日本分断YAOYOROZ 彩陶らごうSS 「その魂、太陽より赤く」後編 --ICBM落下予測地点 上空600km アポロンに投げ飛ばされ、地表に落ちていくカグツチの身体を、 法月 星志郎(のりづき せいしろう)はアメノカガセオの両腕と、 重力操作能力によって必死に支えていた。 カグツチはアメノカガセオにお姫様だっこをされるような体勢で空へ向かっていた。 上空600kmではすでに気圧がかなり低いため、 上昇気流を用いる方法も殆ど効果をなさず、完全な重力操作のみで浮上するしかなかった。 カグツチの右眼からは黒い血がとめどなく流れ、私の右眼はすでに視界を失っていた。 テンシュカクから叶 神子(かのう みこ)の通信が入る。 「敵ICBMターミナルフェイズに移行、大気圏に再突入します。  PBV(ポストブーストビークル)ICBMロケットブースターより分離、  4分後よりMIRV弾頭、分離開始!」 「これから空へ昇っても間に合わんな」 私が言うと法月が答えた。 「私にもっと力があれば・・・」 バキン、という音をたててアメノカガセオの装甲が剥がれ落ちた。 「お前は良くやっている。  先ほども約束を破らなかった」 私がそういうと法月は驚いた顔をした。 「アポロンの一撃を受けた後、自身は落下しているのにも関わらず私の背中を重力操作で押し続けただろう。  あれが無ければ一撃を受けたカグツチも落下していた。  私が奴に殴りかかるのに夢中で気付いていないとでも思ったか」 「い、いえ・・・死んでも送り届けると、言いましたので」 カグツチの顔をアメノカガセオに向けたが、 法月は何故か目を合わせるのを躊躇った。 「法月、右手を握ってくれないか」 「え、あ、はい」 アメノカガセオおずおずとカグツチの右手を握った。 鋼鉄の腕がカグツチの赤い手を握る。 するとアメノカガセオの重力加速が少し早くなった。 「距離感はこんなものか・・・」 私はアメノカガセオの指に触れながら、失った右側の視界の位置関係を測りなおした。 「総長、もしや目を・・・」 「ああ、さっきから右眼が見えん」 法月はそれを聞くと声を荒げた。 「総長、統制装置の同調率を下げてください。  そのまま戦っては本当に死んでしまう」 「馬鹿を言え。  同調率を下げれば動きが鈍るだろうが」 「では防ぐ核弾頭を関東地区のものだけに限定してください。  すでにカグツチの身体はボロボロです。  もし核弾頭の直撃を受けた場合、統制装置の破壊限界を超えかねない。  ここで総長が暴走すれば帝神の未来はありません。  それに関東地区に着弾する3発は全て人口密度が高く、  政府直轄の建造物や情報管理センターなどが存在し非常に重要な地域です。  それに比べ、他の着弾地点は人口密度も低く現在の日本社会に与える影響も小さく済みます。  それに聖護院学園の人間も無能ではありません。  何らかの防衛手段を打ってくるはず。  我らは我らの地区を確実に守るべきです」 私はカグツチの手をアメノカガセオから剥がして言った。 「では、”気付かなかったら”どうするんだ」 「聖護院にも偵察型のヤオヨロズは多数存在します。  気付かないはずは・・・」 私は法月の顔を睨んだ。 「たわけッ!  気付かなかったらどうする、と言っている!  もし何の対策もなされず核弾頭が落ちたらどうする気だ!  貴様は何十万人という屍の上で経を唱える気か!  目の前で忌まわしき死の兵器が落とされようとしているのに  それを黙って見過ごせるかッ!」 私は自分の血が漂うカグツチのコックピットの中で自分の拳を握り締めた。 「帝神学園はいずれ日本の全てを統べる。  そして、私は帝神学園の総長だ。  今、日本全土を守れぬならば、私に総長たる資格は無い!」 私はそう言うとカグツチの左手にある、折れ曲がったハンマーを捨て 上空に見える赤い点を睨んだ。 あの赤い点は恐らくアポロンだろう。 PBVの先端は非常にデリケートだ。 1度のズレが地表に着弾した時に何10kmものズレを生みだす。 ターミナルフェイズに入ったPBVにはさすがのアポロンも乗ることはできないだろう。 