異世界SDロボSS外伝? 『わくわく交流学園祭!〜葡萄月の来訪者達〜』  11月某日の晴れた土曜日…。  ここ、英崇出学園では恒例行事の学園祭が開催されていた!  今年は隣の市に移転してきた葡萄月大付属高校との交流をより一層強めようと、  同高校の生徒や教職員を招待し、例年以上の盛り上がりを見せていた。 「お帰りなさいませご主人様〜!!」  特にメイド部の出店したメイドカフェは本格的な料理やお菓子に美少女揃いのメイド達で大好評であった。  そのカフェの一角で料理の数々に舌鼓を打つ集団がいたのだが…… 「んんん〜!! このエビピラフは絶品だぞー!!!」  野太い声でエビピラフの美味さをポージングと共に賞賛するのは、葡萄月大付属の体育教師ルキ・バッサーリ。  それとは対照的に、プリプリのエビを静かに噛みしめる鋭い目つきの男性は同校の国語教師フジムラである。 「バッサーリ先生…エビピラフのうまさには同意しますが、もう少し静かにお願いします……」  引率の教師二名をはじめ、葡萄月大付属の生徒やその関係者も大勢来店していた。  メイド達の服を見ながら、ケーキと紅茶で仲睦まじいおしゃべりを楽しむ百合カップルがいる。  女生徒のグリニ=エイオースと、その先輩で女子大生のリーリエ・エーベルヴァインであった。 「ねぇグリエ、あなたにはあのロングスカートのメイド服が似合うと思うわ。 サンプルのメイド服だってあそこに展示しているんだし、頼んだら着せてもらえないかしらね?」 「せ、先輩はもっと大胆な方がお好きなんじゃないですか? 先輩さえよければ…私、恥ずかしいけど一番過激なのを……(ポッ)」  その時である!すっかりいい雰囲気の二人の間に、突如ぬずいっと割って入る中年男!  脂ぎった吐息をフハーッと吐き出しながら頬を赤らめる。  どうやら、いつの間にかテーブル下に潜んでいたのが、我慢しきれなくなって出てきたらしい。 「ひぃっ!?」 「い、いきなり何ですかあなたは! 変質者として警察に突き出しますよ!?」  突然の乱入者に対し、真っ青になってドン引きするグリエと声を荒らげるリーリエ。 「麗しいね…若い女の子同士のラブラぶはぁっ!!?」  バッサーリとフジムラも異変に気づいて身構えるが、  それよりも早く、赤い閃光が変態ことアブラギッシュをぶっ飛ばしていた。 「アブラギッシュ先生…自分のクラスの模擬店もほったらかしにして、よそのクラスの邪魔とセクハラとは、いい度胸じゃないですか……」  彼女も英崇出学園の教師であるナミ・エルベージ。  アブラギッシュが担任を務めるクラスの副担任であった。 「いきなり何をするのかねナミ先生! 私はただ休憩中に百合ムードを味わっていただけだよ!?」  「問答無用!!! …はぁ…はぁ…失礼♪」  ナミはオホホホ…と照れ隠しに笑いつつ、タコ殴りにされてボロ雑巾と化したアブラギッシュを引きずりながらメイドカフェから出て行った。  この手の激しいツッコミは英崇出学園では日常茶飯事で、メイドカフェの面々も気にせず通常運行に戻るが、  慣れていない葡萄月大付属の生徒や関係者はただただ茫然とするだけであった……。  その頃、中等部の少女エヴァック=キャスカ=ディオールは、  姉アリシアに会うべく腐れ縁の幼馴染サイゾウと共に姉のクラスが出店しているクレープ屋に向かっていた。  その屋台の近くにはテレビアニメに登場するロボット「アンジェラ」の実物大レプリカが展示されており、  キャスカのクラスで作る展示物として何日も居残りして作った力作であった。  中学生には模擬店はまだ難しいという理由でクラス展示がメインの中等部学園祭は金曜に行われ、  高等部がメインである今日も多くの人々の目を引きつけている。 「クレープの焼けるいいにおいがするわね…早く食べたいわ」  そう笑顔で言うキャスカは、かわいらしい竹製の小物入れを持っていた。  それはサイゾウのクラスで制作・販売している竹細工の一つで、  サイゾウは照れて黙っていたが、実は彼一番の自信作であった。 