------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 10分ほど前に遡る。 『壁』を登りきり、探索隊はそこにいた。 男なら誰もが夢見る桃源郷。近くて遠い理想郷をその目の前にしていた。 大きいものに小さいもの、程好く熟れたものにまだ青さの残るもの・・・・・・ 到達した誰もが思った。 『ここが・・・これこそが楽園だ』 と。 だが彼らはここから先に踏み出す事は許されなかった。 なぜならば壁の境界線より先に踏み出す事は彼らにとって『死』を意味していたからだ。 その死と隣り合わせの究極の快楽。彼らはそれに酔っていた。 「た、隊長・・・俺、もうたまらんっス・・・」 「ああ・・・だが昇天するにはまだまだ早いぞ、柴犬隊員」 柴犬男が感動に浸っている中、エロスもまた感動の渦に飲まれていた。 「隊長・・・俺、今日の事は後世に語り継ぎたいっス・・・」 「ああ、語り継ぎなさい。存分に語り継ぎなさい」 鼻血を滝の様に流しながらエロコンビは楽園を堪能していた。 って言うかお前らはここの温泉を血の池地獄に変える気か? そんな中、急に女子浴場の一角が急に騒がしくなってきた。 何事かと注視して見ると・・・ 大浴槽の方で零がロビンとビアンカに両脇を捕らえられた挙句、海斗に襲われようとしていたのだった。 「おおおおおお!!!か、かかかかか神よっ!!!俺、今だけ神様信じますッ!!!」 「流石は海斗姐さん!俺たちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビレる!憧れるゥ!」 興奮度MAXに突入するエロスと柴犬男。 「これってやっぱり強制乳揉みっスかぁぁぁッ?!」 「YES!YES!YES!YES!YES!」 「百合百合っスかぁッ?!レズレズっスかぁぁぁッ?!」 「YES!YES!YES!YES!YES!」 「現役アイドルが食われちゃうんスか〜〜〜ッ?!」 「YES!YES!YES! OH MY GOD」 誰かこの馬鹿共を黙らせろ。 だが彼らは忘れていた。一緒になって覗きをしていた『彼』の存在を。 とんでもない野獣を一瞬でも野放しにしてしまっている事を完全に忘れてしまっていた。 「ソール・・・これが世界だ。これが楽園だ。しっかり目に焼き付け・・・・・・あれ?ソール?どこ行った?」 エロスが一緒に覗きをしていたソールの方を向いたが、そこにソールの姿は既に無かった・・・ ------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 時は再び現時刻。 「まァここは野良犬に噛まれたと思って・・・」 「さっさと覚悟を決めてしまいなさいな♪」 イタリア娘コンビに捕らえられ、もがくのが精一杯の零。 「止めろォ・・・嫌だ・・・嫌だぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」 零は目に涙を浮かべつつも観念したのか目をギュッと強く瞑った。 そして彼女の胸の禁断の果実が海斗の毒牙に今まさに掛かろうとしていた・・・その時だった! 「おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「な、何っ?!・・・ぐあっ!」 突然緑の影が勢いよく乱入してきた。 海斗はその影に突き飛ばされてバランスを崩し、床のタイルに額をぶつけて失神してしまった。 「何事ですのッ?!」 「今だッ!」 「あ、しまった・・・」 虚を突かれたロビンとビアンカも零に腕を振り解かれて脱出を許してしまった。 「な?何だ何だぁ?!」 「ちょ!うわっ!」 「きゃあっ!」 「おっぱっ!おっぱっ!いっぱいッ!!」 突然のチン入者に女性浴場内は大騒ぎとなる。 興奮を抑える事が出来なくなってしまったソールがとうとう境界線を越え、 女子に突入してしまったのだった。 「あ、ああああのバカ!・・・何やってんだよォッ!!」 「台無しだ・・・何もかもが台無しだぁ〜ッ!」 流石のエロスも呆れ果て、柴犬男は天に向かって絶叫した。 「ん?そこッ!何奴ッ!!」 壁の上から覗き見ている影に気が付いた梅が咄嗟に石鹸を投げつける。 「げっ!」 「やべっ!」 身の危険を察知したエロスたちは一目散に撤退し、ギリギリで難を逃れた。 「逃がしたか・・・だがあの影は・・・」 梅は悔しそうに人影の消えた壁を見上げていた。 その一方でチン入者のソールの方もシャーロットとジェニスが協力して無事に捕らえられていた。 「おっぱっ!おっぱっ!」 ソール自体はイマイチ状況を飲み込めていない様だったが、男から見れば羨ましい状況以外の何ものでも無かった。 って言うか羨ましいな畜生。ちょっと俺と代われ。 哀れソールはそのまま支配人に引き渡され、お説教を受ける事となってしまった。 これで少しは社会と言うものを理解してくれれば幸いなのだが・・・ 「さ〜て・・・お前らはどうしてくれようか?」 