり、過去にそこに引きずり込まれた事があるからだ。 雨どいの排水路にも使われ所々、臭うそこには冒険好きな少年少女も入ろうとせず大人もいない 同じ事は二度も三度も起きる。彼女はそれを危惧して出来るだけそこによろうとしなかった。 他にも気をつけるべき場所はあるが、彼女が脱走するのを事前に知っていないと現実的じゃない それ以前にこんなに警戒する事が現実的じゃない。だが何度もさらわれたキャリコには必要なのだった とは言うがそんなにしょっちゅう誘拐犯が出るほどディオールの治安は悪くは無いのだが。 当たり前と言えば当たり前だが、公園まで特に何も無く到着するとキャリコはまだ歩いていた 公園の遊具で遊ぶ歳でもないが、彼女には一つだけ遊ぶとは違う遊具の使い方があった 「あれ?」 そのまま目的地へ行くのが普通だが、キャリコの目にあるものが留まった。公園の地図の前にいる少女だが 明らかに雰囲気が違う。とはいうが怪しいわけではなく、困っているような雰囲気だったからだ 助けてあげるべきだ。優しいキャリコはその少女に近づこうとしたが。少し立ち止まる 困っているふりをしていたら? と考えたが偶然に頼りすぎると、とりあえず警戒をしてるのか キャリコはできるだけ人がいる状態でその少女に近づいた。 「あの…どうかしました? 道に迷ったなら案内しますよ?」 「あら?」 15〜16程度の年齢で、金髪にどこと無くディオールの王族や貴族の着るような雰囲気の衣装を着た 金髪の少女が、キャリコを見てどこか優雅に振舞うよう首をかしげた。服と同じで 仕草も高位の物の余裕を感じさせる。だがキャリコにとって重要なのはもっと別の場所にあった 「お姉ちゃん…?」 自然と出そうになった言葉。キャリコの姉は二人いる。ディオールの賢女と名高い第一王女アリシア アリシアとは反対に活発で行動派の第二王女キャスカ。そして目の前にいる少女は この二人を足して割った。その言葉が見事に当てはまっていた。 仕草はアリシアのように上品だが、姿はキャスカのようにどこか幼さを感じさせた 「ここに来たばかりで…お願いできるかしら?」 「は、はい」 だがすぐにキャリコは我に返った。考えてみればそっくりさん何て珍しくない。風の噂ではキャスカに似た 偽者がいた(過去形なのは本物が成敗したからだそうだ)偶然にも、そっくりさんが目の前にいるだけだ 考えすぎだと思いつつ、キャリコは少女の目的地を聞くが、少しばかり引っかかっているようだった その少女が言う場所は公園には無いのだ。別の公園の間違いではないか? キャリコの頭に浮かんだのはそれだった 服装や振る舞いからして、きっと貴族がお忍びで来て迷ったとキャリコは思っていたが 「東側にある大きな木に行きたいんだけど地図に載ってなくて…」 「東側…?」 キャリコは首をかしげた。東側に大きな木は無く今は芝生になっている。あったのはかなり前の話 1年やそこらの話ではなく目の前にいる少女が間違えるには遅すぎる話であった。 だが木が切り倒されたわけではなく。現在は西側の小さな丘に移植されキャリコもそこへ向かう予定だった おそらく目の前にいるのはディオールに詳しくない、旅行客なのだろうと納得していた。 ディオールの女性用の礼服に似た服は国外にも存在する。きっとそこから来たのだろうと 「あの、それなら大分前に移植されて西側に移りましたよ?」 「あら? あぁそうだったかしら…ごめんなさいね」 「移植された場所に行くんですけど。一緒に来ますか?」 お願い。と頼まれたキャリコは二つ返事で返すと、ちょっとだけガイド気分になっていた。教えられることが多くても 教えることなんて滅多になく。真新しい感覚が嬉しいようだった。そのためか少し近道をしたり 出店の場所を紹介していたが、この時にキャリコは違和感を感じていた。それは少女の仕草にである まるで昔から知っているような、そんな仕草を見せ。時には店の入れ替わりを驚くような顔をしていた まるで昔のこの場所を知っているように。もしかしたら歴史に詳しいのかとちょっとだけ首をかしげると 少女が食べ物でも買ってくると、少し古びたワゴン車に歩いていった。