「先輩の部屋って思ったより普通ですね」 「どんなんを期待してたかは敢えて聞くまい。これでも片づけたんだよ、お前呼ぶからって」 「私は、いつもの先輩の生活風景が見たかったんですけどね」 「その為にドドメキの解放許可まで取って来たというのは普通にバカの所業だと思います」 「エッチい本はどーこかなー……って、先輩ベッドの下にも本棚の裏にもエッチな本が置いてないじゃない ですか! ひどい、私の楽しみの9割を台無しにしちゃうなんて!」 「お前、ほんともう帰ってくんない?」 「あっ、日記発見! もーしょうがないなー。エッチなグッズが無い分はこれで我慢してあげます」 「せめて会話してくれよ。っつーか、人の日記勝手に読むってエログッズ漁るよりアウトな行為じゃね?  まあ良いけど。読まれて困る事は書いてないし」 「ではでは、先輩の日記はいけーん」             ■■■■ ○月×日  綾川を部屋に呼ぶ事になった。しつこくせがまれたのに根負けした形だが、こういうのは深く考える方が 間違いの元になるので、とりあえずそれは考えない事にしておく。  それよりも問題は部屋にあるあれこれの処分の方だ。俺だって一応年頃の男子、見られたくないものはそ れなりにある訳で、っつーかよく考えるまでもなくこの日記が一番ヤバいじゃねえか。  改めて読み返してみると、なんか綾川の事しか書いてない気がする。昼飯食った事とか、帰り道の事とか、 あいつの友達の話とか、いつもと違う服装とか、海行った事とか高原行った事とか水族館行った事とか、幾 ら書くネタが無いからと言ってこれは流石に少々どうなのよ、俺。  もう絶対誤解される。話とか絶対聞いてもらえないに違いない。ストーカー扱いとかされるかもしれない。 精神的苦痛を受けたとかで訴えられるかもしれない。慰謝料がっぽり取られてクラスからも学年からも変態 として爪弾きって、普通に俺の人生ジ・エンドじゃん。怖すぎる。つーか、俺の話以前にあいつ泣かせると かダメじゃん。先輩として。  ヤバい、これはマジでヤバい。あり得ない。  という訳で、ここからはこの日記の隠匿方法について整理する事にする。  まず、もう一冊同じ日記帳を買ってくる。  次にこの日記を他の文具やノートと一緒に鞄に入れて、駅のコインロッカーに預ける。  ダミーの日記帳を代わりに棚に置く。  よし完璧。では、早速実行に移すことにしよう。善は急げ、昔の人は良い事言った。              ■■■■ 「先輩、毎日『特に無し』ばかりじゃ日記の意味が無いですよ?」 「ほっとけ。流石にそれ以外を書きこんでる余裕は無かったんだよ」 「何か言いました?」 「なーんにも?  それで良ーんだよ。本当の事だし。  って言うか、人の日記勝手に読んだうえに駄目出しかよ。お前最低だ」 「私とのめくるめく爛れた日々があるじゃないですか」 「覚えておく価値が無いものは無かった事にするに限るので、書きません」 「ひどーい! 今のはちょっと本気で傷付きましたよ」 「はいはい、悪うございました。デザートのプリンにクリーム付けてやるから許せ。  っつー訳で、そろそろメシの支度始めるぞー」 「わーい、先輩の手料理楽しみです」 「何言ってんだ。お前も手伝うんだよ。スパゲッティ茹でるの見とくぐらいは出来るだろ」 「はーい」