殺人者設定&サイオニクスガーデン犯罪者設定勝手にFSSS 『シャドウインユアハァト』 ■登場人物■ 呪井日影(設定文略) …影術使い。サイオニクスガーデンに捕らえられた後、自決した。 呪井千代(オリジナル)…日影の母。 呪井闇慶(オリジナル)…蝉慈、幽影の父。故人。 呪井幽影(設定文略) …式神使い。蝉慈の弟。魂を宝玉に移し生きながらえている。 呪井蝉慈(設定文略) …呪術者。幽影の兄。 コトリ・ベルンスキ 日本人とロシア人のハーフで12歳。黒色と灰色が混じった長髪に緑色の眼。 ロシアの富豪の両親のもと、心身ともに何一つ不自由しない家庭で育った明るい少女。 しかし10歳の誕生日、「複数の他人の自由を奪い、自在に操れる能力」に目覚めてからは殺人狂と化す。 親兄弟に殺し合いをさせたのを始め、2年間で日露2ヵ国で合計2500人を間接的に殺害。 現在、彼女は警視庁地下500mにある高出力PSY抑制機付き拘束室で監禁されている。 殺戮の動機は「たぁーのしいぃからさぁぁぁー♪あははははははははぁー♪」 ピロシキが大好物。ピロシキ食ってる間は能力発動できない。 捕縛されたのもピロシキ屋台の前である。 ------------------------------------------------------------------------- 荒れ切ったビニールハウスの立ち並ぶガタガタのアスファルト道、夏に見たままの朽ちたドラム缶は 侘しい田舎の風景を赤錆色に彩る。田舎と都会では時の流れが違うというが、まさにその通りだ。 視界半分を染めていた草木の緑色が、枯れ草の茶色に変化した以外になんら変わったところはみられない。 ここから先は道幅も狭まり、車を停める場所もない。蝉慈は溜息をついて着古した革のジャンパーを羽織る。 草臥れた牛革は蝉慈の体を優しく包み込み、吹きすさぶ空っ風から蝉慈を守ってくれるが、それでも冬の寒さは蝉慈には応える。 近所の量販店で買った一個千円の薄っぺらいニット帽を被り、意を決してドアを蹴り開ける。 「…これだから冬は嫌いなのだ。嗚呼、全く嫌になる。早く春が来てくれんものか。」 そこまで言ったところで、夏ごろにも同じ台詞を吐いていたことを思い出す。 幾ら人が抗おうとしても抗えぬものは大自然である、などとくだらないことを考えながら、かろうじて舗装された山への道を歩く。 ここからキャンプ用の広場までの道が厳しいのだ、下手に整備されているがゆえに風をさえぎる木々もなく 海から流れる風が直に身を切り刻む。 森は聖域のごとく静寂に包まれている。静止した空気の中響くのは小川のせせらぎだけ。 好き放題に枝を伸ばした木々の隙間から差し込む冬の白い光は、見慣れたはずの山道の表情を一変していた。 …が、寒がりで暑がりの蝉慈にとってはそれどころではない。早いところ目的地に至って熱い玉露の一杯でも出してもらわねば、 凍え死んでしまいそうだ。速足でハイキングコースを駆け上がってゆくと、老夫婦とすれ違った。 軽く会釈をするやいなや、張り出した根や不規則に並ぶ岩をものともせず、韋駄天のごとく昇ってゆく蝉慈を 老夫婦は驚きの眼で見つめたが、蝉慈にはいちいち気にする余力も残っていない。 登りに登って二時間、ハイキングコースから少しばかり離れたところに佇む庵の前に蝉慈は辿り着いた。 人の気配がしない割に、軒先はきれいに掃除されているし傷んでいる様子もない。 蝉慈は玄関前に仁王立ちになり叫ぶ。 「幽影!開けろ!俺だ!」 「あ、兄さん久しぶり。」 頭上から返答されて蝉慈は思わず仰け反る。見上げると着流し姿の男が羽織も纏わずに瓦屋根に寝そべっている。 肉体が死していながらもまだこの世に在る外法者にして蝉慈の実弟、呪井幽影である。 「鍵を開けろ、凍え死んでしまいそうだ。」 「まぁた大げさな。」 乱暴に戸を開け駆け込んでも、庵の中はまだ寒々としている。殺風景ながらも整頓された庵の中は、風は入らぬまでも 外と変わらぬ温度である。人の感覚を持たぬ式神と化した幽影には一切の冷暖房設備が必要無い。 