「――つまり、纏めるとくせっ毛、お前の話はこうか」    諏訪部玄一は胸の前で両腕を組んだ。   「お前がいた世界――このコロッセオでも、俺のいた所でもない場所は、魔物とかいう化け 物どもの侵略を受けて相当ヤバい状況にある。で、魔物に対抗できる武器……マギナと、そ れから魔術か? それを使えるお前ら『Magina-Academia』が中心となって、その防衛の任 に当たっている、と」 「大体合ってる」と、コロナ・ストラウトは頷いた。「くせっ毛のところ以外は」 「そこはどうでもいい」 「よくないっつーの。――で、纏めると諏訪部、あんたの話はこうだね」    コロナは念を押すように訊いた。   「諏訪部がいた世界――このコロッセオでも、私のいた所でもない場所は、私達くらいの学 生だけが……ええとヤオヨロズ? そのロボだかメカだかを召喚できるようになったり、そ れが勝手に暴れたりで、どこの国もしっちゃかめっちゃかになってる。  で、あんたの国では、現政権側に付いたあんたたち帝神学園と、皇帝の一族を抱き込んだ 聖護院学園とかいう所とで代理戦争してる、と」    諏訪部は億劫そうに顎を上下させ、「諏訪部さん≠セ」とだけ言った。   「さんさんサンサン五月蝿いなあ。あんたサン中?」 「何だよサン中って。脊髄反射で適当な造語をつくるんじゃない」    ひとしきり険悪な眼差しを交換してから、二人は揃って嘆息した。  どちらも重いため息だった。   「お前、現実と妄想をごっちゃにするなよ。アニメ、漫画、ゲーム、それともラノベか。ど れかか全部か知らないが、そういうのにハマり過ぎでお脳が湧いてんだよ」 「巨大ロボとか、ちょっとないわーって感じ。そもそも嘘っぽいし」    諏訪部が吐き捨てれば、負けじとコロナもやり返す。  二人はそのまま睨み合った。己が属する立ち位置の信念をかけ、視線は苛烈に交錯する。      睨み合いが続くすぐ傍で、一本角の竜人――レイズ=エグザディオは軽く咳払いした。  「あくまで私見だが」と突き出た顎を撫でながら、   「――どちらの話も大差なく嘘っぽいように思えるなあ」    それまでに数倍する烈しさで二人に睨まれ、レイズは穏やかに苦笑した。   「失礼、他意はない。ただ、異世界の事情などという代物は、そう易々とは受け入れ難いと いう事だ。本来なら絶対に交わる事がない者同士なのだから」 「お前らは、そういう存在と交渉を持つのは日常茶飯事なんだろうが」 「それでも、なのさ。だからこそ興味は尽きない」 「お気楽なトカゲ野郎め……」    諏訪部は鬱陶しそうに髪の毛をかき回す。   「お前の話だってな、俺らにしてみれば同じくらい胡散臭いんだよ。――そもそもどういう んだ、このコロッセオとやらの出鱈目さは」 「平行世界(パラレルワールド)の交差点、か……」    鎖を仕舞った『シューティングスター』のグリップを、コロナはぎゅっと握った。        相変わらず、コロナ達は最初に目覚めただだっ広い場所にいる。  ――奇怪なるサラリーマン・山下鉄兵を沈黙させた後、戦闘の意思のない事をレイズは示 し、三人は武器を収めた。  改めて名乗り合い、互いの事情を説明する内、この場所に縁深いレイズからコロッセオに ついてレクチャーを受けたのである。    即ち――。  コロッセオと呼ばれるこの施設は、コロナや諏訪部たちのいた世界とは数学的次元を異に した全くの別世界、端的に言って平行世界であること。  より正確を期するなら、ある特定の平行世界同士が重なり合った奇跡のような地であると いうことを。      誰が建設したのかは判らない。それぞれの世界で太古に存在した闘技場(コロッセオ)の 名で、取り合えず呼ばれるようになってから百年が経っている。  今コロナ達がいる場所は、ほんの一角に過ぎななかった。