「その小物入れ、気に入ったみたいだな。 へへっ、俺がクラスの奴らにビシバシ指導して作らせた甲斐があったってもんだ。 (ホントは俺の自信作なんだが……まっ、こいつの喜ぶ顔が見れただけでよしとするか)」  今回キャスカにつきあってブラブラしているサイゾウだが、  竹細工の材料調達から技術指導に奔走して頑張ったのは、クラスの為はもちろんだが、  学園祭本番にこうやって多めに昼休みを取って遊ぶ為でもあった。 「サイゾウには意外な特技があったのね〜…ちょっと見直しちゃった! …あっ、姉さまだわ!」 「よう! 頑張ってるじゃねぇかお二人さん!」 「キャスカにサイゾウさん!」  アリシアは制服の上に清楚なレースのエプロンを纏い、天使のような笑顔で接客しており、  そのボーイフレンドのヒースは文字通りクレープ製造マシーンとなっていた。 「彼女の前だから精が出るじゃねぇか色男! …で、売り上げの方はどうなんだ?」 「アリシアの笑顔と…その…今年は強力な助っ人が来てくれたおかげで結構売れてるよ!」 「あん? 強力な助っ人…だと?」 「やあサイゾウ君、キャスカも一緒で仲良くデートかい?」  屋台の奥から出てきたアンジェラエプロンを着た助っ人…それはアリシア達の父マルローネであった。 「な…何やってんすかお父さん……」 「僕も英崇出学園のOBだし、担任の先生とは友達だからあっさり許可をもらえたよ。 ヒース君にクレープの焼き方を指南したのは僕だけど、つい心配になって手伝いに来たんだ」 「笑顔での熱血指導…死ぬ気で覚えざるを得ませんでした……」 「(この学校、こんなにルーズだとそのうち潰れるんじゃねぇ?)」 「姉さまも止めなかったのですか?」 「止めて聞くようなお父さまじゃないわ。それに……」 「はぁ〜い♪ 焼きバナナチョコクレープお待たせしました〜♪」 「お母さまー!?」  巨乳ではちきれそうなセーラー服を着て接客するのはアリシアやキャスカらの母テレサである。  17、13、9歳の娘を持つ32歳だが20代でも通じる美貌と、  すさまじい巨乳にきわどいミニスカは周囲の男どもの視線を釘付けにしていた。 「僕も学生時代にはセーラー服を着てたし、最初は夫婦揃ってセーラー服で手伝おうと思ったんだけどね。 アリシアが泣いて嫌がるから、テレサだけになったのが残念だよ」 「恥ずかしい…さっきも姉妹と間違えられちゃいました」 「こ、この夫婦は……」 「今朝、キャリコが恥ずかしいから行きたくないって言ってたのはこれだったのね……」 「さっ、できたぞ! サイゾウはツナマヨ&ポテトサラダで、キャスカが自家製イチゴジャムパフェだったな」  ヒースができあがったクレープをサイゾウとキャスカに手渡す。 「おう、ありがとよ!」 「ありがとうヒースさん。 …ね、ねぇサイゾウ! 次はモフリがいる美術部展示に行きましょうよ!」  モフリとは二人の共通のアキ=モフリの事である。 「お、おう…そんなに急がなくても…はは〜ん、おまえ照れくさいから早くこの場を離れたいんだろ?」 「い、いいからさっさと来なさいよ…!」 「あらあら、キャスカったらサイゾウ君にずいぶん積極的になったわね〜」 「違いますわお母さま!? あの…その…これは……」 「わかったわかった、さっさと行こうぜキャスカ。 じゃあお父さんにお母さん、失礼します。 アリシアもヒースと仲良くやんな」 「は、はいっ!」 「サイゾウもキャスカと仲良く…な!」 「ねぇマリー、あの子達もずいぶん距離が縮まったわね」 「ああ、昔の僕らみたいにね。親はなくとも子は育つ…か……」  遠くなっていくキャスカ達の背中を見送る夫婦の眼差しは、  どこまでも暖かく、そして少し寂しげでもあった。  英崇出学園は芸術方面に秀でた生徒も多く、学園祭での各文化部による展示物も充実していた。  美術部の展示会場では地元新聞社からの取材に顧問であるタガメ教頭先生が対応する。 