※ 注意!   今回も前回と同じの妄想垂れ流しでオチもヤマもなければ文章構成自体おかしいです。   凛珊妄想書き綴っただけで、ほとんど書きたい場面を書いただけなのを『折角だから』で投下。   許容できない方、『恋愛系ばっか落としてんじゃねーよ』って方はそのままバックした方が目の保養でござる。   それでもよろしい方のみお付き合いくだされ。 「あら凛、明けましておめでとう」 「おう、おめでとう。お袋、今年もよろしく」 元旦。冬休みに実家に帰省していた俺は居間で朝食の準備をしていた母と顔を合わせた。 1月の早朝という事で肌を刺す寒さに目が冴え、二階の自分の部屋から降りてきた所だった。 「早いわねぇ、まだ7時過ぎよ?たまの実家なんだからゆっくり寝てれば良いのに」 「する事ねぇから早く寝るんだよ…。あれ、そういえばオヤジは?」 「お父さんお仕事ですって。昼ごろには帰ってくるんじゃない?」 「正月の朝っぱらからか、大変だな。あー、さみぃ」 この寒空の中駆り出された父に同情しつつ服を着替える。 コタツにでも入れてあったのか、着替えは少し暖かかった。 実家のこういう気遣いは寮にはないものだし、素直にありがたい。 「あ、そうだ。凛、ご飯食べる前に年賀状取ってきてくれない?」 「あ?食ってからで良いじゃねーか」 「新年早々口答えしないの。お雑煮、お餅抜くわよ」 新年早々この母は大暴挙を予告してくる。餅のない雑煮など雑煮といえるのか。 弱味を握られてはしょうがない。 俺は着替えも早々に寒い廊下を渡って、さらに寒い外に出る事になった。 「あークソ、マジ寒ぃ」 玄関をくぐると、ちらちらと粉雪が降っていた。 寒いわけだ。積ってはいないが、この調子で振り続けたら積るかもしれねぇな。 まぁ、のんびり雪を鑑賞しに来たわけじゃないし、さっさとポストを漁る事にしよう。 「あー、結構来てんなぁ。…ってほとんどオヤジか」 一括りにされた年賀状を手の中で軽くバラして宛名を見る。 当然と言えば当然だが。学校でも人付き合いする方でもなし。 俺は再び玄関をくぐりながら年賀状を物色する。 「お、神谷…と井伏か、写真付き?アイツら中国行ってんのか。  あとは…赤星、佐伯、薔薇院…。これは……高山か」 名前を見なくてもわかる。 大きく『明けましておめでとう!』と何故か筆で書いたようなやけに汚い字。 隅っこには『今年こそ決着!』と添えられている。 アイツらしいっちゃらしいが、新年の挨拶に決着はどうなんだ? 廊下を歩きながらもくもくと年賀状を漁っていく。 やがて部屋につき、コタツの上に年賀状を無造作に放り投げて広げた。 自分もモソモソとコタツにもぐりこむと暖められたコタツが冷えた足に心地いい。 「あらあら、凛、ちゃんとあとで分けておいてよね」 「あー」 コタツ上にバラけた年賀状に、母が呆れまじりに話し掛けてきた。 気の抜けた声で返し、黙々と仕分けしながら“目当てのモノ”を探す。 オヤジ、オヤジ、オヤジ、お袋、オヤジ、俺、お袋、お袋、オヤジ、俺。 積み重なっていく年賀状。わかりやすいほど少ない俺の山。 やがて全ての年賀状が分けられる。 ……ない。手元にはもう一枚のないので、俺の山をもう一度確認する。 といっても、分ける時に名前は全部確認したし、これだけ少ないのに見落としたとも考えづらい。 …………やはりない。 「――んだよ、アイツ…」 自分から『先輩、年賀状書くから住所教えとって♪』とか言ってた癖に。 元旦に届くように出した俺がアホみたいだ。 「お目当ての子から来なかった?」 俺のボヤキを聞きつけたのか。 お袋が雑煮を俺の前に置きながら、からかうような口調で尋ねた。 「アホか。これ。お袋とオヤジの」 「はいはい、ありがとう。…彼女?」 「…あのな」 「図星でしょ?凛はわかりやすいからね。貴方、嘘でも否定しないから」 「―――――」 「彼女できたら紹介しろとは言わないけど、一言くらい言ってね。  あなたそういう話しないから、ママさみしー」 流石に18年の付き合いである。