異世界SDロボSS 『王太子夫人の憂鬱』  闇の国の王太子バルスとその家族が住む宮邸。  バルスがディオール方面軍の総大将として出征している今は、  その妻であるルーサと息子マリク、そして暗黒の国から7歳で嫁いできたマリクの妻エレンがここに住んでいた。  無論、彼女達の身の回りの世話をするメイドや警護の衛兵らもいる。  ある日の夕食時、マリクが子供の無遠慮さで母ルーサに質問した。 「母上、最近太ったんじゃないですか?」  鋭いツリ目を不機嫌そうに細めるルーサ。 「いきなり何を言い出すのこの子は……。 それより、ちゃんとピーマンをお食べなさい。 好き嫌いしているようでは父上のように強くなれないわよ?」 「う゛〜……」  思わぬヤブヘビに困惑するマリクだが、彼にそっと寄り添ったのはエレンである。 「がんばってマリク!」  小さな妻に励まされ、やや涙目でピーマンを口に運ぶマリク。  エレンにえらいえらいと頭を撫でられ、赤面する息子の微笑ましい姿を見てルーサの表情が緩む。  思えば、自分も14歳で闇の国王家に嫁ぎ、翌年にはマリクを出産しなければならない状況だった。  当時ほど闇黒連合三国の間は緊張していないものの、嫁いできた頃の自分よりずっと若いエレンはどれだけ不安だろうか。  小耳に挟んだ話だが、マリクはそんな彼女を一生懸命守るからずっと笑っていてと言ったらしい。  ルーサはエレンを守るたくましい男になるには、ピーマンを嫌いと言うようではいけませんと再び厳しい顔で息子に告げた。  だが、こうしている間にも他国との戦争は続いており、バルスだけでなくルーサの実弟イヴも異国イタリャーナで戦い続けている。  自分にロボを駆ったり戦略を練る才はないが、一人の母としてこの子達が笑顔で過ごせる日々が続けばと願わずにはいられなかった。  …それから数時間後、入浴前のルーサはいつもは気にも留めない体重計の前にいた。  バスタオル姿でそっと足を乗せる。  無機質なデジタル表示が告げた数値を目にした瞬間、目まいにも似た感覚に襲われふらつく。  傍らに控えていたメイドが驚いた面持ちでルーサの身を支えた。 「いかがなさいましたかルーサ様?」 「だ、大丈夫…少し目まいがしただけだから……」 「(そう言えば、この間レヴィア姉様とお忍びで暗黒帝国のケーキバイキングに行ったのがマズかったのかしら?)」  夫不在の間の公務やら、闇の国独特の祭祀への参加など、闇の国王太子妃の立場は決して楽なものではない。  先日も暗黒帝国の皇帝となっている従姉レヴィアが外交の一環としてルーサとの会談を希望してきた。  ルーサの実家インフェリオル家はレヴィアの皇帝継承時に矛を交え、イヴが片目と片腕を代償に赦された経緯もあってか、  正装に身を固めたルーサは、いつも以上に顔を強張らせて故国へと向かった。  形だけの会談の後、レヴィアは笑顔でこう切り出した。 「ねぇルーサ、久しぶりにケーキでも食べに行かない? この間お忍びで街に出た時にね、おいしいお店を見つけたの」  突然の申し出に驚いたのと、立場上やんわりと断ったルーサだが、  レヴィアはたまの息抜きもしないとダメよと頑として譲らない。 「あなたの着替えだってちゃ〜んと用意してるんだから。 マスコミなら心配しないで?この間も私のゴシップ記事を書いた新聞社を…クラウブレイザーでおしおきしちゃったから♪」  さりげなく恐ろしい事を天真爛漫な笑顔で言ってのけるレヴィアに、さすがのルーサも抗う術はないと観念した。 「(あ、相変わらずの恐怖支配…)ありがとうございます皇帝陛下……」 「ダメよルーサ、今はお忍びなんだからレヴィアと呼んで!」  