アルマジロの男を筆頭に、遠巻きに見守る『ローレス』の獣人らは皆声も出せない。出せ る筈がない。  眼前で繰り広げられているのは、超一流の闘士たちによる死闘であった。暴力と死をビジ ネスとする彼らですら、それは及びもつかない域に達していた。      鋼の哄笑が噴き上がった。  タングステンの両手が持ち上がり、十個の銃口が正面のレキシーらをポイント。同時にダ マスクスは、自分が相対したレイズへダッシュをかける。    「レイズ」とレキシーが背なの戦友(とも)の名を呼び、当の本人は「応」と短く答えた。    雷瞬、二人の姿勢はくるりと回転した。  背と背が強固に連結されてでもいたかのように、素早い足捌きだけでそれぞれの位置を入 れ替わらせたのだ。  分厚い装甲を誇るタングステンには一撃の破壊力に秀でたレイズが、速さに長けたダマス クスにはそれに抗し得るレキシーたちが、それぞれ適していると問わず語らずに踏んだので ある。それ故の位置変更であった。    急遽、各々の対手が交代しても、二人のサイボーグに動揺の色は生じなかった。レイズと レキシーの目論見の一つが敵の動揺を誘うものであったら、それは失敗したと言っていい。    地を這うように、レキシーは疾走を開始した。獣の迅さだった。同速度で突撃して来るダ マスクスと全く同じタイミングで跳んだ。  燦たる剣光が湧いた。  双槍と手刀と――互いの鋼を交叉させながら、生身と機械の雌獣二人は飛び違って離れる。  ダマスクスは軽く首を振った。ほんの何本か、槍先に断たれた赤い髪が夜風に散った。    一方のタングステンは構えたままだ。レイズに向けた十本指は火を噴いていない。  ホホーウ、と尾を引く笑い声が上がる。  感心している風である。ダマスクスと斬り結ぶレキシーも、大太刀『伯耆・鉄天龍』を肩 に担ぐように構え、対手の隙を窺うレイズも、どちらも常にタングステンの射線軸内にダマ スクスが入るよう動いている。こうなるとタングステンとしてはおいそれと乱射はできない。 味方を巻き込みかねないのだ。     「情報通りの実力ね」    両手を翻し、ダマスクスは一旦距離を取らんとした。  それでも狼と竜の陣形は変わらない。つかず離れず、絹の衣でくるむようですらある。声 だけを相方へ投げた。   「それでこそデータを収集する価値があるわ。――タングステン。パターンL・Sの使用を提 言します」    ――了解、と頷く代わりのように、タングステンはカッカッカと笑う。  前傾気味だった巨体が、ぐらりと持ち上がる。人間に近い二足歩行形態を執った。  すっと腰が落ちる。巨木を思わせる下半身の安定感と、そよ風にも舞い上がりそうな上半 身の軽やかさ。    その構えにふしぎな既知感を覚えつつも、惑わされることなくレイズの左手は腰に伸びた。  大きな手指が短剣を七本、まとめて抜く。紫水晶でできた七つの刃全てを、遅滞なく宙へ 投じた。  唸り飛ぶ七本の短剣は、速度を落とさず、不可視の磁場に吸い込まれるかのように軌道を 変える。狙い定める先はタングステンから大幅に逸れ、その周囲である。  魔力を以って短剣の軌道を意のままに操る、レイズ一流の遠隔誘導魔術だ。そして、   「――連牙奏雷(ティース・ライトニング)=v    竜の口が、力の込められた呪言を発した。    青白い閃光が発生した。  唸り飛ぶ短剣全てからだ。枝分かれして生じた幾条もの稲妻それぞれがつながり、空中に 複雑怪奇な綾を成す。    対象に突き立てた短剣同士を、あらかじめ込めておいた魔力の雷で以って結びつけ、連鎖 的な雷撃で灼く――鉄の国でいう所の広域高熱波動輻射兵装(プラズマリーダー)に似た効 能が本来の連牙奏雷≠セが、レイズが揮ったのはこの戦闘魔術の応用だった。  短剣がまだ空中を飛ぶ内に雷を発生させたのだ。それらを編みつつ短剣を飛ばし、呪的電 荷(プラズマ)の網を――謂わば雷火の結界を作り出したのである。    タングステンの巨体をも包み込まんと広がる結界網は直径五メートル。対象に与えるのは 高出力の電撃だけではない。その電磁パルスが引き起こす電磁誘導は、サイボーグの電装系 回路に深刻なダメージを生じさせる。    