■東方大陸史■第三章「二つの大陸、二つの宗教、二つの国家、それ故の、一つの大戦(中)」 「かつて暗黒神は白明神を破り、世界を暗黒へと誘った。  そして白明神が選び抜いた勇者達に討たれ、世界は忌まわしき光の世へと向かった。」 −−『暗黒神話』より−− 暗黒歴1380年 神聖ユーロ帝国皇帝ミカエルは、イタメシヤ半島コロンバ島より 東方大陸中央部に上陸し、一気に暗黒の都に攻め上がらんと中央大陸諸侯を率い 千とも万ともいわれる大艦隊を南下。 皇帝自らの出陣に、暗黒神も眷属達を率い北上。 北禮海の制海権を巡って両軍が激突すると、すぐさま地獄絵図が出来上がった。 その凄まじさは現在の地図をみてみれば、すぐにわかる 北禮海という名称は存在せず、代わりに北禮山という地名が目につくだろう。 かつて海だった北禮は10年に及んで築かれた両大陸軍の機体の死骸の山は ひとつの地形を変質させる程だったのである。 そして、それほどの激戦を制したのは暗黒神ではなく、人に過ぎない皇帝だった。 10年に及ぶ皇帝と暗黒神との一騎打ちは、皇帝の放った光の剣の一閃で決した。 暗黒神は海へと落ち、皇帝は残った暗黒神の眷属達を蹴散らすと ついにその足を東方の地へと踏み入れた。 暗黒神を失った事で統率を失った暗黒軍は、散発的な反撃に出ては蹴散らされ 最早抗う術をなくした彼らは、暗黒の都の住民達を避難させると 四方へと逃げ去り都を捨てた。 神聖ユーロ帝国軍は無人となった暗黒の都へと入ると そのことごとくを破壊するよう命じた。 暗黒の都は闇が集まりやすいように作られた呪術都市であり 皇帝は都市を破壊することで、それを無効化したのだという。 東方大陸西方を征服したオフランス王ルルイが若くして亡くなったのは 暗黒の都に近い形に作られていた腐乱の都に入城してからすぐであった事から 皇帝は事前にそれを把握していたとされている。 「引っ掛からなかったようだな・・・これで残された手段は一つのみか」 緑の髪の女が溜息をつきながら嘆く。 「何を残念がっているのだ?母のご意思に背かずに済めてよかったではないか」 緑の髪の女を見て、赤い髪の女はにこやかに笑った。 それを見て、緑の髪の女は更に嘆息しながら言った。 「母のご意思とはいえ、これがどれだけ重大な事をもたらすかわかっていないのか貴様は」 キョトンとした顔で赤い髪の女は返答する。 「人に冠を渡すぐらいで大げさな事を。人に花を持たせてやろうという母の親心が何故いかんのだ?」 呆れた緑の髪の女は 「ふん、わからずならば見ていろ。今に我の血も貴様の血も、その花を持った人に跪く事になる」 そう言うと、赤い髪の女から冠を奪いとり、部屋の扉を開く 扉の先はおびただしい数の軍勢で埋まっていた。 「これよりミナーニャへと向かう。空を舞う者は我と共に!陸を歩む者は陸妖と共に!!」 「私の手は血に塗れています  私の手を妻は握ってくれるでしょうか  私の手で我が子に触れることができるでしょうか  神よ・・・私は人でありたかったのです。」 −−暗黒皇帝アイス・ルヒト・サイレン−− 暗黒歴1391年 神聖ユーロ帝国軍はついに暗黒の都を陥落せしめ 神聖皇帝ミカエルは高らかに勝利を宣言。東方大陸諸国へ従属か死かの選択を迫った。 最早、東方大陸にユーロに逆らえるだけの力を持った勢力は存在しない。 皇帝は既に東方大陸への関心を失い、次なる征服地の事を考え始めていた。 が、予想に反し従属を申し入れてきたのは西方諸侯の一部のみ。 それどころかユーロへと寝返っていた者が叛旗を翻し始めた。 「これはどういうことか?」 皇帝は明らかに苛立った声色で臣下へ問いただした。 重臣達がざわめく中、スラグエル・ソロネ・レヴィナス侯爵が前へ出た。 「神聖なる皇帝陛下の忠実なる臣にして光の眷属たるソロネの子孫スラグエルが申し上げます。  北禮海における大勝、その後の各地での掃討によって邪神の軍勢はそのことごとくが四散致しましたが  近頃、南方にて暗黒皇帝なる称号を名乗る者が現れました。その求心力は油断できないものがあり  先年の戦いに加わらなかった邪教の王どもも、その傘下に加わり一大勢力を築きつつあります。  先年、我が帝国に寝返り改宗を誓った恩知らずの豚供も、おそらくこの者達の暗躍によるものかと・・・」 この報告に皇帝は戦慄する。 「暗黒皇帝・・・だと?」 ユーロ軍レヴィナス侯爵の報告通り 暗黒の都を放棄し、南へと落ちのびた暗黒神の軍勢はミナーニャに住むある人物の元へと集っていた。 それはミナーニャを治める王ではなく、驚くことに片田舎に住む農夫であった。 農夫の名はアイス・ルヒト・サイレン。 元は暗黒神の娘マトゥリアを妻として迎え、サイレニア伯爵をつとめていたが 政争の醜さを知り、伯爵位を返上し妻と共にミナーニャで静かな生活を営んでいた。 しかし、その生活は帝冠という被り物一つで終わりを迎えた。 先年、暗黒神は自らが敗れる事を悟ると、アイスに皇帝となり ユーロ軍に立ち向かうようにという神勅を眷属に託していたのである。 当初、拒みに拒んだアイスだったが、迫りくるユーロ軍の脅威もまた事実であり ついに諸侯の説得に応じ、三妖界が一人フレスレイドより帝冠を授けられた。 ここに<<西方の支配者にして諸王の王たる暗黒世界の守護者>>の称号は復活を告げ 第二代暗黒皇帝アイス・ルヒト・サイレンが誕生する。 皇帝となったアイスはすぐさま【脅威殲滅の為の結束】を神の代行者として宣言。 この呼びかけに ミナーニャ王ジャンク・グローデア・ミナーニャ バイエイズ王サイド・ウェイズ・バイエイズ トト王メーメル・ネーデル ハンス王レオン・コート ハルト王ビスタ・セルビケ・パックツ など今までユーロ軍と戦わずに力を温存していた強国の王達が応え さらに大小の暗黒諸侯達も軍勢を率いてミナーニャへと馳せ参じた。 ミナーニャの地を覆い尽くす程のSDロボの群れは50万機にも上り 暗黒皇帝アイスは集まった者達に礼を言うと、決戦への檄を発した。 「強すぎる光は闇を更に色濃く染め上げる事になる事を彼らは知らない。  暗黒神の名のもとに余はここに宣言する。  信仰深き暗黒の子供達よ。彼らから光を奪え。彼らが我らの闇を奪ったように・・・  All Dark(すべてを暗闇へ)」   「「「All Dark!!!」」」 「「「All Dark!!!」」」 「「「All Dark!!!」」」 士気盛んなる皇帝軍は北へと進軍を開始した。 二つの大陸は二つの宗教を生み、二つの国家を築くに至る。 そして二つの勢力は歴史上最大の戦いを始めようとしていた。 次章予定「二つの大陸、二つの宗教、二つの国家、それ故の、一つの大戦(後)」