こうして、レヴィアとルーサは数名の護衛を伴い、暗黒帝国首都の某カフェに繰り出したのであった。 「…おいしい!」  闇の国でもケーキは食べられるが、やはり生まれ育った国の味には勝てない。 「でしょ?いつかあなたをこのお店に連れてきたかったのよ。 私のオススメはこれとそれとアレとついでに……」 「ちょ、ちょっと盛りすぎでなくて!?レヴィア姉様……まあいいか……」  その後はルーサも吹っ切れたのか、普段溜まったストレス解消とばかりに、  レヴィアとケーキをバカ食いしながらおしゃべりを楽しみ、久しぶりに至福のひと時を過ごした。  その代償が体重計の数値として表れたのである。 「(大丈夫、大丈夫よ…まだあわてるような数値じゃないわ)」  そう自分に言い聞かせ、ベッドに入るルーサであったが、しばらくしてメイド達が慌てて寝室に飛び込んできた。 「ルーサ様!お休み中に失礼いたします!」 「ルーサ様!ルーサ様!」  ようやくウトウトしてきた所を邪魔され、不快感を露骨にして起き上がるルーサ。 「何事なの!?」 「バ…バルス様が…バルス様がお戻りになられました!!」  夫バルスが戻ってきた。  それを聞いたルーサは寝間着のままベッドから飛び出し、玄関まで走った。  日頃走り慣れていないせいか、途中で足がもつれて何度も転ぶが、それでも起き上がって走る。  思えば、バルスが出征する前は夫婦喧嘩ばかりの日々だった。  病を抱えた身で戦場に出るのはとんでもないなど、様々な理由をつけては口論したが、  本当は14で嫁いできた自分に不器用ながらもいつも寄り添ってくれたバルスがいなくなる事が怖かった。  下手をすれば二度と会えない…バルスの出征後はせいせいしたとメイドらに強がってはいるが、  帰ってきてほしいという希望ともう生きて会えないのではという絶望の狭間でルーサは気落ちしていた。  マリクとエレンの成長や、何かと自分を気にかけてくれる舅マアレシュ以下王族の人々の存在が彼女を少なからず癒してはいたが、  それでもバルス不在の心の穴は埋めようがないのが現実であった。  様々な思いの入り混じりつつ走り続けたルーサの視界にバルスの姿が入る。  戦地での苦労で少し痩せたようにも見えるが、間違いなく愛する夫がそこにいた。 「よう、久しぶりだなルーサ。夜中に起こして悪かっ……」 「バルス!!」  王太子妃としての立場も忘れ、バルスの腕の中に飛び込んでいくルーサ。  その華奢な身体を抱きとめ…ようとするバルスであったが……。  メシャッ 「ぐえっ!!!」 「え゛?」  旅の疲れか病気のせいか、予想以上の質量に耐え切れなかったバルスは雰囲気ブチ壊しの悲鳴を上げ、  体格面でずっと劣るはずのルーサに組み伏せられる格好となった。  ちょうどマリク達が見ていた子供向け番組の…名前は忘れたが、体重の重い女友達に圧し掛かられて潰れるヒーローのように。 「お…おまえなぁ…ちょっと会わないうちに重くなりすぎだぜ…げぶぁっ!!!!」  激しく吐血し、動かなくなるバルス。 「バルス?バルス!?いやぁぁぁーっ!!!」  ルーサは叫びながらガバッとベッドから身を起こ…そうとして転がり落ちた。  異変でも起こったのかと夜回りをしていた衛兵が部屋に入ってきたが、  彼が見たものは寝ぼけてベッドから落ちたルーサの姿であった。 「あ、あの……だ、だ、大丈夫でありますか?」  どういう寝相だったのか、前のめりの体勢から顎をカーペットに押しつける格好になっていた。  