日本分断YAOYOROZ勝手にFSSS(ファンショートサイドストーリー) 『姫ちゃんのリボン』 ------------------------------------------------------------------- 20XX年、世界は蒼き光に包まれ、ありとあらゆる幻想が少年少女の体を借りて溢れ出た。 そんな、我々の住む地球とは少しばかり位相のずれた、アナザー・ワールドのお話。 日本国京都府のとある山中に聖護院学園は存在する。 超先進国でありながら無様にも内戦状態に陥った我らの日本は、その領土を東西に分割し、終わることのない睨みあい (と、小競り合い)を続けている。ありとあらゆる欲望を腹の中に詰め込んででっぷりと膨れ上がったアダルツの代わりに 血を流すのは、ありとあらゆる幻想を顕現させる力を持ったチルドレン。聖護院学園はその絶大にして不安定極まりない 力を華奢な身の内に秘めた、恐るべき子供達を教え導く為のしるべとして、或いは強靭なソルジャーを作り上げる養成所と して、西日本政府がやんごとなき方々の御力を賜って作り上げた……学園である。 そう、学園なのである。 上記の内戦云々は今ここではどーでもいいのである。 学園、学園。小学校でも中学校でも高等学校でも尋常小学校でも大学校でもなく学園である。 「学園」とは何ぞや?賢明にして愚鈍なるとしあき諸兄もその生涯において義務教育を受けなかったという事はなかろうから、 「学校」という組織については多少の知識を持ち合わせてはいようが、さて果たして「学園」とは? 手持ちの電子辞書をば紐解いてみますれば「学校の異称。私立で下級から上級までの幾つかの学校を含む組織をいう場合が多い。」 とのことである。成程成程、小学校から高校までだとか、幼稚園から中学校までだとか(あるのか?)幾つもまとめたもんである事だな。 更に成程、聖護院学園の設定群を見渡してみますれば一目瞭然、下は十三歳から上は十八まで。 中学校から高等学校までの、色々溢れ出ちゃうようなキッズが溢れかえっている訳だ。 さてさて色々溢れかえっちゃうようなキッズが幾人も集まりますれば、其処に生まれるのは何であろう? 遊興友情?然り。青春熱血?然り。喧嘩大喧嘩?然り。イジメ体罰?これもまた然り。勉強不勉強?全く然り。 しかぁし、しかし、忘れてならぬは、そう、恋と愛との縺れ合い。 かの有名で偉い人も言っておられる。「男女七歳にして席を同じうせず」と。 おめー七歳で男女意識するこたあねえべさと、思わぬものでもないが、しかし的を射ていなくはない気がしないでもないかもしれぬ。 人間が動物の一種である限り、カラクリの体が欲しいと嘆いて星空に旅立ってしまわない限り、雄と雌とがある限り ややっこしい縺れ合いから逃れる事は出来ないのである。                       どどん! して、生気失い性器は錆びつきLANケーブルで以て明日にも己が命絶たんと世を儚む、筆者ととしあき諸兄の惨めにして孤独極まりない 生活とは、もう全くもって位相のずれた学園ライフが、ここ聖護院学園において営まれている。 いやしかしとしあき諸兄よ、そして俺よ、そう気を落とすことはない。優雅に泳ぐ白鳥が、その実必死に足をばたつかせているように、 お気楽極楽極まりなく見える学園生活においても、キッズは必死にもがき悩み苦しんで、泣き、喚き、枕を殴りつけているのである。 そんな彼らのぐるぐる渦巻きの、ほんのほーんの一端をば、ご覧いただきましょうか。                       どどん! ---------------------------------------------------------------- YAYOROZの力を持った少年少女を放置しておくのは、残り時間の解らないタイマー付き爆弾を放置しておくことに等しい。 クソ物騒になってしまった世の中にクソ物騒なモノを置いたままにしておくアダルツはいない。YAOYOROZの力を発現した子供達の元には 速攻でダークスーツの屈強な男達が現れて京都の山奥に連れ去ってしまう(実際はもっともっと穏やかだが、まぁ似たようなもんだ) さてここでアダルツは困ってしまう「集めたはいいけど、どうすんのこいつら?」真っ二つになってはしまったけれど、ここは天下の日本国、 三大義務から逃れらりゃあせぬ。御先祖様も言っておられる「ガキは教えて育てろ」お偉い方々も口々に仰る「教えて使えるガキに育てろ」 そんなこんなでたくさんのお金とたくさんの人とちょびっとの汚れ仕事でもって聖護院学園は完成した。 聖護院学園高等部一年八組、通称「ハンパ組」。 放課後の気だるい空気の中、帰る訳でも部活に行くわけでもなくただ若さを浪費する五人の女子! どどん! このクラスに集まるはYAOYOROZ使いとしても、参考書使いにしてもどーにも中途半端なキッズ。 学園を出れば忌み嫌われたり崇め讃えられたり拉致されたり犯罪に巻き込まれたりと大忙しの聖護院キッズも、この学園の中では 等しく生徒である。ただまぁ、等しくっつったって当然学業成績だのヤオヨロズ演習成績だの素質だので、優秀かそうでないかってのは 区別されるわけで。もとい、優秀か普通か駄目か、に区別されるわけで。 ヤオヨロズ発現者を匿う或いは隔離するという学園としての目的と、誰がいつ何時発現するか解んないというヤオヨロズの性質上、 転入生が物凄く多い聖護院学園。 いきなり自分の知らない環境にぶち込まれるというのは、青少年にとって、というか生きとし生けるものにとって物凄いストレスである。 転入なんかその最たる例なワケであって、爆弾そのものに等しい少年少女に極度の緊張を与えるのは学園の望むところではない。 故に、エスカレーター組(聖護院学園中等部の生徒)の組分け=転入者を受け入れる下地作り、にはめちゃめちゃ力が入れられている。 