■東方大陸史■第一章「暗黒の生まれ」 「西より訪れた魔物達は穢れた地へと棲みついた。  かの魔物達の首長は"神"を自称し、我らの神を貶めた。  我らは集い、かの魔物達の首を神に捧げんが為、勇者達は穢れた地へと向かった。  その日より、我らに朝が訪れる事はなかった。」 −−白闇大山脈に棲まうデリッタ族の古老の口伝より−− 暗黒歴元年。 暗黒の神ダークエルダーは多くの眷属を率いて、東方大陸中部へと上陸した。 ダークエルダーは付き従う二人の賢者の進言により 現地部族達に"穢れた地"と忌み嫌われていた不毛の地へと向かい そこに粗末な神殿を建て、眷属達は神殿を守るかのように集落を作り始めた。 これが現在、暗黒の国の首都となっているルシフェニアの始まりといわれている。 そして、ここから暗黒大陸の長い歴史が幕を開ける事になる。 しばらくするとダークエルダー達は近隣の部族達と交流するようになった。 珍物との物々交換からなる商行為から始まり、やがて仲が深まると ダークエルダーの娘達が次々と諸部族の有力者達へと輿入れしていった。 娘達は夫にダークエルダーへと帰依するよう説得し、一部の小部族はこの時に ダークエルダーへの信仰を誓い、その影響下へと入る。 現在、暗黒の国で大貴族と呼ばれる者達は、この時従った者の子孫が多いと言われている。 東方大陸へと土着し、静かに勢力を拡大するダークエルダー達であったが 当然、それを心良く思わない者も多かった。 当時最大の勢力を誇ったデリッタ族は、災いの芽は早期に摘むべしとばかりに 周辺部族へ檄を飛ばし、千とも五千とも云われる大軍勢でルシフェニアへと進軍を開始した。 当時、暗黒神とその眷属達は、争いを嫌う腰の低い臆病者と称されており デリッタ族のこの行動は、軍を動かせばダークエルダー達は容易に屈服し、貢物を捧げるだろうと 考えての事だった。 が、予想に反して暗黒神とその眷属達は、徹底抗戦の構えを見せルシフェニア周辺の住民を すべて神殿へと避難させ、籠城の構えを見せる。 その数は百にも満たない小勢であり、デリッタ軍は何らの苦もなくルシフェニアを包囲した。 暗黒神側についた諸部族達は自らの滅亡を予見し、皆涙したという。 ルシフェニア包囲より一月、業を煮やしたデリッタ族長バック・スペッタはついに総攻撃の檄を発し 機械の兵達はこぞってルシフェニアの頼りない防壁へと群がった。 ダークエルダーは防壁へと上ると、攻め入るバック・スペッタに語りかけた。 「貴方は暗黒が嫌いのようですね、では光はお好き?」 バック・スペッタは威勢よく「当たり前だ。暗く恐ろしい闇など誰が好きになるものか」 それを聞くとダークエルダーは手を上げ、人差し指を回した。 すると、途端に辺り一面の暗闇がルシフェニアを包み、代わりにルシフェニアを包囲していた デリッタの軍勢に眩いばかりの光が注がれた。 そして強すぎる光はデリッタ族とそれに従う諸部族達の目を完全に殺した。 それを見たダークエルダーがもう一度人差し指を回すと、暗闇と光明は溶け合い、明暗は元の状態へと戻った。 ダークエルダーは振り向くと、後ろに控えていた二人の男性に 「これでいいの?」 と笑みを見せる。 二人のうち、白衣の青年が応えた。 「上出来。後は我らとお嬢様方と婿殿達に任せて、眠っていなさい」 青年にそう言われるとダークエルダーは黒衣の老人に連れられて神殿へと戻って行った。 残った白衣の青年は、"お嬢様方"と呼んだ化物のように巨大な機械の兵達に指示を出した 指示の内容は言うまでもないだろう。 目のつぶれたデレッタ軍に対し、ルシフェニアより現れた 陸妖ベヒモラント、空妖フレスレイド、海妖アビシラスを筆頭とした暗黒の眷属達は 一斉にその牙を向き、何が起こっているかも認識できずにデレッタ軍は壊滅した。 デレッタ族側についた諸部族の悉くが死に絶え、デレッタ族自身も南の果ての小部族に落ちぶれ その力を見せつけられた多くの部族が暗黒神の教えの前に膝まづいていった。 そして相容れぬと、あくまで土着の神と習慣を守る者達は東へと堕ちて行った・・・ 次章予定「暗黒教の西方征服と闇の国受難の歴史の幕開け」