■主展開キャラ■ 渡良瀬 五月(身体硬化能力)      芽衣(電撃能力) ■サブキャラ■ 緑川レオン(色相擬態能力) 糸瀬 早百合(紐操作能力) 風間 瞬(空気操作能力者) 灰谷 霧也(煙操作能力者) 虹倍彩女(空間操作能力者) ■NETX■ ナタク ※流血表現があります。苦手な人は左上の←ボタンを押してね。 ※キャラクターを勝手に拝借しているため、性格が想像と食い違う可能性があります。 ■騎士として、紳士として■ サイドの金髪を力なく垂らし、うなだれる少女―のように見える人物―が1人。 肩で呼吸をし、うっすら開かれた目からは透明な雫がこぼれ落ちていた。 かばった時の右腕が痛い、見ると赤黒く変色していた。 切れた腕や指から血がにじみ、指先を赤く赤く染めていた。 『せんぱい可愛かったなー、ちゃんと逃げれたかなー』 脳裏に、涙をためた妹の顔と、引っ張られた衝撃に驚いている先輩の顔が浮かんだ 『女の子がいちゃ、しょうがないよな』 守って…あげないと そう呟いたとたん、うなだれていた金髪は急にパキパキ音を立て硬化していった。 ―終業式前日― 「ねえ五月、今度の休みに帰って来いってさ。ほら手紙きてるよ。」 自分と似た顔をした少女が、一枚の封筒をコチラへ向けてヒラヒラさせている。 「めんどくさいよ、どうせ帰ったら『髪を伸ばすのはこの際あきらめる、でも何故女装しているんだ。』って  言われるにきまってんじゃん。」 そう、五月(サツキ)と呼ばれた―スカートをはきニーソックスを着用した―この初等部の学生は れっきとした男だ。 能力は身体硬化、身体の一部を硬くし攻撃や防御をする能力者だ。 「そんなこと言ってても、どうせ、やさしーサツキサマは帰ってあげるんでしょ。知ってるんだから  今更ガミガミ言ってくるのはパパだけよ、他の奴等が言おうものなら電撃くらわしてやるわ。  あんたが何か言われてると、同じ顔した私が言われてるみたいでハラがたつのよね。」 「う゛っ」 ハーとため息をつきながら、少女は封筒を五月の顔にベシッとたたき付けた。 この、とてもよく似た少女は五月の双子だ、一応妹という括りになっている。 「ホントは私が姉なんじゃないの」は、芽衣のよく言うセリフだ。 女装癖があり性に関して自由奔放の兄と違い、芽衣は真面目で少し、少し頑固だ。 「一応チケットも入ってたけど、これは私が持っておくからね  アンタ絶対失くすでしょ、こーゆーの」 封筒の中から先に抜き取っておいたのであろう数枚の紙を持ち、じゃあ後で食道で と言い残して芽衣は部屋を出て行った。 少なくとも二枚より多かった…つまりは乗り換えとかもあるのだろう。 「あ゛ー、めんどくさーい…」 足を投げ背をベッドの縁にあずけ、五月は天上を見つめた。 きっとまだ父親は自分を許してはくれていないのだろう、一時期は男装していた時期 もあるが、自らを押し殺すのは五月には苦しすぎた。 自分の趣味で男装する分には楽しい、が、強制されるのは苦手だ。 この学園に来てからは自分を押し殺すことも無く、とても自由に振舞っている。 「まあ…変態ばっかりだしぃ…。」 そして多分、おそらく、自分もその中のれっきとした一員なのだろう。 ガチャ 「言い忘れたんだけどー、・・・なにアンタぐったりして。風邪ひいたならちゃんとベッドに  寝なさい。私にうつさないでよ。」 「は〜〜〜〜ぃ、で、言い忘れたことってナンだよ」 「チケットの列車時刻が6時で、日付が終業式の翌日なのよ。」 「終業式は明日で…その翌日って…?!」 「そ、荷造り早くしないと間に合わないわよ。」 あのクソおやじいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!! ―4時30分― 「準備できたー?」 「おい、俺のブランケットしらねー?あの赤いチェックのやつ。」 