■異世界SDロボ〜葡萄月の継承者達〜■ ――ドキュメンタリー調プジェ・アビリト陥落―― --------------------------------------------------------------------------------  惑星カリフ・アタキ。地表の殆どを砂漠に覆われた星は戦火に包まれていた。液化燃素 の一大産地であるため、ランス帝国としては何としても護りたい場所である。  しかし、ローランドをはじめとする連合軍は数では劣るものの、巧みな戦術で帝国軍と 五分以上に渡り合っていた。  ランス側の将兵は1億人超。対するローランド側はイストの支援を合わせても5万人にも 満たなかった。  帝国は数こそ多いが旧式のSDロボが大多数を占めており、地上戦艦も少なかった。その ため戦艦を一定の箇所に留め要塞代わりにした程だ。  その陣形が幸いしランス側の進撃は鈍かった。その間に連合軍は攻撃計画を練ることが できたのだ。  連合軍は互いに支援できぬ程離れている戦艦の補給路を攻撃した。  砂漠での戦いは海上や宇宙での戦いと同じである。陣地を奪うのではなく敵を倒すこと が重要なのだ。  翌月、連合軍は攻勢に出たが、作戦は続行4日が限界であった。それは燃料と弾薬の補給 から見てのリミットである。  しかし拿捕したランス側の物資を使って4日間の反撃を数週間にも延長することに成功。  その結果連合軍はプジェ・アビリトの目前、スルブー・ラタの町まで進軍することがで きた。連合軍にとっては信じられないような躍進である。  完全なる劣勢に立たされたランス側の将軍ネジロ・ド・デヴルーはここで大きなミスを 犯す。  地上部隊の指揮をボロマック大佐に委ね、自身は周辺宙域の敵軍排除に奔走したのだ。 物資供給の問題から地上と宇宙同時は無理だった。地上の敵を一掃し、周辺宙域は後回し にするべきだった。  弾薬と兵士たちの食糧のことを考えれば派手に動くことは自殺行為に他ならない。この 直後、ランス側の進軍は更に鈍ることとなる。そこに追い討ちをかけるかの如く、戦局は 厳しさを増すのであった。  数ヶ月後、ゼイアスからの援軍がカリフ・アタキに到着した。連合軍と合流し約3万の将 兵が戦列に加わる。この頃には帝国軍も大きく数を減らし、数値上の戦力差はほぼなくな っていた。  連合軍はメスト・ギア部隊をスルブー・ラタの前線基地へと派遣する。  ゼイアスが合流してから連合軍の動きは活発だった。貧弱だった航空戦力はエアルコン をはじめとした飛行型メスト・ギアにより補われ、地上戦力も増強された。  砂漠の戦いを決するものは大量のSDロボと陸上戦艦と航空戦力の支援である。地上部隊 が充分にカバーできる地域では大きな役割は果たせないが、砂漠では空の優位は決定的要 素であった。  合流から2週間後、プジェ・アビリトへの攻撃が開始された。宇宙港とその関連施設が空 爆による集中攻撃に晒され、将兵はもちろん一般人にも多数の犠牲者が出た。  この空爆の直後、ネジロ将軍の要請によりランス本国から増援が派遣される。  将兵が増えるのはありがたいが、食糧の確保が難しかった。軍は乾パンと缶詰の牛肉や 鶏肉を用意するだけでも精一杯だったからだ。  粗末な食糧と清潔な水の不足。赤痢の危険が絶えず存在しており、将兵たちを不安にさ せた。  更に砂漠は猛烈な暑さである。黒く塗った鉄板の上で目玉焼きができる程だ。しかし兵 士たちを一番悩ませたのはハエである。ハエは伝染病を媒介するだけに恐ろしく、機敏な 動きも厄介だった。  帝国の将兵たちは病や害虫にもめげず、必死の抵抗を続けていた。依然として旧式機が 大半を占めているものの、増援によって数の上ではランス側が再び優位に立っていたのだ。  数にものを言わせ連合軍を追い詰めはしたが、駆逐する寸前で食糧と弾薬が尽きた。  タイミングが悪いことに、ホビロン州やタウロキ州の戦線が蘇芳の猛攻により窮地に立 たされていた。帝国はそちらに戦力を割かねばならず、支援はジャガイモ1箱すら期待でき ない状況だった。  ランス軍の困窮を知った連合軍は、ありったけの兵力をプジェ・アビリトにぶつけた。 叩くなら今しかないと判断したためだ。  この戦いでランス軍は地上戦艦マックイクサとボロマック大佐を失い、市街地の殆どを 破壊された。拠点を放棄し、撤退するしかなかった。このまま戦っていては全滅する。将 兵の誰もがそう感じる程に連合軍の攻撃は苛烈を極めた。  砂漠では撤退するにも身を隠す場所がない。と思うが、それは地上での話だ。地下に掘 ったトンネルを伝って多くの将兵がプジェ・アビリトから脱出していった。  ランス軍は近郊の小さな町、コツロモに本営を移し反撃のチャンスを窺うのであった。  連合軍はこの脱出に気づいていたものの、思い切った行動がとれずに難渋していた。進 撃すればするほど補給線が延びるからだ。  また、砂漠という特殊な環境にも進撃を阻まれた。  風が吹くと一面砂に覆われ、細かい砂はあらゆる物の中に入り込んだ。SDロボの中にも、 時計の中にも。人体にも入り猛烈な下痢を引き起こした。  砂嵐が酷く、視界が全く利かないときがある。SDロボについているGPSも狂うため、昔な がらの磁石を持っていかないと道に迷い帰れなくなることもあった。  砂漠に悩まされながらも時に救われたネジロ将軍。彼はコツロモで本国からの増援を待 ちながら軍の再編を進めていた。そして大掛かりなプジェ・アビリト奪還作戦を計画し、 3ヶ月後に実行する。  しかしボロマック大佐の後任で地上部隊指揮官に就任したキーガー中佐と兵士たちの間 に内紛が発生。D-ボックに乗った下士官に誤射を装って殺害されてしまう。この一件によ り指揮系統は混乱。奪還作戦は失敗に終わり、間もなくコツロモも陥落した。 了