日本分断YAOYOROZ 彩陶らごうSS 「その魂、太陽より赤く」中編 --帝神学園 校庭 校庭では 法月 星志郎(のりづき せいしろう)が 重装甲騎士型のヤオヨロズ「アメノカガセオ」を発現させ待機していた。 法月は身体にぴったりとフィットした黒い制御スーツの上から騎士のようにマントを羽織っている。 「法月、待たせたな」 私は”生涯不敗”と書かれた白い特攻服をはためかせ、法月の前に立った。 私のピンク色に染められた髪がバタバタと風にゆれた。 私は瞳を閉じ、自分の半身であるヤオヨロズの姿を強く思い浮かべた。 目蓋の裏にハッキリと”迦具土神(カグツチノカミ)”と言う文字が見える。 私は天に右腕を上げた。 「来いッ!カグツチ!」 私の声と同調して心臓の鼓動が高鳴り、目蓋の裏の”迦具土神”という文字が炎で燃え上がった。 私の足元からチリチリと砂の焼け焦げる臭いがした瞬間、 朝日に照らされた足元の影が一瞬のうちに炎で燃え上がった。 炎は私の影から飛び出して地面に巨大な輪を描く。 巨大な火の輪から天に火柱が上がり、巨大な人型ロボットが姿を現した。 火竜の如き面構えに真っ赤な身体、張り出した肩鎧、爬虫類のような赤い尻尾、 背中にはピンク色に輝く杭のような四本の統制装置が突き刺さっている。 右腕に巨大な黒いハンマーを携えたその姿は伝承にある火の神そのものだ。 私が目を開けると、法月が私に向かって話しかけた。 「総長、お願いがあります」 「なんだ」 「私も一緒に宇宙へ上がらせて下さい。  敵性ヤオヨロズの力でICBMの軌道が急激に変更された場合、  遠隔での重力操作には限界があります」 私は口元に笑みを作って法月に言った。 「ほう、お前のヤオヨロズでは宇宙に辿り着く前に空中分解してしまうのでは無かったか?」 法月は強い口調で言った。 「耐えて見せます。  総長を敵の元に送り届けるまでは死ねません」 ははっ、と笑うと私は軽く拳を作り、 トン、と法月の引き締まった胸板に軽く拳を当てた。 「よく言った。頼んだぞ」 冗談のつもりで私の拳を法月の胸に当てたのだが、 法月の身体が本当にグラリと揺れて倒れそうになった。 「おい、どうした? 体調でも悪いのか?」 法月は後に一歩足を出して身体のバランスを保つと、 右手で両目を覆って小さい声で言った。 「グラリと来た・・・」 「?」 法月の不可解な行動に私が眉間にしわを寄せると、 はっと我に返ったようなそぶりを見せ、法月は敬礼のポーズで私の前に立った。 「いえ、何でもありません。  アメノカガセオ、すぐに出れます」 「まあ、いい。  それと、私は一人で地面へ降りる気はないぞ。  ICBMに送り届けた時点でお前に死なれては困る。  カグツチに飛行能力は無いからな。  死ぬなら、私を地面へ下ろしてから死ね」 法月は私の瞳を見つめて、はっきりと言った。 「ご命令のままに」 「では行くぞ」 私がジャンプしてカグツチの胸に乗り移る素振りを見せると、 法月が私に向かって右手をかざした。 それと同時に法月の後ろにいるアメノカガセオも右手を私に向けた。 私が屈伸してジャンプすると、ドン、と身体に加速がかかり10メートルほど跳躍し、 ふわりとカグツチの胸の前に落下した。 するとカグツチの胸骨と肋骨が左右にバキバキと開き、赤い球体が姿を見せる。 私の足が球体に触れるとにゅるり、と私の身体が赤い球体に吸い込まれた。 真っ赤な液体に身体が沈む。 ぷくぷくと空気が口から漏れるが苦しくは無い。 この油のような液体が外からの衝撃を緩めていると説明を受けた事がある。 ヤオヨロズという非科学的な力に、人間の科学で解説をして貰ってもピンと来なかったが。 それにヤオヨロズの構造は本当に様々でコックピットだけに限定しても 全く同じヤオヨロズはない。 