「この間『お嬢さん、寒いならこれを』とかカッコつけて亞里栖ちゃんに渡しちゃったじゃない」 「あーそういえばそうだった」 「ほらストールまいて、もうチャッチャとしないとこのまま首絞めるわよ」 「怖い事言ってると彼氏できねーぞ、メイちゃーん」 「・・・い、いらないわよ彼氏なんて、もう・・・バカッ!!」 プンプン怒ってしまった芽衣は先に部屋を出て行ってしまった。 廊下でゴロゴロとスーツケースの音がする、これは本格的に置いて行かれてしまったようだ。 急いでベージュのダッフルコートと赤いスーツケースの後姿を追いかけた。 「待ってよメーっ!!」 「うるさいっ、ばかっ!」 チュッ 「ごめん、ごめんってば。な?」 「なっ……ば、ばか…。」 そっぽを向いた芽衣の顔は見えない、でも耳は真っ赤に染められていた。 それが冬の、早朝の寒さのせいなのか。それとも…それは分からない。 スーツケースが五月のいる右手から左手に持ちかえられた。 これは手を繋いで欲しい芽衣の合図。 本人が気付いてない合図。 仲直りできたという証の、合図。 「あっためてあげるから。」 そう言って、赤くなった華奢な手を握ってやると 「アンタも冷たいじゃない…ばかっ」 と返された。 それでも手は離れない。 それどころか、ギュッと強く握られた。 駅までの長い道のりを、2人はゆっくり歩いた。 ―8時45分― 数時間前まで幸せを味わっていたのは夢か幻か。 突如ドォンと大きな音をたて、列車が停止した。 天上からぶら下がったシャンデリアが揺れ、窓ガラスがガタガタと喚いた。 遠くから慌てた婦人の声が聞こえる。 隣の部屋からは自らの子供を気遣う親の声。 だんだんと近づく駅員のアナウンス。 ゆっくりゆっくりと近づく           背筋をなぞるような覇気。 「パパの用意してくれた座席が個室でよかったわ」 隣の芽衣は指をパキパキとならし、ほのかに電撃をまとわせていた。 (両肘を腰につけ、手を前に出し、上に向けて、支配者のポーズ! ってそれは違う、だめだ、そのネタはいけない。) まだ電撃を正確に操れない芽衣はウォーミングアップが必要だった。 それは五月も同じで、パキパキと音が鳴り始める。 根元からゆっくりと硬度を増していく。 数秒後には、芽衣は全身に電撃をまとい 五月はそのしなやかな髪を硬く刃物のような武器にかえた。 こんな姿を他の人が見たら恐がるだろう、本当に相席でなくてよかったと思う。 まだ初等部では実践訓練を開始していない。 それでもわかる、本能が告げる、殺意が近づいてくる。 「私の背中、守ってくれるわよね、やさしーおにーさま?」 「背中といわず守ってやるよ、俺の大切なお姫様。」 2人は握りこぶしを作る。 ビリビリと鳴る電撃のこぶし 金属のように硬くなった鋼鉄のこぶし お互いのこぶしを、コツッとあわせた。 突如、また大きな音が響いた。 それも先ほどよりも近い。 両者の戦闘開始のゴングが鳴った。 ―サイオニクスガーデン寮内放送― 『全寮内の生徒に出撃連絡します。  3年A組 緑川 レオン (みどりかわ)  3年A組 風間 瞬 (かざま しゅん)  3年B組 糸瀬早百合 (いとせ さゆり)  3年B組 灰谷霧也 (はいたに きりや)  2年B組 虹倍彩女 (にじます あやめ)  以上5名は出撃要請が出ています。  至急、教会堂1階エントランスに集合してください。  また長距離テレポート搬送が可能な生徒は以上の生徒と物資搬送のために  同じく教会堂1階エントランスに集合してください。  繰り返します…――』 「うぇーぃ冬休み本番キター!と思ったらコレだよーッタク、だから三年ってヤーね いってきまーッス」 「僕が呼ばれるなんて珍しいな」 「実戦ってとこかしら」 「あ゛〜…ねみぃ…」 「えっえっ、わたし?わたし?呼ばれた?呼ばれた? え、初めてだよ!初任務だよぉ?えっえっ」 それぞれ名前を呼ばれた生徒は、ある者は同室の生徒に告げ またある者は開始していたゲームのカードを床に叩きつけ またある者は独り言をつぶやき それぞれがエントランスへ集合した。 