『幻想西部劇支援モドキFSS』 ■幻想西部劇/無法者■ メスカリト 無法者に手を貸す原住民の女。 赤い肌に黒髪、普段は右の前髪を長く垂らして醜い傷跡を隠している。 銃器の扱いは苦手だが、それを補って余りある身体能力を持つ。 得物はトマホークと弓矢。 ■幻想西部劇■ WANTED  無法者      カスケード☆ザ☆アウトロースター(42歳) 無法者の中の無法者に無法者達から無法者に送られるという アウトロースターバッジを胸に輝かせる男 列車強盗、銀行強盗はお手の物で彼に憧れて道を踏み外す者も多い 世の中の卑怯と呼ばれることはだいたいやってきていて 「生きるが勝ち」が心情にしている 早撃ちの名手であり、人の目に見えない第三の腕を持つ この力を使った三丁拳銃のスタイルを自身で”ケルベロス”と呼び 危機に陥ったときにだまし討ちとして使っている ■幻想西部劇/無法者■ 赤角のシクタ 西部の原住民であるミノタウロスの男。大地の精霊の加護の証だという赤い角が自慢 「この大地は昔から俺たちのもの。だから略奪ではなく土地代の徴収」 という理屈のものとに街を襲っては破壊と略奪を繰り返している 怪力の持ち主で長柄の斧を軽々と振り回す。また、大地の力を使い体を巌のように硬くすることが出来る メスカリトに一方的に惚れこんでおり、巌の体で防壁になって彼女を守る ■幻想西部劇/保安官■ リィ・スチュアート 金髪碧眼で中年太りの男、人間、40歳 町を牛耳っている悪徳保安官 賄賂を渡せば大概のことは見逃してくれる 住民たちからの反感を権力と暴力を抑えつけているが いつ暴動を起こされるかと内心ビクビクしている そのせいでついつい酒に手を出してしまいアルコール依存症寸前の状態 武器はレバーアクション・ライフルとシングルアクション・リボルバー ------------------------------------------------------------------ 三本目の弓を番えた所で父は胸を撃ち抜かれた。 スモーキープレーンズの牛人どもと相見えても一度も地に膝をつかなかった父が、 あの父が、赤子のように体を丸めて地面に転がった。 岩場の陰から戦場を見つめていた私だけが父の死に様を知っている。 精霊は父を嫌っていたというのだろうか、まさか、族長として許しを得て 敬意を払いながら慎ましく暮らしてきたというのに。 兄が父の体を背負って「拳岩」の所へ退いた。 皆の矢は殆んどがあいつらの体に届く事は無かった。 他の奴らとは違う真っ赤な服に身を包んだ男が小枝程の棒切れを振っただけで 私達が敬ってきたはずの大地はその身を石の壁に変えて私達の矢を阻んだのだ。 後ろに控え、呪いを捧げていた古老たちは丘の向こうから飛んできた 大岩のようなものに吹き飛ばされて皆死んだ。それが榴弾というものだと知ったのは しばらく後の話だ。 男たちの半分は裏切った精霊によって首だけを残して大地に飲み込まれ もう半分は奴らの弾丸を受けて動かなくなった。兄は複数の敵に囲まれながらも 父の亡骸を護ろうと戦ったが、一人も殺す事が出来ずに頭を打ち抜かれて死んだ。 私だけが男たちの末路を最後まで見届けたのだ。 隼のように鋭い眼を持った事を私は後悔した。 奴らは死骸に集まる虫達のように、一斉に男達に駆け寄った。 まるで獲物の獣に私達がするかのように、鋭いナイフを取り出し、切り込みを入れて そして頭の皮を剥いでいった。 笑っている、奴らは笑っている。男達の体を足蹴にしながら。 父の体は集会所の中央に引きずられ、ナイフでバラバラにされた。 代々受け継がれてきた羽飾りは一本残らずむしり取られて土産物に。 首は麻袋に詰め込まれて、馬の鞍に括りつけられて… 私は怖れと怒りで少しも動く事が出来ない。 燃えていく、私達の村が燃えていく。 それでも私は。   *    *   *  * 瞑想をしているメスカリトに近づいてはならない。 「よぉねえちゃん、相変わらずシケた面してんなぁオイ。」 「見張りなんかどうでもいいからよぉ、親睦会と行こうじゃあねぇか。」 夜の闇を眺めていると、心がざわつく。ざわつくからこそメスカリトはそれを好んだ。 頭蓋の奥に刻み込まれたあの日の光景を忘れるわけにはいかない。 絶えず火を燃やす、屈辱に塗れた死を強制された男達の怒りがいつでも 降りてこれるように、捕えられ弄ばれ売り飛ばされた女達の怨みが向かう先を 照らす事が出来るように。 「俺達ゃ寄せ集めのガラクタだからよぉ、信頼ってもんがなくちゃあ、いけねぇよなぁ?んん?」 「そうだともそうだとも。そこでな、まぁ安物だが酒もあるし…」 誰も信じてはならない、己の幸せを求めてはならない、残りの生全てがあの余所者達の 喉笛を掻き切るためにある。星の瞬きは彼女に復讐を求める亡者の目に変わり、 風の声は怨みの呻きであり、流れる川は血、大地は死した肉体。 彼女の愛しい人たちを護ってくれなかった「偉大なる精霊」には唾を吐く。 「なんだ、つんぼかこいつは?」 「ねえちゃん、酒がお好みじゃねえってなら、他のやり方もあると思うんだよ俺たちは。」 「ぐふふ、赤面(先住民の事)の娘は試した事ねぇんだ俺。」 下卑た笑いがさざめく。男達の体に熱が湧き上がる。 「痩せた女が嫌いでなけりゃあ、中々良い具合だぜ?」 「俺ぁあの目つきがたまらねぇ。いかにも悔しそうな顔しやがってよ。」 「馬鹿野郎お前そりゃ芝居だよ。そのほうが燃えるからな。」 「違ぇねぇ、あんまり大人しい赤面ってのも興ざめだからなぁ。」 いつの間にか周りを取り囲んでいる男達に気づく。 舐め回すような視線、密かに荒くなる息遣いに不快感を隠しきれない。 「…ってわけだからよぉ、ちょっくらお付き合い願おうじゃねぇの。」 「嫌だ、とは言わせねぇからな。」 後頭部に銃身が突き付けられた瞬間彼女は動いた。 リボルバーを握ったままの男の手首が宙を舞う。 傷口から血が噴き出すよりも早く、隣の男の側頭部にトマホークがめり込み もう一本が左側にいた男の喉笛を正確に捉えた。 正面にいた男は強かに股間を蹴りあげられ、泡を吹いたまま立ち上がる事は無かった。    *   *   * 三つの死体と重傷の男を残して丘を下ろうとするメスカリトの前に一人の男が立ちふさがる。 男は惨状を見渡して深くため息をついた。 「今日は特別に虫の居所が悪かったのかい?」 月明かりに胸元の星バッヂが煌めく。普通なら有り得ないガンメタルのバッヂ。 無論正規の保安官職に就いた者が受け取るそれではない。 悪党の中の悪党、西部全体に名を轟かせるごく一部のアウトローだけが自称する事の出来る 「アウトロースター」を示すバッヂである。 「メスカリトしょうふではない。あいつらメスカリトをぶじょくした。」 「うーん…まぁ、確かに今回はこちらの落ち度かもしれないねぇ。  ただもうちょっと手加減というものを覚えておいてはくれないかなぁ。  いくら二束三文で雇った捨て駒とはいえ、あんまり頭数が減るのも困るんだよねぇ。」 雇い主であるカスケードは自慢の口髭を弄り微笑む。 彼はバッヂの光に誘われて来る虫けらたちを追い払おうとはしない。 比較的危険度の低い仕事に付けて生かして帰してやる、それなりの報酬もやる。 代わりに彼らはカスケードの名声を西部に響き渡らせるための格好の広告塔になるのだ。 分を忘れていつまでも付き纏おうとするようなら、今回のように上手く唆して消してやればいい。 「普通だったら仲間割れをして相手を殺すなんてのは重罪なんだよねぇ。  いや僕は勿論君を裁こうなんて気はさらさらないんだけどね?ただ他の奴らが  どう思うかだよねぇ。ほら、特に取り分ね。戦利品の分配は皆の前で行う訳だしさ、  仲間殺しの主犯が一番多く分け前を貰うってのは…ねぇ?」 