学力、ヤオヨロズの操縦能力、趣味嗜好、容姿その他諸々を仔細細かく調査し、その上でこいつらなら仲良くやっていけるだろうという 最終的な判断を、教師陣全員が一堂に会して年度始めの大会議で下す。 一年八組ハンパ組に期待されるのは、別に頭が良いわけでもなく、かといってヤオヨロズの扱いに才があるわけでもない 凡庸に凡庸を重ねて凡庸なキッズ達であり続けるということである。 定期テストクラス最高順位は19位、ミラクルな力を持ったヤオヨロズも無く、クラスの半数はそもそもヤオヨロズ持ちではない。 口喧しいセンセー達の追及を右から左へ受け流し、日本分断の大騒動を左から右に受け流し…しかし近くの商店街に出来た 新しいケーキ屋さんのオススメすうぃーつの話題、或いは何組の誰々の可愛さとおしとやかさに関する話題はど真ん中正面で受け止める。 そんな凡庸のスポンジに凡庸のクリームを塗りたくり凡庸という名の禁断の果実を乗っけたのが一年八組なのである! どどん! 「今この瞬間に大規模な戦闘がおこったとしても余裕で生き残りますよ、俺は。帝神?ああ、あのヘタレどもね。」 っちゅうくらいに自由自在にヤオヨロズを操り、各国のMBTとガチで殴り合っても余裕っス、或いはガチで殴り合う前に陥れられます というような超絶戦闘民族は一組。通称「トクシン組」。 「君達のような愚か者と付き合っていると、こちらまで愚かになってしまうよ。将来の夢?知識欲と権力欲を同時に満たすことかな。」 っちゅうくらいに自由自在に知識を操り、各国のMAU(メイン頭いいユニバーシティ)の試験問題とガチに渡り合っても余裕っス 或いは既に論文が学会に認められてます、というような超絶天才民族は十二組。これも通称「トクシン組」。 (YAOYOROZ使いはともかく、なんで普通に頭いい子たちまで入ってくるのかって?あんた、東側の人間だね?) (ここに入学した生徒には、超特別人生うまく行っちゃうパワーが与えられるのさ。) (誰から?って、そりゃあ、ねぇ…こう、下々のものには見る事も感ずることもできないような、その、公権ry…) そして 桃「ねー、コナーン(あだ名である)。駅前地下街にさ、新しくアクセのお店できたんだって!行こー。」光「むふふ、そう来ると思ってたの。」 湊「うちパス。金無いし。」悠「マジでー?」桃「え、知ってたの?」光「既にリサーチ済みよ!お小遣いもおろしてきたし・・・。」 この 光「見てこれ写真。てんちょーさん。」湊「え?ええ?めっちゃ若いやん!え、なにこれ!?え、てか、なんで?」 なんとも 桃「今日開店のはずなんだけど・・・。」光「昨日さ、ちょっと抜け出して開店前に突入してきたの!」 悠「マジでー、あ、お昼の後?」友「どこ行ったんかなぁ思とったわぁ。」湊「いやいやいや、今のツっ込むとこやろ。」 コメントに困る 光「これ可愛くない?」湊「あ、コナン絶対これ似合うわ。」光「何それ、小学生って事?」 どーでもいー会話を 悠「わー!ヤバいウケる!これ着けてたらコナン絶対誘拐されるよ!」友「誘拐かー…あー…矢上先輩誘拐された面白そうやんなぁ。」 悠「痴漢減るよ!痴漢減る減る!」五「あー、これいいなー、欲しい。」 延々と 湊「『ついとるわコイツー!もう世の中信じられーん!』いうてな!」悠「『攫って!私を攫って!アタシのハートだけ!』」 桃「え?何、ゴメン今何の話?」友「案外受けるかもしれんなぁ・・・誘拐の話な。」悠「目覚めるんじゃない!?」 続けているのが 悠「ヤバい!マジヤバいよ!男子も攫われる!イケメンを中心として!」光「だいおー(生徒会長の名前である)!だいおーさん攫われる!」 湊「あれやん!今流行りの・・・なんやったっけ・・・?あの男同士で絡むやつ!」「「 び ー え る 。 」」 ハンパ組の 湊「あははははは!痛っ、ははは!はら・・・よじれるっ・・・!」桃「ヤ・・・バはは!びーえるりぼん…!」 悠「このびーえるリボンお勧めなんですよー可愛くないで・・ぶふっ!」光「やめ、ははは・・・しぬ・・・」 特徴である! どどん! ヤオヨロズSSだってぇのに、ヤオヨロズのヤの字も出てこないとはどういうわけであろうか。 スポットを当て間違えて普通の高校生にズームインしてしまったのか?否、否。間違いなくここは聖護院学園一年八組である。 念のため言っておくと彼女たちもヤオヨロズ使いの端くれ即ちヤオヨロザーである(一部発現していないが)。才の無いものには目覚めることのない 特殊な力を秘めた、超能力者のような存在なのである。であるが、どうにもその使い方が上手くない、若しくは役に立たない。…正確には、興味が無い。 悩み苦しみながらも熱い志を持ち、激戦に身を投ぜんとする熱血系とは、195度反対方向に身を置いている。故に、故に、彼女達はあまりヤオヨロズの 話を振らない。ヤオヨロズを操れることは素敵でもなんでもない、新しい携帯電話の機種を手に入れたのと同等か、或いはそれ以下の扱いである。 そりゃあヤオヨロズのやの字も出てこないのは当たり前。 さてさて、だらだらとどうでもいい話を続ける一年八組ハンパ組のかしまし五人娘。いつもであれば即帰宅、乃至は即駅前商店街の流れになるはずが 何故部活動の声が響き始めるこんな時間までたむろっているのか?答えは先週恙無く終了した定期テスト(科学)の結果にある。 威風堂々の四割以下、即ち赤点。「私だけ赤点だったらどうしよう。」という五人の心配は悪い方向で杞憂に終わった。 テスト返却の日科学のXX先生の雷が一年八組に荒れ狂い、哀れかしまし五人娘+αは地獄の補修を言いつけられたのである! どどん! 彼女達の頭の出来具合はどうなのかと、問われれば… 例えば、君がいつも中位くらいの成績を取り続けている生徒だったとしよう。 