寝間着はネグリジェだったので、自然と下着が見える構図になる。 「@☆£§〜!!!」  文字にできないようなルーサの悲鳴で一時宮邸内が騒然となってしまい、  集まってきた衛兵やメイドらに何でもないとしどろもどろになりつつ説明して部屋から退出させたが、  子供達が起きてこなかった事だけが幸いだった。  こんなみっともない姿を見せたら母親としての沽券に関わる。  …それはさておき、どうやらバルスとの再会は夢だったらしい。  バルスが行っているのは闇黒連合が派兵した地域の中でも最激戦地と言われるディオール戦線。  ここを抜かれればディオールと対岸の闇の国が諸国の攻撃に晒されるのは必至、気楽に帰ってこられる状況でも立場でもないのだ。  そう、夫がそんな危険な戦地に赴いているというのに、妻である…ましてや王太子妃である自分が安穏と食っちゃ寝で太るのは、  傍流とは言え暗黒帝国皇族としてのプライドが許さない。 「…うん、夢みたいなバカな事にはならないでしょうけど、久しぶりの再会で『太ったな』はキツイわよね……」  腰掛けていたベッドから立ち上がり、ルーサは小さな拳を握りしめた。 「ダイエット、するっきゃないわ」  翌日の朝食、いつものようにマリクやエレンと一緒に食卓を囲むルーサだが、  彼女の前に出ていたのは小さい器に盛られたサラダだけであった。  育ち盛りの子供達の献立はいつもと変わらない。 「あの…お義母さま、お腹でも痛いのですか?」 「ありがとうエレン、ちょっとダイエットしようと思ったの」 「まさか母上…昨日僕が太ったって言ったの怒ってる?」  マリクを無視してサラダを食べるルーサの目は、いつも以上に鋭くなっていた。 「(絶対痩せてやるんだから……!!)」   平日の昼はそれぞれのカリキュラムをこなす子供達を見送った後、ルーサは慌ただしくメイドにいくつかの買い物を命じた。スポーツウェアや水着である。  ルーサらの住む宮邸にもバルスが造らせたトレーニング設備が完備されている。  新品のスポーツウェアに身を包み、まずはダンベル体操にチャレンジする事にした。 「ここで一番軽いダンベルをちょうだい」 「はいっ♪」  自分よりも小柄なメイドが軽々と持ち上げたダンベルを見たルーサは、これなら自分でも楽勝だと思っていた……が! 「はうあっ!!?」  想像以上の重さがルーサの細腕に伝わり、耐えられないとばかりに床へ落としてしまう。  ならば両腕でと渾身の力をこめて持ち上げようとするが、ダンベルはビクともしない。 「ふん!!ぬぐぐぐ…ぎぎぎぃ……!! …ちょっと!これは本当にここで一番軽いダンベルなのかしら!?」 「は、はい!たったの30キロですルーサ様!」 「………………………………」  コロッと忘れていたが、ここは尚武の気風が尊ばれる闇の国。  王宮で働くメイド達も子供の頃から鍛錬を重ねた者ばかり。  他国の貴族育ちな上、体も弱い自分とは感覚そのものが違うのだ。  それに、ダンベル自体も省スペース目的から魔法で圧縮されていた。  この部屋にある大きなダンベルやバーベルがどれほどの重さなのか、想像もつかない。 「や、やっぱり水泳の方がいいわね…ホホホ。 ほらあなた達、さっさと支度なさい!」  室内プールに移動したルーサとメイド達。  腕を通すタイプの浮き袋とビート板を使い、数時間の悪戦苦闘の末にそれなりの距離を泳げるようになった。  次はメイド達の制止を振り切り、サウナで目を回してぶっ倒れる寸前まで汗を流す。 「ゼェ…ゼェ…ハァ…ハァ……」 「あ、あの〜…お飲み物でもいかがですか?」 