『突発的ヤオヨロズリハビリ妄想(沓掛君が転入してきたばっかの時編)』 登場人物 沓掛心慈郎…多分イブニングで連載されてたあの侠客の子孫とかに違いない。 スレ未投下人物 トシくん…十五で不良と呼ばれたガチヤンキー。金パのボウズ。ヤオヨロズ「カミキリ」を操る。 アツシ…チャラ男。茶髪のロン毛。根っこは優しいっていうかただのバカ。ヤオヨロズ「スネコスリ」を操る。 タカシ…チャラ男2。銀髪。ガチバカっていうか頭が弱い。ヤオヨロズ「イッタンモメン」を操る。 ------------------------------------------------------------------------------------ ・前回のあらすじ 聖護院学園特進組に転入してきた沓掛心慈郎はその男前さと孤高な感じで大人気。 五十狭芹とその子分達が散々ちょっかいを出しても見向きもしない。 それもまたなんだか楽しげに見えて男女問わず着実にファンを増やしていく。 しかし、そんな沓掛を良く思わない連中もいるのだった。 その一人が、地元の中学で「金髪鬼」と恐れられた筋金入りのヤンキー「トシくん」。 特進組へのコンプレックスと、ちょっと気になる五十狭芹を独占されていることに対しての やっかみで彼の我慢はもう限界ギリ☆ギリ☆ これはもうシメるしかない。という事で定番の校舎裏に呼び出して軽くヤキを入れるつもりだったが 勿論のこと全然諂おうとしない沓掛。子分達の静止も聞かず、遂にトシくんは自分のヤオヨロズを 発現する…! ------------------------------------------------------------------------------------ 「へへ…見ろ、これがオレのヤオヨロズ『カミキリ』!」 ぎらりと光る両腕の鎌、鋭い嘴、振り乱した髪。昔の妖怪絵をそのまま金属に置き換えたような 異形の怪物が沓掛の前に姿を現した。常人であれば怯え逃げ惑うであろう状況、しかし沓掛の 胆力は異形の怪物で以ってしても揺らぐことは無い。 「驚いたか?特進組でなくたってよォ、生意気な新入りをシメるくらいの力はあるんだぜ?」 アツシとタカシは共に頷いた。この暴君がその力で以って何人の哀れな犠牲者を学園から追い出した 事か。旧来の友人である彼らはトシアキの悔しさを知っている、彼は自分を置いて特別待遇を受ける 特進組の連中が許せないのだ。権力に逆らいながらも、いつだって彼は一等賞だったのだ。独り高み から這い蹲る奴らを見下ろした時、彼は満足げに笑みを浮かべていたのだ。 「アツシ!タカシ!こいつ抑えとけ。」 トシアキの命令に即座に反応してアツシとタカシは己のヤオヨロズを発現した。 「あいよ!」 「了解だし!」 土から這い出た猫とも犬ともつかぬ風貌の「スネコスリ」がそのクローで沓掛の足を抑え付ける。 タカシの腕から伸びた「イッタンモメン」は沓掛の体を簀巻きに巻き上げた。 もはや身動きを取ることすら出来ない。ただ沓掛に許されたのは、跪くことだけだ。 「怖ぇだろ?お?トシアキくんマジ切れてっから。一生消えない傷つけられっかもな?」 「シシシ…。オレ知ってるし。トシくんお前のこと八つ裂きにするって言ってたし。」 仁王立ちにたったままの沓掛の耳元で囁いてやる。こうして相手の戦意を喪失させてやることが 血を見ないで済む一番平和的な解決法であることを彼らは知っている。 「さんざナメた口きいてくれたなオイコラ。俺マジムカついてっからよォ、手元狂って  バッサリいっちゃうかもしんねぇなァ?」 「ちょww落ち着けってwwwマジ巻き添えはナシだわwww」 「それはやめてほしいし!痛いの嫌だし!」 「お前らビビんなって、軽く死なすだけだからよ。あ、そうだ。オレの靴の裏舐めたら優しくしてやってもいいぜ?」 カミキリの鎌をヒタヒタと沓掛の頬に当ててニヤつくトシアキ。 これこそが彼の求めるものである。いい気になっていたヤツが屈辱に塗れて這い蹲る瞬間が一番の 悦楽であり、また娯楽である。それは女でも得ることの出来ない、特別なものなのだ。 …しかし、沓掛は動かない。 怯えるどころか薄く笑みを浮かべてさえいる。 「…んだオラなにニヤついてんだ!!殺すぞ!!」 鎌が頬を走る。浅く切り裂かれた皮膚から血が滴り落ちる。 それでも尚、沓掛は微笑を消そうとはしない。 「弱ぇ犬ほど良く吠えるてなァ、真(まこと)の事と知りやした。」 アツシとタカシは凍りついた。トシアキを真っ向から馬鹿にして病院送りにならなかった人間はいない。 例えそれがマッポであろうとも。 「…あ?オレが弱いってか?なぁ、オイ、そういうことだよな?なに、やる気?」 「お手合わせ願おうってんじゃあござんせん。