学園マギア ショートショート  お茶と白人デブと京都娘 「それでも汝、諦めを踏破するならば──」  ぽちょん、と雫の音がした。  白く、どこか滑稽にも見えるもじゃもじゃで太い指が何とも器用に茶筅に湯を注いだ碗を掻き混ぜている。 「いやはや、いい言葉じゃないですか」  しゅうしゅうと湯の沸く音。低い英語訛りの声。和装を見事に着こなした太っちょのニック。  目には笑い皺が寄り──それから、す、と差し置かれた茶器に白い指が伸びる。 「いいお手前で……というのも差し出がましいかしら」 「いえいえ、貴女のご指導のお陰です。ワタクシ、生まれも育ちもメリケンですかラ。 こうやってご指導給えるとは正しく望外の喜びですヨ」  ニック・ドウェルフ──件の白人青年ははにかみつつも、冗談っぽくわざとらしい訛りを口にする。  最も、茶の湯、と言うのであれば、どこもかしこも間違いだらけ。  茶器一つ取ってみてもプラスチック、抹茶は合成品、茶室は校舎の一室に畳を敷いたわび住まい。  ふぅ、と一息。富美櫛はそれでもこれは限りない贅沢だ、と思う。  ず、とニックが茶を飲み干す。しゅんしゅんと茶釜が沸いている。  庇が窓の光を遮り、影を作る。しかしながら、それでも残るものは数多い。 「知っていますか?諦めは気分、楽観は意思の成せる業だそうですよ」 「当たって砕けろですか?日本語は難しいです」  落雁をクッキーのように齧る癖だけは直らない事に苦笑しつつ。 「そちらの言い回しを借りれば、そうですね」  頬に指を当て頭を回す。古い小説の一回しを思い浮かべる。 「ぱにくるな、おちつけ……でしょうか」 「日本語の癖というのも直りませんね」  はは、とニックは笑う。こういう時に彼は物事を考えているのだ、とは知っているけれども。 「ええ、でしたら次は私がやりましょう。苦めでいいですよね?」  オゥ……と呻き声。どうやら意図は伝わっているらしい。にっこり笑うとそれで諦めたようだった。  どさどさと無作法にもインスタントコーヒーの如き投入。  勿論私も口にするのだから問題はない、と富美櫛は自己正当化をしていたのだった。  /