「・・・彩陶総長、あなたはどうあっても帝神学園の総長です。  どんな決断であれ、皆がその決断に従います。  しかし、あなたが空へと上がる前に門天山が言ったように  あなたの命はすでに、あなただけのものではありません。  それは心に置いて下さい」 法月は肺の底からゆっくりと声を出して言った。 「そして、あなたにもし死の淵が迫ったならば、私が命を持って阻止します」 私は法月のその言葉を聞いて小さく笑った。 「嬉しいことを言う。  お前たちの言葉で私はいくらでも強くなれる」 そう言って私はカグツチの身体をゆっくりと動かし、 重力加速のために強力なGを受けているアメノカガセオの両肩に立った。 「総長、意外と元気ですね・・・」 アメノカガセオの腕から出たのが不服だったのか、法月が少し残念そうな声で言った。 「ふふふ、元気はお前から貰った。  だがな、お前の出番は無いぞ。  私は死なんからな」 私は、PBVから離れ、高みの見物を決め込んだアポロンの影を見上げた。 「見ていろ。  特権階級だか何だか知らんが、  そんな生温い湯に浸って満足している餓鬼には到底想像もつかない方法で殺してやる」 私は凶悪な表情で笑った。 --ICBM落下予測地点 東京 丸の内ビル 屋上 少し明るくなった朝日に照らされ、ビルの屋上に 狛江・奈々子(こまえ ななこ)とヤオヨロズ「シグナルフェイバー」が到着した。 シグナルフェイバーは白銀の装甲を持つ巨大ロボットで、 他のヤオヨロズとは違い人工物のような直線的なフォルムを持っている。 胸のコックピットハッチが開き、狛江が姿を見せた。 狛江は高等部2年、茶髪の外ハネ、うすピンクの口紅をした女子だ。 立ち振る舞いや口調から明るく活発な印象を受ける。 狛江もすでに身体にぴったりとフィットした制御スーツを着ていた。 「照代ちゃーん!まだー!?」 狛江はシグナルフェイバーを使いビルの屋上でホバリングしながら、 屋上に居る銀島 照代(ぎんじま てるよ)を呼んだ。 銀島は屋上のすみで二人の技術者に大きな白い宇宙服を着せられていた。 すると神室 ケイト(かむろ けいと)がシグナルフェイバーを見上げて叫んだ。 「すまん!狛江!着るのにもう少し時間がかかる!  一旦地面に降りてもいいんだぞ!」 「お気遣いありがとうございまーす!  でも良いんです、今、すっごく調子がいいですから!」 狛江がそう言うと、シグナルフェイバーが狛江を手の平に乗せたままで宙返りした。 細身だが10m近くあるシグナルフェイバーが、空中で宙返りをしたのにも関わらず、 屋上に風は全く吹かなかった。 シグナルフェイバーはジェットやホバーなど人間の科学では説明できない理論で飛行しており、 外部装甲を外付けしているにも関わらず生身の状態と同じ速度で飛行することが出来た。 金属に対して高い適正を持ち、右手には電磁投射砲を内臓したガンブレードを装備している。 そうこうしていると銀島が宇宙服を着終え、よたよたと屋上の真ん中へ歩いてきた。 「神室さん〜動きにくいです〜」 外部スピーカーからくぐもった声で銀島が喋った。 「上空50km以上になると酸素は殆どない上、太陽からの紫外線や放射線も強い。  動きにくいだろうが我慢してくれ」 「はい〜」 「それと、核弾頭の直撃を受けるのは避けてくれ。  その宇宙服は放射線をある程度は防ぐが、爆心地に近ければ身の安全は保障できない」 「ちゃんと”ヤタ”で防ぎます〜」 すると銀島の胸元に銀色の円盤が出現した。 この小さな円盤がヤオヨロズ「ヤタ」だ。 サイズは銀島の手により操作され、実際にはもっと大きなサイズで運用されるはずだ。 「よし、では彩陶総長の援護を頼む」 「はい〜」 「それじゃ照代ちゃん、行くよ!」 狛江がシグナルフェイバーの手の平から胸のコックピットへと飛び移ると、 シグナルフェイバが急降下し、器用に宇宙服に身を包んだ銀島の背中をつまんだ。 シグナルフェイバーがそのまま手を裏返し、銀島の身体が手の平の上に乗った。 