青白い光の乱舞の中に鋼の巨体が呑みこまれた、次の瞬間、   「何――!?」    レイズの口から発せられたのは驚きの声だった。    消え失せたのだ、雷火の結界網が。  路面で澄んだ音が連続する。夢から醒めたように落下する七本の短剣だった。  両掌を眼前に突き出し、タングステンはそれらを大きく旋回させている。銀灰色の装甲に は焼け焦げの痕ひとつない。    タングステンがしたことといえば、こうだ。――五指を広げて両手を突き出し、前方の空 間を攪拌した。  それだけである。その大振りな動作が、短剣の襲来を、恐るべき雷の結界ごと払い落して しまったのだ。    円をえがき終えた両掌を、タングステンはぴたりと静止させた。  広げた両手を、それぞれ上段に下段に回転させる防ぎ技。あらゆる打突や蹴りだけでなく 武器による攻めまでを完全に防御するこの技は、奥義を極めた武人ならば、掌勢に半ば物質 化した闘気を纏わせ、銃火の礫(つぶて)どころか魔力による灼熱や凍気まで捌いてのける と言う。――いわんや、雷撃においてをや。    獣の国に伝わる徒手格闘技の中では一般に廻し受けと呼ばれる技法であり、さる流派では 特に忍冬(すいかずら)≠ニ称される。  そして、これがただの廻し受けではなく忍冬≠ナあることをレイズは理解した。  さる流派、即ち――。      二本の槍が四本でも六本でもあるかの如く、刺突は大気ごとえぐって繰り出される。  上体をしならせ、身を低めては起こし、それら全てを掻い潜る回避運動の一環のようにし て、ダマスクスは逆に踏み込んだ。  漆黒のボディが翻る。攻撃を歓迎せんとばかりに流麗なる背を晒し、それでいて片脚は高 々と舞う。    ――脚技!    中段の後ろ回し蹴りだ。  間合いに入られ過ぎた、と舌打ちをする暇もなく、レキシーは蹴りが狙う部位を見定めた。  この戦いでダマスクスが初めて見せる蹴り――しかもぞっとするほど迅い――だったが、 すかさず右腕でブロックする。  骨まで砕かれたか、という錯覚で顔が歪んだ刹那、レキシーは見た。  再度、ダマスクスの躯が上空へ跳躍するのを。  蹴りこんだレキシーの右腕を足がかりにもう一回転、体全体を旋回させながら、機械仕掛 けの猫人は更なる高みへと駆け上がったのだ。    ダマスクスの黒い脚が危険な弧線をひた走る。  運動力学上で無理を押し通し、道理を引っ込ませた体勢から、今一度放たれたのはやはり 後ろ回し蹴りであった。獣の国のさる流派では特に山蕨(やまわらび)≠ニ名づけられ、対 手の後頭部を強打した足刀で、そのまま対手を体ごと地面へ叩きつける荒技だ。  そして、これがただの後ろ回し蹴りではなく山蕨≠ナあることをレキシーは理解した。  さる流派、即ち――。      ――これは! とレイズは心中で驚愕した。  予想外の技に気を奪われた一瞬を見逃さず、流れる液体のような挙動でタングステンはレ イズの眼前に迫っている。  真っ向から豪風が吹きつけてきた。右の掌底突きだ。  太刀の柄を握ったまま、レイズは両腕を十字に組んで防いだ。辛うじて、だった。  足の裏が地面から離れた。  防いだ腕ではなく、七、八メートルも後方へ吹き飛ばされる全身が余す所なく軋む。一番 近い建物へぶつけられ、煉瓦壁に盛大なひびを入れさせた時には、いよいよ激しく軋んだ。      ――迂闊! と歯噛みするレキシーの両脚も、完全に大地と別れを告げている。  しなる黒鞭の如く、レキシーの後頭部で炸裂したダマスクスの足刀は彼女を体ごと浮かせ、 そして石畳へ叩きつけていた。  首を動かして急所への直撃だけは避けている。不完全ながら受け身も取った。  それでも、レキシーの視界で巨大な閃光が爆発した。    仰向けのまま、レキシーは苦悶に身をよじる。凄まじい衝撃により瞬間的な呼吸困難に陥 ったのだ。立つ余裕はない。  一切の無駄がない動作でダマスクスは近づいて来た。とどめの手刀が振りかぶられる。    横合いから咆哮が湧いた。  アルマだ。牙を剥いてダマスクスの右手首に躍りかかる。  獰猛に噛みついてくる巨狼を二度三度と振り払った後、ダマスクスのつま先が跳ね上がる。 