■PGSS■ 二人の時間 「どうしてにゅー太くんは、お酒飲まないの?」 「子供ですから」  居間のソファに座っての晩酌中、私がふと口にした疑問に、隣にちょこんと座ったにゅー太くんは、ばっさ りとした口調で答えた。 「なんで今更そんなこと聞くんですか」 「だーってぇ、にゅー太くんが酔ってるの見たことないんだもの。私ばっかり酔っぱらったとこ見られるのっ て不公平だなーって」  言いながら、コップの中の焼酎を飲み干すと、にゅー太くんがゆっくりとお代わりを作ってくれる。  そろそろおしまいですよ、とお小言をこぼしながら。 「お酒に興味無い訳ではないんですけどね」 「そうなの?」  意外だった。  皆の飲み会もこういう二人での晩酌も何度となくやっているけど、彼がお酒を口にしてるとこを見たのは一 度も無いのに。 「その割にお酒飲んだ事ないじゃない」 「身近にいつもつぶれるまで飲み倒す反面教師がいますので」 「私だって、つぶれることは滅多にないもん」 「威張らないでください。そして嘘を吐かないでください」 「むー」  自分が子供みたいなくせして、まるで小さな子供に言い聞かせるような口調が面白くなくて頬を膨らませる と、くす、とにゅー太くんが微笑んだ。 「可愛いですね、えーこさん」  不意に伸ばされた指先が、私の頬をそっと撫でた。鼻先が触れそうな距離ににゅー太くんの顔がある。  あまりにもいきなり過ぎて、視線を逸らすのも忘れて思わず見入る。……って言うか、え? え!? いき なりキャラ変わり過ぎじゃない!?  よく考えなくても、今二人きりだし、お酒も入っているし、何? そーいうこと!? ちょ、ちょっといく らあたしでも、こんないきなりは、その、心の準備ってもんが……!  なんてぐるぐるしてる間に、にゅー太くんはあっさりと指を引っ込めて澄ました顔でまたウーロン割りを作 り続ける。 「だって、僕が酔っぱらっちゃったら、介抱する人がいなくなっちゃうでしょう?」 「え? あ……え?」 「えーこさんが安心して潰れられなくなっちゃうじゃないですか」 「……あー、えーと。ごほん。つまり、あたしのせいで飲めないって言いたいの?」 「違う違う、そうじゃなくて」  柔らかく微笑んで、水割りのグラスをこちらに滑らせる。 「僕は自分が酔うよりも、安心して酔ってるえーこさんを見てるのが好きなんです」 「……何それ」 「いつも頑張ってるえーこさんが、ゆっくり出来てるなら、それが嬉しいから」 「……本当に?」 「嘘なんか吐きませんよ」 「……本当に? そ・れ・だ・け?」  あたしの詰問に、にゅー太くんはああ、と思い当った様に頷いて。 「えーこさんが、僕の前で、安心してくつろいでくれているのが、頼りにされてるって実感できて、嬉しいん です」 「んー、まあ、とりあえずはよろしい」  テーブルに突っ伏して、真っ赤な顔を見られないように隠しながら、そう言った。いずれはそれ以上を引き 出したいという本音は、欲張りかも知れないけど。  こいつは、どうしてこんなに恥ずかしい事を、あたしが言いたくても言えない事をさらっと言えるんだろう。 「……にゅー太くん」 「なんですか?」 「……大好き」 「うん、僕も大好きです」  精一杯の告白に、あまりにも幸せそうな穏やかな笑みで返されて、なんだかもう勝ち目がなくって、あたし はもう、白旗を揚げることにした。