闘技場の名に恥じず、場内にあ る大小の、そして無数の部屋は様々な戦いのフィールドとして活用できる空間ばかりだ―― と、レイズは請け合ったものだ。    その重なり合った世界――便宜上『国』と呼ばれるそれは三つだ、と竜人は言った。    遥かな昔、神である竜の血を受け、その血による魔法をよくする者たちが暮らす世界がま ず一つ。  竜の国である。魔法のみならず、剣を奉じる騎士の王国。――魔術剣士であるレイズは、 ここの出身らしい。彼のように竜の因子が濃く発現した者もいれば、コロナや諏訪部とさし て変わらぬ容姿の者もいるという。    そして、先程から物言わぬ残骸となっている山下鉄兵を生んだ、というか造り出したのが 鉄の国だ。  高い技術文明を誇るだけでなく、人体内の電気信号を制御する術に長じている為、身体を 機械改造して更なる強化を図る者も多い。山下のような重装サイボーグは、正にその行き着 く極北と言ってよかった。   「もう一つが獣の国だ。竜以外の獣や鳥などの血を継いだ、獣人たちの世界だな」 「けだもの臭そうな所だな」 「空と大地と共に生きている風土ゆえかな。優しく、強い民が住まう地だよ」 「要するにド田舎か。行きたくもないな」 「……あんたはさあ、何で一々失礼なこと、言うかな。諏訪部みたいな陰険メガネの方こそ、 どこだってお断りだと思うよ」    諏訪部はコロナをひと睨みしてから、   「このコロッセオは、その三つの国のいずれかに帰属してはいないのか?」 「最初期にはそうした動きを受けての三国間での紛争もあった。相当の血が流されたが、す ぐ終息したと聞く」 「どうして?」    コロナが訊くと、レイズは即答した。「巻き戻り≠セ」      このコロッセオ内では、最長で半日程度の時間経過後、時空が言わば逆回転を起こすのだ、 と竜人は説明した。時計のねじを巻き直すように、負傷も、損傷も、死すらも、場内の全て の事象は元に戻る。記憶や経験だけは別としてなかったこと≠ノなるのだ、と。  ――便利かもしれないけど、とコロナはわずかに眉をひそめる。  何もかもすぐに嘘になってしまうのは、何となくいやな気がする。   「仮に三国のどこかが戦闘の末にコロッセオを制圧しても、巻き戻り≠ェくれば倒した敵 は全て復活してしまう。自軍の損傷もなくなるがな。……どちらにせよ、切りがない訳だ」 「そんな話を信じられるか――と言うのも虚しくなってきた」    諏訪部は顔を向こうへ遣った。  視線の先には、笑ったまま顔を両断された山下鉄兵の巨体が転がっている。   「それが本当なら、さっきあの化け物が殺されても死なない≠ニ言ってたのは、あながち デマじゃなかったのか……」    呟くように諏訪部は言い、レイズは重々しく首肯した。   「三国間での人と物の移動は可能だから、交流自体は活発だし、それがまたどこの国にも繁 栄と問題の種を蒔いているよ。  コロッセオは三国間での共同管理体制が敷かれ、そうした末に落ち着いたコロッセオ自体 の利用法が――」 「個々の闘争」    諏訪部は眼鏡の位置を整えた。   「あくまで闘技場という範疇での。それが、このコロッセオでお前達が確立させた外交儀礼 (プロトコル)――という訳か」 「我ら百年に渡る異人(マレビト)同士の、な」      場内の至る所で行われる数々の死闘は、巨額の金が動く賭けの対象ともなっているらしい。 場内での賭博行為は公式には禁じられているものの、どんなに戒められても後を絶たないあ らゆる犯罪行為と同じく、完全に取り締まる事は不可能であった。   「これも……」と、レイズは片手に預けた巨大な銃剣を持ち上げてみせた。   「鉄の国で造らせた業物だ。俺の魔力を弾丸として撃ち出すガンブレード仕様でな」 「あ、ここでもガンブレードって言うんだ。うちの学園にも似たような形のマギナを使う人、 いるよ」 「ほう、面白いな。