「いってきます〜」 銀島の能天気な声が宇宙服のスピーカーから出ると、 シグナルフェイバーの身体がふわりと浮き上がった。 神室ケイトがコックピットハッチを閉めたシグナルフェイバーに向けて叫ぶ。 「狛江!もし銀島の身の安全が確保できないと感じた場合はすぐに戦線から離脱しろ!  本来、生身の銀島は最前線に出るべきではない!  これは彩陶総長からの命令だ!厳守しろ!」 「神室先輩、了解です!  それじゃ、シグナルフェイバー、狛江奈々子、行っきまーす!」 狛江が叫ぶとシグナルフェイバーが水中を泳ぐイルカのように空中を宙返りした後、 空気を切り裂くような、甲高い音を放って空へと飛び立った。 --上空600km MIRV核弾頭 通過ポイント カグツチのコックピットの中に叶のテンシュカクから通信が入る。 「カグツチ、アメノカガセオ、一発目のMIRV弾頭の射線上に入りました!  コンタクトまで後20秒!」 アメノカガセオはカグツチの後にまわり、 手で触れる事無く重力操作でカグツチの身体を浮遊させていた。 「狛江と銀島はまだかっ!」 法月がテンシュカクの通信越しに叶に叫んだ。 「シグナルフェイバー到着まで後20・・・いえ、10秒!」 私はカグツチの両腕を胸の前に突き出し、手の平を核弾頭の方向へ向けた。 「まあいい。私は私のやれる事をやるだけだ」 トライデントUに搭載されたMIRV弾頭はロスアラモス国立研究所で開発されたW88熱核弾頭。 全長1.75m、直径0.55m、重量は約360kgで円錐形をしている。 全長約10mのカグツチのサイズから見れば、缶ジュースみたいなものだ。 私がまっすぐ正面を見ると、遠い空に黒い点が見えた。 テンシュカクから叶の声が聞こえる。 「彩陶総長!来ます!」 「法月!核弾頭の重力操作を頼む!」 「了解!」 大気圏に再突入し加速を増した黒い核弾頭が、 アメノカガセオの微細な重力操作によりカグツチの手の平に飛び込んだ。 その瞬間カグツチの背後が発光し、巨大な銀色の円盤が現れた。 銀島のヤタと狛江のシグナルフェイバーだろう。 しかし私に二人に声をかける余裕など無かった。 カグツチの手の平に激突した衝撃で核弾頭が火を噴く。 巨大なエネルギーが私の両手から解き放たれる。 「・・・ぐうゥゥゥッ!」 光が私の両手の中で暴れまわる。 しかしコレをそのまま放してしまえば、大地は核の炎に曝される。 「うらァアアああッ!!」 私はカグツチの両腕で核爆発を収束し、空へと放出した。 視界が真っ白になり、核爆発の衝撃が私の腕を凄まじい力で後へ押す。 私の背中をアメノカガセオの重力が押しているのが分かるが、 全く力が釣り合わずぐんぐんとカグツチの身体が後に押されていく。 カグツチの両腕から巨大な火柱が天に向かって昇って行った。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 気を失いそうになるくらいの白い閃光が消えると、自分の両腕の痛みが私を現実に引き戻した。 コックピットの中で手の平を見ると両腕から胸にかけてが膨れ上がり、 指先からはスーツの素材に吸収しきれなかった血液が染み出していた。 胸元などは制御スーツで素肌を見ることはできないが、腫れ上がっているのは間違いなかった。 流石は人類史上最強の攻撃力と言うべきか。 これはカグツチの力でも、そう何度も弾けそうに無い。 「完璧ですねえ〜」 「さすが彩陶総長、大成功ですね!」 能天気な銀島と狛江の声に続いて法月が言った。 「ガイガーカウンターの数値も許容範囲内です。  残留放射能微弱、全て宇宙へと反射しています、総長」 私の背後には白銀の装甲を持つヤオヨロズ「シグナルフェイバー」と、 その手の平に乗った宇宙服を着た銀島の姿があった。 すでに銀島のヤオヨロズ「ヤタ」は小さな鏡の姿に戻り、銀島の手の平にあった。 私は二人に言った。 「まだだ。この程度では届かん」 狛江がシグナルフェイバーの首をかしげさせた。 「何がですか?」 答えを教えるまでにテンシュカクを通じて叶の声が割り込んだ。 「2発目のMIRV弾頭確認!  