「メスカリトさいしょにわけまえいらないといっている、すきにしろ。」 カスケードはより一層口角を上げて軽く手を叩いた。 「いやはや殊勝な心意気だねぇ!君に罪は無いって僕から皆にしっかりと説明しておくからねぇ。  死んだ彼らの分までしっかり働いてくれれば誰も文句は言わないだろうねぇ!」 厄介払いと金の節約が同時に出来た事でカスケードは上機嫌だ。 復讐しか頭にない赤面の無法者は概して扱いやすい。 「ひとつ、わすれるな、メスカリトはおまえたちのなかまではない。  いつかおまえたちにもさばきをくだす。メスカリトはよそものをゆるさない。」 「そうかい、それじゃあ…」 光速のクイックドロー。 リボルバーをを抜く動作も収める動作も無く、銃声だけが荒野に響き渡る。 先程股間を蹴りあげられた男が、メスカリトの後方で銃を構えたまま絶命していた。 「その日を楽しみに待っているよ、お嬢さん。」    *   *   * カスケードは軽く帽子を掲げて会釈し、去っていった。 銃声を聞きつけた部下の幾人か野営地からカスケードの元に駆け寄ってくる。 何を話しているかは解らないが、約束通り彼はメスカリトの事を庇っているようだった。 カスケードは典型的な無法者だが、仲間と交わした約束だけは絶対に破らない。 勿論それを逆手に取って己の都合の良いように事を運ぶのだが。 カスケードの制止を気にも留めずにメスカリトの元へと向かう男がいる。 遠目に見てもすぐにそれと解る巨体、頭から突き出した二本の角。 元々メスカリトの部族と対立していた「スモーキープレーンズ」の男、赤角のシクタである。 メスカリトは背を向けて、また丘の上へと歩みを進めた。 「待て、待つのだ。」 「…。」 少し早足で、先程男達に襲われた場所から少し離れた所に腰を下ろす。 荒野を見下ろし黙り込んだままのメスカリトのすぐ隣にシクタも腰を下ろす。 「愛すべき小さな女よ、何故そのように俺の言葉に耳を貸さぬのか。」 「…。」 「おお、その小さな唇から言葉が漏れれば、それは甘い蜜のように  俺の心を虜にしてしまう。」 「…。」 「お前が俺に応えてくれないのならば、俺の心は悪霊に取りつかれた  コヨーテのように体を蝕んでゆくだろう。」 「…。」 身振り手振りを交えて、寝静まった大地を叩き起こすような大声で シクタは哀訴を続ける。 「愛すべき小さな女よ、俺は生涯を賭けてお前の華奢な体を護り抜くと誓おう。  偉大なる精霊に縄をかけてお前の為に御してやろう。星の瞬きにも比する  その美しい瞳を俺に向けてはくれないだろうか。」 「…煩い、黙れ。」 「お前が望むのならば俺はちっぽけなトカゲになろう。生きる為に喉を潤す以外は  固く口を閉ざそう。いやまてしかし、そうなる前にせめて一度だけでも、お前のその  可愛らしい唇に接吻を…。」 トマホークの刃をシクタの喉元にぴたりとあてがう。 シクタは微動だにしない、驚いた様子も無い。 「この身を大地に返せというのならそうしよう。いつでもお前の傍に居れるように。」 メスカリトはトマホークを収めて深いため息をついた。 余所者の介入で有耶無耶になったとはいえ、スモーキープレーンズの牛人族との 和平は結局最後まで行われなかったのだ。 彼らもまた余所者に手ひどく傷つけられた、つまり共通の敵を持つ者達だが、部族同士の いがみ合いはすぐに水に流せるような根の浅いものではない。 それなのにこの牛男は、始めて会った時から今まで一日たりとも彼女の元を 離れず、あまつさえ婚礼を行おうなどと吐かした。 「…もう少し離れろ。暑苦しい。」 「お前がそう言うのなら。」 体一つ離れて同じ闇を見つめる。 既に野営地の方も寝静まり、風と草の音だけが夜を満たしていく。 天涯孤独の身になったメスカリトは、人を寄せ付けぬ殻を被っている。 