俺の誤魔化し方を心得ている。その辺りは通用しない。 ……しかし“あいつ”を彼女と呼んで良いのか。 恋愛感情として好きだ、という気持ちはある。 しかし、その。アレだ。 10歳のガキ連れて『彼女です』なんて親に言ったらどうなるか。 せめて後5年、いや、6年…。 “そういう関係”はあいつがデカくなってからで遅くない。 それまでの間、あいつとの“コレ”が続いているなら。別にそれくらい―― 「で?どうなの、実際」 母がニヤニヤしながら向かいに座ると、身を乗り出してさらに尋ねてくる。 「居るんでしょーそういう子ー。どんな子?可愛い?」 「しつけぇ」 機嫌の悪さを強調して吐き捨てて、俺は雑煮をかきこんだ。 …熱い。雑煮はかきこむものじゃなかった。 母はそんな俺を『ふーん』と鼻を鳴らして眺めている。 「……じゃ、そのうち連れてきてよね。  我が家は学校とはそんな離れてないし、無理ではないわよね」 「…そのうちな」 「うん、楽しみにしてるわ」 母はそう言って納得した様子で自分も雑煮を食べ始める。 …うん、俺は嘘は言ってない。 ただその“そのうち”が何年後になるかわからないだけだ。 とりあえず嵐は去った。台風一過。 あとは毎年のようにこのまま雑煮を食って新年のつまらないテレビでも眺めながらゆっくり―― ――ピンポーン 突然のチャイムに俺と母は顔を見合わせる。 「あら、誰かしら?」 知らん。新年のこんな朝早くから訪ねてくるような人物に心当たりなどない。 時刻はまだ8時前。親戚にしたってこんな時間に来たりはしない。 「凛、ちょっと出てきてよ」 「何でだよ。俺さっき年賀状取ってきたろ」 「おせち抜き」 「いってきます」 元旦ってのは弱味の多い日である。 「はいはい、どちらさま――」 玄関のドアを開けて半身だけ出して外を見回す。 目線に人の姿はない。イタズラか?新年早々…。 怒ってもしょうがないのでドアを閉めようとした、その時。 「先輩、凛先輩っ。こっちや、こっち!」 「……は?」 やけに聞き覚えのある声が、目線3つくらい下から聞こえた。 「……珊瑚?」 見間違うハズもなく。 さらさらの金髪に花の髪飾り。深緑の瞳に、胸元にも届かない小さな体。 いつもの見慣れた、“筒塚珊瑚”の姿。 ただ一ついつもと違う点があるとすれば―― 「凛先輩、あけましておめでとー」 「お、おぉ…おめでとう?……は?何で?」 「なーなー凛先輩っ。どう、振袖。似合う?」 俺の質問も流して珊瑚はその場でくるりと回って見せた。 白い花柄の真っ赤な振袖。その赤が珊瑚の白い肌と金髪を一層に栄えさせる。 外国人の振袖姿ってのはテレビで見ると若干の違和感を感じていたが、なんというか。 冬休みに入って一週間姿を見ていなかった所為か、それとも振袖のお陰か。 今日の珊瑚が、いつもより大人びて見えた。 あぁ、こいつ―― 「可愛――」 「あ、ゴメンな先輩、こんな朝早く…。ビックリしたやろ?」 「えっ!?あ、あぁ、そうだな…!」 言いかけた処でハッと我に返る。 危ねぇ…!俺今何言おうとしてた!? とりあえず落ち着こう。何でこいつがここに居るんだ? 「珊瑚、お前帰省したんだろ。何でウチに来てんだ?」 「あ、それな、実は――」 「凛ー。お客さん〜?」 珊瑚が言いかけた処で、狙い澄ましたかのようなタイミングで母が乱入してくる。 玄関の手前の辺りから珊瑚を見つけると、驚いたような顔をして声を高くした。 「あら、可愛いお客さん。でもこの辺りじゃ見ない娘ね」 「あ、凛先輩のお母さんですか。初めましてっ、うち筒塚珊瑚いいます」 珊瑚がペコリとお辞儀をしたのを見て、母は慌ててコチラに駆け寄って会釈した。 「あらあら、ご丁寧にどうも。こんな可愛い子が新年の挨拶に来るなんてうちの子も隅に置けないわねぇ。  珊瑚ちゃん、だったかしら。凛の後輩?」 「はいっ、凛先輩の“ 彼 女 ”ですっ」 「……彼女?」 「はいー。