■トレジャーハント/RPG外伝■ -------------------------------------------------------------------------------- シバパッカ名物 立喰麺屋  商人でごった返すシバパッカの市場は活気に満ち溢れている。しかしそれと同時に殺伐 とした雰囲気も漂っていることに気づくだろう。  どこの馬の骨とも分からぬ相手と商売をしなくてはならないのだ。警戒して当然である。  そんな殺気だっている人々を和ませるのが通りの隅にある屋台から流れてくる香りだっ たりする。  人をひきつけるあの匂い。鶏ガラでも牛骨でもない出汁の匂い。安い魚醤を使っている であろう汁(つゆ)の匂いだ。  その汁に入る灰色の茹で麺。小麦粉や米粉に蕎麦粉を混ぜたものをよく練って細く切っ たものだが、これが見た目に反して思いのほか美味い。  シバパッカは箸とナイフ・アンド・フォーク、そして手掴みの文化が混在する街だ。  街中には箸の文化圏から来た人々向けに麺を提供する屋台が何軒もあり、その殆どが極 東そっくりの立喰形式をとっている。  トッピングは刻んだ香草や茹でただけのモヤシと至ってシンプルだがその分早くて安い。  タネ物もしっかりと用意されており、多く見られるのが野菜や魚介のフリッター(揚げ 物)だ。  しかし卵がよく泡立っていないうえに安い油で作ったフリッターだから衣がくたびれて いる。カラッ、フワっと揚げるという価値観はもとより技術もないであろうオヤジがいい ころ加減な手際で作っているのだからそれも当然だろう。  だが忙しい時はそのフリッターがベチャッ、シナ〜っとしている方が汁に早く馴染むか らありがたい。多くの客は空きっ腹は満たしたいが悠長に食事をしている時間がない砂上 船の待合時に掻きこむため味は二の次。衣のことなど気にしている場合ではないのだ。  立喰麺屋には他ではあまりお目にかかれないメニューがある。誰が考えたかは知らない が、タネにクロケットがある。  クロケットもファストフードの定番であり、その多くが揚げたてに各種ソースをつけて そのまま食されるかパンに挟んで食すのが一般的である。  しかし立喰のクロケットはまた性質が異なる。真っ当な料理人が作った揚げたての美味 いものでは駄目なのだ。  カラっとした衣にホクホクのマッシュポテト、肉汁滴る牛や鶏のひき肉に玉ネギやエン ドウ豆の甘味がふわっと口の中に広がる。そのような上等なクロケットは立喰の安麺には 合わない。  銅貨一枚で買えるような子供騙しの安物でいいのだ。割ると中が白い“あれ”である。 材料は芋というよりはでん粉を固めたもののようだが、とりあえず揚げてみると円盤型で クロケットの形にはなる。  そのまま食べてみるとなんとも味気のないマッシュポテトのフリッターだが、そういう 自己主張しないクロケットが何故か麺に合い、汁に馴染む。  しかも早く食べないと中の芋だかでん粉だかはっきりしない部分が汁気を吸って崩れて くるし、衣も脱皮するかの如く脱げる。だから食べるスピードも自ずと速くなり、客たち は味など気にしている場合ではなくなるのだ。  立喰麺屋のソーセージをフリッターにするという発想が凄い。  ただ揚げるのではない。極東風に小麦粉と鶏卵を混ぜたものを水でのばした衣をつけて 揚げるテンプラ方式がとられる。  しかもソーセージは羊や山羊などの腸を使っている上等なものではない。ソーセージと は名ばかりの魚やトカゲの肉をすり潰して細長く成型して蒸し焼きにしたあのネリモノで ある。当然のことながらプツっとした歯ごたえなどあったものではない。  切り方も独特で輪切りや斜め切りではない。長いまま縦半分に切られるのだ。何故その ように切られるのかは不明だが、タネにソーセージ・フリッターを提供する屋台は不思議 とその切り方である。  大方ろくに包丁も握ったことのないオヤジが勢いに任せて切って揚げてみたら結構いけ た。という具合ではなかろうか。疑似ソーセージも長いままなので、半分にされていても 不思議と満足感がある。  このように独特の進化を遂げたシバパッカの立喰麺屋。安かろう悪かろうと毛嫌いする 人もいるかもしれないが、安い食事が不思議と美味く感じることもある。人間の味覚とは 不思議なものだ。 終わり