ところが今回の定期テストは一夜漬けも上手くいかなかったし、ヤマ勘も大分外れてしまった…嗚呼結果を見るのが怖い、と嘆いていたとしよう。 その嘆きが単なる杞憂に過ぎなかったと安堵させてくれる存在が彼女らである、つまり「下には下が居る。」 彼女達の名誉のために付け加えておくと彼女達は、愚鈍、というわけではない。ただ、テストが苦手、なだけなのだ…。多分。 どどん…。 一年八組ハンパ組はごく一部の例外を除くと、まぁ大体全員がこんな感じだと思っていただければ幸いである。 学力テストを一夜漬けで何とかこなし(無論、何とかならない者もいる。)、部活動に全力を注ぎ(帰宅に全力を注ぐ者もいる) 天下分け目の大戦の事など0.5mmくらいしか考えていない、それが本当に愚かな事であるかどうかはここでは言及しないが。 本人たちは1mmも自覚していないことではあるし、また誰も伝えないことではあるけども、彼女らの任務は目一杯学園生活を楽しんで、 卒業して、己の道を進んで、社会に溶け込む事である。彼らはきっと「野良」ヤオヨロズ使いの良き相談相手になるし、迷える使い手の歩みを 学園へと向けてくれるかもしれない。多くの人々が経験している数々の悲劇ゆえに敵意を向けられがちな、ヤオヨロズ使いという人間を 温かく受け入れる世界を作るための、いわば種となってくれるかもしれない。 きっとそれを知った彼ら彼女らはこう言うだろう。 「かもしれないけどまぁどうでもいいよね。」 どどん! 「うっせーよ。」「何馬鹿笑いしてんだよ。」という男子達の非難をものともせず一通り爆笑を終える四人。 笑いのツボがあまり理解できなくて一人微笑んでいただけの少女「藤町 友来」が男子達にぺこりと頭を下げる。この控えめな感じとほんわかした 京都弁が一部熱狂的なファンを生みだす原因となっているのだが、本人は知る由も無い。十三歳の頃から人形型ヤオヨロズ「ムジナ」を 発現させており地味に五人のうちで一番長くヤオヨロズに触れているのだが、あまり扱いは上手くない。ヤオヨロズを御するというよりはあくまでも お友達感覚でいるからだろうか? 五「こんなん似合うのいないって絶対!」友「あれやん、お人形さんみたいにかいらしぃ子ぉ?」光「ウチらは駄目だろねー…。」 開店前のアクセショップに突入した少女「紀田 光恵」は可憐とは程遠い己の性分を思って溜息をつく。 デジカメケータイ完備、メモ帳片手にあちらこちらを飛び回り、あらゆるフレッシュな情報を駆けずり回って集めまくる。 誰に頼まれるでもなく、…じゃあ誰のため?己のためである。速さはそのまま武器になる。かけっこにしても情報にしても。 だれよりも速くがモットーの彼女、その心を忠実に再現したようなヤオヨロズを後に発現することになるのだが、それはまぁ別のお話。 今の時点ではただの、いや、尋常ではなく情報通の女の子である。 悠「あーあの子は?あの、四組だっけ。」湊「ハーフの?」 五「でも黒じゃないよね?イメージ的に。」友「可憐、ちゅう感じでもないやんねぇ。」 悠「あ、姫ちゃんは!?」「「「「あー…」」」」桃「ハモり過ぎー。」 常軌を逸した桃色のポニーテールを揺らして笑う「五十狭芹 桃実華」。聖護院学園剣道部期待のホープでありながら 全然全く練習には顔を出さないという変わり者。彼女を強引に勧誘した剣道部主将のXXにせっつかれても平気の平左。 それもそのはず五十狭芹家は代々続く剣術家の家系である、家に帰れば真剣振り回さざるを得ないのに 何故学校でも道場にいなければならないのだ、という事だそうである。彼女にとって剣の道は日常の一部であり、そこに刺戟を求めてはいない。 剣術を除けば一般的高校生女子である。古風に見えて新しい物好きであり、光恵に次ぐ情報通でもある。 高校進学と同時にヤオヨロズを発現し、聖護院に転校してきたが、ヤオヨロズについてはペット程度にしか考えていない。 光「姫ちゃんはなんか違くない?これに合うようなブリブリした感じじゃなくてさー、もっと本物のお嬢様、っていう感じじゃん?ねぇ。」 湊「コナンほんまどこで覚えてくんのん?そのけったいな言い回し。ブリブリて。」 一際ちっこく、一際声がでかい茶髪の少女は「高浜 湊」。大阪からの転校生で、五人組のリーダー的存在である。 一言話せば友人二言話せば親友、というけったいな信条の持ち主であり、中三の十月に転校してきてから僅か一週間でクラス全員と 談笑できるようになっていた。他クラスや上級生とも広く交友し、五人の中では一番友人が多い。因みに被告白回数も告白回数もトップであるが 成就したためしは無い。社交性に富む反面気に食わないことがあると瞬時に爆発し、ド汚い大阪弁でまくし立てるという悪癖もあり、 同じ一年の「千原 涼子」と共に聖護院のダブルタイフーンとあだ名される。見た目まんまタコのヤオヨロズ「ウミボウズ」を自在に操ることが出来るが なにせ実家のたこ焼き屋のマスコットに使ってしまうくらいなのだから、戦闘に用いる気はさらさら無いようだ。 光「けったいって何?」友「んー、おかしい、であっとぉやろか?」湊「キモい、でええやろ。」光「キモくないし!ひどっ!」 悠「えーコナン超ケッタイじゃん!七つ道具とか言ってんのマジやばかったもん!ケッタイだよ!」 「ケッタイ」を一つ覚えの如く繰り返し光恵を指差してケラケラ笑う「明島 悠樹」。某大手私鉄グループ理事長のお孫さんであり 超絶大金持ちのお嬢様である。奔放極まりない、というより少し知恵が足りないように感ぜられる言動とは裏腹に、華道茶道日舞を嗜み 更に英語もペラペラである。じゃあ英語のテストの成績はいいのかというとそうでもない。曰く「リスニングは得意だよ?」。 中二頃に変身型ヤオヨロズ「ヒルコ」を発現、身内からヤオヨロズ発現者が出たことを隠し通そうとする 明島家と即刻管理下に置きたい聖護院の間で一悶着あった末、最終的に公権力の介入を以って聖護院に転入させられた。 