「ところで…教頭先生も作品を出展されたそうですね」 「いやぁ、趣味で描いたものでお恥ずかしい限りですが…こちらです」  『HERO』と題されたその作品は、無数の怪人軍団に挑むタガメを模したヒーローの雄姿を堂々と描いたものであった。  あまりの迫力に息を呑む新聞記者。 「すごく…リアルなヒーローと怪人ですね教頭先生……」 「ええ、モデルとして協力してくれた友人達には感謝してますよ」 「え゛?」  そんなタガメ教頭と記者の横を、モフリに会いに来たサイゾウとキャスカが通り過ぎる。 「モフリ、どうだ調子は?」 「おお、サイゾウにキャスカ! 見に来てくれてうれしいよ……」 「…で、おまえの力作はどれなんだよ」 「ふっふっふっ…俺が描くものと言えば、決まってるだろ?」 「わかった! ロリロリでエロエロな絵だろ!?」 「惜しい! 確かにそれも好きだけど、教頭先生に絶対やるなと釘を刺されたから違う!」  そのやり取りを見て、ツリ目をさらに鋭くし、小さな拳にハーッと息を吐きかけるキャスカにビクッと反応する二人。 「冗談はここまでにして…モフリ先生…正解をどうぞ……」 「うん…こっちに展示してるからついてきてくれ」  モフリに案内され、彼の作品を見に行った一行だが、  すでに絵の前には先客…葡萄月大付属の男子生徒であるグレゴリー=マーマデュークが腕組みして絵を鑑賞していた。  パッと見の印象こそヤンチャ系の兄ちゃんだが、真剣に絵を見る表情は彼が芸術に造詣があり、  幼い頃からそれらに触れる機会を与えてくれる裕福な家庭に生まれた事を推察させた。 「すいませーん、僕の絵を友達にも見せてあげたいんですけどー」 「ほう、あんたがこれを描いたのか?」  初対面の目つきの鋭い男に質問され、モフリは少し戸惑う。 「は、はぁ…一応……」  モフリの描いた絵…それは『俺の猫』と題され、遊んだり眠ったり、果ては怒ったりと、  彼の愛猫の日常で見せる様々な表情が余す所なくキャンバスに展開されていた。 「モフリよ〜…おまえ、本当に猫好きだな!」 「うふふ…でも、猫ちゃんの表情を見ているだけで優しい気持ちになる絵だわ」  サイゾウとキャスカに続き、グレゴリーも普段はあまり見せないような柔らかい笑みを浮かべて続く。 「そちらのお嬢さんの言うとおりだ。 技術もセンスもいいが、それ以上にあんたと猫ちゃんが相思相愛ってのが伝わってくる絵だぜ。 たまにはこういうのを見て和むのもいいもんだ…じゃあな!」  グレゴリーと別れ、他に展示されている絵も見ていく一行。 「こっちの絵には姉さま達が描かれてるわ……」  キャスカが気づいた絵は『私の友達』と題され、  少しおめかししたアリシアとヒースが描かれていた。  作者名はヤカリ・ミヒトとある。 「姉さまのお友達のヤカリさんの絵ね。姉さまもヒースさんも綺麗……」 「へっ! 絵になってもお熱いねぇ……」 「モフリ君、新聞記者の方が君にも取材したいそうですよ」  新聞記者を伴い、タガメ教頭がやってきた。 「俺らはお邪魔虫みたいだし、そろそろ行くかキャスカ」 「ええ」 「ちょっとモフリ君! なんですかその格好は!」 「ああっ! 緊張してズボンをはいてくるのを忘れてしまったー!」 「以前英崇出学園を取材した先輩記者からは自由な校風と聞いていましたが、これほどまでとは……」 「ねぇサイゾウ、モフリを放っておいていいの? せめてインタビューの間だけでもあんたのズボンを貸してあげたら?」 「バカ、それじゃ俺がふんどし学ランの変態になっちまうだろうが。 もしそれが新聞に載ったら、母ちゃんに殺されちまう!」  次に二人がやってきたのはコンピュータ研究会の部室前。  サイゾウの友人である双葉としあきの所属する部活である。 「おーす、としあきはいるかー?」 「ふふふ…待っていたよサイゾウ」 「なにこの人……」  サイゾウは根は悪い奴じゃないから気にするなとキャスカに言い、ここでの出し物の説明をとしあきに求めた。  