アルマの胴体を捉えた。数メートルも先の路面へ蹴り飛ばす。  甲高い鳴き声を上げたものの、アルマは即座に跳ね起きた。高熱を発しているのでは、と 錯覚しかねない赤い双眸は、毫も闘志を失ってはいない。    その数秒でレキシーは覚醒した。  横転する勢いに乗って、弾けるように身を起こす。ほんの一瞬前まで彼女が横たわってい た地点には、ダマスクスの貫手が撃ち込まれていた。  大口径の銃声が鳴り、大地は激震した。  石畳が陥没しながら割れた。放射状に亀裂が走り、下の地層が剥き出しになる。リボルバ ー型炸薬式ガン・パイルバンカー ――ガイルバンカーの度外れた拳力(ファイアパワー)だ った。      レイズは立ち上がった。大太刀は何とか取り落とさず握っているが、肩で息をしている。  レキシーも短槍を構え直す。乱れる呼吸を映したかのように、二つの穂先は乱れていた。    かたや、レイズを跳ね飛ばした掌勢は、鈴蘭=\―堅牢なる護りの内より致命の一打を 放つ構えを執る。  こなた、大地を砕いた手刀は引き抜かれ、薺(なずな)=\―全ての連撃を必殺必壊と 成す構えに就く。  そのどちらもがさる流派≠フ構えであった。      即ち――。  レイズは、レキシーは、その名を異口同音に叫んだ。「獅子王流覇道拳――!?」      「今の当て身」と、レイズは呻く。「あれも確かに山茶花(さざんか)≠フ型。加えてこ の威力、この気魄は奴の――!」 「レオニードの技を偸(ぬす)んだか!?」  総身の痛みが声にまでうつったかのような声で、レキシーは言った。     ――獅子王流覇道拳。  獣たる膂力と迅さに人の技を混淆させ、そのいや果ての境地を求めんと修行に明け暮れる 獣の国の武術諸派、それを学ぶ獣人達の中で「最強たるは如何なる流派か?」という答えな き問いが囁かれる時、必ず挙がる名前の一つだ。  投・極・打の全てにおいて隙なしとされるこの伝説の武技を身につけた、一人の男がいる。  獅子族の獣人である彼は、内外の多くの闘士たちと同じく、己が寄って立つ場をコロッセ オと定めた。三国を旅して戦い続け、超絶の拳をより研ぎ澄ませること幾星霜、竜の国の魔 法すら我がものとし、遂には正常な片腕までを鉄の国で戦闘用義肢化したのだ。    孤高の拳豪、超S級戦士。――彼こそ、レオニード=スカイウォーカーその人である。  因みに、先刻レイズと酒場で談笑していたライオネルは、その実弟なのだった。    そして竜人と雌狼は確かに視た。  鬼神のような眼光を放つ獅子人の雄姿が、それぞれの対手と二重写しとなる様を。       「レオニード=スカイウォーカーの戦闘データは、既に実戦検証しているわ」    予め用意済みの書面を読み上げるように、ダマスクスは言った。「私とタングステンでね」  痛みも忘れ、レキシーは目を見開く。   「奴と立ち合ったのか」 「ええ。負けたわ、私達二人とも」    ダマスクスは簡単に告げた。レキシーは頷く。  灼熱の火のようだった視線が、奇妙に和らいでいる。何とはなしに親近感のある――例え ば、自分がつまづいた箇所で同じように転んだ者を見るように。   「お前達も、か。――私と姉様もだ」       ――過日、レキシーとアルマはレオニードと立ち合って、一敗地にまみれている。  コロッセオの公式戦でだった。死力の底の底までを絞り尽くした赤目狼姉妹の奮迅を凌駕 し、「絶やすには惜しい血統」と嘆じながら、かの拳豪は氏族の同胞にとの申し出に関して は一蹴した。  どこかに属する者ではない、ということは、干戈を交えたレキシーにもよく判った。  あの狷介不羈な獅子は、誰も恃んでいない。何ものにもすがってはいない。ただ力を求め、 己の強さを見極めんと欲している。  コロッセオそのものを体現するかのような、痛烈なまでの武闘家であった。   「次は勝つわ。獅子王流覇道拳を解析し、模倣したのもその為よ。レキシー・ウェレク、貴 女との交戦データもそれに必要な因子の一つ」    ――この者達も、同じか。    感情などないように語っているが、少女サイボーグの言葉には強い意志がある。