コックピット内部に電子機器を持ち込んであるヤオヨロズに関して言えば 人間工学に基づいたコンソールと操縦席、サブモニタなどがあるらしいが、 私はそのままの状態の方がカグツチと強く同調出来た。 私の意識がカグツチに近付き私の腕の感覚とカグツチの腕の感覚が重なる。 するとバキバキとカグツチの胸骨と肋骨が閉まり、私の入った赤い球体を閉じ込めた。 一瞬周りが暗くなるが、胸骨が閉まるとすぐに周囲が明るくなり視界が復活する。 カグツチの周囲360度すべてが赤い球体の内側に映し出された。 私が地面を見ると赤いマントに包まれた法月の身体がふわりと浮き上がり、 アメノカガセオの胸に吸い込まれる姿が見えた。 「総長、始めます。  最初はゆっくりとGを変えますが、気圧変化が始まったら一気に0.2Gまで下げます」 カグツチの中に法月の声が響く。 ヤオヨロズ達はテレパシーのようなもので繋げられるらしく、 視界にいるヤオヨロズの中に対して喋りかける事ができる。 通信機がいらなくて便利ではあるが、敵のヤオヨロズに対しても使える為に 話術で気を散らそうとしてくる奴がいると鬱陶しい。 「いつでも来い」 私が法月に返事をすると一転して愛らしい女子の声が聞こえた。 「座標はこちらから法月先輩の方へ随時送ります。  目標は現在高度800km、ターミナルフェイズ突入まで後7分です!」 広域探索型ヤオヨロズ「テンシュカク」を持つ 叶 神子(かのう みこ)だ。 高レベルの探索能力者だが中学二年という幼さから前線に出ていなかった。 その事が逆に幸いし即座に敵のICBMを感知出来た事もある。 横目で帝神学園の校舎を見ると巨大なシャチホコが現れていた。 叶のヤオヨロズは向かい合う二匹の巨大なシャチホコの間に畳が一畳あるという異様な姿をしている。 真ん中の畳にちょこんと帝神の制服を来た叶が正座していた。 テンシュカクには自分の知覚したヤオヨロズへ対しての長距離テレパシー能力も併せ持つ。 肉眼でICBMを確認できるまでは叶のナビゲーションが頼りだ。 「7分か!上等ッ!」 私が叫ぶと緩やかだった上昇気流が急激に強さを増した。 一瞬で周辺一帯のの風が自分の足元に注ぎ込まれ突風が吹き荒れる。 「総長、行きますよ!」 自分の身体が風で空へと吊り上げられる感覚に陥った瞬間、 なだれ込んできた大量の空気が地面にぶつかって爆発した。 それと同時に強力な風圧でカグツチの身体が空へと持ち上がった。 凄まじいGと風を身体に受け、アメノカガセオの装甲が真っ赤に燃え上がる。 カグツチの身体は元々赤く燃えているようには見えなかったが、 中に居る私には強烈なGがかかっていた。 一呼吸置く間も無く、カグツチとアメノカガセオは白い雲の中に突入した。 --ICBM落下予測地点 東京都 丸の内ビル屋上 ICBM落下予測地点には、十津川 倫太郎(とつかわ りんたろう)、 銀島 照代(ぎんじま てるよ)、神室ケイト(かむろ けいと)の三名が待機していた。 銀島は十五歳、背が高く長い黒髪の女子だ。 いつも上の空で人の話をろくに聞かずのほほんとしている。 銀島のヤオヨロズは「ヤタ」 「ヤタ」は大きな鏡の盾の姿で敵の攻撃を反射する力を持つ。 十津川は黒髪で狐のような目をした男子学生だ。 その眼つきと斜に構えた話し方で冷たい印象を受ける。 十津川のヤオヨロズは「グウジ」 防御結界を張る能力を持っている。 丸ビル屋上に吹く風に吹かれながら銀島が緊張感の無い口調で言った。 「わたしたちはどうして待機してるんでしょうねえ」 屋上への階段付近で通信機を使っている神室ケイトを横目に十津川が言った。 「神室さんの言ったこと聞いてなかったのかよ。  俺らは彩陶総長が失敗して大気圏内でICBMが爆発した時に  被害を最小限に食い止めるためにいるんだろ」 「核爆弾、反射できるでしょうか〜」 「わかんねえさ・・・俺もやったことねえし。  