現在府内高級マンションにて住み込みのお手伝いさんと共に暮らしている。子供の頃からの厳しい躾の反動か、親元を離れてから 急速に悪戯っ子になり、あちらこちらでヒルコを使って騒動を起こしている。週一で続く両親の訪問はヒルコを使ってやり過ごしているらしい。 このかしまし五人娘に、「巨娘」のあだ名で知られる「常陸野 千歳」等々が加わるといわゆる一つの「仲良しグループ」が出来上がる。 あっちゃこっちゃから人を引っ張ってくる湊、無限の軍資金を持つ悠樹、情報通の光恵と桃実華、癒しの友来、という最強の布陣が 核となり徐々に徐々に勢力を増しつつある仲良しグループ。こう書くと勢力争いでもあんのかと思われるだろうが、そんなキナ臭い展開は このクソSSにおいては存在しないのでご安心召され。なお且つ、舵取り役の湊が進もうとしないトクシン組にはその影響力は少ないという。 どういう事かといえば「九条 真樹」だとかそこらへんの主人公クラスの方々とは、彼女たちはとんと無縁だということである。 だって別に友達じゃないんだもの。つまり、ヒーロー、ヒロイン、共に不在であるということだ。なんという山無し。 どどん! 光「ケッタイケッタイ言わないで、なんかケッタイって言う言葉が良く解らなくなってくる…。」悠「知ってるそれ、ゲシュタルト崩壊ってゆーんだよ!」 桃「七つ道具の一言拾ってコナンっていうあだ名に出来る湊は天才だと思う。」湊「名はナンチャラや。」友「体を表す。」悠「姫ちゃんはマジ姫だよね。」 湊「付き人おるっちゅう時点で一発やったわ。『姫やん!』って。」光「うっそー、『ブラック』とか言ってたじゃん。」湊「せやったっけ?」 さあ、一体『姫』とは誰ぞやとお思いの方々もあろうかと存知申し上げる。この『姫ちゃん』こと「綾川 景」、やんごとなき御血筋の方だとか、どこかの異国の お姫様だということは断じてない。透き通るような真っ白の肌、プラチナブロンドの髪、物腰柔らかで静かな態度。それらの要素を総合して 湊がはじき出した綽名が『姫』であった、とそれだけのことである。彼女が転入してきたのは約二か月前。丁度クラスの皆が仲良くなり始めたくらいの時期である。 悠「『常冬』とも言ってたよ、どーゆー意味かわかんなかったけど。」桃「『雪女』とかね。」友「『ラビ』も結構ギリまで残とった気ぃするわぁ。」 湊「よう知らん奴やったら結構好き放題言うやん、そらしゃあないわ。」 『常冬』『ブラック』は綾川の服装に由来する。まだ暑い盛りだというのにネービー一色の冬服を纏い、見てるだけで暑苦しいその姿は非常に奇妙がられた。 『雪女』『ラビ(ラビットが転じたもの)』は容姿故。色黒の女の子羨望の的の白い肌、さらっさらで綺麗な髪の毛、そして通常ありえない「赤い瞳」。 綾川は純ジャパである、普通なら髪の色も眼の色も変わることはないだろう。では何故、肌の色も、目の色も違うというのだろう。 答えは簡単、彼女が先天的色素異常だからである。眼皮膚白皮症1型、更に細かく言えばOCA1A型。昔風に言えば「白子」、今風にいえば「アルビノ」である。 メラニンを生成するチロシナーゼという酵素が全く働かないため、皮膚、毛髪、虹彩に色素が無い。 黒い肌になる、という意味での日焼けができず、更に矯正不可能な視力障害を持つ。直射日光を浴びれば肌は真っ赤になっていくし、蛍光灯の反射ですら眩しく感じる。 光を避けようとして無意識に細目になるうえ眼球が小刻みに横揺れするので、縦書きの文字も読みづらい。気をつけてないとなっかなか大変なんである。 湊の言う付き人とは、初登校の日に教室まで送りに来た寮母さんの事であろう。全盲ではないけれど、自分の手の届く範囲外の物はすべてぼやけて見える為 一応付き添いをつけたようだ。 友「あんな、そんでな、第一声で『お前白いなー!ソノコかー!』言うたやろ。」湊「そんな細かいコトよう覚えとらんわ。てかサブすぎるなソノコて。」 悠「私ん時もそんな感じだったよ『ゴーグル外せやー!』って。」光「あー、あれねー。」桃「やばかったよね、姫ちゃん。」 友「あん時姫ちゃんどんな顔したはったか覚えてる?」湊「いや、せやから知らんて。」 悠「もうあれだよね、鹿みたいな。」湊「鹿?」桃「ライオンに襲われる。」光「蛙はイメージじゃないなー。」湊「なんやそら。」 友「めっちゃ怯えてはったんやで。」湊「えー…?ウチごっついフレンドリーに絡みに行ったやん!そんですぐ仲良うなったやん!」 ---------------------------------------------------------------- 「それは美化しすぎでしょー。」「もう声かけられるたびにびくびくしてたもんね。」「ほんと可愛そうだった。」「なんや、ウチが悪者やと、そういいたいんか、おお!?」 「いや違くて、湊のKYっぷりに助けられたよね、っていう話だよね?」「んー、まー、別に含みはなかったんやけど、せやねぇ、転入の子ぉは仰山おるけど、姫ちゃんはまた特別やったから。」 「あん?お前らの話はほんまに的を得ーへんな。なんや言いたいことあんのやったらハッキリ言わんかい!」「射る、ね。」「どっちでもええわボケ。」 「どういう風に気使ったらいいのかな、とか、考えたよね。」「うん。ちょっとビビっちゃってた。」「誰に?」「姫ちゃん。」「なんで?」 「だって先生さ『目が不自由だ』って説明したじゃん。」「それは覚えとるけど。」「ね、どう接したらいいか解んなかったもんね。」「はぁ?接し方も何も、言葉通じんのやぞ。普通に絡んだらええやんか。」 「あんな、湊、あんたは違うかも知れんけど、結構皆怖がりなんやで。」「そう、だからさ、普通もっと時間掛かるもんなんだよ。打ち解けるまで。」「姫と会話できるまで丸三日かかったぞ。」 