後で話を聞かせてくれないか」    コロナがそう言うと、竜の瞳が好奇心に光った。太い尻尾がゆらゆらと動く。  ――子供みたいにわくわくしてる。  レイズの態度は好意的な微笑を誘った。年齢で言えばコロナ達の一回りは上らしいが、秀 逸した知性と背中合わせにユーモアを含んだ稚気がある。  巨大な銃剣を持ち、腰には大小の短剣を数珠繋ぎに吊っている上に恐ろしげな竜頭だ。そ んな異相も、コロナはさして気にならなくなっていた。   「さっきの山下さんの目的は、結局自分の会社で使う戦闘データ収集だったんでしょ?」 「そのようだ。転移して来たばかりの客人へ、いきなり戦いを吹っかける無法は看過できぬ 故に、いい加減な所で割り込ませて貰ったが」 「じゃあ、レイズさんは……」 「俺の事はレイズでいい、コロナ」 「おい、くせっ毛。俺はお前にタメ口を許した覚えはないからな。俺にはさん≠ツけろよ、 さん≠」 「レイズはどうしてこの区画に? ここ、立ち入り禁止なんだよね?」    わめく諏訪部を完璧に黙殺してコロナは尋ねた。        ――竜、鉄、獣の三国以外の、全く別の平行世界への扉が開く特殊なケースがある。  それがここ、どういう具合でかコロナたちが転送されてきた空穴区画だった。  区画の様相はその時々によって変化するらしく、   「今は随分殺風景だが、いつもはもっとがらくたで溢れ返っている。大半は使い方も判らな いか、使う事のできない道具や機械だがね」 「壊れたものばかりって事?」 「次元間の越境は、時として思わぬ影響を及ぼしもするのだな。ここに流れ着いた機械や道 具が、精査しても問題ないのに不思議と動作しないのはざらだ。  諏訪部、お前の召喚する存在のサイズが縮小されていたというのも、そうした影響の一環 だろう。理由は不明だが」    厄介な、と言わんばかりの渋い顔に諏訪部はなる。   「何時だったか、見上げるように大きい人型の機械が転がっていた時は驚いたものだ。擱座 して動かなかったが、どうやら人が乗り込んで操縦する兵器のようだった。妙に上下に押し 潰れた等身で、爬虫類というか、食虫植物のようなデザインだったが……ひょっとすると、 そちらの世界のものか?」 「そんなヤオヨロズは知らないな」    諏訪部はかぶりを振る。コロナにも心当たりはなかった。諏訪部は考え込むような口調で 「物はいいとして」と言った。   「人はどうなんだ。真逆、呼びつけっぱなしで帰りの便はなし、じゃあないだろうな」 「人、というか生体は、この空穴区画の外には出て行けんし、そもそもがここは三次元的に 不安定な区画だ。長くは留まれない。  三国以外からの客人は巻き戻り≠ニ呼応して元いた世界へと弾き出される。つまり、お 前達も遠からず我が家へ帰宅できるという寸法だ」 「確かなのか、それは」 「次元そのものが備える弾性――といったらいいのか、それが異物を排除する働きは殊の外 正確だよ。三国の魔法学や科学理論も同様の結論に達している」 「勝手に招いておいて、はた迷惑な話だ」    諏訪部は苦りきった。レイズは宥めるように、   「巻き込まれた方としては、さもあろうな。この地のメカニズムは、それが何を志向してい るのかについては解明が進んでいない。後百年経とうが、結局判らんのかもしれん」    空穴区画は、下手をすると外部に出られなくなる危険もあるらしい。それで立ち入り禁止 に指定されているが、珍奇な品物を狙っての侵入者が引きも切らないという。    取り合えず戻れる、という見通しを示されてコロナは安堵した。  レイズは好ましい相手だが、性根が腐りきった眼鏡何某を相方に訳のわからない異世界に とどまるのは、少しばかり願い下げだった。    ――不意に諏訪部は口を閉ざした。陰鬱な眼差しでコロナとレイズを見遣り始めたが、二 人は気づかなかった。     「私達みたいな、別世界からの異邦人(エトランゼ)、か。