キャスカの発言でちょっぴり傷ついたとしあきも、よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに説明を始める。 「今回の学園祭に向けて、我が英崇出学園コンピュータ研究会は、 葡萄月大付属電脳部の全面協力の元、ついに現時点最高のロボ戦闘シミュレーターを完成させたのさ! 1プレイ200円で、その英知の結晶を体感できてうんたらかんたら……」  自信満々に能書きを垂れるとしあきを冷ややかな目で見るキャスカだったが、  ふと、廊下を行き交う人々向けにデモプレイを流していたモニタを眺める。  そこには画面狭しと可憐に戦うアンジェラの姿が……。 「…おい、これ別々の市販ゲームのデータぶっこ抜いて、一つにまとめただけじゃねぇのか? ま、面白そうだしちょっくら遊んでみるか。 おいキャスカ、悪いが30分ほど後でアリシア達の所で待ち合わせ…」 「誰がやらないなんて言ったのよ? ちょっとだけならつきあってあげるわ!」 「毎度〜♪ お二人様ごあんな〜い!」  二人はとしあきに案内され、部室の奥へと入っていった。  薄暗い室内には星やらコロニーやらの模型が天井から吊るされ、  先ほどデモプレイで見たような宇宙空間での戦闘をイメージしているようだった。 「(あ、さっき美術部の展示会場にいた人もいるわ)」  先ほど別れたばかりのグレゴリーも他の葡萄月大付属の生徒らとゲームに参加するらしく、  キャスカの存在に気づくとウィンクで会釈してきた。  サイゾウよりは上品で男前だけど、どうにも苦手かもしれない…と思うキャスカをサイゾウが急かす。 「早く座れキャスカ、俺は暴れたくてウズウズしてんだよ…!」 「わかったわよ……」  としあきや他のコンピ研部員らに言われるまま、ゲーム参加者は特製のマイクつきヘッドホンを装着し、  それぞれにあてがわれたディスプレイ画面に視線を集中させる。 「は〜い! では、ヘッドホンの耳部分から体温や発汗量を測定し、それぞれの適性に合った機体が自動的に選択されまーす!」 「さりげなくハイテクじゃねぇかよ!」 「いちいち細かいツッコミはしないの」  どうやら、激しい効果音の中でも連携が取れるように通信機能も搭載しているらしい。  サイゾウや蛮武ー丸、キャスカはアンジェラと妥当な機体が選択された。  やがて画面に表示されたステージは小惑星らしく…とは言っても、そこそこの広さで葡萄月大付属の生徒らの機体をすぐには確認できない。  しばらく飛び続ける二体のロボの前に無数の機影が立ちはだかり、としあきの解説が入った、 「敵のトップバッターはハイボック! さ〜て、お手並み拝見と行きましょうかねサイゾウ君!」 「出やがったか……まとめてぶった斬ってやるぜ」 「どんな敵が来ても負けないんだから!」  円柱型の頭部に取りつけられたカメラアイが無機質に二体のロボを捉える。  長大なビームマスケット銃を構え、一斉掃射の姿勢を取るが… 「くそっ! 蛮武ー丸のスピードじゃ間に合わねぇ!」 「私がバリアでしのぐわ! だからあんたはいつでも突っ込めるようにしときなさい!!」  ビシュシュシュシュ!!  サイゾウとキャスカの会話が終わるか終わらないかのタイミングで、ハイボック部隊の一斉掃射が開始された。  …が、その威力は思った以上に拍子抜けで、位置によってはビームが届かない者までいた。  しかも、冷却材の交換をしなければ次の発射はできないらしく、  冷却材を慌てて交換するあまりに落っことしてしまう者もいる始末である。 「しめた!!」 「ちょ、ちょっと! 待ちなさいってば〜!?」  その隙を逃さず、猛然とハイボックの群れの中へと突入する蛮武ー丸。  アンジェラは槍を風車のように回転させつつ突進するサイゾウと蛮武ー丸を魔力弾で援護しつつ、  自分に襲いかかるハイボックを手持ちの剣で斬り払う。  その援護の甲斐もあって、蛮武ー丸は次々と眼前に立ちはだかる敵を突き伏せ、薙ぎ払っていく。  