必要が無いのだから勿論持ち込んでもいない。 「七輪でも何でも良い、暖をとるものはないのか。」 「不要なものは溜め込むと気の流れが澱むとか言ってただろう。」 天井裏から染み出すようにして室内に戻る幽影。 少し会わぬ間に核である宝玉と分離するのみならず、壁をもすり抜けられるようになっていた。 「ならせめてその見るだけで寒々しい恰好を止めてはくれんか。季節を忘れるという事は人としての  感覚を鈍らせる。感覚が無かろうが冬は冬らしく、夏は夏らしく振る舞うべきだ。」 「物言いが段々父上に似てくるね。嗚呼、歳はとりたくないもんだ。」 羽織姿に足袋を纏い、多少は温かい格好になって幽影は軽口を叩いた。 「我儘な眷族二人と生活を共にしてみろ、お前もこうなる。」 「あ、籠目君と絶葉ちゃんは元気?」 蝉慈はひょんな事から眷族となった男女と都内某所で生活を共にしている。 二人とも極めつけの野生児であり、パートナーとしてまともに行動が出来るよう苦慮しているのだが、あまり効果は上がっていない。 「町中を連れて歩けぬほどに元気だよ。」 「はは、じゃあ相変わらずだ。いいなぁ賑やかそうで。あ、お茶いる?」 この庵には電気ポットなどという気の利いたものは存在しない。当然湯から沸かすのである。 「是非もない。頼む。」 井戸水をくみ上げて薬缶に注ぎ、タンスの奥からガスコンロを引っ張り出して温める。 ちゃぶ台の上にガスコンロと薬缶が載っている光景はまこと滑稽であるが、これ以外に手早く火を起こす手段が無いのだから仕方ない。 足を崩して畳に寝転がる幽影、蝉慈はちゃぶ台に寄り添ってコンロの火で手を温めている。 「もうちょっと肉つけた方がいいんじゃあないかい。今年は木々が色づくのも早かったから、寒い冬になりそうだ。  兄さんみたいな痩せぎすにはきっと骨身にしみるだろうよ。」 噛みつかんばかりの勢いで顔面をコンロに近づけ凝視する蝉慈、暖を取ろうと火に近づいている訳ではなさそうだ。 「…お前こそきちんと飯は食べているのか。」 幽影は飯を食わずとも睡眠を取らずとも、宝玉でさえ無事であればこの世にとどまってはいられる。 とはいえ、それなりに人らしく振る舞うには形だけでも人の日常をなぞって行かねばならない。 姿かたちが人間と認められようとも、人の営みが出来ぬようでは、それを人と呼ぶのは躊躇われる。 薄く埃の積もったガスコンロを見て、蝉慈は少し不安になった。 「二日に一度は。」 「二日に一度、三食か?」 「いや、一食だね。白飯と味噌汁の質素な…。」 蝉慈は無言で立ち上がり、勝手口の方へと向かう。土間に据え付けられた竈に古風な鍔鍋が鎮座している。 蓋を開けて中を覗き見るが汚れ一つ無い、これならOKだ、ある程度の頻度で使われている可能性が高い。 と、鍋底から幽影の顔が浮かび上がってくる。 「昨日洗ったばかりだよ。」 「妖怪じみた真似をするな、馬鹿者。」 蓋を叩きつける。鍋の中に篭もるくすくす笑いは、己の弟ながら異様である。 これだけでは幽影がしっかりと食事をしているという証拠にはならない。辺りを見渡しても使用済みの食器の一つも見当たらない。 いくら暇を持て余しているとはいえアヤシイ。更に注視すると食器の納められた戸棚の「さん」にはうっすらとほこりが積もっている。 これは更にアヤシイ。戸棚の脇に置かれた米櫃をチェックする。…ビンゴだ。 「お前、なんだこれは。」 半分以上残った生米の上に蜘蛛の巣が張っている。 蜘蛛の巣の下に見えるのは白と黒とのまだら模様…コクゾウムシが大量に湧いているのだ。 これを見て二日に一度白飯を食っているとはとてもではないが信じられない。 「おい、なんだこれはと聞いている。答えろ。」 幽影はどこかに潜んだまま何も答えない。蝉慈は戸棚に置いてあったチャッカマンをガンマンのごとく構えた。 「ほう、いい度胸だ。家ごと燻り出されたいらしいな。」 「ちょっと!大事な本が焼けたらどうす…あ、いや。」 堪らず引き出しから飛び出してきた幽影、蹴りで閉じ返してやると、体を挟まれた彼は「ぐえ」と情けない声を上げた。 