「現在NEXTにより列車が奇襲を受けていると連絡が入った  ストラスプールから首都行きのTGV、乗客数は473人  場所はティオンヴィルから北西へ線路沿い10キロほど  相手側の目的は不明で、列車前方を爆撃。  緑川・糸瀬・風間、3名はNEXT構成員と遭遇し次第抗戦を開始  風間は透明化した緑川を糸瀬の攻撃範囲に入らないよう支援を中心とした  行動をとっていただきたい。  また、相手側に語りかけても反応は無く視点も定まっていないようだと報告があり、  NEXTにより洗脳及び改造を受けた可能性が高く、保護する必要性がある。   風間は、相手を捕獲できそうであれば捕獲し連絡を。  連絡を受け次第、こちらの搬送班が来るまで待機。  灰谷・虹倍 の両名は乗客の安全確保を務めて欲しい。  虹倍は初任務だ、灰谷が先導して指示を行うこと。  今回支給物資の中に武器は含まれていない、戦闘できない者が構成員と  遭遇した場合はただちに逃走・及び仲間への連絡を怠らないこと。」 ――健等を祈る―― その言葉を合図に、テレポート能力者数名により 5人は戦地へと搬送された。 ―9時10分― 『どこだ、どこへいった』 時折爆撃が響くのに、相手はコチラの気配に気付いていないのか 向かってくる様子はない。 気配が前方車両へ移動したり後方車両へ移動したりしている。 最初の爆撃から、すでに25分が経過していた。 『テレポートか飛行能力者なのか?』 ウロウロと動く気配、周りの乗客は職員のアナウンスにより室内へ非難しているようだ。 あれだけの爆撃音があったにも関わらず、いまだケガ人はほとんど出ていないらしい。 さすが高級列車、ガラスも防弾ガラスでできているだけのことはある。 まさか列車が襲われるとは、設計した人も考えていなかっただろう。 おそらくは事故時用の行装なのだろうが、それが功を奏した。 前後へ移動する気配はもしかしたら、すでに五月達に気付いていて ゆっくりじっくり出方をうかがっているのかもしれない。 「五月」 芽衣が何かを言いかけた時、また爆撃音が聞こえてきた。 すごく、すごく近い。 「ママ!ママ!!」 「「隣?!」」 芽衣はすぐさま音のした方角、隣の個室へ走っていった。 無闇に出て行った妹を追い、五月も一歩遅れて部屋を出る。 大丈夫よ、ケガはしてないわ。安心して。 子供の無く声にまじって、大人二名の声と、やさしい芽衣の声が聞こえた その時だった。 とっさに五月は髪を上へ持ち上げ、毛先をビロードの絨毯が敷かれた廊下へ 突き刺した。 カキィインと小気味よく響く金属音。 「後ろからだなんて、とんだ変態だね!」 振り向きつつ、髪をしなやかに相手へ叩きつけた。 再度響く金属音。見た目は何も纏っていない素肌のはずなのに。 「オトコ相手に…硬いとか!!さ!!」 最低だね!!そう叫んで相手に再度叩きつけた 細くした髪を無数に伸ばし、いたる所へ散弾銃のように。 腕と足以外の部分は細い傷が無数につき、硬質ではないことを知る。 針のように細く鋭くなった髪は、相手のわき腹の皮膚や首筋をえぐり、貫いた。 相手は表情ひとつかえず、それどころかコチラへ向かってきた。 首筋の皮膚は裂け、鋭い髪に血を塗りつける。 とっさに自分たちの個室へ逃げ込む。 「芽衣!!その人たちをどこかへ避難させて!!」 「五月?!どうし」 「早く!!」 バタバタと音が聞こえる。 自分が姉なんじゃないのかと芽衣は言うが、兄である自分の言うことには ちゃんと聞いてくれる、できた妹だ。 しっかりあの人達を避難させてくれただろう。 それでいい、実戦経験の無い妹にココに居合わせて欲しくない。 『芽衣が無事なら…』 パキパキと髪は形をかえ、刃物のように鋭く鈍く光る。 これだけ設備の整った列車だ、恐らく持ちこたえることが出来れば 援軍が到着するだろう。 覚悟と共に、髪は一層硬度を増した。 ―同刻― 「ゆっくりで大丈夫です!ゆっくりこの輪へ身体を通して下さい!」 