戦いと痛 みを踏みしめて前進し、自らの信念を示さんとする想いがある。  それは生身を鋼とシリコンへ置き替えただけの、機械紛いの存在が発する言では決してな い。竜と、鉄と、そして獣と――三国の闘士いずれもが持つ、人のこころだった。   「なれば、私達も負けられぬ。あの獅子王の拳は、いずれ我らが越えるべき壁。そこに達す る道を切り拓く為にも、今ここでお前達に屈する訳には……」    わう、とたしなめるようにアルマがひと吼えした。  何かに気づいたように、レキシーは姉の方に頭を下げる。   「そうでした、姉様。――確かに、戦いの価値は等しく同じ。負けてもいい戦いなどありま せぬ。巻き戻り≠ェあろうとなかろうと」 「その点に関しては同意見ね」    それはごく微小で、精密な物差しでも計測できるか否かという幅だったが――ダマスクス は口元を緩めた。   「意見は一致をみたが――」    レキシーは両腕を左右に張った。手にある二つの槍先は天を突き、まるではばたく翼だ。   「道は譲らぬ。押し通る。お前もそうしたければ、そうしてみせよ」 「元よりその予定よ。見せてあげるわ。模倣だけではない、獅子王流を破る為の策を――」        細い三日月の光が、更に細かく砕けたように散った。  残響と火花が消える前に、レイズは舞わせた黒刃を引き戻す。『鉄天龍』の豪剣を、また も鋼の掌が捌いてのけたのだ。忍冬≠フ妙技であった。   「お前の技、確かにレオニードのそれに近い域に達している。大したものだ」    レイズの声には、心底からの讃嘆があった。  獅子王流を上っ面だけなぞった、単なる型(モーション)ではない。レオニードさながら の威力で放てたのは、この二人のサイボーグの、闘士としての研鑽の賜物であった。  自慢げにそっくり返ったタングステンは、「あくまで、近い域だな」というレイズの言葉 に、大袈裟な素振りで肩を落とした。   「見事であり、近い域ではある。しかし、凌ぐまでではないと見た。その辺りかな、衝くべ き隙は」    ―― 一理あるね、とでも言いたげに、タングステンは自分の額をぴしゃぴしゃ叩く。  と、誇示するように巨体の一部をレイズの方に向けた。黒い大太刀が斬りながらも、斬れ なかった部位だ。レイズは考え深げに、   「――ふむ。『鉄天龍』でこうも斬れん所をみると、他の得物でも恐らく無理だ。その装甲、 斬ってのける奴は中々いないだろう」    ウッホウッホと大笑し、鋼鉄のゴリラは分厚い胸を両拳で何度も叩いてみせた。  笑いも乱打も止まった。  「だが」とレイズは続けたのだ。満腔の自信が籠った物言いでああった。   「だが、俺は斬る。このレイズ=エグザディオは斬るぞ」      ふふん、とタングステンは笑った。――やってみろ、と言うかのように。    ずい、と前に出た。  巨体からは想像もつかぬ滑らかな歩法は、互いの剣と拳との圏内を無造作に越えた。弓弦 のように引いた両腕から放たれるは獅子王流覇道拳が当て身、それも二重咲き山茶花≠フ 双掌打。  ただの獅子王流ではない。タングステンの重機動義肢によって駆動される打撃力は、特殊 合金製の大金庫にすら手形痕をつけるどころか突き破るだろう。  必殺の二撃の到来を前にして、レイズは軽く息を吸う。  僅か、ほんの僅かに右の爪先を進ませた。    脚、腰、胸、腕――爪先に端を発する円運動のエネルギーは、螺旋状に高まりながら竜人 の全身を循環。瞬発力と律動により運動ベクトルは集中・加速され、かつ回転から直線へと 変換される。その力の解放は対手が衝かんとしてくる真芯を膺懲するカウンターとなり――。    煌、と竜眼が見開かれた。     「――一刀両断(クリティッシュ・ヒーブ)=I!」      『伯耆・鉄天龍』七尺一寸、その黒い大怒涛は覇剛剣閃流の秘剣を喚んでたばしった。    ――竜の国で生まれた剣法の一つ、覇剛剣閃流。その激烈な鍛錬法ゆえに学ぶ者とて少な いが、豪放と精緻を兼ね備えた剣技の凄まじさは他流派の追随を許さない。道半ばの修行者 ですら、一般的に達人と遇される戦闘力を備え得るのだ。   そしてレイズ=エグザディオは、免許皆伝を許された剣士の一人であった。    