総長、カグツチはちょうど射線上に居ます!  後20秒でコンタクト!」 私はカグツチの両腕を先ほどと同じように胸の前に突き出した。 掌を核弾頭の方へ向け、指を広げる。 「かめはめは〜ってかんじですねえ〜」 カグツチの姿を見て銀島の声がカグツチの中に響いた。 私は銀島に言った。 「もっと凄いものを見せてやろう。よく見ておけ」 爆発の方向性を変える”コツ”は掴んだ。 私とカグツチならばやれるはずだ。 ズキズキと痛む両腕は無視して遠い宇宙を見る。 私の視線の先にはアポロンの赤い点があった。 「総長、何を・・・」 法月が言葉を挟もうとした瞬間、2発目の核弾頭がカグツチの手の平に飛び込んだ。 激突の衝撃で2度目の核の炎が目を覚ます。 私はカグツチの両手を思い切り握りこみ、核爆発を手の内側に封じ込めた。 核エネルギーが分裂を始め、私の両腕を破裂させようと暴れ狂う。 私は両腕を掲げ、天上に輝く赤い点に向かってその力を解き放った。 「核・爆・縮!」 握り締めたカグツチの両拳の隙間の一点から、黄金のラインが煌めいた。 --ICBM落下予測地点 上空1000km 上空1000kmは黒い闇がその殆どを占めている。 地球の重力はかろうじて感じられるが、そこに空気は無く あるのは眼下の日本列島と青い海だけだ。 太陽を模した飾りを頭に付けたエインヘリル「アポロン」は、 大地に降り注ぐ核弾頭を見守っていた。 彼の任務は二つ。 人類の持つ最高の破壊兵器である”核兵器”は、 エインヘリルを保有する国家に対して戦略的な効果を得られるのかを試す事。 もう一つは、統制装置を持つ、最も強いエインヘリルを破壊する事。 これには「ヴィーンゴールヴ」の統括者「オーディーン」の意志が強く反映されていた。 オーディーンの能力はエインヘリル顕現者を無意識に服従させる「フリズスキャルヴ」 そして、エインヘリルに避ける事の出来ない死を与える「グングニル」の二つ。 オーディーンがEU諸国をあっという間に治めてしまったのはこの能力によるものだ。 正に”エインヘリル顕現者たちの王”と呼ばれる能力を持つオーディーンだが、 「フリズスキャルヴ」の枠に収まらない存在がある事を知る。 それが日本のエインヘリル、ヤオヨロズに装着された統制装置。 統制装置を持つヤオヨロズはフリズスキャルヴの影響下に置くことが出来ない。 この一点の為、アポロンに英国の原子力潜水艦「ヴァンガード」を与え、 ICBMの使用と他国との交戦を許可した。 敵がエインヘリルなら絶対の力を行使できるオーディーン。 そしてそのオーディーンが恐れたのは、その類まれなる技術力で ”科学の鎖”にヤオヨロズを繋いだ帝神学園と日本政府だった。 アポロンの顕現者、イアニス・ナキスは日本に対して特に思い入れは持っていなかった。 母が日本びいきで、イアニスが日本語を喋れるというだけで日本行きを決められたのだ。 イアニスは祖国であるギリシャが好きだった。 母が好きだった日本に少しは興味はあったが、所詮興味に留まり、 不恰好で美しさの感じられない”真っ赤なヤオヨロズ”を見たお陰で、 この仕事をさっさと終わらせて祖国に帰りたいという思いが強くなっていた。 幸い、ヴィーンゴールヴのデータベースに記録された、 アジア地区最高ランクの力を持つ”赤いヤオヨロズ”でさえアポロンには足元にも及ばず、 この足元に居る平和ボケした黄色人種達は、自分の運んできた核弾頭で殲滅されるのも間違いは無く、 赤いヤオヨロズを打ちのめした時点で、 自分の仕事は日本に降り注ぐ核弾頭の炎を見るだけだと思っていたのだ。 しかし、イアニスの予想を裏切り、ICBMから切り離された最初の核弾頭は、 地面に落ちる事無く空中で「空に向かって」火を吐いた。 イアニスは何が起こったのかが分からず、 ICBMから切り離された2発目の核弾頭の所在を確かめようとした。 その瞬間、イアニスは自分の下腹部に鈍痛が走った事に気づく。 イアニスは自分の視線をアポロンの下腹部に移した。 アポロンの下腹部には、眼下の核弾頭から伸びた光のラインが突き刺さっていた。 