「そう…ね…とりあえず…オレンジ…ジュースでも…持ってきて……」 「あの…非常に申し上げにくいのですが…オレンジジュースのカロリーって、コーラと同じぐらいなんですよ?」  ハッと我に返るルーサ。  せっかく汗と一緒に流したカロリーをまた摂取しては元も子もない。 「ウ…ウーロン茶で…ギギギ」 「ひぅっ!はいぃ〜っ!!」  元々キツいツリ目なので、その形相は気弱なメイドが泣き出してしまうほどのものだった。  その後も冷たいものの一気飲みは肝臓に負担がかかるからと、  メイドが気を利かせて持ってきた熱いウーロン茶を涙目で飲むなど、  ルーサのダイエット生活はなかなか辛いスタートを切ったのである。  それから数日後、武術訓練を終えたマリクがその日の相手を務めたアルヴィオレ=嵐群に話しかける。  彼はマアレシュの護衛を務める左騎士であり、大暗黒八武将に匹敵すると噂されるほどの猛者である。  相棒の右騎士、雪花=アリージアはリーブス王国へ使者として向かったフィリシアに同行して不在だった。  (他国へ赴く娘が心配なマアレシュが、臣下である雪花に頭を下げるほどの親バカぶりで護衛を命じた) 「おっさん、相談があるんだけどさ!」 「おっさん言うなこのクソガ…ゴホン、俺はまだ26ですマリク様! あなたの母上ルーサ様よりたったの4つ年上なだけっ!!」 「別にいいだろ、おまえは僕から見りゃおっさんなんだし。 …で、その母上の事での相談なんだ」  ルーサがここ数日ダイエットに没頭して顔色が優れない事と、  そしてその原因が自分にあるのではないかという事をアルヴィオレに話すマリク。 「母上は僕が太ったって言ったから、きっと意地になってるんだ」 「だったら、マリク様から謝ればいいんじゃないですか? 誰だってそうしますし、俺だってそうしますよ」 「そう思って今日の朝ご飯の時にも謝ったよ! でも『フン!』と口も利いてくれなかったんだ……」  自分でなく雪花ならもう少し気の利いた回答をこの小さな主にできるのだがと、  アルヴィオレはうーんと彼なりに考えた。 「わかりました!じゃあ今から準備にかかりましょう。 それとマリク様、俺にわざわざこんな相談するって事は…… エレン様がルーサ様が無理してるのを見て悲しい顔してるのとか、そういうのでしょ〜?」  ニヤニヤ笑いながら意地悪な質問をするアルヴィオレに対し、  マリクはボンッと頭から湯気を吹き出して赤面した。 「そ、そ、そ、そ、そんなんじゃないやい!!!」 「(…まったく、こういう所は可愛いんだけどなコイツ)」  やれやれと思いつつ、小さな主の為に一肌脱いでやろうと思うアルヴィオレであった。  そんなマリクらの気持ちを知ってか知らずか、ルーサは今日も王宮の敷地内でジョギングに励んでいた。  さすがに最初の頃に比べて少しずつ体力もついてきたのか、普段の生活では見られない庭園に住む小鳥や小動物の営みや、  衛兵やメイドの仕事ぶりなどの観察を楽しむ余裕も出てきた。  早く汗をシャワーで流してサッパリしたいと宮邸に戻ってきた彼女を出迎えたのは、マリクとアルヴィオレ。  二人は街で買ってきたらしいドーナツを仲良くパクついている真っ最中であった。 「これはルーサ様!今日は天気もいいし、おやつも格別ですな!」 「母上もドーナツ食べませんか?おいしいですよ!」  名付けて、ほのぼのムードで甘い誘惑作戦!  …であったが、ルーサは冷たい目でこう吐き捨てた。 「フン、いい歳こいて子供とドーナツパクつくなんて、近衛騎士もヒマなものね。 そんなんだからまだ独身なのよ……」  キツイ一言と共にピューッと冷たい風が吹く。 