『虹倍、声を張り上げすぎるとパンピーは動揺する、笑顔を作れ。』 「は、はい、灰谷先輩。」 そういう先輩が笑顔になった所なんて見たことないです。 虹倍は言いたい言葉をグッとこらえた。 彼女は列車後方から、灰谷は(先に爆撃を受けた)列車前方から 乗客の安全確保に務めていた。 元からかすれた自分の声は、緊張のためか、よりかすれて聞こえる。 (彩女、がんばるのよ!初任務なんだもの!大丈夫避難させるだけだもん) そう自分にいいきかせた。 彼女の作る直径50センチの円の中へ人が入ると、避難場所へ誘導することができる。 少し長い距離ではあるが、移動させることは可能だ。 避難場所は次に停車予定だったランス駅のホーム。 長いこと円形を最大に保っているため、この寒い中にも関わらず 額にうっすらと汗がにじんでいる。 人が通っている間に円がとじてしまえば、そこで空間が遮断されてしまう。 通った部分だけ、アチラ側。 通らなかった部分だけ、コチラ側。 そんなことには、絶対になってはいけない。 『落ち着け、小休止をはさめ。ムリしてミスっても俺は尻拭いはしねーぞ。』 「は、はい。」 小さな子供が通りきったのを確認して、一度円を閉じた。 その時だった。 ドォン!! 激しい爆撃音と、かすかに聞こえる子供の泣き声。 自分のいる車両から2つほど前の車両だろう。 窓をあけて身を乗り出すと、黒い煙が見えた。 『コチラ緑川、爆撃発生車両を確認した者は直ちに無線を飛ばせ!どうぞ』 『こちら糸瀬、後方車両より黒煙発生を確認。至急詳しい位置連絡を!どうぞ』 虹倍は耳元の、自らの無線スイッチを入れた 「こ、こちら虹倍!最後尾から3両目!最後尾から3両目にて爆撃を確認!  児童が襲撃を受けたもよう!指示をお願いします!どうぞ!」 安全確保担当として、行かなければならない可能性もある。 今回拳銃の支給も無かった、無闇に発砲して乗客に怪我をおわせない為だろう。 それは同時に、自分にはハッキリとした攻撃手段が無いことを意味する。 非力で、応戦なんてとてもできないだろう。 前線に出る。それは支援組にとって恐怖でしかない。 それでも彼女は指示をあおいだ。 自分以上に乗客たちは恐怖を感じているだろう。 それに子供の泣き叫ぶ声はパッタリと止んでしまった。 恐怖で声も出せないのか、それとも――もう―― 『虹倍、よく聞け』 電子音と共に、灰谷先輩の声が聞こえてきた。 『爆撃を受けた車両から少し離れた所まで移動しろ。ワープ先を確認しながら、  児童の救援に行け。  もし敵と遭遇したらすぐに逃げろ。  児童の保護を完了したら、すぐ無線を入れろ。いいな』 「は、はぃ!」 下唇がワナワナと震える、こわい、こわい。 だけど逃げるなんてできない、助けたい、助けなきゃ 助けに…行かないと!! うっすらと目元に浮かぶ雫は、地面に落ちずに決意にかわった。 残った乗客達には出来る限り移動をしないこと、身を潜めること、と告げ 虹倍はそこを離れた。 何度かワープを繰り返し、子供の場所へ出る。 「先輩?!」 出た先には金髪ツインテールの女の子がいた。 足先と指先が光っているから何かの能力者だろう、それに自分を先輩と言った どうやら同じ学園の生徒のようだ、そして何よりうっすら見覚えのある顔をしている。 そう、確か初等部の 「えっえっ、わ、わたらせ…さん?!」 驚きの声を上げてしまった。 まさか後輩がいるとは思っていなかったからだ。 「たまたま乗っていたんです。  先ほどの爆撃で足をひねってしまったようで…」 そう目線を婦人へ向けると、旦那とおぼしき人物に抱きあげられる所だった。 金髪の少女は少年の背を撫でて落ち着かせている。 泣き声が止んだのはこういうコトだったのね、と虹倍は安堵した。 「芽衣!!その人たちをどこかへ避難させて!!」 突如隣から発せられる声、ただごとではない。 「五月?!どうし」 「早く!!」 呼びかけに応じた言葉をさえぎり、覚悟を含んだ声は響いた。 「こ、この中へ!」 