宇宙の闇を切り裂いた光のラインは真っ直ぐにアポロンの背中へ伸びた。 次の瞬間、アポロンは背中から青白い火を噴いた。 「ぅぐあああああああ!」 イアニスは今までに感じたことの無い激痛で脳を揺さぶられた。 『HIIIIAAAAAAA!!!』 あまりの痛みにエインヘリルであるアポロン自体も悲鳴を上げた。 イアニスの脳裏には赤いヤオヨロズの姿がはっきりと映っていた。 その姿を直接見たわけでは無かったが、イアニスはそれを確信していた。 イアニスは自分に課せられた作戦が失敗に終わる事よりも、 黄色人種の女に自分の半身であるアポロンを傷つけられた事に怒りを覚えた。 実際のところ、ヴィーンゴールヴという組織の中でイアニスは高位の職位についている。 イアニスは功を必要とする地位にはおらず、使われた核弾頭のうち2発はすでに防がれた。 この時点でイアニスはエインヘリルを擁する国家に対して、 核兵器の戦略的な運用は効果が薄い、と報告すればよく、 残りの作戦は「統制装置を持つ、最も強いエインヘリルの破壊」だけだ。 イアニスは痛みに泣き声を上げるアポロンをなだめ、 最も確実に眼下の赤いヤオヨロズを消す方法を選択した。 「δυνατο ηλιοs」  (ディナト ヘーリオス) イアニスの口からその言葉が漏れると、アポロンが右腕を天へと掲げた。 ディナト、とはギリシャ語で”強い”ヘーリオスとは古代ギリシャ語で”太陽”を意味する。 「強き太陽」と名づけたそれはアポロンの頭上で赤く巨大な球体を生み出した。 その赤く灼熱した光体は直径10km。 そのサイズは6500万年前、地球に氷河期を迎えさせた隕石のサイズに匹敵する。 ヴィーンゴールヴ内でのアポロンに与えられたランクは最高位であるSである。 このランクはヴィーンゴールヴの独自基準で作られたエインヘリルの戦闘力を示す。 C、B、Aの順で高くなり、打撃力、機動力、防御力などの基礎能力が高ければ、 Aまでは比較的簡単に与えられる。 しかし、最高位であるSランクを与えられるエインヘリルは、 高い基礎能力に加えそのエインヘリル固有の特異な能力を持っている必要がある。 アポロンにランクSを与えさせたのはその攻撃力だ。 驚異的な速度と高い打撃力を持つ「黄金弓」、そして大規模破壊を行う「強き太陽」。 この二つの能力を持つアポロンはヴィーンゴールヴ内でもトップクラスの戦略的攻撃力を持っていた。 「君たちが太陽によって焼かれた後、恵みを刈り取る農夫のように  僕がその力を吸い上げてあげるよ」 イアニスが掲げた右腕を眼下のヤオヨロズ達に振り下ろした。 巨大な灼熱の太陽が最初はゆっくりと地球へと降りていく。 ゆっくりと見えるのはその灼熱の球体が巨大であるからで、 実際は凄まじい速度で落下している。 「さようなら、だ」 --上空500km MIRV核弾頭 通過ポイント 天上に現れた巨大な太陽を見て、私達の時間は止まった。 カグツチも、アメノカガセオも、シグナルフェイバーも、ヤタを腕に抱えた宇宙服姿の銀島も、 皆空を見上げて唖然としていた。 沈黙を破ったのはテンシュカクから届いた叶の声だ。 「上空1000kmに巨大な熱エネルギー反応!  こちらに落下してきます!コンタクトまで後5分!」 私はゆっくりと天に掲げたカグツチの両腕を下ろした。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 核弾頭の力を完全に圧縮し拳の隙間から放つ”核爆縮”。 その威力は大気圏外に居るアポロンに致命打を与える威力のはずだ。 しかし命を奪えなかった強力な一撃が逆に太陽神の怒りを買ったようだ。 すでにカグツチの指先は薬指がへし折れ、赤かった両腕は黒焦げになっている。 私の両腕はすでに感覚を失っていた。 けれど・・・ 「やらなくちゃ・・・」 シグナルフェイバーから狛江の声が聞こえる。 その通りだ。 私達はこれを避けることはできない。 私達の故郷が、友が、この下の大地に居るのだ。 私は背中を支えていた法月に言った。 「もう一度、”核爆縮”をやる。