あ、でもうち的にはもう“将来を約束した”っていうか“責任とってもらわなー”っていうか」 「凛、ちょっとこっち来なさい」 母が見た事のないほどの笑顔でニッコリと笑っている。 おかしいな。外はまだ粉雪が降ってるくらい寒いのに、嫌な汗が止まらない。 母が俺の腕をグイグイ引っ張って家の奥へと連れ去ろうとしている。 「珊瑚ちゃん、ゴメンね。ちょっとだけ待っててね?」 「? あ、はい。全然ええですよ…?」 「ゴメンね?すぐ済ますからね」 「―――いやいやお袋、外は寒いから上がってもr」 ――バタン 無常に響くドアの閉まる音と共に俺の救済は却下された。 「ねぇ凛。どういう事?」 「…どういう事と言われても」 「ゴメンね?お母さん、目が悪くなったみたい。  あの子どう見ても同い年とかに見えないんだけど?…珊瑚ちゃん、いくつなの?」 「……あー。確か小4だから10――」 ――ドスッ!(鳩尾 「げふぅっ!」 「お母さん耳も悪くなったみたいなんだけど。……アンタ、そっちに走ったの?」 「いや別にロリコンとかじゃねぇから!」 「じゃああの子が嘘ついてるの?そういう風に見えないんだけど」 「…あー、なんつーか、その。嘘、は言ってない―」 ――ドスゥッ!(二発目 「うげっ!ちょっ、タンマ、鳩尾は…!雑煮出る…!」 「……あんたあの子に何もしてないでしょうね」 「してねぇよ!……うん、してねぇ」 「―――はぁ、まぁ良いわ。で、彼女って言ってたけど。付き合ってるの?」 「……多分。一応?」 ――ガスッ!(腿蹴り 「痛ぇ!リアルに痛ぇ!」 「ハッキリしなさい」 「――……あいつはまだガキだから付き合ってるっつっても一緒にいるくらいだけど。  俺は珊瑚が好きだ。あいつの年とか、関係なしで」 「――アンタよくそんなこっ恥ずかしい事、親の目ぇ見て言えるわね」 「あんだけ殴って言えっつった癖によくも…」 「……はぁ」 俺に掴みかかっていた母がゆっくりと離れて今の方へと向かっていった。 「お袋?」 「ぼけっとしてないで早く家に入れてあげなさい。外は寒いわよ。  お雑煮、もう一つとってくるから」 「お、おぉ…」 珊瑚を家に上げて一番暖まっている居間に案内した。 珊瑚は物珍しげに辺りを見回しながら楽しそうに俺の後ろをついてきていた。 …以前、寮の部屋にあげた時の事を思い出す。コイツの行動パターンは基本的に一緒なんじゃないか。 コタツに入るように促すと、珊瑚は綺麗に正座してもぐりこんでいく。 あぁそうか、振袖着てるからか。着馴れてないんだろう、動きにくそうだ。 居間に二人。向かい合ってコタツにもぐる。 とりあえず暖を取る体勢に入った所で、質問を投げかける。 「珊瑚、寒くねぇか?」 「うん、あったかいよー。寮もやったけど、先輩の家キレイに片付いとるね」 「あぁ、ウチはお袋が厳しいから…って、そうじゃなくて。  珊瑚、俺の記憶が確かなら、お前の実家は大阪の辺りじゃなかったか?」 「せやね」 「いや『せやね』じゃなくてだな。何でわざわざウチに来てんだ」 「何でって…新年のご挨拶に決まっとるやん」 「普通それは一先ず年賀状で済ませるもんじゃねぇか…?」 「あはは…それなんやけど…」 気まずそうに乾いた笑いを上げる珊瑚。 とりあえず全然わからないので、無言で続きを催促する。 「うちからの年賀状、届いてへんかったやろ?  実は年賀状書いとったんやけど…その、なんや上手く、書けんくて…」 珊瑚はどこかしどろもどろになって答えている。 普段から(特に俺に対して)突拍子もない所はあるが、それにしたって突飛すぎる気もする。 年賀状が書けなかったくらいで普通わざわざ訪ねたりしないし、珊瑚だって常識がない訳じゃない。 しかし。視線を泳がせながらどこか肩身狭そうに言い淀む珊瑚に、これ以上追及する気も起きなかった。 「――まぁ、もう来たのはしょうがないし、ゆっくりしていけ。  しかしどうやってここまで来たんだ?」 「うん。夜行バス乗って」 「……その格好でか?」 「そうやけど?」 珊瑚はキョトンとした顔で小首をかしげる。 