その隙に二階へと駆け上がる蝉慈。彼はそこで驚くべき光景を目の当たりにした。 「一体…これは…!?」 庵の二階は襖で間仕切りされた二十畳ほどの広い客間になっている。 玄関側からは見えぬ三方には障子窓が拵えられており、それぞれ鬱蒼と茂る山林の景色、裏庭側の整然とした竹林の景色、 そして緩やかに下る木々の隙間から聞こえてくる小川のせせらぎを楽しめるようになっている…はずなのだが。 いつのまにやら背後に立っていた幽影が頭を掻き掻き応える。 「いや、最近暇つぶしに漫画やら娯楽小説を読むようになってね。そうしたら意外や意外、あんまりにも面白いもので  つい買い漁ってしまったんだ。」 「買い漁ってしまった、で済まされる量ではないだろう!お前…俺の仕送りを…こんな…。」 山中でも風流を楽しめるように作られた障子窓は三方全て書籍の山に埋もれている。 いや、三方どころではない、わざわざ職人をこの山奥まで呼びつけて張り替えたはずの畳も全て雑誌や書籍に埋まって 一片たりとも顔を見せてはいない。 「兄さんが暮れる仕送りが、食費にするには余りにも多いものだからさ。少し他の事に使ってしまおうかと思った、というのもある。  ほら、見てくれよこれ、ニンテンドウディーエスアイにピーエスピーゴーだ。最新機種だよ。充電のために山を降りなければならないのが  やや不満だけれど、とても面白い。日本が娯楽立国と呼ばれる所以が垣間見えたような気がするよ。」 「食費を削ってまで蒐集するようなものかよ、この戯け者が!」 「失敬な!削ったんじゃあない!全部使ったんだ!」 蝉慈は脱力して本の山に腰かけ、深い、それはもう己が生気をすべて吐き出してしまわんばかりの、深い、溜息をついた。 「おお…血縁がニートになった者の悲しみが、今はっきりと理解できた気がする…。」 「まぁそう気に病むことはないよ兄さん、書物で以て人の行いを学ぶのもまた、人であるためには欠かせぬことだ。  中にはフィクションも混じってはいるけれど、フィクションですらも人の心でなければ作り得ぬもの。  世の中に無駄なことなど無いんだよ兄さん。…あと今すぐ二歩前に逃げた方がいい。」 「ナヌ?」 「僕はそれに何度か殺されかけている。」 着座の衝撃は如何にも微々たるものであったが、不安定な書物タワーを突き崩すには、最低にして充分であった。 そして爽やかな秋に惨めな最期を遂げる… 事はなかったが。  * * * * * * * * * * * 「それで今日は一体どうしたんだい?まさか僕の食生活を警告しに来たわけではないだろう?」 ニット帽を被っていたおかげで自慢のスキンヘッドに傷がつくことはなかったが、蝉慈の心には大きな傷がついたようだ。 この世の終わりのような顔をして幽影の方を見ようとすらしない。 熱されきった薬缶は未だ冷めず、注ぎ口から白い湯気を吐いている。 「仕送りを当初の目的を外れて使ったのは謝る、嘘をついたのも謝る。この通り。」 土下座の姿勢のままふわりと浮遊、空中回転し天上に頭を突いて土下座する幽影。アクロバチックである。 「いいから地に降りろ馬鹿者。怒ってはおらん。」 過たず天井から降り座布団に着座する。 実を言うと幽影には蝉慈の訪問の理由に、大体の見当が付いている。 「…誰か死んだね?」 無言で頷く蝉慈。しゅうしゅうと音を立てる薬缶を見つめる二人。どちらも口を開かない。 「…で…誰が?」 切り出したのは幽影だった。 生業上、知人の死はそう珍しいことではないが、何時までたっても慣れるものではない。 「分家筋だ。日影、という名に聞き覚えはあるか。」 「あるも何も、千代叔母さんの所の一人息子じゃないか。昔一緒にトランプして遊んだだろう?」 「ん?なんだ、お前会ったことがあるのか?」 「その場に兄さんもいただろう!?お爺様のお葬式の時だよ。ホントに覚えてないの?」 蝉慈は記憶を辿ってみる。祖父の葬儀の際、叔母に連れられてやってきた見知らぬ子供… 可愛らしい顔だちとピンクのスカートが印象に残っている。