「わーっ!!アルヴィオレ気にしちゃダメだー!!!」 「うめー、ドーナツうめーあはははは……グスッ」  あえなく撃沈した二人を気にも留めずルーサは玄関に入ったが、そこで狼獣人の女性と鉢合わせした。 「これはルーサ様、ご機嫌麗しゅう存じます」  彼女は王室のメイド長である狼麗=ズィルバーフラウメ。  本来彼女やロボにも乗れるような文武両道のメイドらの担当は王であるマアレシュのはず。  不思議に思ったルーサは何気なく尋ねる。 「狼麗、何故あなたがここにいるの?」 「はい、他部署のメイド達の仕事ぶりを抜き打ちで視察しているのです。 特にバルス様ご不在のここは、気の緩みがないか心配でしたから……」  彼女が仕事に厳しいという評判は聞いていたから、そういう日もあるのだろうと思い、  ルーサはご苦労とだけ労って狼麗と別れ、シャワーを浴びに浴場へと向かった。  汗を流した後、怪しげな通販で取り寄せたダイエット紅茶で一息ついていたルーサの元へ  マアレシュから王太子一家と夕食を共にしたいという言葉を伝える使者が訪れた。 「わかったわ、喜んで参上いたしますとお伝えして」  それから数時間の後、黒基調のドレスと帽子で正装したルーサはマリクとエレンを伴い、  マアレシュとその妻である王妃イリスらの待つ王宮へ赴いていた。 「この度はお招きいただき、恐悦至極で……」 「堅苦しい挨拶はよい、たまには孫達と夕食を楽しみたいのでな。 ルーサ、おまえも我が王家の一員なのだ。気楽にせい」  この日の献立は肉料理が中心の豪勢なものだった。  豪快に肉を喰らいながら孫達と談笑するマアレシュに、その様子を見てニコニコ微笑むイリスだが、  質問への答えや相槌こそするもののルーサの顔は浮かない。  ダイエット中ではあるが、立場上目の前のこってりメニューを食べなければならないからだ。 「(このカロリーを消費するには、どれだけ運動すればいいのかしら……。 あああ…今日までの努力が崩れていく〜!!)」  柔らかく肉汁たっぷりな最高級闇野牛ステーキを口に運びながらも、贅沢な憂鬱を感じるルーサであった。 「ところでルーサよ、今日はおまえに贈り物がある」 「えっ?それは一体何でございましょうか陛下?」 「あれを持てい」  マアレシュの合図で給仕の一人がリモコンを操作すると、天井からモニターが展開されていく。 「すっげー!何見せてくれんのお祖父様!?」  モニターに映像が映し出される。 「よう」  懐かしい姿と声、ルーサの夫にしてマリクの父、バルス・ビン・ケムトサラームその人であった。 「父上!!」 「………………」  驚きの声を上げるマリクと、通信ではあるが突然の再会に声も出ないルーサ。 「父上に母上、お久しぶりです。 マリク、修行サボってないだろうな? そしてルーサよ、どうしたんだ。俺は幽霊じゃないぜ?」  少し意地悪くおどけるバルスに対し、ルーサもマアレシュらの手前も忘れて負けじと返す。 「あら、もう覚悟はできていましたのよ? 総大将ともあろうお方がのんきにテレビ電話とは、士気に関わるんじゃありませんの?」 「フッ、相変わらずのへらず口だ。 俺がいない寂しさで、飯もロクに喉を通らないんじゃないかと思ってたんだぜ」 「な、何を!?ほら、この通り毎日ちゃんと食べてるわよ!!」  さっきまでの憂鬱さはどこへやら、ルーサは豪快にステーキにかぶりつく。  ほっぺたを膨らませ、見せつけてやると言わんばかりの美味しそうな表情を作…ダイエットの鬱憤が弾けたヤケクソから半分本気である。 「お義母さまこわい……」 「だ、大丈夫だよエレン!