それに、もし爆発しても爆発自体は彩陶総長が空に向けてくれるだろ」 少し明るくなった空を見ながら十津川が言うと 会話の中に通信を終えた神室ケイトが入ってきた。 「カグツチの力で爆発は防げるだろう、爆発はな。  だが、核弾頭にはもうひとつの見えない力がある」 十津川が顔をしかめた。 「放射能、ですか・・・」 「防いだこと、ないですねぇ〜」 「核弾頭の有効射程は爆心から約1km範囲だ。  この範囲内なら生物はほぼ100%即死する。  ガンマ線、中性子線などの放射線は直径20km以上に渡って汚染を広げるだろう。  放射線が雨雲を汚染し気流に乗ればその範囲は数百倍になる。  大気圏外で爆発すれば気流に乗ることも無く、地表から遠すぎてこちらに影響は出ないだろうが  成層圏で爆発すれば直接的な放射能汚染は防げても二次的な放射能汚染は避けられない。  もし爆発したならば出来るだけ爆発の近くで反射、防御結界を張らねばならない」 「日本を覆う規模の広域結界を張れない以上、爆弾の根元で結界を張ったほうが効率的ではありますね」 「後はICBMがMIRVであった時の対処だ」 聞き覚えの無い単語に十津川が聞き返した。 「MIRVって何ですか?」 「MIRVとは”Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle”  ・・・多弾頭独立目標再突入ミサイルの事だ」 「一個のミサイルからたくさんのミサイルが出るんですねぇ〜」 銀島の急な解説に十津川が驚いた。 「お前、話聞いてる時と聞いてない時の差が激しいな・・・」 「そうですか〜?」 神室ケイトは十津川と銀島のやりとりを無視して話を続けた。 「もし、MIRVだった場合、早急に結界の展開位置を変える必要がある」 「でも、俺達には”足”がない」 「狛江 奈々子(こまえ ななこ)と雪野 清奈(ゆきの きよな)を呼んである。  あと四、五分で到着するはずだ」 狛江 奈々子(こまえ ななこ)は高速飛行を得意とするヤオヨロズ「シグナルフェイバー」、 雪野 清奈(ゆきの きよな)はジェットブーツのような姿のヤオヨロズ「ハクト」を持っている。 両名とも機動力に優れたヤオヨロズ使いだ。 「うーん、ミサイル沢山だったら二人じゃ足りませんねえ〜」 今、手の空いている防御型ヤオヨロズを持つ学生は数少ない。 そもそも防御型ヤオヨロズ自体が希少な上に 前線に出ているヤオヨロズ達は敵に背を向ける事は出来ない。 その事がこの状況に更に拍車をかけていた。 現実は厳しいのは神室ケイトも十津川も分かっていた。 神室ケイトは口をへの字で結び、銀島が言った言葉には返答を返さなかった。 --ICBM落下予測地点 上空800km カグツチとアメノカガセオの身体は雲を貫き、 真っ青な空と真っ白の雲海を背に背負ったのはコンマ数秒間だけだった。 美しい空が見えたのは僅かな時間だけで直ぐに宇宙の闇が私達を包む。 幻想的な景色に浸る間も無く叶の声が響いた。 「予想より上昇速度が速いです!  この軌道だと上昇中のICBMと交差する形ですれ違います。  後10秒で目標とコンタクト!」 すでに気圧は下がりきり、空気摩擦による火花は散らず 加速によるGだけが私の身体を押さえつけていた。 歯を食いしばりながら法月に言った。 「すれ違う一撃でケリを付けるぞッ!  ヤオヨロズさえ排除すれば後はどうとでもなる!」 「了・・・解っ!」 法月の声は度重なる重力操作と急上昇中のGのせいで苦悶に歪んでいた。 法月は戦力としては数えられない。 その刹那、ヒュンと赤い流星が視界の端に飛び込んだ。 カグツチの中に法月の悲鳴が鳴り響く。 アメノカガセオの胴体には赤い矢が突き刺さり、爆炎を上げて落下していく。 「法月ぃぃい!」 