残り6基の核弾頭全てを使ってな」 法月は私を見て言った。 その声は何かを決心したような声だった。 「無茶です、とは言いませんよ、総長」 右眼から黒い血を流し、両腕を黒く染めたカグツチが低い唸り声を上げた。 「ああ。  私の背中を見ていれば良い。  ”彩陶らごう”が背にした”生涯不敗”の文字をな」 私の言葉を聴いて、狛江と銀島もうなずいた。 いまここに居る4人に迷いは無い。 「総長!PBVのロケット噴射が止まっています!  意図的に慣性飛行での落下へ切り替えが行われた模様です!  このままだと熱エネルギー体の落下にPBVが追いつかれます!  後、3分で熱エネルギー体の余波によりPBVに搭載された核弾頭に点火の恐れが!」 叶のテンシュカクから悲痛な声が上がった。 敵も馬鹿ではないというべきか。 残りの核弾頭でこの巨大な太陽を止められる事を危惧して、 我らに利用される前に自分で焼こう、という魂胆だろう。 しかし、逆に考えれば6基の核弾頭が爆縮された場合、 その威力はあの太陽に匹敵するという事だ。 でなければわざわざ軌道に乗っているPBVのロケット噴射を止める必要が無い。 「法月、急ぐぞ!  奴に核弾頭を破壊される前に接触する!」 「了解!」 遠くで起こる核爆発を爆縮できる程の力は、すでにカグツチには残っていない。 アメノカガセオ、カグツチ、シグナルフェイバーと銀島の4人は、 ロケット噴射を止めたPBVの元へ加速した。 --ICBM落下予測地点 上空1000km イアニスは残された6基の核弾頭を搭載したPBVに向かう三機のヤオヨロズの姿を見ていた。 トライデントUに搭載された、W88熱核弾頭の核威力は475キロトン。 その破壊力は熱エネルギーに換算すると約2000テラジュールという膨大な力を内包している。 第二次世界大戦で広島に落とされた核弾頭「リトルボーイ」の核威力が12〜18キロトンと言えば、 最新型の核弾頭の威力の凄まじさが分かるだろうか。 一発でそれだけの威力を持つ核弾頭を6基、そして6基全ての爆発を完全にコントロールされた場合、 アポロンの生み出した「ディナト・ヘーリオス」であっても打ち勝てるかどうか分からなかった。 しかし、彼らの動きもイアニスの予測の範疇に過ぎない。 「仕上げというこうか」 イアニスはアポロンの左手に黄金弓を出現させて赤い矢をつがえた。 --上空600km MIRV核弾頭 通過ポイント 叶のテンシュカクから通信が入る。 「カグツチ、PBVの射線上に入りました!  後10秒でコンタクト!」 私は視界の正面に慣性飛行で突っ込んでくるPBVを捕らえた。 すでに感覚のない両腕を正面に構える。 カグツチの背後にはアメノカガセオが、 その後にシグナルフェイバーとその手の平にのった銀島がいた。 「泣いても笑ってもこれが最後だ。  あの太陽を消し去る。  日本に太陽は二つも要らん」 私が言うと狛江が頷いた。 「はい!私達の太陽は彩陶総長ですから!」 それを聞くとシグナルフェイバーの手の平にいた銀島が、 重たそうな宇宙服でよろよろと手を振った。 「総長〜ファイトです〜!」 予想外の言葉に私は、ふふ、と笑った。 負けられん。 絶望と希望、両方を載せた花火が私の視界に入る。 カグツチの中に叶の声が響いた。 「総長、来ます!PBV」 --つづく --出演キャラクター ■日本分断YAOYOROZ■ 彩陶・羅?(さいとう らごう) 帝神学園・七代目総長 ピンクに染めた派手な長髪の女子高生 二つつの凶星が描かれたブレザーを着ている 黒のハイソにプリーツスカート、左耳につけた星のイヤリングが特徴 「カグツチ」と呼ばれる半人半龍のヤオヨロズを操る 真紅の肉体に炎をほとばしらせ巨大なハンマーで敵を薙ぎ払う姿は 火の神である迦具土神の名に相応しい カグツチの背中に突き刺さった四本の杭は搭乗者と精神を繋ぐ統制装置で 彼女の意志を忠実に反映する http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%BA%CC%C6%AB%A1%A6%CD%E5%3F ■日本分断YAOYOROZ■ 神室 ケイト(かむろ けいと) 帝神学園に所属する高校三年生 ショートカットの青い髪にメガネをかけたクールな女子 総長である彩陶羅?