確か幽影の部屋でババ抜きをやった… 「あれは女ではないか。」 「違う違う!女の子の恰好させられてただけなんだよ。」 「なんだと?」 今まで名前も覚えていなかった親戚の、予想もしていなかった秘密を知って蝉慈は複雑な気持ちになる。 蝉慈が忘れているのも無理は無い、千代とその息子の日影は本家である父の屋敷に全くといって良いほど顔を出さなかったからだ。 親戚一同が集まる年中行事にも夫だけを遣り、千代と日影は来なかった。日影と彼らが会ったのは祖父の葬式一度だけである。 当初は不思議に思っていた彼らだったが、誰に聞いてもまともに答えを返してはくれないので自然と忘れていった。 「千代叔母さん、父上ときょうだいとは思えないくらい良い人だったけどさ、ちょっとおかしい所があったみたいなんだ。」 日影の訃報を聞くまで存在すら忘れかけていた分家筋だったが、叔母の顔だけは鮮明に覚えていた。 父の居ぬ間に弟の読んでいた本を取り上げて廊下を駆け回っていた時、ぶつかってしまったきれいなおばさん。 尻もちをついた蝉慈とぜいぜい言いながら追いついた幽影を見た瞬間のその表情。 嫌悪するような強張りから、ふと顔が緩み、別の緊張感が表情を覆う。哀しさとも、愛情ともつかぬような。 「ごめんなさい」を言うよりも先に叔母は二人を抱きしめ、優しく、諭すようにして二人の耳元に囁いた。 「きょうだいは仲良くしなきゃ駄目よ?」 その言葉はまるでおまじないのように二人の心に響き、ついさっきまで喧嘩をしていた二人はそれを深く恥じた。 幼い内に母を亡くした二人には、その抱擁と囁きに母の香りと温かさを感じたのだった。 幽影の言う事が本当なら、その直後に二人の元に駆け寄ってきた物静かな女の子こそが 叔母の一人息子「日影」という事になる。 幽影の放った「ちょっとおかしい」という言葉がトゲのように蝉慈の心に刺さった。 「ずっと女の子が欲しかったらしくて、自分の腹に呪法をかけてまで女の子を産もうとしたんだけど…。」 「上手くいかなかったのか。しかし、お前詳しいな。誰に聞いたのだそんな事。」 「父上に直接。聞いたっていうか、話してくれた、っていうか。あんまり楽しい話じゃないんだけど、聞きたい?」 「まぁ親父殿も死んでいるわけだし、誰に咎められる訳でもあるまい。話してくれ。」 「うん、じゃあまず、父上と千代叔母さんの確執について話そうか…。」 ------------------------------------------------------------------------- 後継者として幼少より厳しい修行を積まされてきた蝉慈達の父「闇慶」とは違って、叔母の千代は祖父に溺愛され 箱入り娘として何一つ不自由なく育った。呪法に関しては殆ど修行の必要の無い護身用の式神などの 初歩中の初歩しか教えられていないし、望むものは何でも買い与えられ、食事ですらも兄より優遇されていた。 呪井一族の女児は総じて親よりも強い呪力を持ち、またそれ故に若いうちに力を暴走させ死に至る事が知られている。 本来であればそれを防ぐために力をコントロールするための修行をさせるはずなのだが、祖父はそれをしなかった。 呪力の扱いに慣れることこそが、眠っている呪力を呼び覚ますきっかけになると確信していたからだ。 故に祖父は極力呪術から娘を遠ざけたのである。祖父の目論見は成功し、千代は二十歳を過ぎても呪術の才能を 開花させることなく、普通の女性として成長した。 しかし、祖父が行っていたきょうだい差別は、千代と闇慶の間に溝を作ってしまった。 幼い頃からのスパルタ教育に耐え、一度も祖父の笑顔を見たことのない闇慶からすれば、父の愛を一身に受けて育ち なんでも望むままになっている妹が妬ましくて仕方が無かったのである。 千代は千代で己を恨むようにして睨みつける兄を気味悪がり、近寄ろうとはしなかった。 決定的な決裂は千代が二十歳の頃、祖父が呪井家の生業を千代に打ち明けた時だった。 呪術者の家系とは思えぬほどに真っ当に育った千代には、人殺しで金を稼いでいる父と兄は軽蔑すべき対象であった。 