とっさにワープホールを作り、虹倍は母親と子供を先に、それから父親を通した。 「は、灰谷先輩、爆撃を受けた子供を退避させました!怪我人はいません!どうぞ!」 『よくやった、今レオンと糸瀬が向かってる。お前も逃げろ、わかったか。』 「は、はいっ!」 「わ、渡良瀬さんも、早く!」 しかし少女は通ろうとしなかった。 「あと少しで援軍が来てるんですよね。」 両手からバチバチと火花が飛び散る。 「あいつを、五月を1人になんてできません!」 「ま!まって!まだ戦闘訓練も受けてない、じ、実戦能力者が」 何ができるのか、そんなの、何も無い 「五月だって、五月だって同じよ!!」 小さく声を張り上げ、金髪の少女は部屋を飛び出した。 とっさに虹倍は少女を追いかけた。 隣の部屋は、入る前から金属音が鳴り響いていた。 入って右側の大きな絵画の前には、金髪をこれでもかと長く伸ばし、 赤い絨毯に突き刺し自らを防御する者。 左側には長身の、目の下に血の涙のような模様が刻まれた男が1人。 首筋の皮膚はえぐれ、わき腹からポタポタ出血している。 所々針に刺されたような痕があり、そこからじんわりと血球が浮き出ていた。 目の視点が定まっていない。 きっとこの人が襲撃犯なのだろう。 これだけ傷を負っても無表情で、刃物のような髪をしきりに攻撃していた。 そこへ電撃をまとった少女は単身突っ込んでいった。 「五月っ!!」 「めっ?!」 突如、激しい電撃が相手の身体をおおった。 予測していなかった威力に虹倍の目はチカチカとくらむ。 「バカ!逃げろ!!列車内で電撃は危険すぎる!!」 何がどう作用してしまうか分からない、列車ごと爆発するかもしれない。 興奮した芽衣にはそんなこと考えられなかった。 「うるさい!うるさい!五月のばかぁああぁああ!!」 辺りがもう一度まばゆく光った。 シャンデリアの電球は割れ、部屋のいたる所に焦げ跡を残した。 男の身体はシュゥゥゥと音をたてて、たてて… ゆっくりコチラへ振り向いた。 意思の無い目はゆっくり芽衣をとらえた。 足元の、割れて飛び散った電球の破片を拾い上げ、握りつぶし 芽衣へ襲い掛かった。 『守らなきゃ!!』 とっさに思い駆け寄った。 でも、届かない、男の方が早い。 ゴキィッ!! 芽衣は衝撃を覚悟した、しかし予想した衝撃は何も無い。 身体の横をガラス片がすり抜けていった。 「だから逃げろって言っただろ」 相手が芽衣に飛び掛るのを五月が見守るわけが無かった。 しかし相手の攻撃の方が早い。 とっさに髪を突き刺し、自らの身体を芽衣の前へ移動した。 髪を使い自身の体重を移動させたのである。 相手のコブシを受けた右腕を硬化させる時間なんて無かった。 それでも鋭く飛び散るガラスごと、相手のこぶしを受け止め 同時に髪をムチのようにしならせ、相手を切りつけた。 「五月…ばかっ!!」 「守ってやるって、言ったからな、俺のお姫様。」 「す、すぐに先輩達が来るよ!早く逃げて!!」 虹倍はとっさに芽衣の下へ手をついて、ワープホールを作った。 「きゃあああ!!!!」 落下していく芽衣、出口はすぐ外の線路の横だ。 「あ、あなたも早くっ!!」 ガキィン!キィン!と響く金属音、五月の髪に向かって男は攻撃を繰り返していた。 きっと五月がいなくなったら自分がマトモに攻撃を受けてしまうだろう。 でも、後輩を、それも初等部の子を残すわけにはいかない。 先に行って!そう言う虹倍を五月は防戦に応じていない右手で引っ張った。 「レディーファースト、ですよ、先輩」 片腕をワープホールに突っ込んだままの虹倍は、そのまま穴の中へ吸い込まれていった。 穴の向こう側で虹倍が何か叫んでいたが、五月には聞こえなかった。 「先輩!五月は?!」 穴の外に出た虹倍に、間髪いれず芽衣が質問を投げた 「引っ張られて、私が先に落ちて…」 衝撃でワープホールが閉じてしまった。 元から、自分の身体のどこかを通していないとワープホールは形成されない。 「す、すぐに!戻って…!!」 