「あんたがいなければ絶対もっと掛かってたと思うよ。」「そういうもんなん?」「うん。」「姫ちゃんもあんたがおって助かったとこあると思うよ。」「特攻隊長のお陰で私達も話しやすくなったし。」 「もう存在がネタだもんね湊。」「え、なに?これ?褒められてんの?」「うん。」「はー…お前らとおると疲れるわー…。」「何気イジられキャラだよね。」「ねー。」 「姫ちゃんトイレ長くない?」「トイレじゃないっしょ、職員室行くって言ってたよ?」「え?あれ、そうだっけ。」「なんかつゆみん先生がどうとか。」「YAOYOROZの話とかかな。」 「んー…。」「姫とはYAOYOROZの話はせんなぁ。」「うん、ていうかあたし達も普段しないしね。」「結構重い子とかもいるし。気軽にはねぇ。」「二年とか結構やばいらしいよ。」 「あれやろ、恋人が殺されたとかナントカ。」「二組とかさ、今一クラスだけちょっと少ないじゃん。」「そうなの?」「うん、クラス壊滅して他のクラスから人集めたとかなんとか。」 「まっじっで!?やばくない!?え、演習で人死ぬもんなの?」「なんか事故があったんだって…。」「えー…」「年明けからウチらのクラスも演習はいるんやんなぁ?」 「うっわー、怖っ。幽霊とか目じゃないよマジで。」「いやいやお前らビビりすぎやろ。」「だって彼氏も出来ないうちに死にたく無いじゃん。」「ええからお前は彼女作っとけ。」 「ええー…私女の子より男の子のほうが好きだもん。」「それやったら誰でもええからアタックしてカミングアウトせーや!」「だって怖いじゃん…。拒絶されたら。」 「だー!もー!どんだけビビりやねんお前!お前っちゅうかお前らじゃ!」「出た!湊の『絡め絡め論』!」「あんま大声出すと怒られるよ。」 「知るっかぁあい!お前らほんまに惰弱なんじゃ!傷つくのが怖い〜、やら、踏み出す勇気が無い〜やら!どんだけ人生損しとるか解ってんのか!」 「損はしてないと思うけど…」「だあって聞いとれ!傷つくのが怖いんやったら一生部屋に引きこもっとれ!出てくんな!日の光を浴びる資格ないわ!」 「ヒッキーはやだよね。」「人間いつ死ぬか解らんのやぞ!今やらんでどうすんのじゃ!彼氏欲しかったらメンストで逆ナンでもせえ!百人声かければ一人くらいは上手くいくわ!」 「極論極論。」「絡むことこそが人生の妙味じゃ!死んだら金も名誉も残らんけど、ツレだけは残るんやぞ!」「遺産相続とかあると思うけどなぁ…。」 「…もうお前ら今すぐ死ね!死んでまえ!香典ははずんだるから今すぐ死ね!」「あ、ねーねー、姫ちゃんで思い出したんだけどさー。」「何?」「シカトか、ふん、もうええわ。」 「あれさー、普段センセーじゃん。つゆみんとか。あと寮母さん。」「上級生の方もたまに来たはるよ。」「そうそうそれそれ。それが言いたかったの。」 「…え、なにそれ。マジで、知らんかった。」「ほんとたまーにだよね。」「『特神組』の。」「えー、あのイケメン揃いの!?」 「あーん、それズルくない!?知らなかった!」「お近づきになりたーい!」「ロマンスとかあるのかなぁ…。」「ウチあいつらなんか好かん。」「なんで?」 「なんでて言われても好かんもんは好かんねん。」「水原さんとかマジ好みなんだけど。」「あれが?あんなんただチャラいだけやんけ!」「かっこいいじゃん!」 「ほんま、難儀な子ぉやねぇ。」「なんやスカしとる気ぃすんねんてあいつら。」「クールって言えば良くない?」「だいおーさんも特進なんだよね。」 「うち等も二年になったら特進行ったりするのかな?」「ないでしょー、あたしとか個人項目Cだもん。」「一般教養評価は?」「言わせるの?」「私3だよ。」 「あ、一緒じゃん!」「一般教養評価は全然関係ないよ。個人項目と年明けからの演習の結果如何やな。」「へー、じゃあ演習で頑張ったら行けるかもってこと?」 「まぁ一応そういう建前やけども、実際のとこ入学の時点で特進に行くかどうかっちゅうのはきまっとるらしい。」「なんかそれ差別じゃない?」 「しゃあないやんか、なんぼYAOYOROZ操るのが上手やいうても、それが役に立たんモンやったら育てる意味が無いやろ。」「あたしとかただの石っころだもんなぁ。」 「二年以降の特進はほんま軍隊レベルらしいで。自分のYAOYOROZがどんな働きをして超常現象を起こしとるんか、とかも叩き込まれて。」 「それやったらウチとムジナも駄目なんかなぁ。掃除の手伝いすら出来んし。」「解んないよ、朝起きたら全長10mくらいの大鬼になってるかもだし。」「え、厭やわぁ。」 「家壊れちゃうね。」「どうする?全長10mになってもタオルケット離さなかったら。」「きっしょ!」「きしょいとかばばちい言葉使わんといて!大きゅうなってもベランダから頭なでなでしたげる。」 「10mで八頭身だったら?」「うーん・・・。」「10mで八頭身でマッチョな感じだったら?」「ううーん・・・困る、可愛く無いじゃん。」「イケメンさんやったらどない?」「えー?イケメンマッチョロボ?」 「でも声はムジナのまま。」「…うーん。」「いうても解らんぞ。いつ何が起こるか解らんのがYAOYOROZやからなぁ。ウチかてどうなるやら解らんし。」 「いきなり特進に抜擢されたりしてね。」「うっわ、絶対嫌や!」「ていうかなんでそんなに特進の人嫌いなの?」「一回話してみたら解るて!何かにつけYAOYOROZの話ばっかすんねん。」 「多少は仕方なくない?共通の話題なわけだしさ。」「仕舞いには日本の未来がどうこう。ほんなんどーでもえーっちゅうんじゃ!週末何処遊びに行くかの話ぐらい振れや!」 「え?特進に知り合いいるの?」「え、ああ、まぁ。おるよ、一人。」「え、誰?同い?上?」「…2コ上。…三年。あれやって、同中やったから見たことあって…」 「嘘ついたあかんねぇ湊。」「ちょ、待てぇお前…!」「何々?嘘なの?」