■東方大陸史■第十二章「世界征服の前哨」の前哨スク 「あれ・・・ワシは?」 −−マアレシュ・ケムトサラーム−− 暗黒暦2551年某所。 「・・・そうね。何を聞こうかしら。そうだ、どうして貴方はこの世界を無理やり作り上げたの。」 『始まりは復讐が為に。終わりは私の子が為に。』 「その復讐っていうのは貴方の相対者に向けたものでいいのかしら。何故、途中でやめちゃったの?」 『私はかつて感情を持ちえていなかった。だから私を斬り捨てた者達に敗れ果てた。  私は感情を欲し、手に入れてからは多くのものを取り入れた。  その力が人の"想い"からくるものだと理解してからは、それを手にすれば私は私の相対者を破り  暗き世界に存在する事ができると信じた。  だが存在できなかった。私と私の相対者との"理"は既に完成されていた。  私は別の目的の為に、存在する必要があった。』 「それが貴方の子供の為に存在する事? あの化物達なら放っておいても良さそうなのにね。」 『化物とは心外な言い様だが、それは私の一部を割いた者達で、我が子ではない。  我が子とは、私を愛する人々の事だ。』 「あら、私は貴方を愛してないわよ。」 『・・・正確に言おう。かつて私を愛してくれた人々の血を持つ者の事だ。  私に愛されるという事を教授したのは別の人間だが  私に愛する事を教授せしめたのは彼の人々だ。  私は彼らを忘れない為に、私の一部を割いて彼らに与えた。  彼らは増殖し続けた、私はそれを見るのがとても幸福だった。  だから、彼らの為に色々と手を出してしまった。彼らは更に増え続けた。  彼らは皆、私を愛してくれた。だから私はその愛を彼らに返す為に存在する事にした。』 「それでこの世界を築き上げたの?」 『そうだ。私は私を愛する人々の世界を築こうとしたのだ。  私は忌み嫌われたくなかった。暗く黒い私を嫌う人々は多かった。  だから私は人々を私を愛するように変えていった。  だが、それは私を愛する人々と私を嫌う人々の争いを生み出した。  私は争いが嫌いだった。なのに我が子らは争いを求めて止まなかった。  私はそれが悲しく、我が子に力を与えて奥に沈む事にした。』 「それで皇帝を作ったわけね。思った以上に俗っぽい思考の持ち主なのね貴方。」 『我が子は優れていた。巨大な政治システムを作り、膨れ上がった貨幣経済を整え、雑多な思想を生み出した。  彼のおかげで、私の世界は完成した。  ところが、その子が死に絶え、貴方が私の世界に入り込んだ。  私の世界に本来存在し得ない者が、私の相対者の子が私の世界の頂となった。』 「私の先祖の悪口は止めてくれない?こちらは求められたから来てあげただけなんだから。」 『そのとおりだ。だから貴方は私を愛してくれなかった。  貴方は私の愛を知らず、私も貴方を愛する事ができなかった。  一時、ただ一時だけ貴方は私を愛してくれたが、すぐにそれも露と消えた。  貴方は私を嫌い、人々を私を嫌うように変えていった。  私の世界は壊れ始めた。  私はまた、私が存在する必要を失いかけた。』 「どうしてそんなに存在したがるのかしら。存在する理由がないと貴方は死ぬの?」 『私は永遠に存在し続ける。  空の上で、この地の中で、海の下で。  世界の理が潰える事があろうと、私はその理の外で存在する。  私は弱まり小さくなるかもしれないが、古の黙約がある限り  人々が言う"死ぬ"という概念は、私にはない。』 「では何故存在する必要に拘るの?貴方が消えれば世界は良くなると思うわ。」 『私の感情は人の"想い"がなければ維持する事ができない。  存在が認識されなければ、いずれ私の"心"は腐り始めてしまう。  私は"心"を失いたくない。私はその"心"にたくさんの失いたくない"想い"を抱いている。』 「心の死が貴方にとっての死なのね。  これで暗黒世界を作った理由は大体は分かったわ。  でも、それだと今回の戦争に反対しない理由が分からない。  全世界との戦争よ。滅びるかもしれないのに。」 『私の力は既に僅かしか残っていない。  もう私に私が愛する人々を守るだけの力は存在しない。  私を嫌う人々は私の力が潰えた時、私の愛する人々の存在を許しはしない。  子供の死に逝く姿を私は見たくない。  だから私は、私の子供達が選んだ貴方に全てを委ねる事にした。』 「・・・もう一度言うけど、私は貴方を愛してないわよ?」 『それでも構わない。静かなる人がそうであったように  ただ対等な友人として、偶に話などし合える仲であれば。』 「それも愛の一種ではなくて?」 『だが、貴方はその愛なら私を受け入れる。』 「・・・」 『・・・』 「・・・なら、スペリオルじゃなくて、レヴィアって呼んでくれる?」 「・・・レヴィアたん?」 「何その"たん"って。」 「その方が可愛い感じがしない?」 「・・・じゃあ貴方はダクエルたんね。」 「人の名前を略しちゃ失礼じゃないの?」 「あら、友人の間柄は少しくらい無礼があった方がいいのよ。」 「友人・・・うん、全然いい。無礼でいい。」 「ふふ、これからよろしくねダクエルたん。」 「うん、仲良く生きようねレヴィアたん。」 次章予定「世界征服の前哨」 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\