私の声は法月には届かず、燃え上がるアメノカガセオは 装甲をばら撒きながら小さくなっていく。 「彩陶総長!敵ヤオヨロズからの射撃です!  そんなっ、速過ぎるっ!  もう一発来ます!避けてっ!」 「なっ・・・」 私が正面を見た瞬間、目の前に赤い光が見えた。 「ぎィゃぁああああああ!」 赤い矢はカグツチの右眼を貫き、後頭部から火花を散らして後に抜けた。 カグツチから黒い血が流れ飛ぶ。 あまりの激痛に右眼を両手で押さえると私の手のひらに大量の血がこぼれ落ちた。 次の瞬間、私の眼にICBMの先端にすっくと立ったヤオヨロズが目に入る。 その身体は赤と白で構成され、滑らかな曲線を描いた人型だった。 額には太陽のような紋章があり、その腕には三度目の矢を放とうと弓矢がつがえられている。 私は慣性の赴くままに敵ヤオヨロズに向けてハンマーを振りかざした。 敵を見た瞬間、右眼の激痛が怒りと憎しみに変わる。 「貴ぃぃ様かぁあああ!」 敵ヤオヨロズの弓から第三射が放たれた。 カグツチのハンマーが唸りを上げて赤い矢を弾き飛ばす。 「アジア地区ランクSが聞いて呆れるね。とても貧相なエインヘリルだ」 若い男の声がカグツチの中に響いた。 カグツチのハンマーが赤い矢を弾いた瞬間、敵ヤオヨロズの右腕が私の顔面を掴む。 カグツチはICBMと交差する軌道を描いていた為、 顔面を掴まれた事により急激に速度を減速され、頭と胴体が千切れそうになる。 逆Gをかけられた身体と首筋に耐え難い痛みを感じたが、 逆上した私には関係が無かった。 顔面を掴まれながらも敵の頭を粉々にするべくハンマーを振り下ろす。 敵ヤオヨロズは振り下ろしたハンマーの支柱をトン、と左腕で支えた。 その腕にはもう先ほどの弓矢の姿は無い。 「自己紹介くらいさせてよ。  僕の名前はイアニス・ナキス。  エインヘリル”アポロン”の顕現者だ。  ・・・ああ、君の国ではヤオヨロズと言うんだっけ」 額に太陽を持つヤオヨロズがこちらを見て言った。 「アポロンだと・・・。  ギリシャの神が日本に何の用だ!」 アポロンが首を振る。 「これはギリシャ一つの意思ではない。  EU諸国はすでに一つにまとめ上げられているよ。  エインヘリル顕現者たちの王、”オーディーン”によってね」 アポロンは自信満々に言葉を続けた。 「EU諸国はエインヘリル顕現者を特権階級として政治の主軸に置いている。  オーディーンを中心とした”ヴィーンゴールヴ”という組織がそれだ。  僕もヴィーンゴールヴに籍を置いている」 私は残った左目でアポロンを睨みつけた。 「そのヴィーンゴールヴが何故我らを狙う!」 はぁ、という溜息がカグツチの中に聞こえた。 「人の心に美しさを見ようとする聖護院は色んな意味で甘いからね。  外交関係を持てばどうとでも出来そうだけど、  君たち帝神学園は日本政府の意思を強固に反映している。  汚い政治家の意思によって動く君たちには死角がないのさ。  組織としては当然な形だけれど、僕らにとっては邪魔なんだ」 「我らが汚いだと!ふざけるなッ!」 「もう一つ理由があるけれど、それは教えてあげないよ」 私には時間が無い。 こいつとのお喋りもこれまでだ。 ぎりぎりと両腕に力を込めるが、カグツチのハンマーはビクともしなかった。 「無駄だよ。君の力は火の力だ。  炎とは物質の燃焼に伴って発生する現象のこと。それには酸素が必要だろう?  ここは地表1000km、空気なんて存在しないよ。  それに対して・・・」 アポロンの左腕に力が入る。 バキバキと音を立ててカグツチのハンマーが支柱の途中で折れ曲がる。 「僕のアポロンが持つのは太陽の力。  より太陽に近いこの場所なら、地表で戦うよりも何倍もの力があるんだ。  当然、地表で戦っても負ける気はしないけどね」 「総長ーーーッ!」 