まるで違う世界では戦友として戦っていたかのような連携と、跳ね上がる撃墜数に周囲のギャラリーから歓声が上がる。  …だが……。 「ちっ、数が多すぎるぜ…おいキャスカ! しっかり援護しやが…れ?」 「援護どころじゃないわよ! きゃあああっ!!?」  次から次へと襲いかかるハイボックへの対処に追われるうちに誘導され、  サイゾウはキャスカとアンジェラを敵の真っ只中に孤立させてしまっていた。  もし蛮武ー丸が本編同様にサイゾウと意思疎通できれば、突出する危険を諫めていたのだが……。 「くそっ! こいつが狙いだったってのかよ!?」 「ダ、ダメだわ! 数が多すぎて持ちこたえられない!!」  ガゴンッ!!  あわや! という瞬間、アンジェラに掴みかかろうとしたハイボックの一体が殴り飛ばされた。  そこには中世さながらのデザインと、ブースターが搭載された巨大な片腕がアンバランスなようで、  絶妙な調和の取れた機体(ガルデール)がハイボック達の前で仁王立ちしている。 「よそ見は危険だぜお嬢さん?  …おい緑髪野郎! 連れのレディをしっかり守りやがれ!!」  機体の主はグレゴリーであった。  キャスカを気遣うと同時に不甲斐ないサイゾウをどやしつけるが、  そうしている間にも新手のハイボックは次々と襲いかかってくる。  しかし、そのうちの数体の頭がビームの遠距離射撃で次々と吹っ飛ばされた。  ビームの飛んできた方角を見ると、高台からライフルで狙撃していた茶色の機体(クガディア・スナイパーカスタム)が手を振っている。 「遅いぞヴァローナ!」 「えへへ、すいません先輩……」 「危ない! 後ろを見てください!!」  キャスカの声に反応したヴァローナのクガディアの背後には、  錆びた鉄色をした兵士のようなロボ(ジャンクロス)数体が無慈悲に銃を構えていた。   「ひっ! あわわわ…来ないでー!!?」  ヴァローナはいつのまにか接近を許していたジャンクロスにすっかりパニクり、  クガディアの腰を抜かしながらライフルで乱射しまくるが、もちろんそれでどうにかなるわけではない。  ジャンクロス達が無慈悲に銃を引き金を引こうとした瞬間!  蛮武ー丸がその場に飛び込み、二刀流で次々とジャンクロス達を斬り倒していく。 「あ、あ、ありがとうございます……」 「…ったく、その肝っ玉の小ささじゃ、いくら死んでも命が足りねぇぜ姉ちゃん。 …おい銀髪野郎! お互いの連れを助けたんだ…これで貸し借りはなしだぜ!」 「一応感謝はするがな…新手のお客さんのお出ましで、その貸し借りもどう転ぶかわからんぜ?」  グレゴリーがガルデールの手を通じて指差した先には、  これまでの敵とは見るからに装備や錬度のレベルが違う槍騎兵を彷彿とさせる機体が隊列を組み、一直線にこちらへと向かってくる。 「さあ、どうする参加者の諸君!? このランサーはハイボックやジャンクロスとは質量共にレベルが違うぞ! ギブアップしたいなら…してもいいんだよぉ〜?」  としあきのドヤ顔が見えるかのような声に対し、サイゾウらの答えはもちろん…… 「フッ、売られたケンカにゃ必ず勝つ主義なんでね」 「えー!? どう考えても無理ゲーじゃないですか先輩!」 「黙ってろ! これは男のプライドの問題だ!!」 「おうよ! 銀髪野郎の言うとおりだ…これを受けなきゃ男じゃねぇ!!」  「女の子だけど受けて立つわ!」 「な、なんでそうなるのよ〜……」  四機のロボは合流し、どんどん現れる新手の敵増援の中へ突き進む。  ランサー部隊の背後には、ハイボックやジャンクロスの他に、ガンバレルやスリーズ級宇宙駆逐艦が控えていた。  どうやら、直接戦闘に勝利したとしても、アウトレンジ戦法による集中砲火が待っているのは明白であった。 「来るぞ!!」 「ひぃええええええー!!!」  身構える暇すら与えぬとばかりに、凄まじい速度で突進してくるランサー部隊。  その迫力に恐慌を来たしたヴァローナがライフルを乱射するが、強固な装甲で弾かれてしまう。   