(あ〜あ、感動の再会ブチ壊しじゃん)」 「(うっわ〜…素直じゃないのう……)」 「(大丈夫よあなた、あれがあの子達の愛情表現なんですって)」 「とにかく、みんな元気そうでよかった。 ハウルやフィリシアにもよろしくと伝え 「敵襲ーっ!!!」  突然の兵士の絶叫と共に襲い来る爆音と閃光。  別れの言葉も言えず、寂しげな視線を向けるバルスと共に映像は途絶えた。 「いやっ……バルスーッ!!!」  たまらず立ち上がって絶叫するルーサだが、どうにもできない無力さにうちひしがれ、力なく椅子に座りこんでうなだれる。 「大丈夫!バルスはマアレシュ様と私の子…強い子ですからきっと戻ってくるわ。 だからあなたも心を強く持って待つのです……」 「さよう、それにはしっかり飯も食って健康でいなければな。 おまえ達が元気でいるからこそ、バルスも病身を押して戦えるのじゃ!」  マアレシュ夫妻の励ましと、先ほど垣間見た戦争の現実にショックを受けて泣いているエレンを僕が守ると懸命に慰めるマリクの姿。   息子に負けてはいられないとルーサは涙を拭いつつ、力強くうなずいた。  それからほどなくしてバルスからの通信が入り、まだ警戒はしているが敵は退けたとの報告で一同はホッと胸をなで下ろした。  一波乱あったが、会食は終わった。  ルーサらを乗せた車を見送るマアレシュ夫妻とアルヴィオレと狼麗。 「狼麗、骨折りであった」 「はい、陛下のご慧眼には感服いたします……」 「えっ?恐れながら陛下、どういう事なのでしょうか」 「ここ数日、ルーサの顔色が悪く、衛兵らからもあやつが無理な運動をしているとの報告を受けたのでな。 狼麗に命じてルーサ付きのメイドらに事情を聞き、無茶なダイエットで体を粗末にせぬよう諭すべく今日の会食を設けたのじゃ」 「で、では先ほどのバルス様からの通信は……」 「ああ、あれは前もってわしとイリスとバルス、そして大暗黒八武将の者達で打った芝居じゃ。 下手に言って聞かせるより、あの方が効果があると思ってな。 …マリク達にはとばっちりで辛い現実を見せたかもしれんが、いずれは直面せねばならぬ事。 だが、エレンに見せたマリクの強さも見られたのは思わぬ収穫であったな!」  ただのジジバカではないマアレシュの愛情を垣間見たアルヴィオレは、恐れ入りましたと言って一礼した。 「うふふ…遠い戦地にいるバルスも、ルーサ達が元気に暮らしているかが一番の心配事ですもの。 今日の会食でちょっとは安心したんじゃないかしら? それにルーサも少しは素直になれたみたいだし、心配はいらないようですわ」  うむとイリスの小さな肩を優しく抱き寄せるマアレシュ。 「さてと、寒くなってきたから中に入ろうか……。 明日からは連合首脳会議もあるし、そろそろ休もう」  舅らの暖かい気遣いをすべて知る事こそなかったが、ルーサは闇の国王家に嫁げた幸せを噛みしめながら安らかな眠りに就いた。  夫の帰りを信じ、誇り高く…そして健やかに子供達と日々を過ごそう。そう決意を新たにして……。 「う゛う゛〜……」  …ところが、翌朝の目覚めは激しい腹痛で最悪なものとなった  ここ数日の暴飲暴食とダイエット食の行ったり来たりの反動と、昨日のダイエット紅茶の効果がルーサの胃腸を直撃したのである。  真っ青な顔でお手洗いから出てきたルーサにマリクがニヤニヤしながら声をかける。 「母上、もうダイエットはこりごりでしょ?」 「うるさい、お尻ひっぱたくわよ」                                 ─終─ ■主な登場キャラ設定■ 「ルーサ・インフェリオル」 闇の国のバルスの妻でマリクの母。