■東方大陸史■第二章「暗黒教の西方征服と闇の国受難の歴史の幕開け」 「暗黒神に導かれてより700と60と2年。  この年、ラカリハ王は美しきランペル川を渡った。  そして異教の王たちを放逐し、その領土をわがものとした」 −−『西方布教録』序文より−− 暗黒歴762年。 東方大陸中部において絶大な勢力を築いたダークエルダーだったが いつしか、その歩みを人に委ねるようになり、困った部族の長達は話し合い その結果3つの王を立て、ダークエルダーは三人の支配者に王冠を授け、その権力を明け渡した。 そして生まれたのが <<清き葉の王国>>ラカリハ、<<大いなる王国>>アレクニア、<<水温かな王国>>ミナーニャ の暗黒三王国と呼ばれる国々ができあがる。 三王は、よく力を合わせ暗黒の領と信仰を増やしていったが これもいつしか相争うようになり、混沌とした時代がしばらく続いた。 やがて、アレクニア女王ラトメアとミナーニャ王ウルの子ラトギニ・グローデアが ラカリハの王となり、両親の死後に全ての敵対者を攻め滅ぼし、三国の王位を継承し 暗黒の地は清き葉の元に統一される。 それまで争ってきた三国の統一によって、その力は全て外に向けられる事になる。 統一の報告を受けた暗黒神は騒乱の世の終わりを喜び、ラカリハ王へ使者を遣わした。 その内容は以下のとおり 「暗黒の信仰深き神の恩恵者で在らせられ、  神の忠実なるグロー族の戦士ラトより49代目の信仰と忠誠の継承者、  強大なるラカリハ及びアレクニア、ミナーニャの君主であり  白き砂の山と金世界の川の支配者であられる国王ラトギニ・グローデア陛下。  この度は、三国同君による暗黒世界の秩序の回復、真に祝着至極に存じ上げます。  恐れ多くも神におかれましても、今日の報を大変喜ばれ、  これよりグローデアの血筋が絶える事はなく、その臣民の血もまた信仰と忠誠ある限り  永遠となるであろう、との大変涙がでる程の有り難き御言葉をいただいて参りました。  これで闇の祝福もさらに深く遠きものとなり、国王陛下の治世も益々安寧たるものとなるでしょう。  しかしまぁ・・・その・・・恐れ多くも神におかれましては今日の事は真に僥倖であれど・・・も  未だ、金世界の川より西方の地には、真の信仰を知らぬ無辜の者達であふれている事を・・・  大変お嘆きになられておりまして、暗黒が漆の如く輝かしき今、深遠なる信徒たる国王陛下へ  神は・・・神は金世界の川を渡る事をお願いなさいました。」 使者の口上を聞き終えたラカリハ王は使者に尋ねる。 「祝辞の御言葉確かにいただきました。ところでご使者よ。金世界の川を渡り  信仰を広げよという旨は、命令ではなくお願いである事に相違ないか」 「相違ございません。神は命じる事を好みませんので・・・」 使者の回答を聞き終えるとラカリハ王は席を取り巻く諸侯等に告げる。 「神の願いは以上のとおりである。諸侯等の意見は如何に?」 すると、丸で示し合わせていたかのように全諸侯が立ち上がると高らかに剣を掲げる 「西方に慈悲の闇を!」「信仰の尊さを西へ!」「全盲なる者達に真理を!」 「ただ神が為に!」「異教に正教を!」「暗黒の仰せのままに!!」「西方征服!」 「「西方征服!!」」「「「西方征服!!!」」」「「「「西方征服!!!!」」」」 諸侯等の怒号にも似た咆哮を浴びたラカリハ王は、自信に満ちた表情で諸侯に 西方の征服を宣言し、直ちに諸侯の軍勢を参集させ 自らの軍と合わせ、総勢七千の大軍を率いて金世界の川<<ランペル川>>を渡った。 布教と征服の時代の幕開けである。 一方その頃・・・ 「輝かしき光より900と20年。  主の恩寵深きメドオール王テネギオル・クリス・メドオールは  騎士達を引き連れ海を越え、黒き豊穣の地テネブールへと足を踏み入れたが  多くのオール人と蛮族の血が流された。そして王はその地で死んだ。」 −−『古メドオール略史』より−− 暗黒歴765年。 東方大陸東部は、王国が乱立した中部や西部とは違い 未だに諸部族が跋扈する地域であったが、肥沃な大地は人々から争いを失わせ 四季折々な気候は誇らしき文化を各地に花開かせた。 そして、この地を訪れたオール人の旅人は彼の地の豊かさを祖国へと伝えた。 国の名はメドオール<<オール人の作りし国の意>>。 メドオール王国は中央大陸ガトリング半島を国土とし、水運と豊かな山林と平原に恵まれた 美しき国だったが、流行り病によって国中で人が死に、さらには愚王が相次ぎ、美しかった国土は 見る影もなく衰えていた。 そんな故国を顧み新たに王に即位したメドオール王テネギオル・クリス・メドオールは 旅人からもたらされた黒き豊穣の地の様相を聞くと その地をテネブール<<オール語で闇の地の意>>と名付け、彼の地の富を持って かつての王国を蘇らせようと考えた。 ヴェネア商人から船を借り、メドオールの軍勢は海を渡り東方大陸東部へと上陸。 突如として現れた異国の軍勢を前に、現地の部族達は碌な抵抗もできずに駆逐され 多くの宝物がメドオールへと運ばれる。 勝利に沸き立つメドオール人達は、次の宝を手にすべく南へ南へと進軍していく。 ここまできて、やっと事の重大さに気付いたアリー族の王マケナイは諸部族に連合して この危機に対抗しようと呼び掛けるが、誰も応じる事はなく それどころかメドオールになびき、対立する部族と争う者まで現れ始める。 アリー族単独での迎撃を余儀なくされたマケナイは、ゲッソリント平原へと向かい その地で、メドオール人達を迎え撃った。 戦力比はアリー軍七十に対して、メドオール軍八百。 さらにメドオールは平原での機動に適した騎士型のSDロボが主体なのに対し アリー軍は鈍行な戦士型が主体という有様であった。 アリー族王マケナイ自身、この戦いに勝てるとは思っていなかったらしく 自分の死後は、メドオールに降伏するよう妻に語っていたという。 そして戦は始まり、あっという間にアリー軍は蹴散らされ マケナイは一人奮戦するも、メドオール人を8人道連れにした後、その首を刎ねられた。 勇猛な王として知られたマケナイの死によって 益々、抵抗する気を削がれたテネブールの諸部族は次々とメドオール王へ臣従を申し入れたが 余りに苛烈な税の搾取に、すぐに怨嗟の声があふれた。 そんな中、忠誠の証に娘を差し出したが、1 年もたたずに娘が死体で帰ってきた事に激怒したハサーラ族王ファウズは 想いを同じくする同志を募り、闇夜の中で行軍していたメドオール王に夜襲を仕掛けた。 不意の反乱に動揺したメドオール軍は、王を守る精鋭を除き皆混乱に陥り 反乱軍は王の首のみを狙い襲いかかり、遂にメドオール王を討つ事に成功する。 指導者の死にメドオール人達はあっという間に北へと逃げ去り そしてテネブールは平和を取り戻したかにみえたが 争いを覚えた者達は、次々とそうではない者を殺し 東方大陸東部は群雄割拠の時代を迎えてしまう。 そして、王を失ったメドオールは王の一人娘ミリアムが新しく王に即位したが 母の遺体がテネブールの地に残されていた事に触れ 再度のテネブール遠征を命じたが、重臣諸侯の反対を受ける。 「先王の亡骸は、あの闇の地に残されたままではないか!」 とミリアムは激昂したが、先王が持ち帰った宝物の大半は狡賢いヴェネア商人に奪われ さらには北と東より蛮族の襲来を相次いだ事から、とても遠征できる状態ではなく 結局、母に会う事叶わず、ミリアムは終生蛮族から祖国を守る戦いに身を投じ その命を終える。 だが、ミリアムは最後に 「我が後継者は必ずや闇の地を平定し、亡きクリス王の魂を鎮魂せしめよ」 と遺言して亡くなった為に、テネブールの征服は国家の悲願となってしまい 失敗すればするほどに、その熱はより高まっていった。 次章予定「二つの大陸、二つの宗教、二つの国家、それ故の、一つの大戦」