と行動を共にする事が多く彼女の右腕と呼ばれている 用いるヤオヨロズは水神の名を冠した「タカオカミ」 女性のようなシルエットを持ち白い仮面を付けたヤオヨロズで水を操る 大気の水分を圧縮して打ち出す長弓が武器 ヤオヨロズの額を打ち抜くように角が打ち込まれていて これが統制装置としての役割を果たす http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%BF%C0%BC%BC%A1%A1%A5%B1%A5%A4%A5%C8 ■日本分断YAOYOROZ■ 法月星志郎 伸ばした髪を後ろで纏めポニーテールにしており線が細く頼りなさそうに見えるが体は鍛えられ引き 締まっている。古武術の使い手でポニテは沖田総司を意識している。 温和な性格だが、生き残る事を第一に考えている為和を乱す者に対しては厳しい。 彩陶羅?に対して恋心を抱いている。 「アメノカガセオ」 重装甲騎士型のヤオロズで重力を操る。 大剣を使用し、重力を倍化加速させ全てを寸断する。 内部には「アマツミカボシ」という本体があり重力弾やマイクロブラックホールを撃ちだす、外見は 細身の武者型で大剣が二つに分かれ刀と剣に変形。 帝神学園のヤオロズにしては珍しく制御装置を打ち込まれておらず完全に制御されている。 http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%CB%A1%B7%EE%C0%B1%BB%D6%CF%BA ■日本分断YAOYOROZ■ 銀島 照代(ぎんじま てるよ) 帝神学園の女子生徒。十五歳、背が高く髪も長い いつも上の空で人の話を碌に聞かない。そのくせ、大事な質問にはしっかり答える 趣味は読書だが、それは見せかけ。読んでるふりしてぼんやりしている ヤオヨロズの名は「ヤタ」。大きな丸い盾を持っていて、そこに光景を写し込む すると盾に防がれた攻撃は、盾に写された場所や物に炸裂するという仕組み 単純な防御力においても優秀、戦車砲にも持ちこたえる http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B6%E4%C5%E7%20%BE%C8%C2%E5 ■日本分断YAOYOROZ■ 狛江・奈々子(こまえ ななこ) 茶髪の外ハネ、うすピンクの口紅をした女子高生。 明るくて少し天然が入った帝神学園に所属する16歳。 両親を暴走したヤオヨロズに殺され、 全てのヤオヨロズに統制装置を接続するという政府の方針に同調し、帝神学園に入学した。 使用するヤオヨロズは電磁投射砲を内臓したガンブレードを武装に持ち、 細いシルエットを持つ「シグナルフェイバー」 http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B9%FD%B9%BE%A1%A6%C6%E0%A1%B9%BB%D2 ■日本分断YAOYOROZ■ 叶 神子(かのう みこ) 帝神学園中等部2年生の少女。 黒髪のセミロングで赤い髪どめをしている。 歳のわりに身長が低く小学生のようにちまい娘。 見栄を張って中等部用の制服を着ているが、 袖が長いためにキョンシーのようになっている。 広域探索ヤオヨロズ「テンシュカク」 向かい合う二匹の巨大なシャチホコの間に畳が一畳あるという特異な姿をしている。 テンシュカクは出現させると自力で移動できないので、 通常は建物の屋上などで使用する。 テンシュカクは広域探索の他にヤオヨロズを介したテレパシー能力も併せ持ち 戦場の司令塔となる素質を持っている。 http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B3%F0%A1%A1%BF%C0%BB%D2