22歳。高飛車で勝気な性格。 短い黒髪に青く鋭い瞳で、病弱そうな華奢な体をしているのが特徴。胸はない 暗黒帝国スペリオル皇帝家の傍流インフェリオル家の出身で 政略結婚の為に、一旦皇帝家に養子に入った後にバルスに嫁がされる。 バルスとの仲は最近悪いと言われており、よく夫婦喧嘩をしては翌日傷だらけで 会議に出席しているバルスと、メイドにふてくされて愚痴っているルーサの姿が目撃されていた 仲が悪い原因は色々あるしい。14で嫁いできたルーサが早く馴染めるようにとバルスが優しく 接しすぎて我侭になってしまってたのもそうであり、バルスが自分を置いて死ぬかもしれない戦地に 行くのが怖くて、必死に説得する内に口論になってしまう事が多々あったのもそうだろう 結局喧嘩別れでバルスは戦地に行ってしまい、ルーサは清々したと公言してはいるが 明らかに気落ちしており、従者達から心配されている。 「マリク・S・ケムトサラーム」 闇の国の王太子バルスの長男。7歳 母は暗黒帝国のスペリオル家出身、父は闇の国のケムトサラーム家出身 妻は暗黒の国のダークエルダーの娘・エレン、と闇黒連合の友好を深める為に 生まれてきたような子供。早く大きくなって祖父や父のような立派な武人になり 可愛いエレンを守ってあげたいと思っている中々のヒーロー気質な性格だが 口ばっかりが先行してる割とダメな子。後にヴァジェト神に諭され 真の武人として覚醒するが、それはもっと先のお話になる 「エレン」 暗黒の国のダークエルダーの末娘。6歳 他の姉妹とは違い、魔力を注がずに普通の人間として産み出された少女で 闇の国と暗黒の国の架け橋となるべく、闇の国の王孫マリクの元に幼いながらも嫁ぐ 誰も知らない土地にきて不安だったエレンだったが、マリクと初めて会った時に 「僕一生懸命エレンを守るから・・・だからエレンはずっと笑っててね」と言われ 以来、マリクに恋する乙女チック少女となり、仲良く二人三脚の人生を歩むことになる 小柄な可愛い少女で、性格は大人しく引っ込み思案だが、それでも一生懸命気持ちを マリクに伝えようとする必死さが、とても可愛いらしいと評判らしい。 「マアレシュ・ケムトサラーム」 闇の国のダークネスキングにして レヴィア、ダークエルダーと並ぶ闇黒連合TOP3の一人 TOP3で唯一の男性(51歳妻子持ち)であり、威厳に溢れた髭や服装から 三人の中で明らかに浮いている。三首会談時には、よくレヴィアとドス黒い 腹の探りあい合戦を繰り広げつつ、ダークエルダーを餌付けしている 絶対の信仰を捧げるヴァジェト神に似たのか 自分に害あるものには容赦しない冷酷な人物だが、無害なものにはトコトン優しく 唯一心を許せる純粋で温厚な性格の王妃には、ベッタベタに甘い 「イリス・ケムトサラーム」 >闇の国の王妃。35歳 光輝く黄金のように美しく長い髪と北国の雪原のように白い肌をした、 太陽のように暖かな微笑をいつも浮かべている優しそうな女性 商人の娘として生まれ、蝶よ花よと大事に育てられ 10歳の頃に、疑う事を知らない純粋さと春の日差しのような温厚さが 武人に女など不要と声高に宣言していた国王の心を見事に射止めたのだが 諸国民は、幼くして闇の中の金花と称された彼女の美貌が国王を虜にしたと思ったそうな 美人薄命の故事に違わず、彼女もまた病弱な体の持ち主で 第三子にあたる王女を産んだ後は、さらに体を悪くし、寝室のベッドの上から ひっそりと夫の背を見つめる日々を過ごしている。