……例えばどんな人達なの?」    ふむ、とレイズは考え込んだ。   「そうだな、俺が逢った中から挙げるなら……ああ、鉄仮面で顔を隠した軍服の武人。鍛え に鍛えて鍛え抜いた鋼の筋肉を誇る格闘家――この御仁は自国の地方自治体の首班だと豪語 していたが――などがすぐ思い出される。  他にも、魔法とは別種の精神の力――超能力とでも言うのかな、あれは。そうした念動を 揮う黒髪の少女や、白狐の面を被った妖狐たる少女もいたぞ。  皆、途轍もない手練ればかりだったよ」 「レイズはその人達と戦ったの?」 「こちらが望み、相手が応えてくれる時は立ち合った事もあった」 「勝った? 負けた?」    興味津々にコロナは訊いたが、「それはまあ、今は語らずにおくとして」といたずらめい た顔ではぐらかされた。   「それよりも俺は、客人から異世界の物事を聞き取る方が好きだ。須臾(しゅゆ)の間でし かないが、興味を引かぬ異界の事々はないし、その中から逆に我々の在り方が見えてもくる。  長くなったが、そうした情報収集が先程の問いへの答えでもある」    ふうん、とコロナは感心した。  ――真面目な人だな。まるで先生みたい。   「『学園マギア』についても、だから可能な限り話を伺いたいものだが、その前にひとつ尋 ねたい。――コロナ・ストラウト。俺と手合わせを願えるだろうか?」    唐突な申し出に、コロナは言葉の接ぎ穂を失った。   「山下とお前達の戦いは、影から見させて貰った。コロッセオに生きる者としてとして体が 震えたよ。話を聞くのが後回しになるくらいに。如何だ?」    邪気など一片もない誘いだった。丹精に磨き抜いた剣を、無駄のない所作で抜き払ったよ うに真っ直ぐな言辞に、コロナはひどく眩しい想いに駆られる。       ――戦う。純粋に、戦うために戦う。それは、      それは多分、自分にはない欲求だとマギナ使いの少女は思う。  『学園マギア』の生徒としてコロナが魔物と戦うのは、人類の為、世界の為と自ら望んだ からでは決してない。  単にマギナを扱える適性があったからだ。したくてしている訳ではない。    コロナが元いた世界でなら仕方がない≠ニ飲みこめばそれで済んだ。心を凍てつかせな がら、果てもない戦場に赴けばいい話だった。  だが、ここでは違う。  コロッセオにそんなしがらみはない。気負いこむ必要もない。ならば、  ――いやだって言っても、いいのかな。    制服の襟をいじりつつ、伏目がちに、   「――ごめん。そういうの、私はちょっと」 「そうか。惜しいが構わんよ。俺は、無理強いは好まないから」    レイズは気にした風もなく言った。  そっとコロナは嘆息した。何だか肩の力が抜けていた。  竜の瞳は今一人の異人の方に向けられる。   「諏訪部。お前はどうだ?」 「――俺は、無駄な戦闘は嫌いな性質だ」 「ふむ、それは残念」    だがな、と諏訪部は笑った。嗜虐の薄暗い光をたたえた目で、   「無駄でない戦闘なら、大好きでね」        突如、諏訪部の周囲に黒い瘴気が湧いた。  彼の使役するヤオヨロズ出現の先触れ、と考える間もなく、漆黒のシルエットが複数立ち 上がる。  黒いヤオヨロズ――ヨモツイクサだ。  諏訪部を護るように居並ぶ三本の長槍は、それぞれコロナとレイズの二人ヘと穂先をつけ ていた。    レイズは泰然自若な姿勢を崩さない。その代わりのように身構えてコロナは叫ぶ。   「ちょっと、戦わないんじゃなかったの!」 「これはきちんと意味がある戦闘だ。お前達二人の身柄を拘束する」 「な、何で!?」    諏訪部は冷ややかに告げた。   「一緒に来て貰うぞ。俺達の日本に――ヤオヨロズの世界にな」     「何故、と訊く権利くらいはあるだろう」    何の動揺も見せず、レイズは訊いた。  諏訪部は「お前達の力が欲しい」と言った。   「マギナ、魔術、そしてこのコロッセオ。