全身の鎧がボロボロになったアメノカガセオが重力を操作し戦線に復帰する。 「法月かッ!?」 「総長からその汚い手を、離せぇッ!」 アメノカガセオが両腕をアポロンへ向ける。 すると、私の顔面を掴んだアポロンの右腕がぐにゃりと歪む。 「無駄だって言ってるじゃないか。  君と僕とでは神格が違う。君の力は効果を成さないよ」 アポロンの言葉に追従して空間の歪みが霧散した。 「お遊びはおしまいだ。君たちの王を返そう」 そう言うとアポロンはカグツチの顔面を握った右腕を振りかぶり、 カグツチの身体をアメノカガセオに向かって放り投げた。 カグツチの身体がアメノカガセオにぶち当たり、落下していく。 「最後に教えてあげよう。  このトライデントUはMIRVだよ。  搭載された八基の核弾頭、君たちに全て防げるかな」 アポロンの顔がニヤリと笑った。 --ICBM落下予測地点 東京都 丸の内ビル屋上 通信機から届いた情報に 神室 ケイト(かむろ けいと)は動揺を隠せなかった。 都心部に着弾するICBMは英国製のトライデントU型MIRV。 内蔵されている核弾頭は全部で8基。 着弾地点は九州地区に2発、四国に1発、関西地区に2発、関東地区に3発。 ほぼ直線状に核弾頭がばら撒かれる。 MIRV弾頭はPBV(Post-Boost Vehicle:ポストブーストビークル)と呼ばれる 小型ロケットに搭載され、そこから再突入体に搭載された弾頭を 1発ずつ順番に速度と方向を微妙にずらして切り離すことで軌道を変えて別の目標に対して着弾する。 弾道ミサイルは、ブーストフェイズが終了すると、後は放物線を描くように惰性で飛翔する。 PBVに搭載されるエンジンは小型で燃料搭載量も少ないため、打ち上げ時の放物線軌道の 延長線上から大幅に逸れる目標を同時に狙えない。 この事から着弾地点はある程度容易に予測できるが、今の我々にはその全てを防ぐ手立てはない。 そして神室ケイトに対して日本政府高官からの通信が入る。 しゃがれた男の声が通信機から聞こえる。 「神室くん、セーフハウスに十津川くんを送ってくれないか」 「セーフハウスの地下核シェルターの防衛機構は完璧です。  核弾頭の直撃にも耐えることは建設段階で立証済みのはず。  十津川を送る理由がありません」 「敵が”見えない矢”を持っていたらどうするつもりかね。  我らの一人でも欠ければ明日の日本経済は大混乱に陥りかねない」 「しかし、放射能に対して全く防護機構を持っていない  公民館や体育館に避難している市民達も大勢いるのですよ!」 「現在関東地域一帯を治めている帝神学園へのバックアップは  どうやって行われているのか知らないのかね?  資金、技術、兵器、電力、偵察衛星の情報に至るまで、  日本政府の並々ならぬ努力によって行われている事を君も知っているだろう。  そのどれが欠けても、聖護院とまともに戦うことなど出来ない。  今、セーフハウスに避難している我々を失うということは  そのいずれもを失う可能性を孕んでいるのだよ」 「しかし・・・十津川を送ったとして、8基もの核弾頭を銀島だけで防ぐのは不可能です!」 「8基全てを防ぐ必要はないだろう?」 さも当たり前のようにその言葉を吐いたしゃがれた男の声に、 神室ケイトは殺意を抱いた。 関西生まれの十津川に自分達を守れと命令しながら、 関東地方に落ちる3基だけを止めろ、と言っているのだこの男は。 「ではせめて十津川ではなく銀島をそちらに送らせてください。  ヤオヨロズを発現した状態でも生身を晒さねばならない銀島を  カグツチの援護に回すのは危険過ぎます」 「だからこそ十津川くんを送れと言っておるのだ。  ヤオヨロズを発現しても生身の銀島くんでは奇襲に対して脆すぎる」 神室ケイトは絶句した。 彼らは自分の事しか考えていない。 