己の家系を呪い、癇癪を起こしたかのように暴れ回る千代を押さえつけたのは闇慶だった。 彼の扱う式神に抗うことすら出来ず組み伏せられ、冷やかな嘲笑を向けられた千代の心境は如何なるものだっただろう。 彼女が家を飛び出したのを女中に知らされた闇慶は「やっと穀潰しが消えた。」と笑みを浮かべたという。 慌てふためいた祖父はあらゆる伝手を用いて探したが、彼女の行方は杳として知れなかった。 呪術から逃れるための護身の方法を授けていたことがここにきて仇となったのだ。 そして千代は呪井家から完全に姿を消した。 呪井家の元に一人の男が駆け込んできたのはそれから十年以上後、幽影が生まれて間もなくの頃だった。門の前に土下座して動かない男に、 散歩から戻った祖父が事情を聞く。彼が泣く泣く語るところによると、彼の妻が自身に呪いをかけて、孕んだ子共々死に至りそうだというのだ。 祖父は困惑した、殺し屋として有名な呪井家に何故解呪の懇願に来るのか? 詳しく事情を聞くと、驚くべきことが解った。男の妻とは十年以上前に出奔した千代のことであった。 男も占術者の端くれであったので解呪を試みたが、余りにも強力な呪いゆえ手を出すことが出来ない。 そこで同じ血筋である呪井家を頼ったのだ。本来なら千代を匿っていた男はその場で殺されて然るべきなのだが、 祖父の心中は最愛の娘が見つかった喜びと彼女を助ける気持ちによって満たされ、何の咎を受けることも無かった。 千代は朦朧とする意識の中でも父を拒絶していたが、彼によって己と子の命が救われたことが解ると涙を流して再会を喜んだという。 彼女は怒りに駆られて家を飛び出したことを詫び、祖父は両手離しで彼女を受け入れた。 長年の親子の断絶はここに解決を見たのである。 祖父は闇慶に千代が見つかったことを告げ、彼女の一家を呪井家に迎え入れたいと提案した。 その喜色満面の祖父の様子が、闇慶の若かりし頃の苦い思い出の数々を呼び起こさせてしまった。 普段は祖父の言うことを尊重する闇慶もこの時ばかりは猛烈に反対し、己の意思で家を出て行った千代に呪井を 名乗る権利は無く、一族と交流を持つことも許さないと主張した。しかし代を譲ったとはいえ、未だ発言力のあった祖父は 分家筋を含めて一族全体に根回しをし、更に彼女の夫を婿養子として迎え入れるというウルトラCまで駆使して 千代を呪井家に復帰させたのだ。 祖父がおせっかいで開いた、千代夫婦と闇慶の会食はそれはそれは地獄のような光景だったという。 幸い千代の夫と闇慶は馬が合い、それなりに会話も弾んだのだが、肝心の千代は全く口を開こうとはしない。 闇慶も闇慶で千代が口を開くとひたすら黙り込み、彼女の方を向こうとすらしなくなる。同席した千代の夫と祖父は気が気ではなかっただろう。 そして用事があるといって席を立とうとした闇慶を必死で留めようとする二人をよそに、千代はとんでもない告白をした。 『何故私が己の体に呪いをかけたのか解りますか?呪井家の男児って言うと、私どうしても貴方を思い出してしまうんです。  ずうっと私の事を仇でも見るような目をして睨み付けている。この人に似てくれればいいけど、私に似たら呪井の男の顔になるわけでしょう?  もしかすると貴方みたいな顔にならないとも限らないじゃないですか?そんなの、私耐えられないもの。  女の子だったら、その心配はないものね。私に似てきっと綺麗な子になるから。まぁ上手くはいかなかったけれど。』 千代の夫も祖父も恐るべき速さで印を結び呪文を唱え、呪いがどこに飛び火することも無いよう完璧な防御を敷いた。 料亭の一室が、突然絶対零度に変わってしまったかのごとき静寂に包まれる。 もし父が本気を出せば、衰えた祖父や彼に数段劣る千代の夫では太刀打ちできない。相打覚悟どころか一方的に嬲られて 三人とも悶死するのが関の山である。静寂を破ったのは闇慶であった、異常な緊張が走る。 『二度と俺の前に顔を出すな。呪井の面汚しめ。』 『そうさせてもらいます、闇慶さん。』