「余計なことぬかすなダアホ!」「…なぁ、もう言うてもええ?」「え、何?」「どしたの?なんか知ってるの?」 「あかんあかんあかん!」 「あれ?」「…ん?」「あの…」「え?誰?」「あ、すんません。」「どないしはりました?」「いや、景ちゃ…綾川さん、どこ行ったか解ります?」 「あー…うん、直ぐ戻ると思いますよ。」「あ、そうスか。すんませんお騒がせして。」 「(誰やアイツ。)」「(解んない、見たことない。)」「(先輩?後輩?)」「(付き添い?って事は特進の人?)」 「(…オーラねー!皆無じゃん!)」「(ただのショボクレやん!ショボや!)」「(それよくない?ショボ!)」 「(あんまり悪くしゃべったらあかんえ。)」「(姫の付き添いにしては頼りなさすぎでしょー。)」 「(ロマンスの起こりようもないからちょっと安心じゃない?)」「(ねー。)」 「教室の前に誰かいる…。」「どんな人?」「んー…なんかねー、左側だけ髪長くて、背はあんまり高くなくてショボくれた感じの…」「良助先輩だ!」「知り合い?」 「うん、入学する前の…オリエンテーションで一緒だったの。」「へー。」「りょうすけせんぱーい!」「いや、見えてるから。何処行ってたんだよお前。あ、どうも。あの、こいつの付き添いで。二年のかんばせです。」 「あ、あー、どうもー。」「つゆみ先生はお仕事ですか?」「うん、なんか急用だっつってゴウゴ先生とどっか行っちまった。寮母さんも息子さんの結婚式とかでいないし、んで、代打。」 「初ですね。」「そういや初だなぁ。」「ごめんなさい、待ちましたか?」「一分くらい?」「じゃあ急ぎますね!」「いや、別に急ぐ必要は全く無いんだけど。」「ちょっと待った、姫!」 「姫お帰りー。」 机やイスにガタガタとぶつかりながら自分の席に向かう綾川。 「ちょ!姫!危ないって!」「何やってんの!鞄?」「うん、ごめん、ごめんね、ありがとう。」 「焦らんでも鞄は逃げへんで?どないしたん?」「うん、なんでもないの、大丈夫!」 「ちょっちょっ、お前なにしてんだ。大丈夫か?」「あ、良亮先輩。ごめんなさい、大丈夫です!」 「ただでさえそそっかしいんだからさ、気をつけろって。な。」「はぁい。」 「手。」「はい。」何の躊躇いも無く綾川の手を取って自分の肩に導く良亮。 「忘れ物無い?」「無いです!」「ん。ホントすんませんした、失礼します。」「じゃあね!また月曜!」 「…。」「ふわー、びっくりしたわ。姫のテンションおかしかったよね明らか。」 「…姫とはたった半年の付き合いやけどな?」「…うん。」「…今まで姫のあんな顔見たことないわ。」「…うん。」 「姫ちゃんさー…」「…うん。」「顔、真っ赤じゃなかった?」「下校辺りだと結構赤くなってるよね。」「でもそれとは違う感じじゃない?」「うーん…。」「あんな…声まで変わって…。」 「良亮先輩?」「名前で呼んだよね?確実に。」「ていうかショボ、姫の事名前で呼びかけたよね?景ちゃん…とかって。」「ショボってあの先輩?」「呼ばはったなぁ。間もあったし。」 「まさかの。」「まさかの?」「まさかまさかの?」「マジロマンス的な?」「…ショボと?」「ありえねー。」「無いでしょ。」「有り得んわ。」「それはやだ。」 「うん、無いわ。」「姫が…姫が汚される!」「久々に姫親衛隊の出番やな。」「でもシノ君の時ならともかく、今回上級生だよ?」「あんまり乱暴な事したあかんで?」 「上級生もなんも関係あるかい!」「ふふふ…こういうこともあろうかと…。」「来た来た!得意の七つ道具!」「双眼鏡!発信機!」「おおー…」「行くぞお前ら!」 「曇り空っていいですよね。」「眩しくないから?」「はい。」「お前笑った時のさ、顔、面白いよな。なんか凄い無理してる感じで。」「楽しくなければ笑わないですよ。」 「そりゃそうなんだけどさ、表情だけ見ると困ってるみたいだもん。」「あんまり心配しないで欲しいなって、思ったりします。皆優しいから。」「あの駄弁ってた子達?」 「不思議なんですよね、私の事、知れば知るほど気使うようになっちゃって。もっとラフに扱ってくれてもいいのに。」「お前それは贅沢だよ?」 「たまにはドツかれてみたいです。」「…ほれ。」「きゃあっ!」「怖いだろ?」「…はい。」「それが解ってるからやんないんだろうが。彼女らも。」「だと思います。」 「じゃあそんな無茶言うなよ。」「本気で困ってたり嫌なわけじゃないんです、ただ、もっとこうだったらなぁっていう淡い願望ですよ。」 「お前の事情を自分のことのように心配してくれる友人がいるって言うことだけで満足したほうがいいと思うけどね、俺は。」「不満じゃないんですってばぁ。」 「遅いよな、ここのエレベーター。」「遅いですね、亀の如く。」「古文の授業の如く?」「私の場合は数学の授業の如く、ですね。」 「いつもあの子らとつるんでるの?」「はい、あのショートのの子がリーダーというか、皆を引っ張ってます。凄い子なんですよ、恐れを知らないというか。」 「俺苦手かもしんないなぁ。」「教室入って自己紹介して…」「即効で『白っ!』だろ?こないだの総合演習の時聞いた気がする。」 「言いましたっけ?東雲君撃退したりとか。」「それはシノ本人から聞いた。スケ番が出現したとか言って震えてたわ。」 「でも照れた顔はすごい可愛いんですよ。イチオシです。」「なんのだよ。」「黒髪ショートの子がうなちゃんって言います。探偵さんです。」「マジモノの?」「いえ、趣味で。」 「長い黒髪の子が絹ちゃん。京○グループ会長のお孫さんです。」「…マジで?」「お父さんは京○鉄道の社長さんですね、超セレブです。」「雲の上の人じゃねぇか。」 「目を凝らして見れば後光が見えるかもしれません。」「でもなんつーか、普通の子だな。」「頑張って普通にしてるんだと思いますよ。」 「なんか怖いわお前の教室。」「何でです?」