「了解しました。十津川を送ります」 「うむ、頼んだぞ」 通信機の通信を切ると、話を聞いていた十津川 倫太郎(とつかわ りんたろう)が声を荒げた。 「どういう事ですか!  俺は政治家どもを守る気なんてありませんよ!  皆と一緒に戦います!」 神室ケイトは淡々と言った。 「彼らの言っている事は間違いではない。  日本が分断されているにも関わらず、円滑に日本経済が回っているのは彼らの力だ。  一人でも欠ければ日本経済は多大なダメージを被る。  それに帝神が優秀な技術と豊富な資金を使い続けられるのは  彼らのバックアップがあるからに他ならない。  今の私達には到底出来ない事を彼らはやっている。」 「しかしっ!」 「聞けッ、十津川ッ!」 普段から冷静で声を荒げることなど無い神室ケイトが声を張り上げた。 「私達は思春期を過ぎればいずれヤオヨロズを失うだろう。  そして帝神学園の卒業者、特に政府に貢献した人物に対しては  政府、財政界への強力な後押しが約束されている」 「それとこれとは何も関係がないでしょう!?」 「私は政治家になる。  偽りの無い正義を代行する日本政府を作るために。  だから耐えろ。  未来の日本を変えるため、  正しいことを当たり前のように正しくできる、そんな日本の為に。  今、お前の心の中に耐え難い怒りがあるのなら、今は政府の犬になりきれっ!」 ぽたり、ぽたりと神室の足元に血の雫が落ちた。 それは強く握り締められすぎた神室の手の平から流れていた。 十津川はそれを見て、神室ケイトは自分の何倍もの怒りを心に沈め、 淡々と政府との対話を続けて来た事を知った。 「神室さん・・・」 「今お前の心にある、その感情は正しい。それを忘れないでほしい。  そして、君が政府を変えろ」 十津川はぐっと拳を握り、神室ケイトに言葉を返した。 「分かりました。十津川 倫太郎、セーフハウスに向かいます」 「一階に雪野 清奈(ゆきの きよな)が到着しているはずだ。  ”グウジ”を発現して走るより、彼女に輸送してもらった方が早いだろう」 「了解です」 二人のやり取りを傍らで聞いていた銀島 照代(ぎんじま てるよ)は 何を言うでもなく空を見ていた。 十津川が屋上から姿を消すと、神室ケイトが銀島に話しかけた。 「彩陶総長は大気圏外でのICBM破壊に失敗した。  作戦を変更し成層圏でICBMを破壊、カグツチの力で核爆発を上空へ反らす。  銀島には放射線が地表に降り注がないよう、  カグツチの背後で”ヤタ”を発現し放射線を空へ反射してほしい。  ・・・できるか?」 「いや〜と言っても・・・結局、神室さんがするんですよねえ?」 「ああ。私のヤオヨロズ”タカオカミ”は水を操る。  水は放射線を通さないからな。  ”タカオカミ”では”ヤタ”や”グウジ”ほどの範囲はカバーできないが、  やれる事はやろうと思う」 銀島はにこりと笑って言った。 「私、やりますよ〜。  十津川くんの生まれ故郷、関西ですし。守ってあげなきゃ〜」 神室は唇を噛んだ。 銀島は諦めていない。 いくら全ての攻撃を反射すると言われる”ヤタ”の力を持っていても 核爆発の間近に生身で出なければならないのだ。 密閉型の大型ヤオヨロズを持つ神室でさえ恐怖を感じるのに 生身でそれに対抗せねばならない銀島の恐怖は尋常なものではないはずだ。 そして、この絶望的な状況でも尚、銀島は全ての核弾頭を止めようとしていた。 「ありがとう、銀島・・・。  では、狛江 奈々子(こまえ ななこ)が到着しだい彩陶総長の援護へ向かってくれ。  道中のナビゲーションは”テンシュカク”に行わせる」 「はいっ!」 銀島は元気に返事をした。 --つづく --説明不足を補う脳内メモ ■エインヘリル EU諸国でのヤオヨロズの呼び名。 