■東方大陸史■第六章「スペリオル朝暗黒帝国(後)」 「ヴィル=ヘルムズは君臨した。  初期は慈愛者として  後期は殲滅者として。」 −−ラト・ラマウットス伯爵著『5代の賢帝』より−− 暗黒歴2021年。 暗黒皇帝ヴァンガード・スペリオルは実の子に弑逆される。 弑逆せしはヴィル=ヘルムズ・スペリオル。 ヴァンガードと下民の娘との間に生まれた私生児で 生まれの卑しさから皇帝位とは無縁と思われたが、 ヴァンガードの子で男子はヴィル=ヘルムズのみだった事から 退位に追い込まれたヴァンガードの後を継ぎ、二代皇帝としてカストフラン王に擁立された過去を持つ。 その後、勢力を巻き返したヴァンガードが皇帝に復位したが その際にヴィル=ヘルムズは正式に皇太子に指名されている。 皇太子という地位から次代の皇帝となる事は約束されていた。 それなのにヴィル=ヘルムズは父を殺した。何故か? 自分で殺さねば他者に殺されていたからだという。 当時、すでに暗黒帝国は内憂外患の末期の様相を見せており 西では諸侯の大反乱。北からはスリギィランド軍。南からは魔導連合王国軍が迫っており それを防ごうにも帝国諸侯の8割が皇帝への忠誠を拒否していた。 皇帝の手勢は僅かに4千。南から迫る魔導連合王国軍は総勢6万。 もはや打つ手なしの状態だった。 ヴァンガードに従っていた諸侯ですら、ただ我武者羅に戦うヴァンガードに失望。 過去にあったようにヴァンガードを廃位し、皇太子のヴィル=ヘルムズを擁立する動きが出始める。 だが一度幽閉後に脱出したヴァンガードである。返り咲きは十分に考えられた。 殺さねばなるまい この諸侯の進言にヴィル=ヘルムズは難色を示したが、考える時間はない。 諸侯は渋るヴィル=ヘルムズをこう言って説得したという。 「穢れた南方の賊供に討たれるよりは、あなたの手で・・・」 決断したヴィル=ヘルムズの行動は早かった。 父に帝都に篭城して敵を迎え撃つ事を進言し、ヴァンガードは愛する息子の進言に従った。 帝都へと帰還したヴァンガードは、その日の夕食に毒を盛られ絶命する。 父の死骸を隠すと、ヴィル=ヘルムズは皇帝代行としてスリギィランド王国と魔導連合王国との和睦交渉を成立させた。 この講和条約は帝国領ハンスで行われた事から『ハンス条約』と呼ばれる。 条件は ・ハンス以東以南。ランペル川以西までの領土を魔導連合王国へ割譲。 ・トロネア地方の領土をスリギィランド王国へ割譲。 ・スリギィランドへ8億ダルク。魔導連合王国へは42億ダルクの賠償金の譲渡。 ・両国に対する全貿易港の封鎖解除。 ・諸国平和の脅威となる帝国海軍の解体。 内容からわかるとおり暗黒帝国の完全敗北といっていいものだったが これだけの譲歩をせねばならない程に帝国は弱体化していたのである。 この際、50億ダルクという大金は帝国にはなく、多くは帝都に収められていた莫大な量の宝物で補った。 空になった宝物庫を見て、多くの者が悲嘆にくれたがヴィル=ヘルムズは冷ややかに笑っていた。 父の亡骸を抱いて神都へと赴いたヴィル=ヘルムズは、 暗黒歴2022年に、正式に第四代暗黒皇帝に即位。 皇帝となったヴィル=ヘルムズは、すべての法をルヒト・サイレン朝の時代へと戻し また反乱諸侯へも帰参すれば罪には問わない事を宣言。 忠誠を拒否していた諸侯達や反乱者達は続々と新皇帝への忠誠を誓い 閑古鳥が鳴いていた帝都の公邸街は20年ぶりの主達の帰還を迎えた。 【鷲鷹之大乱】はここでようやく終わりを告げたのである。 その後、黒鷲は一つ一つ傷ついた翼を繕っていき そして、その大翼が癒えると地に堕ちた黒鷲は再び空へと君臨する。 暗黒歴2058年。 暗黒皇帝ヴィル=ヘルムズは、かつての西方諸侯達の反乱を許してはいなかった。 18条の悪行と呼ばれる西方諸侯のかつての反乱罪を糾弾すると 次々と爵位と領土を没収。勅命に逆らった者の多くは挙兵も出来ずに謀殺された。 あまりの手際のよさから、その用意周到さが窺える。 没収した領土の多くは帝国の直轄領とされたが フレインダムド侯爵から奪ったポートチマ港をポートヴァンガードと改名したのを皮切りに 次々と地名にヴァンガードの名を付け始める。 ヴィル=ヘルムズの晩年は、愛する父を殺した事の贖罪に喘ぎ続けたもので ヴァンガードが制定した条例の改善版を再制定し、教会に掛け合い ヴァンガードに大帝の称号を追贈した。 暗黒歴2071年。 この年、暗黒皇帝ヴィル=ヘルムズは死去する。 死の直前まで父の意志であった中央集権を推し進め 諸侯の屍の上に現代まで続く帝国の基礎を築いた皇帝は眠りにつく。 贈り名は殲滅皇帝。歴史的位置付けから歴史家からは完成者と称された。 次章予定「第一次テネブリア独立運動」 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\ おまけ ■適当命名辞典■ ◎ヴィル=ヘルムズ ドイツ語の名前のヴィルヘルムから。 ヴィルで意志。ヘルムで兜という意味だから ヴィル=ヘルムズはたぶん兜達の意思という意味の複合名になるはず。 戦争親父らしい命名であると自分で自分をほめてみる。 ◎ラト・ラマウットス伯爵 ラトは第二章に出てたラトギニ・グローデアの祖先の名前。 さらにラトギニの元を辿ればラトギス・グローデアが元ネタ。 えらい人の名前なのでパウロとかヨハンみたいにポピュラーネーム化したという設定。 ラマウットスの方も風鼠=ラマウットスが元ネタ。 ◎カストフラン カストリリャ+フラン=カストフラン ◎魔導連合王国 魔導の国が元。 ◎帝国領ハンス 第5章でハンス王レオン・コートが領土にしてた地域。 ハンス・ウルリッヒ・ルーデルから。 ◎トロネア地方 アブリフィテアト・トロネアの姓から。 ◎ダルク貨幣 ドイツ通貨のマルクを御拝借。 ダークエルダーマルクの略。 ◎ルヒト・サイレン朝 初代がアイスなので、アイス・ルヒト・サイレン(愛する人。セイレーン)というダジャレネーム。 本当はサイレントで静かに愛する人ぐらいの意味にしようと思ってたけど 脱字って後戻りできなくなってた。なんてこったい ◎鷲鷹之大乱 鷲=スペリオル家の紋章 鷹=ルヒト・サイレンの紋章 というオリジナル設定から。 ◎フレインダムド ぷよぷよ。 ◎ポートチマ ポート=港 チマ=ちまっこい とかのチマ なのでチッサい港の意味。 ◎ポートヴァンガード ポート=港 ヴァンガード=先鋭 なので先鋭的な港という意味だけど 別にそういった意図でつけられたわけではなく ファザコンの息子のエゴでネーミングされたので父の港という意味合いが強い。 おまけネタ案外思いつかない・・・誰か要望あったらおせーて下さい。