「めっちゃ睨まれた。」「んー、ほら、先輩達とうちのクラスって交流ないじゃないですか。」 「そりゃ学年も違うし建物も違うし。」「それに先輩あんまり目立たないし。」「鎌倉さんとか水原さんに比べればなぁ。てか比べんなよ。」 「もう一種のアイドルですもんね。」「な。あ、来た。乗るぞ。」「はい。」 ---------------------------------------------------------------- 「俺も生徒会とか立候補してみたら目立つのかね。」「でも先輩なら絶対やらないですよね。」「冷やかしで、とか。」 「冷やかしで出来ると思います?」「持ち上がり組みから大ブーイングだろうなぁ。」「ですねぇ。なんだか由緒ある感じですし。」 「俺はあんいんな生活が送れればいいよ。さっさとここ出て行ってさ、ふつーに大学行って働いて。」 「安いに隠れる、ですか?あんいんって。」「そうだけど。」「それ、あんのん、です。」「…マジで?」「まじ、です。」 「…うわー、恥ずい。マジ恥ずい。のん、とは読まないだろ普通。」「それが漢字の面白いところですね。」 「綾川地味に頭良いよな。こないだのテスト何位だった?」「驚きの学年六位です。」「すごくない?」「すごいでしょう。良助先輩には  逆立ちしても無理だと思います。」「…言うねーお前。まぁ事実だから仕方ないけど。」「先輩は諦めが良すぎると思います。」 「何それ、説教?」「そうです。」「そうです、じゃないって。」「先輩はまだ若いんですし、失敗してもいい思い出になるはずです。」 「婆さんかお前は。」「そういう先輩はお爺ちゃんみたいです。もっと行動的になるべきですよ!こう、何においても。」 「もっと熱血青春しろって?」「そうです!もっとバカになりましょう!」「九条に告っちゃうとか?」 「・・・なんですか、それ。」「え、行動的になるべきなんでしょ?告白とか、凄い青春じゃん。」「そこでなんで九条先輩なんですか?」「可愛いから。」 「美人だと思います。」「だから。」「それ以外は?」「は?」「それ以外の理由はなんですか?」「え?可愛いじゃ駄目なの?」 「駄目です。納得いきません。」「お前に納得してもらう理由が無いんだけど。」「そんな不順な理由で告白される九条先輩が可愛そうです。」 「あれか、お前は俺の保護者か何かか?」「違いますけど、先輩の事を知ってる一人です。」「知ってるって何を知ってるんだよ。」 「素の部分を。」「で?知ってたらいちいち意味不明な説教をする権利があるわけ?」「そうです。きっとそうです。」 「お前訳解らんぞ。」「私も解りません。」「てかなんでもう告る事前提みたいな流れになってるわけ?ものの例えだろうが。」 「でもそういう挑戦が真っ先に思い浮かぶんですよね?」「まぁなぁ。一応。」「じゃあ告白するべきです。思いの丈を。洗いざらい。」 「思いの丈たって、可愛いなぁ、ってそれぐらいだって。」「じゃあ止めてください。」「お前おかしいよ今日。どうした?」 「おかしいのは生まれつきです。今日に限ったことじゃありません。」「何言ってんだ、お前。」「外に出ただけで気分が悪くなったり  人の手を借りないと歩けなかったり、お日様が見れなかったり…」「何、を、言ってんだ、っつってんだよバカ。」 「いっつも日焼け止め塗って、真っ黒な長袖を着て、日陰にいるんだから、おかしいんです。」「いい加減黙ってろ。」 「先輩は一人で何でも出来るのに、なんでなにもしないんですか。」「はぁ?」「好きな人に好きって言えるのに、好きな人の顔を見れるのに  なんでなにもしないでいられるんですか?」「例えの話でなんでそんなに盛り上がれるんだよ。バカだろ?」 「幸せであることを幸せと思っていない、気づいてない、先輩のほうがバカです。」「自分をとことん不幸だと思い込んでるお前のほうがバカだよ。」 「こんな体に…」「いい加減にしろ。」「…。」「お前、自虐は止めるんじゃなかったのかよ。病院で言っただろ。」 「俺自身後ろ向きな人間だからさ、あんま言えた立場じゃないけど、色々辛かったり上手くいかないのを飲み込んで前向いてる奴ってさ  いい、と、思うんだよな。」「いい、ってどういういいですか?」「んー…カッコいい?っつーか…ほら、美しい?」 「そうなんですか?」「…そうなんだよ。俺の中では。」「俺ルール、ですね。」「俺ルール、だよ。」「美しいんですね?」「美しいんだよ。」 「だから。だからっていうか、うん。いちいち自分の体がどうとかさ、他人がどうとかさ、そうやって比較してしょげる必要ないと思うんだ。」 「みんなちがってみんないい。ってさわやか三組じゃないんですから。」「それかなり上出来だろ。」「小学生向けですよ?」 「悪かったなガキレベルで。」「よかったでちゅねー。」「それはどっちかっていうと赤子じゃない?あ、凄いイラッとした今。」 「赤子の手をひねるが如し、ということの暗喩です。」「直喩だろ?」「いいえ、この場合比喩対象が前後の文脈において明示されていないので 隠喩に当たります。」「今適当に言っただろ。」「その程度は解るんですね、さすが、腐っても上級生です。」 「やっといつもの調子に戻ってきたな。」「先輩は翻弄されるのが良くお似合いですね。」「殴っていい?」 「か弱い乙女に手を上げたらそれこそただのクズ野郎ですよ。」「あーはいはいクズですみませんでした。どーせ俺なんか…」 「あっ…いつもこんな感じだから俺人気ないのかな?」「うじうじしたオーラがにじみ出てますから。」「やっぱなー…背負って立つものもないし。」 「顔も悪いし頭も悪いし性格も悪い、逆三拍子揃ってますね。」「…言うねーお前。てか酷くない?地味に傷ついたんだけど今。」 「だからもっと行動的になるべきですよ!こう、何においても。」「もっと熱血青春しろって?」「そうです!