サイゾウはまた蛮武ー丸で割って入ろうとするが、パニックに陥ったヴァローナは味方にまで発砲するので近づけない。 「どいて」  漆黒の鎧と背中には巨大な翼が目を引く女性型の機体がいきなり現れ、クガディアを魔力か何かで後方へポイッと投げ捨てた。 「わひゃっ!?」  クガディアはヴァローナは素っ頓狂な声と一緒に地面に尻餅をつく。  サイゾウは何の脈絡もなく現れた機体を眺めていたが、どうにも既視感を覚えていた。  搭乗者はキャスカと同年代の少女のようだが、その冷たい声はまったく印象を異にする……。 「バカ! なにボケッとしてんのよ!? 敵がどんどん襲ってきてるわよ!!」 「いけね! おりゃああああっ!!!」  キャスカの声で我に返ったサイゾウは蛮武ー丸をランサーの突撃から間一髪で避けさせ、装甲のないカメラアイ部分に槍を突き立てる。  ランサーは頭部から派手に火花を散らしつつ、その場に崩れ落ちた。  これが地上での一騎討ちなら、勝利の余韻にも浸れるのであろうが、相手は次から次へと湧いてくる大混戦。  あとどれだけの敵を倒せばいいのか、想像もつかない。 「誰だったか…戦争は数だとか言った野郎は。 浪漫もへったくれもあったもんじゃねぇな……(てか、このゲームはどうすりゃクリアになるんだ?)」 「あら、それもまた戦争の楽しみじゃありませんの?」  大人びたようで、やんちゃな稚気とゾクリとするような狂気を孕んだ複雑な雰囲気の声が響く。  それと同時に、曲線を多用した複雑なラインの白銀の装甲を纏った重戦闘ロボット(グラスノート)が敵機を蹂躙…そう、単機で敵の軍勢を蹂躙していた。  正面からの破壊が難しく(破壊できても労力の割が合わない)、サイゾウらがカメラアイや背面のブースターを狙っていたランサーですら、  各種銃火器による至近距離からの集中砲火で事もなげに粉砕してみせた。  女性的な雰囲気も含んだその機体は、まさに白銀の女帝である。 「あははははははははははははははははははははは!!!!!」 「あの人は?」 「うちの学校の女番長リィザ=ノウス=アイゼンだよ…ったく、よそでもド派手にやりやがって! もう一人は…誰だ? 俺の知り合いではないようだが」 「ねぇあなた、初めて会ったような気がしないんだけど……」 「今はのんびりおしゃべりしてる暇なんてないわ。 行くわよ…ルシフェラ……」  キャスカの問いにつれない返事をした少女がルシフェラと呼んだ機体は巨大な翼を広げ、  先に飛翔したグラスノートを追うように敵陣へと斬り込んでいく。  長大な魔剣と広範囲の攻撃魔法で次々と敵機を残骸と変え、後方のガンバレルやスリーズ級宇宙駆逐艦から放たれる砲撃も掻い潜り、  ついにはグラスノートと共に後方艦隊をも身軽さで撹乱・破壊していく。 「おーっと、思わぬ乱入者の登場! 撃墜数がどんどん跳ね上がっていくぞーっ!!」  …結局、グラスノートとルシフェラが敵を全滅させてしまい(クリア条件はどちらかの全滅らしい)、  撃墜数順位はリィザ>謎の少女>キャスカ>グレゴリー>サイゾウ>ヴァローナの順で落ち着いた。  仮想空間から解放された面々が顔を合わせる。 「ちぇっ、この俺が下から二番目か。 元ゲーの月下武神モードに対応してりゃ、俺だって一位になれたのによ……」 「負け惜しみ言うんじゃないの! ゲームシステム自体が違うから、操作自体も難しかったけどね。 それよりあなた…フェイちゃん?」 「…今さら気づいたのキャスカちゃん?」 「おまえら、知り合いだったのか?」 「ええ、遠い親戚なの。最後に会ったのは…かれこれ十年ぐらい前になるかしらね」 「お父さまの海外赴任が終わったから、隣の市に引っ越してきたの。 サイゾウさん…申し遅れましたが、フェイリャオ・シグアムといいます」  髪や瞳の色こそ違うが、確かにキャスカに似ている(胸のボリュームも含め)。  仮想空間内で彼女が顕現させたルシフェラは、アンジェラの異なる世界の姿なのかもしれない…と、サイゾウは考えていた。 