最初は各国で呼び名が違ったが、 現在は北欧神話の神が中心となって統治を行っているため エインヘリルで呼び名を統一しているようだ。 ■ヴィーンゴールヴ EU諸国を統治している組織。 弱肉強食を理念とし、強き者、力を持つ者が 力を持たぬ者を支配するべき、という思想の元に動いている。 エインヘリル顕現者は特別視され特権階級を持つ貴族社会を構成する。 ■オーディーン ヴィーンゴールヴの統括者。 エインヘリル顕現者たちの王と呼ばれている。 ■イアニス・ナキス ギリシャ出身のエインヘリル顕現者。 使用するエインヘリルはギリシャ神話に登場する「アポロン」 --出演キャラクター ■日本分断YAOYOROZ■ 彩陶・羅ごう(さいとう らごう) 帝神学園・七代目総長 ピンクに染めた派手な長髪の女子高生 二つつの凶星が描かれたブレザーを着ている 黒のハイソにプリーツスカート、左耳につけた星のイヤリングが特徴 「カグツチ」と呼ばれる半人半龍のヤオヨロズを操る 真紅の肉体に炎をほとばしらせ巨大なハンマーで敵を薙ぎ払う姿は 火の神である迦具土神の名に相応しい カグツチの背中に突き刺さった四本の杭は搭乗者と精神を繋ぐ統制装置で 彼女の意志を忠実に反映する http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%BA%CC%C6%AB%A1%A6%CD%E5%3F 今回フルボッコな主人公 次回で鬱憤を晴らします ■日本分断YAOYOROZ■ 神室 ケイト(かむろ けいと) 帝神学園に所属する高校三年生 ショートカットの青い髪にメガネをかけたクールな女子 総長である彩陶羅ごうと行動を共にする事が多く彼女の右腕と呼ばれている 用いるヤオヨロズは水神の名を冠した「タカオカミ」 女性のようなシルエットを持ち白い仮面を付けたヤオヨロズで水を操る 大気の水分を圧縮して打ち出す長弓が武器 ヤオヨロズの額を打ち抜くように角が打ち込まれていて これが統制装置としての役割を果たす http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%BF%C0%BC%BC%A1%A1%A5%B1%A5%A4%A5%C8 冷静な参謀の立ち位置 らごうと百合な展開になったらいいのに(なりません ■日本分断YAOYOROZ■ 法月星志郎 伸ばした髪を後ろで纏めポニーテールにしており線が細く頼りなさそうに見えるが体は鍛えられ引き 締まっている。古武術の使い手でポニテは沖田総司を意識している。 温和な性格だが、生き残る事を第一に考えている為和を乱す者に対しては厳しい。 彩陶羅ごうに対して恋心を抱いている。 「アメノカガセオ」 重装甲騎士型のヤオロズで重力を操る。 大剣を使用し、重力を倍化加速させ全てを寸断する。 内部には「アマツミカボシ」という本体があり重力弾やマイクロブラックホールを撃ちだす、外見は 細身の武者型で大剣が二つに分かれ刀と剣に変形。 帝神学園のヤオロズにしては珍しく制御装置を打ち込まれておらず完全に制御されている。 http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%CB%A1%B7%EE%C0%B1%BB%D6%CF%BA 一番青春してそうな人 彩陶総長は基本鋭いですが自分の事に対しては鈍感なので気づきません ■日本分断YAOYOROZ■ 銀島 照代(ぎんじま てるよ) 帝神学園の女子生徒。十五歳、背が高く髪も長い いつも上の空で人の話を碌に聞かない。そのくせ、大事な質問にはしっかり答える 趣味は読書だが、それは見せかけ。読んでるふりしてぼんやりしている ヤオヨロズの名は「ヤタ」。