それを砕こうとするシクタの存在を受け入れる事は恐ろしかった。 まるで復讐心まで砕かれてしまうようで。 「…無駄な事だ。私はお前のものにはならない。復讐を果たすまで私は私の  命を生きてはならない。そう決まっている。」 「ならば俺はお前が復讐を諦めるまで傍にいよう。」 「私は私達の精霊の元に帰る。お前の手が入る余地は無いだろう。」 「ならば俺は俺達とお前達を縛りつける縄を断ち切ってお前を連れ去るだろう。」 「出来るものか。」 「出来る。いや為さねばならぬ。」 何時になく力強いシクタの言葉。 久しぶりに見つめた黒目がちな彼の眼が、月明かりを反射して輝いている。 「愛すべき小さな女よ、お前を真の名で呼ぶ事を許せ。」 「咎めはしない、メスカリトと呼べ。余所者もそう呼んでいる。律儀だなお前は。」 「メスカリト、俺達は生きなければならない。泥水を飲み、土を食らってでも。」 「愚かな事を言う。余所者を殺す以外にこの命の使い道などあるものか。」 「ある、あるのだメスカリト。新たな命を育み、余所者達の愚行を後世まで伝えるのだ。」 「…駄牛め!」 トマホークがシクタの頸元に食い込む。今度は寸止めではない、皮膚を切り裂き あと少しで首の血管を断ち切ることが出来る程に深く。 「男達は父祖より受け継いだ土地を護ろうと戦って死んだ!弔われる事も無く  惨めに五体を切り裂かれて打ち棄てられた!女達は犯され、売り飛ばされて  今も苦しんでいる!それを忘れておめおめと生き延びろというのか!?」 「ぐ…俺は、勇敢な戦士達が、為す術もなく殺されていくのを見て、悟ったのだ。  余所者達に力で抗う事は出来ん、と。」 「お前のような臆病者は今すぐに死んでしまった方が良い。これ以上生き恥を晒す前にな。」 メスカリトの手に力がこもる。それでもシクタは逃げようとはしない。 「メスカリトよ、お前は本当は聡明な女だ。今一度考えなおしてみろ。今この地にいる  余所者達を排除した所で、また新たな一団がやってくるだけだ!」 「ならばそいつらも殺すまで!」 「その先に何が残る!?果てしなく続く戦いと死体の山の上で何を成すというのだ!」 今夜二度目の銃声が響く。 メスカリトの手から弾き飛ばされたトマホークがサボテンの幹に突き立つ。 カスケードだ。 「はいはいそこらへんでお開きにしましょうねぇ。見苦しいものだよ、痴話喧嘩ってのはさぁ。  …ホント、あんまり迷惑かけられても困るんだよねぇ、お嬢ちゃん?」 メスカリトはシクタの顔に唾を吐いてから夜の闇へと消えていった。 カスケードはくつくつと心底楽しそうに笑った。 「君も随分難儀な娘に惚れたもんだねぇ。首、痛くないのぉ?」 「…いたい。きずよりおれのむねだ。」 「ありゃ、ホントにフられちゃったの?」 「おれはまちがっているか。」 「聞いてた訳じゃないから解らないなぁ。」 大仰に、解らない、という仕草をしてからカスケードはシクタの肩に手を置いた。 「ただまぁ、僕みたいな悪党ならともかく、ああいう気難しい人ってのは、最後に  誠実さが実を結ぶものだからさぁ。ゆっくりやってけばいいんじゃないの?」 「じかんがあるか。ちいさなおんな、いつでもむりばかりする。」 「じゃあとことんくっついて行って、どこまでも守ってやることだよ。」 「そうしよう、このにほんのつのにかけて。」 そうしてシクタはメスカリトを追って同じように夜の闇に消えていった。    *   *   * いつものように腕を組んで髭を弄ぶカスケード。 「あーあ、可愛そうになぁ。」 口元には邪悪な笑みが浮かんでいる。 「最後まで解りあえる事なく、『二人とも絞首台に乗る運命』だなんてなぁ。」 一匹のトカゲが懐からするすると這い出て、カスケードの肩に乗る。 「さぁ行け、スチュアートの旦那にしっかり伝えてくれよぉ。明日の詳細をさぁ。」 ──終わり。