貴方(あんた)さんが真の極道でござんしたら、無礼な働きにゃあ  問答無用。あっしの首ぁもう転がってるでしょう。素人さんが殺すだのなんだのと身の丈に合わねぇ言葉は使う  モンじゃあありやせん。」 誰も、何も言葉を発しない。下校途中の話し声や部活動に興じる生徒達の掛け声が校舎に反響する。 静寂を破ったのはトシアキだった。 「あーあ…あーマジこれだけ優しくしてやってんのに…もうなにも言うことねぇわ。  オレ、プッツンきちゃった。ブッ殺す。」 トシアキの声が震えている。これはまずい。 我に返った子分二人組みは必死で沓掛に掴み掛かる。このままでは本当に血を見るかもしれない。 もう彼らはただの高校生ではないのだ。人を殺し得る武器を手にし、且つ不安定な精神を抱えているのだ。 いつ暴走してもおかしくない、いつ人が死んでもおかしくはない。ただそれを目の前でやられるのは 二人にとっては御免蒙りたい所だ。何故って、楽しくないのだから。 「ちょ、おま、マジふざけんな!死ぬぞ!」 「オレ知ってるし!トシくんブッ殺すって言ったらマジでやっちゃうし!」 改心を促しても、沓掛は従うつもりは無いようだった。 「覚悟があるならおやんなさい。ただし…お兄(あに)ィさん方が光りモン向けるってェならあっしも  容赦はいたしません。降り掛かる火の粉は払わにゃならねぇ。」 「お…ッ!」 「ま…ッ!」 思わず絶句する二人。 背後から殺気を感じて二人が振り向くと、鬼の形相を湛えたトシアキがそこにいた。 振りかぶられた鎌、ギラつき血走った眼。 「……もう……もうオメーはおしまいだ!くたばれェエエエアアアア!」 二人は目を瞑ってしゃがみ込んだ。巻き添えを食っては適わない。 鎌の風圧が直ぐそこにあるのが伝わる。終わった、遂にトシアキを人殺しにしてしまった。 ところが、いつまでたっても血の雨が降る様子が無い。恐る恐る二人が顔を上げると いつの間にやら拘束を解いて腰に携えていた日本刀を抜き放った沓掛の姿があった。 沓掛は元いた場所よりも二歩踏み込んで、ちょうど鎌が交差する瞬間を刀で抑えている。 「踏み込みが二足浅うござんす。これじゃあ首の皮一枚切れやしねェ。」 「あ、あれ?」 「いつの間に切られたし!?」 両断されたスネコスリの残骸と、細切れのイッタンモメンを見て二人は驚愕する。 しかしトシアキはそれとはまた別の思いを抱いていた。 「てめぇ…なんでヤオヨロズを使わねぇ!?」 逆上していたとはいえ、トシアキには沓掛がヤオヨロズを使って身を守るだろうという目算があった。 その上で彼を半殺しにしてやれば、特進組に対して自分がなんら劣っていないことの証明にもなるからだ。 ところが沓掛はあろう事か、生身で立ち向かってきた。 「小悪党に鬼切丸を使ったってんじゃあ折角の名刀がサビつきまさ。」 なんという屈辱だろう。今まで恐れられてきたはずの自分が小悪党呼ばわりされている。 それでも彼は己の未熟を認めるわけにはいかない。暴君は絶対的強者でなければならないのだ。 「おい!お前らがちゃんと抑え付けねぇから…。」 二人は腰を抜かして立ち上がることが出来ない。あの一瞬、ヤオヨロズを発現してから拘束するまでの間の どこに切り裂く暇があったというのか?文字通り眼にも映らぬ神速の抜刀に太刀打ちできるはずが無いのだ。 「トシくん…こいつ…マジヤバイよ。」 「知らなかったし、もう俺らのヤオヨロズ、八つ裂きだし…。」 「お兄ぃさん方、ここいらで手打ちにいたしやせんか。あっしらもいい大人だ、なにも血を見るまで  突っ張る事ぁござんせん。」 説得も虚しく、トシアキの鎌が振るわれる。ただしアツシとタカシに。 「ぐわっ!」 「痛いし!」 恥を濯がぬまま背を向けることは、トシアキが最も許せないことだ。 逆らうものには暴力を、それがトシアキのルールである。 「…お仲間じゃあ、なかったんですかい?」 「うるせぇ!使えねークズは死んでりゃいいんだよ!」 己の旧友にすら刃を向ける暴君に、最早理性は残ってはいない。生意気な口をきく新入りを 切り刻む、細切れにしてバラ撒いてやる。ヤオヨロズの力に飲み込まれた哀れな暴君の姿がそこにある。 「ひ…ひでぇよ、トシくん…。」 「こんなの聞いてないし…。痛くて死んじゃうし…。」 傷は浅い、これが元で死ぬようなことは無いだろう。それでも、仲間を傷つけて平気でいられるような 男を黙って見過ごすほど、沓掛は非情ではない。血縁とその類稀な力故に、幼い頃から争いを避けて 通れなかった男の血が騒ぐ。 救い様の無い悪心は、切って捨てるが人の為。 「ガラじゃあござんせんが…貴方さんの心の鬼を鎮めるにゃア、ちったァ仕置きが要り用だ。  手前、沓掛心慈郎。貴方さんの悪心、斬って捨てさせていただきます。」 〜続かない〜