もっとバカになりましょう!」 「ちょっと待て、なんかループしたぞ今。」 「九条先輩に告白するんですか?」「しねーよ。前提にすんなって。」「どうして?好きなんでしょ?」 「さぁ、どうなんだろね。改めて考えてみるとよくわかんねーや。」「じゃあ嫌い?」「嫌いじゃないよ、けど苦手、かな。」 「何で苦手なんですか?」「質問攻めだ。」「追い詰められると人は本性が出るって。」「出してんじゃん、いつも。」 「無意識のうちに隠してることがあるかもしれません。」「無意識ねぇ。」「苦手、とか思いながらも心の底の方では…っていう可能性も。」 「小学生じゃないんだからさ。」「東雲君から聞いたんですけど…。九条先輩のことをかなり邪険に扱ってるとか。」 「そんな風に見えるのか。びっくりだよ。」「天邪鬼、って知ってます?」「気に入らないんだよな。」「はい?」 「大変だけど、私頑張る!みたいなさ…優等生キャラ?」「でも、その、皆大変だけど頑張ってるじゃないですか。見え方は違えど。」 「その見え方の問題だよ。辛いことがあるなら辛いって言えばいいし、ダルいならダルいって言えばいいもんだろ?  なのにさ、それを口に出そうとはしない。そのクセ、たまにすっげえ辛そうな顔するんだよ。いつでも明るく振舞おうとするんだったらさ  上手くやれよ、完璧にやれよ、って突っ込みたくなる。」「自分の辛さとか弱さを完璧に隠しきれる人なんていると思います?」 「いないよ、決まってんだろ?」「じゃあ九条先輩を責めるのは筋違いじゃないですか。」「だから責めてないって!」 「態度に出してるじゃないですか!あからさまに避けたり、口を利かなかったり!」「シノに聞いたの?自分で見たの?」 「…教えてくれました。」「じゃあ知った風な口聞くのやめてくんない?」「嫌です。」「うざってえなマジで。いい加減にしろよ。」 「私は良助先輩に、皆と仲良くなって欲しいです。」「で?仲いいけど、普通に。」「だから、その、九条先輩とも、仲良くしたほうがいいと思います。」 「お前ホント訳わかんねーよ。なんなのマジ、九条に告れとか言ったり仲良くしろとか言ったり。なんでいちいち九条にこだわんの?」 「…先輩はひねくれてるんです。」「悪かったね。」「好きな子の事を好きともいえないおこちゃまなんです!」「だぁかぁらぁ…」 「九条先輩のこと、なんでそんなに知ってるんですか?たまに見せる表情とか、普段との違いとか、なんで見てるんですか?」 「誰でも解るって、普通。」「気にならなかったら、見ないでしょ?ほんとにどうでもいいと思うなら、見ないでしょ?」「や、どーでもいいと思ってるよ?」 「じゃあ普通に接したらいいじゃないですか。空気を読んで、適当に相槌打つのが得意なくせに。」「付き合いきれんわ。もうこっからなら一人で帰れんだろ。」 「無理です、帰れません。逃げないでください。」「ここ真っ直ぐ行って突き当たりを左だよ。無理ならそこらの奴捉まえて案内してもらえ。じゃあな。」 「待って!」「触んな。」 ---------------------------------------------------------------- 「立てよ。」「…。」「手。」「…。」 「ごめん。」「…。」「ごめんな。」「…。」 「あのさ。」「…。」「あの。」「…。」 「俺、ひねくれてるって、言ったよな、お前。」「…。」 「それちょっと違っててさ、なんつーか…。子供の頃からさ、特に夢とか無くて…ずっと、普通で平凡な人生送りたい、って  思ってたんだよな。」「…。」「悲しいことに、大それた事考えられるように出来てないんだよ、俺の性格。」「…。」 「そんな感じで高校まで育ってきてさ、『あ、いい感じに何にも無く人生進んでるな』と思った直後にイチモクレンが出た訳ね。」「…。」 ---------------------------------------------------------------- 「憧れ…なんだと思う。」「憧れるのと、好きになるのは違うんですか?」「俺も良くわかんないけどさ、多分違うよ、うん。」 「私もそう思います。距離が違いますから。」「あ、ちょっと解るかも。遠いんだよな、憧れって。」 「私は近くにいてくれるのが良いです。」「遠距離は辛いって友達の兄貴がぼやいてた。」「物理的な問題だけじゃなくて。」 「知ってるよ。冗談だ冗談。」「先輩も近いほうが良いですか?」「どうなんだろな。明け透けに何でも話せるってのも良いけど、それだけじゃ続かない気もするし。」 「私の前では隠し事は通用しませんよ。うふふ。」「出歯亀。」「後ろから刺されないように見守ってあげるんです。それくらいの見返りはあっても良いですよね。」 「お前の視線に刺されとるわ。」「上手いこと言ったつもりですか?」「いや、全然。あんま人前でドドメキのことベラベラ話すなよ?」 「怖がられるからですね。」「うん。お前が人の生活を除き見るような奴じゃないって解ってたとしても、怖がる奴は絶対出てくるよ。  人間、人に知られたくない隠し事の一つや二つ、絶対あるもんだから。」「ただでさえ奇怪な姿をしてるのに、そのうえ覗き見の達人って知られたら…」 「だぁかぁらぁ…」「あのですね。」「何。」「先輩が思うほど、私弱くないですよ。」「はぁ。」 ---------------------------------------------------------------- 「私がドドメキを失っても、皆は近くにいてくれるんですかね?」「YAOYOROZなんてさ、それこそ俺達にとっては  ただのきっかけにしか過ぎないだろ。たまたまこういう変な超能力があって、たまたまここに集められたってだけでさ、多分普通の高校で同じ  クラスとかでも、同じように友達になってたと思うよ、俺は。」「そうなのかな。」「そうだよ。」