「本日のマルスチャンネルは審判のエスペラント中村さんにお話を伺います。こんにちは、中村さん」 「こんにちは。私のような裏方が呼ばれていいものかどうか、ちょっと恥ずかしいですね。  今日はよろしくお願いします」 「さて、中村さんは公式審判の一人として活動なさっていますが、  やはりリング上での審判とは感じが違うのでしょうか?」 「そうですね。ストリートマルスは世界でも珍しい路上での格闘大会ですから、  ダウンした際のダメージが大きく、リング上では安全でも路上では危険な技が数多くあります。  勝敗を適切に見極めることも大事ですが、選手の状態を把握することに一番気を遣いますね」   「それは中村さんの信条ですか?」   「いえ、審判すべてがそうでなくてはいけないと思っています。  勝ち負けにこだわることが真のジャッジではありません」   「それはなぜですか?」   「真剣勝負の世界では確かに命を賭けることで勝敗をきめることがあるでしょう。  しかしストリートマルスは試合です。殺し合いでも潰し合いでもありません。  障害が残るような負傷は未然に防止し、彼らの今後の選手生命を守ることも審判の務めだからです。  たとえ負けても、体さえ万全ならまた挑むチャンスがあります。  そこから後世に残るような名試合が生まれるかもしれません」   「今だけではなく、次のためにということですね」   「そうです。あまり残酷な試合は観客にとっても良くないですし、  ストリートマルスの評判を落とすことにもなりますからね。  凶器や反則行為なんていうのはもってのほかです」   「なるほど。ところで中村さんは時々10カウントが遅くなるという噂を聞きますが……」   「えっ? いやそんなことはないと思うのですが……(視線を泳がせながら)  審判には公平を期しています。安全にもね」   「そうですか。試合が白熱しているとそう感じるのかもしれないですね。  中村さんは審判とは思えないほど立派な体格をしてらっしゃいますが、選手として出場されるご予定は?」   「ははは、御冗談を。憧れたことがないと言えば嘘になりますが、私は見るほうが好きですね。  審判は戦いの場を共有できる一番身近な存在です。私としてはこれ以上の舞台はありませんね」   「なるほど。格闘技好きが高じて審判になったというのは本当なんですね。  それでは最後に番組のご覧の方に何か一言お願いします」   「格闘技の祭典ストリートマルスは、非常に多くの選手が参加する大会です。  そこで皆さんは今までに見たこともない格闘技や心躍るような戦いとドラマを体験することができます。  是非会場へ足を運ばれてその魅力に触れてみてください。  われわれ審判団もよりよい試合を提供できるように全力を尽くします」   「ありがとうございました」