「そうか、んじゃ喉も渇いたし評判だとかいうメイドカフェでも行くか? もちろんワリカンで」 「あんたね…貧乏なのは知ってるから本気でおごれだなんて言わないけど、ちょっとは見栄張ろうとか思わないの?」 「うちは武士は武士でも足軽の家系だ! 高楊枝で腹は膨れねぇ!」 「はいはい…じゃあ行きましょフェイちゃん」 「(コクン)」 「…さてと、俺達もこの辺で退散するか」 「じゃあ私も(お手洗いに行こっと……)」  キャスカらが退出したのを見て、グレゴリーやヴァローナも椅子から腰を上げる。  リィザだけはまだまだ戦い足りないらしく、次の参加者が来るまでとしあきらとゲームの改善点などを話し合っていた。 「なかなか楽しい戦争でしたが、少々物足りませんわね。 今度は数千隻の大艦隊の集中砲火の中からゲームスタートというのはいかが?」 「いやー、あなたならともかく、それじゃ普通の人は即死なんでは……」  再びメイドカフェ。サイゾウらが訪れた時も相変わらず客足は衰えていない。 「お帰りなさいませご主人様〜♪」 「あれ、レヴィア先生じゃねぇか?」 「レヴィア先生はメイド部の顧問だし、見かねて手伝いに入ったんでしょ」 「しっかし、美人さんは何着ても似合うねぇ…ロングスカートのメイド服ってのもいいよな。 胸が大きいからって、露出度の高い服着りゃいいってもんじゃねぇってのを体現して……がああああああ!!?」 「アンジェラアームロック!!」  どこで身に着けたのか、関節技でサイゾウの腕を極めるキャスカ。   いつもの夫婦漫才を展開する二人をよそに、英崇出学園の男子生徒の蒼紫=ヤンダガレックと狗威ドワックンが  先輩で大学生のアゼル=ヴィシャスと共にメイドが注文を取りに来るのを待っていた…が、そこに現れたのは意外な人物であった。  その名はヴェータ=スペリオル。メイド部顧問レヴィア=スペリオルの実弟である。  第一印象は少女と見紛うような美少年だが、性格はレヴィアの為なら火の中水の中の真性シスコンとして有名で、  一部の友人を除いたそれ以外へのS度の高い態度で恐れられていた。  そんな彼が通称暗黒帝国仕様と呼ばれるロングスカートのメイド服を纏って現れたのである。 「お帰りなさいませご主人様、さっさと注文をしろ」  腐れ縁の友人にあたる蒼紫と狗威はしばし目が点になっていたが、  狗威が必死に冷静さを繕いつつ、『またやらかしたな』といった呆れ顔で話しかける。 「ヴェーやん…何…やってんだ?」 「決まってる、メイドカフェの手伝いだ。 人手が欲しいと姉さまからのメールが来たのでな」  蒼紫も狗威に負けていられまいと続く。 「…普通の男の子ってさ、こういう企画じゃ執事のコスプレするのが定石じゃないかな? いや、そりゃ確かに君は女顔だし、体つきも華奢だから知らない人が見たらそれなりにサマになるよ? …でもだ、ろくでもない内面を知っている我々としては…断固ノーと言わざるを得ない!!」 「あいにくだが、服がこういうのしかなかったのだ。 それに、レヴィア姉さまが『ヴェーくんならきっと似合うから着てくれない?』と言ったら着るしかないだろ? 成り行きで着たとは言え、だんだんとその気になってきてな…ふふふ……」  小悪魔的な笑みを浮かべ、スカートをヒラヒラとさせるヴェータ。 「無駄だ蒼紫、こいつ真性のド変態シスコンだから」  そこでクールに水を飲んでいたアゼルが静かに口を開いた。 「…これはこれでアリだと思う(ポッ)」 「あああ〜…アゼルさん…ダメだ…ダメだよ!ここで堕ちたら、もう後戻りはできないよ!!」  女装少年に免疫のない面々が新たな世界への誘いに直面するのを尻目に、  思わぬ人物がメイド服を纏って奥から出てきた。 「先輩、似合いますかっ☆」 「グリエ! 超GJだわよ!!」  それは暗黒帝国仕様メイド服を纏ったグリエであった。  前髪を少し上げて露出した星の入った瞳を輝かせ、先ほどとは別人としか思えない変化を遂げていた。  