連れ戻す、そう言いかけて虹倍は止まった。 ワープホールがうまく形成されないのだ。 「…なんで…なんでなの?!」 焦れば焦るほど円は歪み、形を成してくれない。 目の前で起きた惨劇、五月が引っ張った時に自分の腕についた血の跡。 震えが収まらなかった。 「五月!五月!サツキィ!!」 金髪の少女が、同じ金色の光を辺りにバチバチ散らした。 「せ、せんぱ、せんぱぃ…!はいたにせんぱぃ!」 『どうした虹倍、落ち着け、騒ぐな』 ガガッと電子音と共に、灰谷の声が響いた。 「しょ、しょとうぶの子が、中に、なかに、それで私、わた、まもろうと、でも守られて  ワープして助けに、いこうとおもったのに、わーぷできな、ったすけて、たすけて!」 ヒックヒックと嗚咽が止まらない、自分でも何を言っているのか分からない。 涙が止まらない、嗚咽しすぎて胸が痛い。 『落ち着け!!』 『ドウしたんだ〜アヤメちゃ〜ん!』 『泣いてるともっとイジめるわよ!』 『ゆっくりでいいよ、大丈夫だから。今ソッチに向かってるよ』 先輩達の優しい声が響いた。 「な、7両目にてNEXT、構成員らしき、人物を確認、情報の通り、め、目がうつろ  しょ、初等部の、わ、渡良瀬が、単身、っ車内に残り、応戦中。  上腕部に、打撃による負傷、全身に、ガラス片による、無数の切り傷、を、確認  こちら再援が不可能な状況…っ  援護、援護をおねがいします!」 嗚咽の収まらない喉で状況を報告した。どこまで喋れていたのか分からない。 『リョーカイ!』 『分かったわ』 『よくやった』 『あとは任せて大丈夫だよ』 先輩達の声を聞き、虹倍の意識は途切れた。 ―9時15分― 芽衣のいる辺りが、急に黒煙に包まれた。 また爆撃か何かかと思ったが、爆撃音も無ければ息苦しくも無い。 「あ〜ぁ、返答無いと思ったらぶっ倒れてるよ、こいつ」 煙の中からスッと現れた長身の細身な男。 「あー、渡良瀬、お前の兄貴だろアッチにいんの。  あいつ勝手に俺のプリン食いやがって。」 バチがあたったんだ、バチが。 「ちょっくら移動するぞ、NEXTの方からも援軍が来てるかもわかんねーからよ」 だりぃーと呟きながら、彼は虹倍を抱え上げた。 「アイツなら他の奴等に任しとけ。ったく、すぐに逃げろつったのによー。」 煙に紛れ、彼等はその場を離れた。 ―9時25分― とにかく、相手をまくことができた。 攻撃速度は速いが、それ以外の速度はコチラが上だったし なによりゾンビのような動きをしている、とても正常だとは思えなかった。 潜んだ用具室の隅で、積まれた箱に背をあずけた。 硬化し続けた髪の力を抜き、きっとまた来るであろう襲撃を覚悟して神経を研ぎ澄ました。 あの場所で自分がどいてしまえば、あの小柄な先輩の身体はあの筋肉ヤロウに 殴られていただろう。 それだけは許せなかった。 しかしとっさの事とはいえ、血のにじんだ右手で先輩の腕を掴んでしまった。 (きっと服汚れちゃったよね、次に会ったら謝らなきゃ。) 掴んだ腕は小刻みに震えていて、目が恐怖を映していた。 あんな人を置き去りにできるわけがない。 (信じられないって顔…してたなあ…) ごめんね先輩。 敵の襲撃にそなえ、再度髪を硬化させた。 (先輩がいたなら、きっと援軍が来てるんだよね。  それとも先輩も同じ列車に乗り合わせてたのかな) ピキィッ 周りの空気がかわった、誰かがこの部屋に入った。 さきほどのゾンビのような男じゃない。 襲撃に備えて、五月は髪でガードを作った。 「ワタラセちゃーん、ダヨネー?」 ふよふよと浮かぶカメレオン、すごく、すごく見覚えがある。 身体を背景になじませることのできる能力者。 寮の風呂場でよく見かけたカメレオンのマーク、そう、緑川先輩。 幾度と無く女子風呂を覗こうとしてコブを量産していた緑川先輩。 幾度と無く女子の保健の授業に乗り込もうとして先生に叩き出されていた緑川先輩。 