こういう着物とかは結構重かったり苦しかったりすると聞いたが。 というか女の子が一人でそんな恰好して夜行バスというのも、どうなんだ。 「大丈夫やよー。うちにはトカちゃんとかもおるしっ」 思考を読まれたのか顔にでも出ていたのか。 まぁ、こうして無事な分だけは良しとしておこう。 「はいはい、お邪魔するわね〜」 会話が途切れるタイミングでも計ったように母が盆を持って居間へやってきた。 さっきといい、狙ってるんじゃないか。 「はい、珊瑚ちゃん。これ、我が家のお雑煮。暖まるから、良ければ食べて」 「あっ、すいません。せや、これ、大阪土産ですー。良ければ召しあがったってください」 「あらー、別に良いのに。小さいのによく気のつく子ねぇ。  うちのバカ凛にはもったいないわ」 買収された。 母は俺の前にコーヒーを置くといそいそとコタツにもぐりはじめる。 ……ちょっと待て。同席する気かこのオバン。 話し始めると早いもので。 すっかり母と珊瑚の世界が出来上がってしまい、会話にも入れない俺は聞き耳を立てながらコーヒーを飲んでいた。 お互いがお互いの気になる事を質問してるようだが、所々で俺の名前が出ている。 …まぁ、大した事でもないので聞き流してるんだが、何だこの微妙な居心地の悪さは。 「ふふ、珊瑚ちゃんホントに良い子ねぇ。  最初聞いた時は驚いたけど、ホントうちのには勿体ないわ」 「えへへっ、ありがとーございますーお義母さん」 あれ?今なんか漢字おかしくなかった? ちょっとお袋何スルーしてんの?良いの?アリなの? なんて心の中で突っ込んでみるものの、言って取り次ぐ親でもなし。 気の済むようにさせておこう。と、コーヒーを傾けて― 「――ねぇ珊瑚ちゃん、凛のどこが好きなの?」 盛大に吹いた。 「へ?凛先輩の好きなトコですか?」 「うんそう。言いにくい?」 当たり前だろう。本人目の前に居るのに。 というか俺が聞きづらい。何考えてんだうちのお袋…。 「んぅー…」 珊瑚はというと、唇に指を当てて考えるような素振りをしながら、チラリとこちらを盗み見る。 俺はむせながらその視線に自分の視線を重ねる。 『相手しなくて良いぞ』 …俺だって聞きたくない訳ではないが。何もこんな場で聞く必要はない。 瞳でそう伝えたつもりだが、上手く伝わっているかどうかはわからない。 が、珊瑚は俺の目を見たあとニッコリと笑って。 「うちの事、大事に考えてくれるトコとか。大好きですよ」 渾身の笑顔で言ってのけた。 呆気に取られる俺ら親子を尻目に、珊瑚は楽しそうに続ける。 「いっつも子どもだからーなんて言うてるけど、傷つけんようにしてくれとるの知っとるし。  そんな性根優しいくせに悪ぶってて素直ちゃうトコとか可愛ぇ思うし。  あ。でも人おらんトコやと普通に優しゅうしてくれるんですよ?  そんであとは―――」 珊瑚は身振り手振りを交えながら心底楽しそうに、嬉しそうに喋り続けている。 その笑顔はいつものしっかりした印象とは逆に、年相応の子どもの物でもあった。 やがて話に聞き入っていた母が、ゆっくりとこちらを振り向く。 その顔はニヤニヤと笑いながらも、尚も続く珊瑚の話に耳を傾けている。 何これ公開処刑? やがて珊瑚の勢いが収まってきた辺りで、母がゆっくりと口を開いた。 「珊瑚ちゃん」 「それと――あ、はい。どないしました?」 「ありがとうね」 「え?」 「うちの子素直じゃないから、よろしくね。  そうだ、珊瑚ちゃん今日泊まっていきなさい。それが良いわ。もっと話も聞きたいし」 「へっ?えっ?あの…ええんですか?」 「おいお袋、そんな勝手に――」 「ほら凛、ぼさっとしてないで。空いてる部屋あったでしょ。  珊瑚ちゃんの荷物持って案内したげなさい。今日のご飯は張りきるわよー」 お袋は一方的に取りきめると、張り切りながらさっさと部屋を出て行った。 再び部屋に二人残される。 本日二度目の台風一過。嵐のような母だ。 とりあえず珊瑚に確認を取った。 「あー、珊瑚。予定あるなら別にアレに付き合う必要ないからな」 「あ、うぅん。