この時にまた疑問が生まれた まさかクレープを買うふりをして連絡を取るんじゃないか? そんな事を考えていると 「すいません。クレープ二つくださいトッピングはアイスとチョコそれにチョコスプレーで」 「あいよ、むっ随分と年代物だねお嬢ちゃん物持ちがいいね」 ワゴン車の中から、聞こえた言葉の先にあるものは硬貨の年号であった。年号は200年以上も前 だが錆びがなく、年号の部分さえ見なければ、現行の硬貨にしか見えない代物だった。 実験で錆が落ちたと、少女は説明するとクレープ二つをもってキャリコの下へ戻っていった 一応は警戒のために会話を聞いていたキャリコだが、ワゴン車の中にいるのはクレープ売りの青年が一人 彼は大分前からここにいる。誘拐を狙うにしては無理がありすぎる。共謀しているのは無理である 「ありがとうございます。私が持ちますよ」 「あら悪いわね。お願いするわ」 自分が持ってしまえば怪しい行動には出にくい。この人気の多い公園で自分をさらうには 自分を黙らせておんぶでもして、それらしく振舞う手をされたことがあるためか キャリコは睡眠薬や痺れ薬を混ぜられないようにクレープを持って隙を奪う事にした ここで何かを盛る気なら、隙を作るために行動するか、自分に持たせたくは無いはず 不審な行動に出れば道だけ教えて、さっさと逃げてしまえばいい。 「ここも変わったわ…昔はあんな近かったのに、今じゃ遠く感じる…」 「昔は近かった?」 まるでタイムスリップでもしたような言い草に疑問を抱くも、彼女の行動が誘拐犯が狙っているにしては抜け目があり さっきから公園を見てばかりで、薬を仕込むタイミングを完全に逃がしていた。流石に考えすぎかと思い 目の前の少女が誘拐犯の可能性はないと判断し、道案内を続ける事に決め少女の案内を続けた。態度に表していないが 肩の荷が外れたらしくだいぶ安心しているようだった。誘拐されやすい自分の立場から迂闊に他人を信じれないが 「あー…そのね、私はハーフエルフなの」 「ハーフエルフ? という事はここには前にも?」 「一応ね、気が遠くなるくらい昔にきたきりなの」 本来は疑う事が苦手な純粋な少女なのだが、今までの動きを見ると分かるように。お忍びで町に出て 誘拐されたでは洒落にならない。だからあんなに警戒していたのだが。相手が信じれるとわかると 完全に警戒は解いていないが、キャリコはいつものキャリコに戻り始めていた。 「だから公園の地図があんなに古かったんだ…」 「そうね、すっかり変わっちゃって…私のおぼえてる限りだと。ここら辺は林だったかしら?」 「それじゃあ。あっちは?」 「背の低い木があったと思うわ」 さっきまで聞く事の殆どが、相手を試すような事ばかりだったが。やっとと言うべきか 年相応に興味津々という風に少女の話から、昔の公園の有様を聞いていた こうなるともう警戒していたのはどこかに消えてしまったのかあっという間に目的地の 移植された木のある丘までやってきていた。少女は懐かしいと言うより驚いていて 木の幹のあたりに耳をつけて、話を聞くように目を閉じていた。 「何だか信じられないなぁ…あの木がまだ大きくなるなんて」 「あっクレープ返しますね」 「ありがとう、ここで食べましょう」 感慨深いと言いたげな少女に、キャリコは持っていたクレープを返すと少女はその場に座り。 クレープにかぶりつく…が少しアイスが溶け、チョコソースが混じりそれは雪崩と地滑りが同時に 発生したように見えた。チョコスプレー達は巻き込まれた木々とでも言うべきか。 ゆっくりとした流れだが、それは包みの紙を乗り越えてそれは手の上へ流れてしまう いけない。と少女はそれを舐め取る。普通の行動のように見えたがキャリコはこれにバクフ国にいる姉 キャスカのデジャブーを感じているのに、どうしても違和感を感じてしまっていた 「貴女も早く食べたほうが良いわ。溶けてクレープから流れちゃう」 「あっはい…」 似ている。姿の似ている人間は3人はいると言われるが。姉達にあまりにも似ていた。 ハーフエルフと言っているが。まさか王族の分家か何かだろうか? キャリコなりに考えては見たが答えはでない。考えるだけ無駄かと今度はおしゃべりに移った せっかくなんだし楽しもう。