■東方大陸史■第四章「侵攻、新興、信仰、没落」 「暗黒神に導かれてより1000と400と40と4年。  この年、ハンス、ハルト、トト、ミナーニャ、バイエイズの各地から、かつてない大軍勢が北へと向かった。  目指すは帝国の都ベル・ユーロ、聖なる都ルテティア・フランス、そして世界樹の都エルフィーナ。」 −−暗黒帝国年代記より−− 暗黒歴1444年。 暗黒世界の諸王は、暗黒の教えの布教を名目に中央大陸へとその歩を進めた。 ハンス王レオン・コートは、ハルト王ビスタと共にカストフラン半島へ攻め入り 半島を二分して、ハンス王はレオン王国を。ハルト王はカストリリャ王国を築き ミナーニャ王ジャンクとトト王メーメルは、イタメシヤ半島を征服。イタリャーナを建国する。 最後にバイエイズ王サイド・ウェイズ・バイエイズはデンオール王国西南部を制圧し デンオール王家の娘を攫い妻とし、ダイオール王国を成立させる。 これら中央大陸を征服し築かれた暗黒教徒の諸国は、四大暗黒王国と称され 長く、中央大陸を苦しめる存在として君臨することになった。 一方の神聖ユーロ帝国は滅びへの斜陽を止められずにいた。 神聖皇帝ミカエル、聖太子ルルイ親子によって築かれた大帝国はカナンの決戦以降 その権威を失墜させ続け、諸侯の反乱が相次ぎ、皇帝は常に反乱の鎮圧に奔走される事となり 暗黒軍の侵略を容易に許してしまう事態に陥る。 諸侯の反乱を抑え、態勢を何とか立て直した第5代ユーロ皇帝ルルイ(4世)・グローリア・ゴッドロードは イタメシヤ半島を取り戻すべく8万の軍勢を率い、ミナーニャ王ジャンクに戦いを挑んだが クリスタルガイザーの戦いで、残兵21機という歴史上最大の殺戮劇と称される惨敗を喫した。 この戦いで皇帝ルルイ4世は絶命し、皇位はエルフィーナ王オーディンの後見を受け ルルイ4世の子である僅か生後10ヵ月の赤子が継承したが、それに意を唱えた諸侯は各地で独立していく。 聖太子ルルイ1世の子孫フランス家は独立し、旧自由王国(のちオフランス王国)を復活させ、 名をオフランス風にルイと改める。南方大陸の諸侯はその悉くがフランス王家への忠誠を誓い、ユーロへの忠誠を拒否。 またスリギィランド、スコトラッド、エリンランドの三島王国も独立し、中央大陸への不介入と中立を宣言。 ザイクリンデ、グロッツ諸邦も兵士の徴収を拒否した。 唯一、デンオール王家のカルメル家だけが変わらずゴッドロード家への忠誠を誓い続けたが その忠誠もカルメルの血の断絶とディオールの誕生によって永遠に失われる。 そしてユーロとは対極に暗黒帝国は絶頂を迎えていた。 全盛帝と称されたミナギ・ルヒト・サイレン帝の治世である。 中央大陸から続々と運ばれてくる莫大な富は、その全てが暗黒皇帝の懐へと収まり この収益から皇帝は商人達への課税を軽減し、中央大陸への進出を奨励。 商業活動は異常なまでに活発化し、新たな市場の開拓に燃え狂う商人達は 東方から中央へ、中央から東方へ引っ切り無しに往来し、物の交流は人の交流となり 中央海は人々の船で埋め尽くされていった。 やがて若手の賢い商人達は新規市場に入るのが困難とみると巨船を持って、南へ北へと船を出す。 ある者は雨の国へ、またある者は砂漠の国へ、中にはヒノモットという黄金の国へ辿り着いたという。 これら商人の活躍により減税したとはいえ、税は莫大なものとなり それらの収入の多くは政策として民間へと向けられた。 推奨教育法の制定、交通網の整備、作業用SDロボの民間への下げ降ろし 暗黒教会の風紀の一新などなど。 政治面ではそんな感じだったが、軍事面では余り進歩はなかった。 ラテブラ家の断絶によりテネブリア王国で起こった内紛に介入したが 名目無き戦争で士気があがらず、暗黒帝国軍、北テネブリア軍、メリカリア軍による 三つ巴の戦いとなったフラウメの戦いでは、特に何らも成果もなく引き分けとなる。 戦争が苦手とわかると皇帝は外交による攻勢を仕掛け、メリカリアの領土の一部割譲を条件に メリカリアと軍事同盟を締結。軍事力で劣る北テネブリアは休戦を余儀なくされ 東部での戦乱はここに終結する。 「獅子線によって大陸は二分されたが、信仰は同一された。  以降、宗教というものは急速に世俗化していった。  