今日ホンマは友達んちに泊まるつもりやったけど…あっちは断りの電話入れとくからええよ」 「…良いのか?先約、そっちだろ」 「うん、今度埋め合わせしとくし。…先輩の家に泊まるなんて、ないやん?」 「え、あー……そうだな」 言われて少し意識する。…まぁ、別に何もないんだが。 「とりあえず部屋案内するか。珊瑚、荷物これだけ――」 珊瑚の荷物を拾おうと屈んだところで、なんだか体に抵抗を感じた。 振り向くと珊瑚が少し俯いて俺の服の裾を掴んでいた。 「珊瑚?」 「――あのな、凛先輩。うち一つ嘘ついててん」 裾を掴む手をそっと払って、膝を折る。 目線が並び、珊瑚が遠慮がちにこちらを見つめてくる。 そのままの体勢で、珊瑚が自分から話すのを待った。 「…年賀状な、ちゃんと書いてん。でも書いとったら先輩の顔浮かんで…。  その、住所教えてもらっとったし…。ゴメンな先輩、今日来たの全部うちの我儘やねん。  先輩のお母さんは歓迎してくれとったけど……迷惑やなかった?」 珊瑚は不安そうに俺を見つめる。 ……何か、いっつもこんな顔させてる気がするな。 「珊瑚」 名前を呼んで、頭を撫でる。さらさらの髪が掌に心地いい。 「お前居て迷惑だと思った事はねぇよ。…でもだな、『会いたい』って思うならちゃんと連絡しろ。  そん時は俺から行ってやる。大阪でもどこでもな。  ついでに、今度から一人でこんなトコまで来んなよ。……心配するだろが」 「…うん。ごめんな、先輩…」 軽く項垂れる珊瑚。撫でていた手を後ろに回して、少しだけ抱きよせる。 珊瑚は俺の背中に腕を回してきた。といっても、腕も短いのでほとんど回ってない。 肩の後ろの辺りの服を、くしゃっと掴んでいるだけだ。 「――まぁアレだ。俺も…その、『会いたかった』」 「…うんっ。えへへ…」 耳元で、ぼそっと呟く。 珊瑚は小さな腕にさらに力を込めて俺に抱きついて来た。 抱き抱えるような姿勢はちょうど良い。顔を見られない。絶対赤いし。 ……さて。いつまでもこのままってのも話が進まない。 荷物を部屋まで運んで珊瑚を案内しないといけない。 というか、こんな所を母にでも見られたら。 「……おい、珊瑚?部屋連れてくから、そろそろ離れ――」 「――抱っこ」 「…は?」 「このまま抱っこで運んで?」 「お前な…俺お前の荷物もあるんだけど」 「そんな入っとらんよ。それともうち、重い?」 「あー、はいはい。…落ちんなよ」 「んっ♪」 しがみ付く珊瑚を抱え上げ、反対の手で珊瑚の荷物を掴み立ち上がる。 どちらも思いの外軽くて、簡単に持ち上がった。 この後、ちょうど珊瑚を抱えている所を母に見られて茶化されたり。 帰ってきたオヤジに散々冷やかされたり。 まぁ、語るネタには尽きないが、ここではスパッと省略しておく。 これから珊瑚と居る日常。こんな事はきっと日常茶飯事になっていく。 先は長い。ならきっと、またいつか話せるような事もあるだろう。 それまで。精々俺は、腕に抱えたこのお姫様を離さないように。 ※本編に盛り込もうとしてタイミングなくしたのをスクっぽくしたオマケ 凛母「あー、珊瑚ちゃんホント良い子ねー。凛、ちゃんと捕まえとくのよ」 凛「はいはい」 凛母「…大丈夫かしら。あ、そうだ。珊瑚ちゃーん」 珊瑚「はい?どないしました?」 凛母「珊瑚ちゃん知ってる?お正月に恋人たちは“姫始め”っていうのをするのが決まりなのよ!」 珊瑚「“ひめはじめ”?」 凛「変な事吹きこんでんじゃねぇぇぇ!」 凛「そういや珊瑚。お前実家大丈夫なのか?親父さんは?」 珊瑚「うーん、お父もアレでも大人やし平気やと思うけど」 凛「いや、親父さんにちゃんと言ってきたかって意味で…」 珊瑚「あ、それは大丈夫やよー。    出るときに足にしがみついて『嫁入り前に男のトコなんか行かさへん!』    とか言うとったけど。最後には納得してくれたし」 凛「……よくそんな状態を説き伏せたな」 珊瑚「うん。トカちゃんで」 凛「…あぁ、そう」