息抜きできて警戒してこれ以上、考えていたら本末転倒だ 「あの、昔のディオールってどんな風だったんですか?」 「そうね…色々とあったけどいい所だったかな」 「へぇ〜その時の王家に負けないぐらい今の王家もがんばらないと」 「ただね…王女様が色々暴れてたの」 少女が半分、呆れるような感じで空を見上げて、残ったクレープを口に放り込んだ。 王女が何かをしたのだろうかと、キャリコは覚えてる限りのディオール王家のことを思い出していた 「結局…私が思い上がってただけなのかもね…」 「? あっもうこんな時間!?」 だが時間切れ、もう帰宅予定時間が近く。帰らないと脱走が気づかれてしまうかもしれない 「あの、もう私帰りますね…昔の公園の話、面白かったです」 「そう…ありがとうね。」 少女は手を振ると、キャリコは急ぎ足で帰ろうと…したのだが、最後に忘れたと足を止めて振り返った 少女が首をかしげると、少し離れた場所でキャリコが口を開く 「あの、あなたの名前は? 私はキャリコって言うの」 「私は…ミーナ。ヘル・ミーナよ」 「ミーナさん…今日はありがとうございました。さようならー!」 「さよならキャリコちゃん」 急ぎ足で帰るキャリコに、ミーナと名乗った少女は少しだけ何かを感じていたようだった。キャリコの背中を見て ため息をつくと。木に背中を預けて前を見ていた。少しだけ憂鬱を感じさせるその顔にはこれからの予定 どうすれば良いか…まるで明日に悩む若者のような表情を浮かべていた 「あの子、なんだか王家の人間に似てた…なんて考えるのは良いけど。これからどうしよう」 手持ちの硬貨や紙幣を見て、少女はため息をつく 「まさか200年前の王女です、なんて信じてくれないわよね…」 他人が聞けば幻想でも見ているかのような、そんな言葉を呟くミーナ。彼女の本当の名はエヴァック=ミーナ=ディオール 先ほど言ったように200年前のディオール王家の王女だったが、何かの事件で目的と手段を選ばなくなり 魔王女の異名を持つようになった。そんな彼女が分かるのは目的のためか手段のためか研究した装置の暴走により。 200年後の未来へとやってきた事だけだった。200年後の未来にやってきた彼女はこれからの事を考え 「はぁ…」 またため息をひとつ漏らしていた。そして少し時間がたつが無事に城に戻ったキャリコは書物庫にいた 図書室にあたる部屋では見つからなかったため、お目当ての物を求めて普段は行かないような場所に来ている 探していた本は歴代王家の家計図。一番上のアリシアですら勉強で見る程度のその本を読み漁る理由は ミーナとの出会いにあった。何故か彼女がディオール王家に関係しているという考えが離れないのだ 「この人でもない…あった!」 開いたページに乗っていたのは、エヴァック=ミーナ=ディオールとその経緯であった。民間には開示されてないが その時代に起きた魔法科学の暴走により起きた事故で、魔法学校の友人を失っておりそれ以来 安定性の高い属性の魔力を調べるべく、様々な属性の研究を行い、禁術の闇属性にすら手を出した事により 魔王女「ヘル・ミーナ」と呼ばれた事も。実験によりどこかへと失踪してしまった事も… 「ヘル…ミーナ…」 そして肖像画には、先ほどであったヘル・ミーナそっくりの少女が存在した。まさか…キャリコは唾を飲んだ そして次にディオールの公園の歴史が書かれた本が無いか。膨大な書物庫の中をさ迷い始めた 自分の感じた何かが自分の先祖の血縁者ゆえの、同属の血の導いた何かかもしれないと思い。 「しかし良いのですか? このような機体をこんなに」 「テストですからね。お得意のあなた方には頑張ってもらわないと」 どこかの洞窟。その中には明らかに人口に削りだされた空間があり。そこで誰かの声が響く ここは武装結社ラグナロク秘密基地のひとつ。片方の声の主はエヴァンジェリン ラグナロクの幹部のダークエルフ。もう片方の声はノイズで分からないが取引の後のようで 巨大なロケットのようなものがエヴァンジェリンの後ろにあり。ラグナロク量産型機である キロロソウやオブスタンが慌しく最終調整なのか整備をしている。