大きな丸い盾を持っていて、そこに光景を写し込む すると盾に防がれた攻撃は、盾に写された場所や物に炸裂するという仕組み 単純な防御力においても優秀、戦車砲にも持ちこたえる http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B6%E4%C5%E7%20%BE%C8%C2%E5 ぼんやりぼんやり でもやるときはやる ■日本分断YAOYOROZ■ 十津川 倫太郎(とつかわ りんたろう) 十六歳 神社の神職者のような衣装を纏ったヤオヨロズ「グウジ」を操る帝神学園の男子生徒 札型のバリアを使い防御結界や反射結界、封印結界など様々な結界による援護を行う どちらかと言えば聖護院学園の方が向いている神通力系のヤオヨロズなのだが 本人が帝神学園を希望したために、若干浮いた存在だがも戦力として認められている 彼の実家は関西にあることからも、どうして帝神に来たのか不思議がられるが どうやら聖護院学園に犬猿の仲の知り合いがいるのを風の噂に聞いたらしい ちなみに、実家は代々神職の家系で彼のヤオヨロズも多分その影響が強い ただ本人はその役目に反発しており、家族から離れるためにも聖護院学園を選ばなかった http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%BD%BD%C4%C5%C0%EE%20%CE%D1%C2%C0%CF%BA 冷たそうに見えて心は純粋 ■日本分断YAOYOROZ■ 狛江・奈々子(こまえ ななこ) 茶髪の外ハネ、うすピンクの口紅をした女子高生。 明るくて少し天然が入った帝神学園に所属する16歳。 両親を暴走したヤオヨロズに殺され、 全てのヤオヨロズに統制装置を接続するという政府の方針に同調し、帝神学園に入学した。 使用するヤオヨロズは電磁投射砲を内臓したガンブレードを武装に持ち、 細いシルエットを持つ「シグナルフェイバー」 http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B9%FD%B9%BE%A1%A6%C6%E0%A1%B9%BB%D2 日本分断YAOYOROZ〜帝神編〜とかあったら主人公であろう人 今回は名前だけ登場 ■日本分断YAOYOROZ■ 雪野 清奈(ゆきの きよな) 十四歳。帝神学園所属、白髪の少女 動きやすい服装を好み、制服の時もスカートの下はスパッツ 口八丁手八丁、とにかくすばしっこくて落着きがない 憧れの先輩は 、もちろん狛江奈々子 ヤオヨロズ「ハクト」 装備系のヤオヨロズ。白いブーツの形をしていて、ジェット噴射で凄まじい脚力を生む 飛行も可能。加速しての一撃は、コンクリートの壁を粉砕する http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%C0%E3%CC%EE%20%C0%B6%C6%E0 同じく名前だけ登場 ■日本分断YAOYOROZ■ 叶 神子(かのう みこ) 帝神学園中等部2年生の少女。 黒髪のセミロングで赤い髪どめをしている。 歳のわりに身長が低く小学生のようにちまい娘。 見栄を張って中等部用の制服を着ているが、 袖が長いためにキョンシーのようになっている。 広域探索ヤオヨロズ「テンシュカク」 向かい合う二匹の巨大なシャチホコの間に畳が一畳あるという特異な姿をしている。 テンシュカクは出現させると自力で移動できないので、 通常は建物の屋上などで使用する。 テンシュカクは広域探索の他にヤオヨロズを介したテレパシー能力も併せ持ち 戦場の司令塔となる素質を持っている。 http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B3%F0%A1%A1%BF%C0%BB%D2 相変わらずナビ子さんとして登場