神の教えが絶対の世は終わりを告げ、あとに残されたのは  わけもわからず怯える無辜の民と歓喜する無法者達だけだった。」 −−宗教家アリージアの書記より−− 暗黒歴1692年。 四大暗黒王国による中央大陸侵略は続き、 神聖ユーロ帝国の首都ベル・ユーロ、聖都ルテティア・フランスは 100年も前に陥落し、神聖ユーロ帝国は完全に瓦解。 その全領土を失ったが、エルフィーナの人々は変わらず皇帝を慕い 全てを失った可哀想な皇帝をエルフィーナへと迎え入れていた。 そしてユーロ皇帝を追撃する形となったレオン王国は大陸の奥へ奥へと侵略を重ね 今や、大陸に食い込んだ太い線のような奇妙な国土を持つ大帝国と化し 人々はその国土から、レオン=ライン王国と呼称した。 長い長い戦いの歴史は人々を疲れさせるのに充分だった。 時のレオン=ライン王国の国王レオン18世は、長くなりすぎた国土の統治に悩み 新たに現れた隣国・中洲国の出現によって、これ以上の侵略事業は困難である事を悟っていた。 そこでレオン18世は驚くべく行動に出る。 光教会と暗黒教会を統合した【世界教会】を作り、飾り同然の神聖ユーロ皇帝を その世界教会の教皇に迎え入れるという案を考えついたのである。 もし、実現すれば宗教上での問題の多くは解決され、国家経営もかなり楽になるはずと 思いついたら、とりあえず試してみる性格だったレオン18世はすぐに暗黒皇帝へと光闇同一教会の設立を提案。 時の暗黒皇帝カイス・ルヒト・サイレンはこれを事務的に、暗黒神へと奏上した。 意外にもあっさりと暗黒神の許可が下り、残すは神聖ユーロ皇帝のみとなった。 「悲しみの歴史に終止符を打ちましょう。神聖なるユーロ皇帝陛下が望めばそれは叶うのです。  どうかよく御考え下さい。陛下と陛下の臣民の為にも。レオン国王レオン・コートより真心を込めて・・・」 レオン18世は、このような書簡をまるで恋文のように何度もユーロ皇帝へと送り続けた。 エルフィーナ女王イグドラは、これを破り捨ててしまいたかったが国家の代表の書簡ともなると そうもいかず、しょうがなく神聖ユーロ皇帝にその書簡を手渡していた。 この時代の神聖ユーロ皇帝は為政者としてというよりは、光教会の長として光の教えを正しく教え導くという 教皇的な側面が強く、そういう意味では皇帝の権威はこの時代も健在であり オフランスやデンオールの新王は、わざわざ危険を冒して王冠を授かりにきていたという。 光神の代行者である皇帝から王冠を授かったという事は、神より王冠を授かったと同義であり 皇帝から王冠を授かったのと、そうではないとでは貴族達の目は明らかに違うのである。 ユーロ皇帝がそういう存在であるという事を、よく理解した上でレオン18世はこの話を持ちかけたのである。 そして、この時代のユーロ皇帝フレズベルクはこの提案を飲んだ。 エルフィーナ女王イグドラやデンオール女王エリスは泣いて説得したが、皇帝の意思は固く その身柄をレオン国王18世へと預ける。 聖都ルテティア・フランスへと移送されたユーロ皇帝は、そこで皇帝位を退位し、教皇へと即位した。 だが、初期はレオン=ライン王国とエルフィーナ、デンオール王国の三国内のみの教会が、光闇同一に同意し 教皇の権威に従ったのみで、多くは国教会と呼ばれる独立教会となり分派を試みたが 暗黒教会側は、暗黒神が世界教会の従わない者を片っ端から破門していき、時には眷属を用い処罰した事から 30年ほどで東方大陸中の暗黒教会は世界教会に統合され 光教会側では、各国で国教会が設立されたが最終的に近世頃には統合を受け入れざるを得なくなった。 その後、世界教会は宗教による争いの根絶を訴え、世界中で世俗化教育を進めた事から 現代では宗教は左程の影響力を持たないようになった。 それによって道徳観が崩壊しマフィアが蔓延したイタリャーナや 無神論を謳い、殺戮国家と化したソフホーズやカンプチルの悪例もあるが 世界は月並み平和となったといえよう。 今でもレオン国王レオン18世、暗黒皇帝カイス、神聖皇帝フレズベルクの三名は 聖人に列せられ、聖都ルテティア・フランスの大神殿で三聖人像として飾られ その遺徳を見ることができるという・・・ 次章予定「DIOR」