ちなみに容姿は全然衰えていない 08/11/16(日)19:24:43 No.12986874 「バルス・ビン・ケムトサラーム」 闇の国の王太子にして大暗黒八武将筆頭。24歳 明るい金色の髪に褐色の肌を持ち、瞳は綺麗な青色、片方の目が 気味の悪い奇形で、それを隠すために眼帯をつけている。 性格は才能ゆえか凄まじく傲慢であり、人を人扱いしないサドな言動が多く 徹底的に冷酷非道だが、そこに背徳的な魅力があるらしく進んで従う者も多い。 幼少時より、不世出の天才と謳われた天才児で、特にSDロボの操縦の巧みさは 父以上であり、闇の国最強と称される程。闇黒連合のディオール侵攻では ディオール侵攻軍総大将としてディオールの大地へと降り立ち、緒戦での戦いぶりは 後世までディオールの人々に恐れられ、いくつもの童謡に悪魔として現れたという。 しかし、その悪魔も生まれつき不死の病に侵されており、余命は数年と持たないと 宣告を受けているらしく、ディオール侵攻での戦いから病は悪化 度々血を吐き、いつ死んでもおかしくないはずなのだが、強靭な精神力で体を保ち 最前線に留まり続けている。 「幻獣左騎グリフィクト・右迅龍騎アジィルガウト」 闇の国の王を守る近衛騎士専用の機体。 それぞれグリフォン、三つ首龍を模したデザイン。マアレシュの搭乗する覇帝機を守る為にあり相当 古い時代に作られたマナスレイヴだが機体性能は高い。 グリフィクトは双剣、アジィルガウトはガンランスを装備している。 左騎士アルヴィオレ=嵐群(ラングン)26歳・右騎士雪花=アリージア23歳 マアレシュの護衛を務める近衛騎士、アルヴィオレは「天火刃拳」雪花は「氷華参拳」の使い手で 実力は大暗黒八武将に匹敵すると言われている。日々いたずらのレベルが高くなるマレクの世話に 手を焼きジジ馬鹿のマアレシュに怒られる日々を送っている。 「あのクソガキ、王族殴れないと思って馬鹿にしやがってキィイイイイイイ」 「アルヴィオレ殿、マレク様は次々代の王我慢してください!あ、王」 「アルヴィオレ、お前減俸!」 「ヴェーアヴォルフェー」 闇の国のメイド長、狼麗(ローレ)=ズィルバーフラウメ(23歳)の駆るSDロボ。 狼の意匠を取り入れた鋭角的なデザインの鎧に、妖精のような羽根を生やした女性体型の機体。 武装は大刃の曲刀とビームライフルを用いる。 &br; 狼麗はロングの銀髪狼耳にツリ目の碧眼を持つ長身の美女で(メイド服の色は黒と銀で裾が若干長い)、 名門貴族の出身だが、軍人になるのに反対する両親との軋轢の結果、王室のメイドに落ち着いた。 天覇参拳の覇導拳分派「銀狼吼牙拳」の使い手で、ロボ戦でも本気を出す際はこれを用いる。 自他共に厳しい性格は部下のメイド達にはドSと陰口を叩かれるほど。 それは他国のメイドにも例外ではなく、何かにつけて対抗意識を燃やすが、 ジ・ハーミットには軽くあしらわれ、リル・プレリッテには気づかれてすらいない。 ちなみに大好物は茶碗蒸し(銀杏入り)である。 「レヴィア=スペリオル」 年齢24歳 性別:女 暗黒帝国皇帝にして、闇黒連合惣領。魔導の国からは魔王と呼ばれる女性。 暗黒大陸と呼ばれる東方大陸に伝わる神帝騎「クラウブレイザー」の操者となり圧倒的な強さと頭脳により 東方大陸を統一した。 彼女を危険視した他国家は、勇者アゼルを派遣し彼女を討伐しようとするが失敗、これを機に他大陸への進行 が開始される。 長い黒髪とルビーのような瞳が特徴的なおっとり美人。物静かで読書とお菓子作りが趣味。部屋には可愛らし いぬいぐるみがたくさんあり、戦場での彼女を知る者達はなるべく見ないようにしている。