■東方大陸史■第五章「DIOR」 「神も皇帝も消え、仰ぐべきものが死した時代。中世最後の騎士が逝く。」 −−トール・ヘジット著『女王アリス』の序文より−− 暗黒歴1998年。 神聖ユーロ帝国が消滅すると、中央大陸は光と闇の争いから骨肉の群雄騒乱の時代へと突入した。 西方では、皇帝を失い求心力が低下したエルフィーナが、ザイクリンデの一諸邦に過ぎないモックス公に 本来の領土であるユグドラシル・エルフィーナ地域の一部を奪われ国家の弱体化を漏洩。 見限った諸侯は次々と独立。神聖ユーロの娘婿と称される事になるベルーカ公国(のち皇国)や クーヘント公国、プロイセント公国を筆頭とするユーロ諸邦の7割が離反する。 南方ではオフラス王家の断絶に伴い、スリギィランド王がオフランス王を兼任。 スリギィランド・オフランス同君連合王国が誕生。 東方ではルヒト・サイレン朝暗黒帝国で幼君が8代続いた事から、再び諸侯の力が強まり 混乱期の始まりを予感させていた。 北方ではモンゴノレ族が勢力を急激に拡大させ、中洲国を圧死寸前にまで追い詰めていた。 そして・・・中央ではレオン=ライン王国を滅ぼした大国ディオールが大勢力を築きあげた。 遡ること暗黒歴1872年。 皇帝への忠義を忘れる事ができない騎士の王国デンオールでは 暗黒教徒に支配された旧神聖ユーロ帝国の首都ベル・ユーロを奪還し 旧皇帝家である教皇家を迎え入れ、高らかに帝国の再興を宣言するという 帝国再建論が人々を熱狂させていた。 「教皇聖下を恐ろしき獅子よりお救いし、鈴なる諸光の地へとお迎えするのだ!  騎士なるデンオールよ今こそ忠義を示せ!!」 獅子線と称された巨大王国レオン=ライン王国が王位の継承争いから西と東に分裂。 デンオールは、これを好機とばかりに教皇守護を名目に東レオン王国へと攻め入った。 惨敗 緒戦は快勝を続けたものの、補給線が伸びきったのを見計らってダイオール王国が デンオール王国に宣戦を布告。示し合わせたかのように反転し攻勢に出た東レオン軍と 挟み撃ちの形となったカゼインホスホペプチドの戦いで勇敢なるデンオール騎士達は デンオール王クリストを守る為に多くが、その命を最後まで燃やし尽くした。 騎士達の勇戦によってデンオール王は何とか撤退する事に成功。 国元へと戻り、東レオン・ダイオール連合軍を撃退し、国境線の死守に成功するが 悲願叶わず デンオール王は失意ゆえか、帰還中に急に倒れてしまう。 王は急遽、設営された陣営に運び込まれ軍医の手当てを受けたが・・・ 「軍医よ!陛下のご様子はどうか!?」 「私の役目は終わりました・・・司教をお呼びしなされ」 「ぅう・・・陛下ぁー!うわぁああ陛下ー!」 屈強な騎士達が大声をあげて泣きじゃくる。 一説では、このデンオール王の死によって古き良き中世は終わりを告げ その死から次の時代が幕を上げたという。 デンオール王クリストには5歳の娘がおり、その娘が女王に即位したが 幼き身で王位など継げるはずもなく、わずか7歳で死んでしまった。 神聖ユーロ皇帝ミカエル1世の騎士シリルを祖とするカルメル・デンオール王家の血脈はここに途絶え 残された騎士達は、皇帝に続いて自らが仰ぐべき王さえ失ったと顔を覆って泣いていた。 しかし、それでも国は残っている。 直ちに貴族達は招集され、次代の王を選出する為の貴族会議が開かれる。 意見は様々。 「いっその事、ダイオールのウェイズ家の血筋を迎えてはどうか?  そうすれば人が死ぬのを見る事はなくなるだろう。」 「馬鹿な!皇帝の騎士たるオールが東の流れ者に任せられるものか!!」 「私はサン家のアナベル公を推薦します。