リーリエは興奮気味に親指を立て、携帯で写真を撮りまくる。 「ご来店の皆様〜! お客様のご要望につき、一回300円でメイド服の試着サービスを開始しちゃいますわ♪」 「さすが姉さま! 僕もさらに過激な暗黒の国メイド服に着替えて、姉さまを魅了する写真をですね……」 「「おい! 注文すっぽかすな女装シスコン!!」」 「ヴェータきゅんのメイド服ハァハァ……」 「ア、アゼルさぁ〜ん…頼むから目を覚ましてぇ〜……(泣)」 「はは…何やってんだかねぇ…あんな事やってるから、客の回転が悪いんだよ。 しっかし、あの星の目の子は全然OKだが、女装メイドとかねぇよなぁ〜……」 「ホント…フェイちゃん、うちの学校がああいう変態ばかりだと思っちゃダメよ?」 「…でも、さっきのキャスカちゃん達の漫才も、あの人達を笑えるレベルじゃないわよ」 「「はい、すいませんでした」」  フェイリャオの冷静なツッコミに対し、二人は赤面しながらハモって反省せざるを得なかった。  そんなサイゾウの背後に怪しい影が忍び寄る。 「お帰りなさいませアニキご主人様〜♪」  サイゾウにちょっと常軌を逸(脱?)した愛情を寄せる後輩サスケである!  メイド服の試着サービスを利用し、サイゾウにいろんな意味でのご奉仕をしたいのは明白だった。 「言ってるそばから何やっとんだてめぇは!!」 「やだな〜アニキ、ご奉仕に決まってるじゃない!」 「だが断る! てめぇのご奉仕は下心丸出しじゃねぇかよ!?」  殴られようが蹴られようがサイゾウを追い回すサスケ。  その光景を冷ややかに眺めるキャスカとフェイリャオ。 「いいのキャスカちゃん? サイゾウさんを助けてあげなくて」 「いいのよ、あのバカ達のいつものスキンシップだから。 それより、後でフェイちゃんも一緒にメイド服着て記念撮影しない? 私も前に一回着たけど、きっとフェイちゃんも似合うと思うわ!」  …その頃、取材を終えたタガメ教頭と葡萄月大付属の教頭ジャン=ルイ・ド・フリメールが談笑しながらメイドカフェへ向かっていた。 「…それぞれの出し物はもちろんですが、何より生徒達の熱意が素晴らしいですな。 今回の学園祭は我が校の生徒にもいい刺激になったはず……。 来年は我が校の文化祭に英崇出学園の皆さんをお招きしましょう」 「おお、それは願ってもないお申し出ですね。 これからも両校の交流が活発になれば…ん? 何やら騒がしいですね……」 「さあアニキッ! オイラの熱〜い濃厚ベーゼを!!」  そう叫んでジャンピングキスをかますサスケを間一髪でかわすサイゾウだが……。 「おーいサイゾウ! やっと取材から解放され…むぐっ!?」  サイゾウへのキスが不発に終わったサスケの唇が運悪く(?)やってきたモフリの唇にクリーンヒット。  もちろんサイゾウ一筋のサスケは瞬時に真っ青になる。 「うえええー!!? オイラのファーストキスが……」 「いきなり大胆じゃないか君ぃ! …でも、俺そういうの嫌いじゃないからっ!!」 「ぎゃあーっ!! 寄るな触るな脱がすな変態ー!!!」 「おい! やめねぇかモフリ!! みっともねぇだろうがよ!!?」 「アニキ…こんなオイラを庇って…(ポカッ)あいた!」  サイゾウ、モフリ、サスケが入り乱れる光景を見たジャン=ルイは白目で硬直する。 「…なんか、交流するのにものすごい不安を感じ始めたのですが……」 「一部です! ああいう変な方向に熱意があって元気のいい生徒は一部ですから!! (後で三人とも呼び出してお説教決定です!!!)」 「バーカ……」  それを冷ややかに見るキャスカはフェイリャオと一緒にメイド服に着替え、記念撮影を行おうとしていた。  フェイちゃんと一緒にアリシアや両親のいるクレープ屋に行って、この写真を見せてあげよう…そんな事を考えながら。  少々の寒さなど吹き飛ばさんばかりに熱気と活気に満ちた英崇出学園の学園祭は、まだまだ続くのであった。                           ─終─