女子寮に単身突っ込み、その度に何故かソコだけ消せない胸のカメレオンマークを モップやハタキで殴られ、しまいにはフライパンの丸い痕をつけて帰還してくる あの緑川先輩。 「よくガンバったなー、エライエライ。」 すぅーと現れる先輩の身体、それも上半身だけ。 全身出たら、多分この人は全裸なのだろう 猥褻物陳列罪もいいところだ。 「アッチは糸瀬がガンバってくれてるミタイーだヨー。」 「早百合先輩も…。他には誰が来てるんですか?」 「ンー、風間と灰谷とー、二年のニジマスアヤメってヤツー。」 先ほどの彼女は「すぐに先輩達が来る」といっていた よかった…きっともう保護されているだろう。 とっさの判断でああするしかなかったとはいえ、震える女性を 穴の中へ放り込んでしまった。少しだけ罪悪感があったのだ。 ホッとして髪の硬化をといた所で、キャアッと女性の悲鳴が聞こえた。 「糸瀬!!」 「早百合先輩!!」 緑川は身体を背景に紛れさせ、五月は髪を硬化させた。 「アイツの糸はお前ミタイに硬化デキねーんだ、風間も防御力は低い、俺もだ。  防御の方ヨロシクな!コーハイ!」 そう五月につげ、カメレオンのマークは糸の中へまぎれていった。 「生きてたのね、上出来よ。サツキ」 長い黒髪ポニーテールをふわりとゆらし、鋭い流し目が五月を捕らえた。 「じゃあご褒美期待しちゃっていいですか?レディ」 鋭い爪のように、髪で糸瀬と風間の前に防護壁をはった。 「渡良瀬君なら大丈夫だろう、って言ってたの糸瀬なのに。」 心配してたんだねぇと風間が微笑んだ。 そうこうしている間に、緑川は行動を起こしていた。 緑川が怪物のような男の背後に回りこみナイフを突き立てる。 ガァアアアアアアアアッと響き渡る咆哮に窓がビリビリと音をたてて啼いた。 刃物は背筋を貫き、おそらく肺部分へ到達しているだろう。 カメレオンマークが離れるとナイフも抜け、一層苦しそうな声で男が啼いた。 ヒューヒューと音が聞こえる。 息を吸っても肺が酸素を取り込んでくれない状況、いくらもがいても 盛大にあいた穴は塞がってくれない。 授業で少しだけ学習した記憶がある、背中の筋肉は他より薄いと。 手足が金属のような男だが、身体に改造は受けていないらしい。 硬化能力者だから分かる能力で硬化した体と金属の違い、コイツは間違いなく後者だ。 暴れる男を糸瀬が縛り上げ、飛び散るかつては列車の一部であった破片 それを五月の髪が受け止めた。 「コレは捕獲コースってヤツかァ〜?」 「できるといいわね」 激しく動く男は糸を無理やり引きちぎった。 ワイヤーのような糸をちぎり、真っ白な糸に鮮血がベットリとついた。 男の手や身体には糸による無数の傷ができ、出血量はハンパではない。 ≪15分前≫ ピーガガッと電子音と共に、女性の声が聞こえてきた。 どうやらこの男のどこかに埋め込まれているマイクから聞こえているのだろう。 「かえ…る…っ」 男は車両のドアを開けた。 全力で走行する列車のドアから突風が吹き荒れる。 「か…え…」 うわごとのように呟き、男は身を投げ出した。 列車は、絶壁にかかった橋の上だった。 『アー、アー、初等部のワタラセを保護ォ、ワタラセを保護ォ。』 『捕獲は失敗したわ、残念ね』 『車両から身を乗り出して対象は逃走したよ。』 『イマからァ、残りの乗客のォ保護に向かうヨー。』 灰谷と虹倍両者の無線に連絡が入る。 「先輩!五月…無事なんですね!」 「電撃でてっぞ、落ち着けガキ」 安心と安堵と興奮から、芽衣の身体からはバチバチ火花が飛んだ。 芽衣に無線のボタンを押してもらいながら『了解』とだけ告げた。 この激しい電撃に耐え切れる無線の構造が不思議でしょうがない。 確か完全防水でもあり、耐火構造でもある。 俺たちの大切な連絡手段だ。 「……えっ、えっ、渡良瀬君、無事だったの?ほん、と?ほんと?!」 芽衣の電撃で覚醒した虹倍が飛び起きた。 「動くな馬鹿!落とすぞ!」 先輩に背負われているという事実を理解するや、虹倍は身をちぢこませた。 