トカゲ野郎の言葉を借りるなら、成る程興味は 尽きない=Bお前達の持つ異能と技術を吸収すれば、俺は――いや、俺たち帝神は、更なる 力を手に出来る。その為の貴重な実験材料だ、お前らは」 「……あんた、本気でそんな事考えてるの!?」  「失礼な事を言うんじゃない、くせっ毛。俺はいつだって本気だ」    眼鏡の奥から向けられる視線の粘っこさに、コロナは総毛立った。   「特にコロッセオとやらは面白い。多次元を統括するこの力、失われた『天岩戸(タンホイ ザーゲート)』へ通ずる鍵となるかもな――」 「……?」    諏訪部は「お前らが知らなくてもいい事だ」と手を振った。   「ま、帝神のラボでじっくり調べてやる。三食昼寝つきのいいご身分が待ってるぞ」 「ねえ。私達がハイワカリマシタスワベサン、とでも言うと思ってる?」 「拒否したければ、しろ。別に認めんし、俺は俺の思う通りにする」 「レイズは私達を助けてくれたじゃない! その彼にまで――!」 「感謝はしてるさ。それとこれとは別、というだけだ」    平然たる語調だった。きっぱりとコロナは言い放った。   「――あんたって、最低だわ」 「不思議とよく言われる、その手の台詞は。何故かな?」    首をかしげる諏訪部に、レイズは肩をすくめた。   「それが判らんから最低と呼ばれる。判っててやっているなら、最低よりまだ下だ」 「爬虫類風情が言ってくれるじゃないか」    諏訪部は嗤った。   「で、我々二人をそちらの世界へ連れてゆく算段はあるのかな?」 「巻き戻り≠ニやらが起こるまでに何とか考えるさ。だから俺は忙しい。大人しく捕まっ てくれると無駄な手間が省けるんだが」 「あんたね。二対一だからって、あんまり調子に乗らないでよ」 「は? 二対一?」    諏訪部側の戦力が本人を含めて四なのに対し、コロナとレイズ側が二名という計算だが、 諏訪部は怪訝そうな表情になり、   「――ああ! そうか、お前らが知る訳なかったよな。いや悪い悪い」    朗らかに破顔した。この男が初めて見せる、邪気のない笑みだった。     「なあ。俺のヤオヨロズがこれだけなんて、誰が言ったんだ?」      再び、地面で黒い瘴気が噴出した。  量は先の比ではなかった。黒暗淵(やみわだ)の底より陸続と這い出る影も、形状こそ変わ らないが数は二つや三つではない。  コロナの頬が引き攣った。レイズは目を細める。  無機質な殺意を秘めて凝った人型の群れは、先の三体と併せて十と二体だった。      黄泉の国に巣食う悪鬼の名を冠せしヤオヨロズ――『ヨモツイクサ』。  喚び出せるヤオヨロズは一人につき一体、という定石を覆し、一なる群体として諏訪部玄 一に使役される、これが黒き軍勢の正体であった。      ざッ! ざッ! と、槍の穂波が黒々と揺れる。  緩やかに、しかし着実に隊列が整い出す。黒蟻の行軍の如く。  諏訪部の姿は黒い魔群に埋没してて見えなくなった。    鉄鎖を共連れに、『シューティングスター』のストック部分から鉄球が躍り出る。  コロナの手が鎖を引くや、凶々しい鈍器は舞い上がった。先手必勝の唸りを上げて、ヨモ ツイクサどもの中央へ叩きつけられる。  鉄球をかわしざま、一本の槍先がさかしまに撥ねた。  円をえがくようにくるりと突き、空中で鎖を柄に巻きつける。器用に鉄鎖ごと鉄球を絡み 取ったとみるや、今度は槍を地面に突き立てる。    コロナは表情を硬くした。  鉄球部分が完全に槍に巻き取られている。鎖を引き絞ってもぴんと張るばかりだ。  身動きを封じられたコロナと、未だ何の構えも見せぬレイズの周りをくるむように、黒い 槍兵たちは布陣を完成させつつあった。   「一応女だからな、顔は勘弁してやるよ。ま、手と足だな」    薄ら笑いを口元に刷いているに違いない、諏訪部の声が響いてくる。  ――そこまで悪い奴じゃないかも、なんてとんでもなかったわ。  一瞬でもそう考えた己の馬鹿さ加減をコロナは呪った。     「遠慮なく味わえ、根の堅州(カダス)国の穢れに染まりし軍兵どもの恐怖を――!」      嘲笑に応じるように、鈍色の光芒が流れて立った。  レイズの肩に担ぐように構えられた、巨大な銃剣の剣身であった。     【To Be Continued】       ■オーバーラップ・コロッセオ■ 剣と魔法を操り、騎士と王が収める竜の血を引く国、竜の国 鉄と銃を組み上げ、民主主義という名の支配構造を持つ国、鉄の国 獣と自然と共にあり、自由を愛する獣人達の国、獣の国 本来交わらざる隣の世界にあった三つの世界は、一つの建造物によって結ばれていた コロッセオ――そう呼ばれるそれは誰が、何のために作ったのかも不明なままで、 しかし、三つの世界は正しく闘技場としてそれを利用していた 求めるものは名誉か、金か、それと己の力試しか 三つの世界が邂逅を果たしてから既に100年が過ぎ、 今日も尚、コロッセオの内から歓声が途絶えることはない     ■学園マギア■ コロナ・ストラウト 特務学術機関「Magina-Academia」に所属する少女。16歳。 明るいオレンジ色の外ハネ髪で背は低めだが巨乳なトランジスタグラマー。 笑顔が柔らかい明るい少女だが、マギナの適正を見出され学園マギアに 編入させられたときからその笑顔に陰りが差している。 チェーンが異常に長いモーニングスター型のマギナ「シューティングスター」を振るう。 「重力」のアストラル処理が施された棘鉄球はコロナの思うとおりに飛び回り、 敵に叩きつけるときにはその威力を何倍にも増加させる。     ■日本分断YAOYOROZ■ 諏訪部玄一(すわべ・げんいち) 帝神学園の生徒で、痩せて目つきの悪いメガネ男。18歳。 強烈な上昇志向の持ち主で、元は聖護院学園に所属していたが、更なるトップを目指す為 に帝神学園側に寝返った。 使用するヤオヨロズは「ヨモツイクサMk2」。 直立した黒い蟻のような形状で、武装はヒートランスと背中のシンクロトロンビーム砲。 やや性能の劣る同型の無人機がつき従っており、これら十数体を同時に操る事が可能。 一体一体の性能は高くないものの、徹底した集団戦法には定評がある。     ■オーバーラップ・コロッセオ■ レイズ=エグザディオ 性別:男 年齢:27歳 龍の国出身の魔術剣士、複数の龍の血を濃く受け継いでおり龍頭人身、鱗は少なく細身 一角を生やした凶悪な面構えだが物腰も柔らかく理知的で優しい子供好き、自分の顔が怖いので 子供達が怖がることに悩んでおり嘆息する事が多い 剣術と複数の属性を組み合わせた魔術を操る戦闘スタイル 鋼線やプレートなどが編み込まれた導師服と術式によって操る紫水晶製の短剣や中剣など18本を装備 メイン武装として長剣や鉄の国製のチェーンソーブレード・ガンブレードを気分で選択し使用 探究心が強く他国の文化や文明を調べており他国への定住を考えている     ■オーバーラップ・コロッセオ■ 空穴区画 三つの世界が繋がるコロッセオの中でも特に奇妙、かつ空間な不安定な場所である 曰く、時間や空間の連続性そのものが不安定で常に揺らいでいるという その為、下手に足を踏み入れると何処か解らない場所に閉じ込められかねない それが為に封鎖されているが、それは名目上で実際には入り込む者が後を絶たない 何故か?それはこの場所に何処か遠い異界から未知の武具や道具が流れ着くからであり、 また時にどこか別の世界の存在が姿を現すからでもある 最も、根本的に別の世界からの来訪者は存在そのものが不安定である為、 自動的に元いた世界に弾き返される力が働いているらしく、 一定時間以上は存在できず、またこの区画の外に出る事もできない しかしながら、それでも好奇心を抑えきれない者はしばしばこの場所を訪れるようだ