「神の名において暴力反対で〜す」 「お、同じくぅ〜・・・」 形勢逆転され、すっかり怯えるロビンとビアンカを見下ろして怒り心頭の零は指の関節をバキバキ鳴らしている。 「コラコラ。一般のお客さんもいるんだから・・・って、もうこんな状況だけどさ」 失神している海斗を介抱しながら渚が零を宥める。 「あ、あの〜・・・・・・わ、私はもう上がりますから大丈夫・・・・・・ですよ」 と、一般人たちはさっさと退散していく。 その中には他のストマル参加選手の姿も見受けられる。 そりゃそうだ。これだけの大騒ぎの後なのだから退散したくなるのも仕方が無いと言うものだ。 「アイヤー・・・すっかりガラガラになってしまったアルね〜」 「私らもそろそろ上がろうっか?じゃ、お先〜」 紅花やリナは他の客と共に浴場を後にした。 「ボクたちもあがろうっか」 「そうですね。これ以上は流石にのぼせてしまうかも・・・」 と、渚と良奈も海斗を連れて浴場を出て行く。 「・・・チッ・・・しゃーねぇな・・・お前ら!今日は見逃してやるが、次は承知しねぇからな!」 「貴女の御慈悲に感謝します・・・」 「し、失礼しましたぁ・・・」 イマイチ釈然としないとしながらも零は渋々ロビンとビアンカを解放するのであった。 ペコリと一礼をし、そそくさと退散していくイタリア娘コンビ。 「さぁ〜て・・・そんじゃ、アタシもそろそろ上がるとするかな」 と、零もその場を後にしようとしたその時だった・・・ 「なんだァ?もう上がるんか零?」 ふと背後から声をかける者がいた。 零が声がした方を振り向くと、そこには薬湯に首まで浸かっている縁谷ルイがいたのだった。 「縁谷・・・・・・ルイ!」 零は咄嗟に身構える。そんな零を見てルイは鼻で笑った。 「なんや?私より先に上がるんか?七瀬 零も大した事のないヤツやなァ?」 鮫を思わせる凶悪な笑みを浮かべて零を挑発するルイ。 「なんだとォ?・・・上等!お前の挑戦、受けてやろうじゃねぇか!」 「それでこそや。そんじゃ勝負は・・・そこでどうや?」 そう言ってルイは目の前のサウナを指差した。 「OK。どっちが上か、試合の前にここで白黒ハッキリさせてやる!!」 そして零とルイはサウナ室へと入り、熾烈な戦いの幕が切って落とされた・・・ ------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 数時間後・・・ ピーポーピーポーピーポーピーポー・・・ 救急車のサイレン音がデッドマウンテン前に響き渡る。 周囲は人だかりが出来て半ば騒然としていた。 「零ちゃん!零ちゃん!大丈夫?!ちゃんと返事して!!」 「お嬢!お嬢!しっかりして下さいっ!お嬢!!」 知らせを受けて駆けつけた零のマネージャーの光とルイのSPの鉄山が 必死に互いの相手に呼びかける。 「まだ・・・まだだァ・・・・・・まだ・・・アタシは負けて・・・ねぇぞォ・・・」 「温い・・・まだ私を倒すには・・・温いでぇ・・・・・・零ぃぃ・・・・・・」 担架で運び出された二人はそのまま救急車で病院に搬送されてしまったのであった。 「・・・ブッ倒れるまでサウナで耐久勝負って・・・よくやるよなぁ二人とも」 「喧嘩するほど仲が良い・・・のかもしれませんね?」 「あの二人の場合はどーだか?」 二人を運び去った救急車を心配そうに見守りながらも渚と良奈と梅の3人は ただただ呆れて苦笑いを浮かべる事しかできなかった。 「やれやれ一時はどうなるかと思ったが・・・・・・いいモン見れたなぁ〜!」 「いや全くっス!俺、今日の事は絶対に忘れないっスよ、隊長!!」 休憩所で缶ビールを飲みながら談笑するエロスと柴犬男。 「ほう・・・随分と良いものが見れた様だな?」 「忘れられない程良かったかね?」 不意に彼らに声をかける者がいた。 「いや〜最高でしたよ!正に桃・源・郷!!」 「楽園はそこにあった〜!って感じ?」 そう言って満面の笑みで声をした方を振り向いた瞬間、二人の顔は一気に凍りついた。 そこには指の関節をポキポキと鳴らしながら二人を見下ろしている グリフ・マイヤーとケイス・リバーグの姿があった。 表情こそ普段と差ほど変わらないがその背後から立ち上るオーラが滅茶苦茶怒っていた。 そりゃもう鬼やら龍やらが見えてしまいそうなくらいの勢いで。 「あ、あはははは・・・お、お二人共何をそんなにお怒りで?」 引きつった笑みを浮かべながらエロスが問う。 「梅から話は聞いてるぞ・・・覚悟は出来てるよな?」 「随分と好き放題やってたそうじゃないか。私の娘の裸を見ておいて無事に済むと思っているのかね?」 もう観念しろ二人とも。 この二人を怒らせて五体満足に済むほどこの町は甘くない。 「楽園は存分に堪能しただろう?」 「では次は地獄を堪能してもらおうか?」 「「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!」」 二人の哀れな男の断末魔の悲鳴が夜のマルスタウンに響き渡るのであった・・・ END