これから何かが始まるのだろうか 「我らの理想が実現すれば、お前達は過労死するかもしれんな」 「それだけ社が繁栄すれば楽しいものですよ」 「おっと、どこの誰か知らないがそれはSTOPだ」 だがそれに待ったをかけるように、突然何も無い場所から黒く力強い姿のロボットが現れる ジャスティス・カリメアだ。先ほど彼らが洞窟の近くにいたのはラグナロクに不審な動きがあり 探るためだったのだ、それに続くようにCAが光化学迷彩を脱ぎ捨てると。マシンガンやバズーカを構えていた。 「ジャスティス・カリメア!? なぜファットマンがここに!!」 「HAHAHA!会議をサボってお前達の基地に来てみたらこれだ! どこを襲撃するつもりだ!」 抵抗する間もなくCAはキロロソウやオブスタンへの攻撃を始めていた。 突然に襲撃に狼狽する暇も無く。次々とラグナロクの機体が鎮圧されていくが 何故かエヴァンジェリンは落ち着いて行動していた。その理由は近々分かる事になるが 「通信先はどこだ? NIだろう?」 「バカめ喋るやつがいるか!」 「ならば遍歴を調べるまで。GOGO!」 ロケットを壊さんと、CA数機がバズーカを構えた時だった。何かがCAのバズーカを撃ちぬいた 驚いたCAはその先を見ると、そこには紫を基準にした。女性型のロボットが立っていた それはラグナロクの高級量産型ヴァーキュリア。華奢だが性能は高い 「目立ちたがりの貴様の負けだファットマン。政権交代の時のようだな」 「何だと!?」 「ヴァーハラフィールド展開! 閉じ込めろ!」 そしてヴァーキュリアは恐るべき性能を秘めていた。肩と腰のアーマーが展開すると その秘密が明らかになった。突然ジャスティス・カリメアが倒れたのだ。壁にぶつかったように だが目の前に壁など存在しない。いや見えないと言うべきだろう。不可視の壁であった 「!? ちぃっバリアフィールドか!?」 「超頭領! これを破るのは骨が折れますよ!」 「ふっ! その中でジッとしていろ」 ヴァーキュリアの秘密。それは堅牢なバリアフィールド「ヴァーハラフィールド」の発生だった そのバリアフィールドを使った戦闘も得意とするヴァーキュリアだが、このように敵をバリアで閉じ込め 動けなくする事も可能なのだ。機体が高くコストに見合わないが。相手が相手だけにそれも仕方が無いのだろう 「今から1時間後にここは放棄する。その時が貴様らの最後だ!」 「随分とRichじゃないか、何か別にあるのか?」 「話すことは無い、続きは地獄からでも見ていろ」 ファットマンが舌打ちをすると、ロケットは発射されエヴァンジェリン達もどこかへと去っていった。 この時にファットマンは焦りを感じていた。閉じ込められた事よりも相手の目的にだ ロケットでの爆撃にしては数が少ない。いくら国が手薄と言え1発なら確実に迎撃できるだろう 「……我々の役目は完了したか。」 「超頭領。ステルス部隊は大丈夫でしょうか?」 「何とかなる。後は運をSkyに任せて救援を待つぞ」 暗号通信だが、このような内容の会話をした後、わざとらしくファットマンは叫びを声を上げながら ヴァーハラフィールドを破らんと、パンチを繰り返していた。彼らの他にも姿を見せず ステルスシステムで隠れたままの部隊も存在したらしい。だが敵の目的は分からなかったのは変わらず ラグナロクの計画はどこかを襲撃する事しか分からない状態であった。 「これは…」 それとは対照的に。キャリコはヘル・ミーナの過去を探し当てていた。200年前の公園は ヘル・ミーナの言った内容と一致。彼女がお忍びで公園に行く時。クレープを買っていたという 余談も発見していた。偶然かもしれない。だが偶然にしてはできすぎている。 「まだ…まだ、公園にいるかな?」 自分の考えが、ヘル・ミーナがエヴァック=ミーナ=ディオールだったら。大変な出会いをしたかもしれない それ以前に困っている事も沢山あるだろう。助けてあげたい…少し遅いがメイドに無理を言えば手伝ってくれる そう思い、キャリコは書物庫のドアに手をかけた。だが彼女はすぐに公園に行く事はできなかった… ディオール首都に、危機が迫りつつある事を知るものは。この国にはまだいなかった 続く