8代前ではありますがカルメル家との婚姻もあり  爵位的にも妥当でしょう。」 「正論だが、私は反対だ!アナベル公は確かに大身だが、先の戦いぶりは明らかに王の器ではなかった!」 「ほう、本人を前にして随分と言いますな。それではフォレスト卿はどなたをご推薦なさるおつもりですかな・・・」 「私は・・・騎士エヴァック=イリスを推薦する!」 騎士エヴァック=イリス。先の戦いで神懸かり的な奮戦を見せ、幾度となく王の命を救い 騎士や兵達の間で絶大な人気を誇り、貴族としては伯爵位を与えられていた人物である。 結局、エヴァックを強行に押したフォレスト侯爵に、アナベル公を快く思わない貴族達が同調し 多数決にてイリスの女王即位が確定。 西レオン王国領聖都ルテティア・フランスにて教皇より王冠を授かったイリスは オールの慣例にのっとり、王朝の変遷の際の国名変更を行った。 教皇よりユーロ訛りで数字の2を意味する【ディ】を与えられ、デンオールはディオールとなり (本当は501という意味の【ディ】だったが、オール騎士カルメルを継いだ2番目のオール騎士  という意味合いにしたいディオール王家が否定し、空気を読んだ教皇家もそれを公式とした。) ここに新興ディオール王国は産声を上げる。 「女王陛下、お喜び下さい。我々は神の兵を手に入れました。  我々は死となり、世界の破壊者となったのです。  世界は貴方の物です。ディオール女王陛下。」 −−トール・ヘジット著『女王アリス』の一節より−− 暗黒歴1926年。 ディオールでは長寿王エヴァック=イリス=ディオールが崩御し 曾孫にあたるアリスがディオール王位を継いだ。 彼女は若くして即位した事から国民から【花】と呼ばれ親しまれたが 呼び名は直ぐに【花】から【血塗られた花】に変わった。 暗黒歴1928年。 ディオールにおいて史上最大の技術革命が起こった。 SDロボ研究家のスニスニチ・プロムナード博士が遂に古代機に用いられている 古代技術の一部の解明に成功。それまで発掘によってしか得られなかったSDロボが 古代技術の転用により人工的な製造が可能となったのである。 ディオール宰相コニモ=リゲルは、スニスニチに国産SDロボの開発を下命。 1930年に歴史上初の人造SDロボ【ハイロー】がロールアウト。 当時の主流であった古代機【ソルジャー】を圧倒する性能を誇り 直ちに宰相リゲルは各国から資金を掻き集め、ハイローの生産体制を整えていき これに影響を受けたディオール経済界は急速に工業化していく。 ハイローの数が揃ったところでディオールはグロッツ諸邦の一つザガディン国を侵略。 人造機ハイローは戦場という戦場で敵機を軽々と蹴散らし。ザガディン国首都ガスティーナへ 僅か8日で到達。ハイローが実戦で十二分に実力を示した事で、宰相リゲルは祖国の最盛期を築くのは 自分である事を確信する。 1935年には、グロッツ諸邦を平定したディオールは宿敵にして僭称者たるダイオール王国に宣戦を布告。 ダイオール王サイド・ウェイズは先年のディオールによるグロッツ平定戦から警戒して 国境線の部隊を後退させ、難攻不落の要塞と謳われた城塞都市ヘジットにてディオール軍を迎え撃つ準備をしつつ 暗黒王国のイタリャーナ王国、東レオン王国へ援軍を要請。万全の態勢でディオール軍を迎え撃った。 ディオールとダイオールの兵力差は拮抗していたが ダイオールのジャンクーダを、ディオールのハイローが圧倒。 ジャンクーダといえば暗黒神降臨のその日から暗黒世界を代表してきた主力機であり、中央大陸においては 侵略者の異名をとる程の畏敬の念を受けた傑作機だった。 