「ご、ごめんなさぃぃ、ごめんなさいぃいっ」 「首を絞めるな馬鹿っ!苦しいだろうが!!」 「ところで虹倍、もうワープできそうか?」 虹倍は自らの手を見た。もう震えていない、大丈夫。 「いけます!」 三人は列車の停止するランス駅へワープした。 ―9時50分― 「五月!!五月!!」 混雑した駅のホームで、灰谷と虹倍と芽衣の三人は戦友を探した。 連絡をとっている人、列車に乗っていたであろう知人を探している人 恐怖からか泣いている子供が母親になだめられていた。 「芽衣!!」 こちらへ声を発した先へ振り向くと、体中にキズを負った五月がいた。 横には先輩達もいる。 芽衣は五月へ駆け寄った。 「バカ!バカ!なんで!なんで1人で…!バカ!!」 ひとしきりバカと言った芽衣は、五月の両耳を手で挟んだ。 「ほんとに…バカサツキ…。」 コツンと、お互いの額をあわせた。 「ゴメン、ほんとに…ごめん。」 「もう心配かけないでよ、あんたに何かあったら私が怒られるじゃない。」 額から伝わる芽衣の温度。 ああ生きてるんだ、と五月は感じた。 「おフタリさーん、状況報告がアルから学園モドルよー。」 「せっかくの休みなのに申し訳ないわね、さっき言ってたご褒美をあげるわ、ム チ で 。」 「おいおい糸瀬、怖いこと言ってやるなよ。ほら、早く五月君の手当てもしないとね。」 「早くしろ、だりぃ」 呼ばれた方向へ2人が向かおうとした。 そこで、五月は左腕の袖をツンツンと引っ張られた。 振り向くと先ほどの先輩がいた。 「あ、さっきは落としてごめんなさい。大丈夫でしたか?」 そう言葉をかけると、虹倍の目に涙が浮かんだ 「し、心配っしたんだから!ほんとに、ほんとにっ」 ごめんなさい、と声にならない声でうなだれた。 なんて言えばいいだろう、いい言葉が浮かばない。 紳士失格だな、と自分を叱咤した。 そのかわり、彼女の耳にそっと口を近づけた。 「先輩、その年でバックプリントは止めといた方がいいですよ。」 ウサちゃん、でしたね。と微笑んだ。 「ば、ば、ばかああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 バチィィン 負傷者一名・渡良瀬五月 損傷箇所・右上腕打撲、同じく右上腕裂傷        頭部数箇所、両脚両腕にガラス片による切創        左肘に擦過傷        左頬にビンタの痕 追記と謝罪 五月ちゃんの設定あき、色々ごめんなさい。可愛い表現が無くてほんとにもうごめんなさい 芽衣ちゃんの設定あき、ツンデレてなくてごめんなさい 糸瀬ちゃんの設定あき、能力を紐から糸にしてしまいました、ごめんなさい 緑川君の設定あき、口調を個別化するためにカタカナまじりにしました、ごめんなさい 風間君の設定あき、出番少なくてごめんなさい 灰谷君の設定あき、あんまり不良っぽくなくてごめんなさい 虹倍ちゃんの設定あき、口調も性格も妄想です、ごめんなさい ナタクの設定あき、名前すら出てこなくてごめんなさい、一時間と時間をくぎってあるのがツボでした お子さん達をお借りしました、本当にありがとうございます。 最後に、ここまで読んでくれたとしあき、ムダに長くてごめんね。                                         ありがとう。 更に追記 自分の絵化キャラが意外と多いことに気付いた 列車内&打撃系に対応できるキャラクターを基準に考えたらこうなりました 列車の描写がしたかったのにできなかったです。絵でなんて描けません、ヘタレでごめんんんんっ。 初めて一本ちゃんとSS書いたよ、絵を描くよりむずかしい…文字とか苦手ッス、でも楽しかった。 りんりんさんごラブラブ?SSは完成未定。抱きしめてケツもにもに触ってる所で自分が萌えすぎて 文字にするのがツラいです。 「とっしー!続き書いて!!」って投げ出したいです。 バッチコイ!って人はスレで言ってください、投下します。 言い訳だらけだー、うああああ…orz