が、その名も今や地に堕ちた。 わずか16日間の攻防で城塞都市ヘジットは陥落。ダイオール軍は追撃戦でその戦力の半数を失い、 ダイオール王サイド・ウェイズは乗機を上下真っ二つに切断され、遺体すら残らない死に方をする。 援軍としてダイオールの首都まで軍を進めていたイタリャーナ王国及び東レオン王国連合軍は サイド・ウェイズ王の敗死の報を聞くと、留まってディオールと戦うか帰国するかの意見の相違から イタリャーナ軍は帰国し、東レオン軍はダイオールに留まりダイオールの残兵を纏め ディオールを迎え撃ったが、散々に撃ち破られる。 最早、ディオールの侵略欲を止める事が出来るものはなく 1938年にはダイオール王国を併合。 1945年に東レオン王国を、1973年にはイタリャーナ王国を併合。 1969年に西レオン王国をオフラン王国と挟撃し、これも併合する。 かつて中央大陸に君臨した四大暗黒王国はこうして僅か100年も経たない期間で 旧カストリリャ王国(カストフラン王国)を除く三王国が歴史上から、その名を失った。 この大ディオールの興隆から各国へSDロボ製造技術が渡り 世界中で自国ブランドのSDロボが開発されていき SDロボ開発競争は激化の一途を辿る事になるが それは東方大陸でも同じであり、敗残者となったジャンクーダ(オリジナル)に代わって 暗黒技術者達によって開発されたジャンクーダ(アティフィシャル)が暗黒世界の国々の主力機として採用される。 そしてむかえた暗黒歴1988年。 ディオールはSDロボのエネルギー源となる魔鉱石の供給を増やす為に 北テネブリアに貿易協定を持ちかけるが、自国に不利とみた北テネブリアは協定締結を拒否。 ディオールは仕方なく密貿易により北テネブリアから魔鉱石を手に入れたが ディオール船籍の貨物船キーゲッヒ号が密貿易船と誤認され 北テネブリア軍に撃沈されるという事件が発生(キーゲッヒ事件) これを名目にディオールは北テネブリアへ宣戦を布告。 海軍を持っていなかった北テネブリア軍はディオール軍を水際で迎撃すべくビタミン海岸へと終結したが 艦砲の支援を受け、上陸したディオールのハイロー軍団の前に大した抵抗もできずに壊滅。 上陸に成功したディオール軍は北テネブリアの諸都市を陥落させながら南下し 遂に首都へと迫ったが、突如として大軍勢が立ちふさがる。 その正体は 暗黒大公ヴィルヘルム・フレスレイド率いる暗黒帝国及びメルカリア連合軍。 メルカリアはテネブリア内乱時に北テネブリアと袂を分かった兄弟国であり 北テネブリアの危機に乗じメルカリアによる東方大陸東部統一を実現すべく行動を開始 そしてメルカリアの宗主国であった暗黒帝国はそれを後援。 暗黒連合軍はディオールが占領したテネブリア北部以外の北テネブリア全領を電撃的に制圧し こうして北テネブリアの首都でディオール軍を待ち構えていたというわけである。 これ以上の戦争は利益を生まないだろう事を悟ったディオール女王アリスは 暗黒帝国皇帝フーセとテネブリアの地で会見し、北はディオール領 南は暗黒帝国領と定め、両国は不可侵条約を結ぶ(ヴァイアステン条約) 暗黒帝国はメルカリアに対し、占領した旧北テネブリア領を譲渡したが メルカリアがあくまで東部統一に拘った為に、親帝国派の有力者に反乱を起こさせ メルカリア共和国を滅亡させ、代わって親帝国派の共和貴族達に暗黒爵位を与え 帝国領へと編入した。 こうしてテネブリアは後に300年統治と称される暗黒時代を迎える事になり その支配は英雄アサド・ケムトサラームの登場まで続く事となる。 次章予定「スペリオル朝暗黒帝国」