剣の煌めきは一度きりだった。音らしい音はしなかった。  それなのに、タングステンの両腕は肘込めに断たれていた。  慣性に導かれ、ロケット弾のように吹っ飛んだ両拳は、傍の建物の壁に突き刺さった。    間を置かず、黒い刃が翻る。  石火の諸手突きだ。狙いはサイボーグの弱点の一つ、頭部に収められた脳髄。両腕を失っ たタングステンに、これを防ぐ手段は文字通りない。  だが、鋼鉄の巨猿は笑った。声を出さずに笑った。    頭頂部の鶏冠が光った。そこから鋭い呼気のような音がし、同時に何かが飛び出した。  鶏冠だ。タングステンの鶏冠そのものが高速で射出されたのである。接近戦での切り札 たるそれは高周波ブレードのカッターだった。    肉が断たれる鈍い響きは、ひと筋の血飛沫と共に流れた。     「成る程――伊達や酔狂でそんな頭をしている訳ではない、ということがよく判ったよ」      レイズが静かに言った。    ホゲゲ、とタングステンが笑い声を返す。  声は潰れていた。  口中に黒い大太刀が深々と突き立てられ、盆の窪までを貫き通されていたから。    空飛ぶ妖刃が襲いかかった瞬間、レイズは構えを半身にし、左片手突きに変えてこれをか わしたのである。妖刃が裂いたのは、こちらを斬れとばかりに突き出された左肩から上膊部 にかけてだった。    一瞬でタングステンの口から引き抜かれた『鉄天龍』が、その刀身だけが背後に振られる。  大きく旋回し、ブーメランの要領でしつこく強襲してきた鶏冠のカッターを、振り向きも せずレイズは弾き落とした。場違いな方角へ飛んで行った鶏冠は、アルマジロの獣人の足元 に突き刺さって彼に悲鳴を上げさせる。  ふらつきながら後方に飛び退るタングステンを、敢えてレイズは追わなかった。   「脳髄は潰せなかったか」穏やかな声で恐ろしいことを言った。「万(ヨロズ)さんのよう にはいかないな。――俺も、まだまだ修練が足りん」        爆発音に似ていた。  「――フルブースト」の発声とその大音響と共に、ダマスクスの姿はレキシーの目から消 えていた。      レキシーの周囲、路上一帯で旋風が渦を巻いている。  正確にいえば消えたのではない。ダマスクスはいる。レキシーの周りを舞踏のステップで も踏むかのように移動している。  ただ、あまりのスピードに視認が追いつかないのだ。    ダマスクスの両脚に内蔵された加速装置の仕業だった。  だが先程の、足場のない空中での加速とは違う。ひと蹴りの跳躍で飛翔に近い距離を稼ぐ や、今度は建物の壁を足場に翻転。角度を変え、跳弾さながらに街路を駆け巡る。  縦横に、また無尽に、ダマスクスは跳ぶ。――否、飛ぶ。    すぐ傍をお供の衝撃波(ソニックブーム)ごと通り過ぎられ、『ローレス』の無頼漢たち は情けない悲鳴を上げて逃げ惑った。三次元空間の全てが、この猫人の馳せる領域であった。    ――まばたきすれば、殺られる。    レキシーは唇を噛む。その体のあちこちで、赤い雫が飛び散る。  超高速で馳せながら、すれ違いざまに放ってくる獅子王流の突き、蹴りの凄まじさよ。間 一髪でクリーンヒットは避けているが、それでも擦過する際の衝撃波が作った裂傷だ。深く はないが、蓄積すれば無視できない。   「姉様、下がってください」    静かなレキシーの言葉に何を感じたのか、アルマは妹を凝視した。  ――任せたわ、と言うように、ひと跳ねしてその言葉に従った。   「父祖よ、全ての同輩(ともがら)よ……」    祭壇を前に捧げられる祈りのような言葉が紡がれる。爆音のような衝撃波(ソニックブー ム)が轟く中、赤目狼の女戦士は佇立して動かない。  爛、と眼が光った。  比喩ではない。レキシーの瞳は実際に光を放ったのだ。赤色の光を。   「――我ら共に、いざ」      静止相にあるレキシーの姿をどう捉えたか、ダマスクスは彼女の前方二十メートル地点で 踏み込んだ。  右の突きを放つ。通常の間合いの遥か外ながら、ダマスクスが誇る超高速機動ならば、瞬 間移動に等しい突撃が可能だ。  突きは獅子王流凌霄花(のうぜんかずら) ≠フ変形手だった。本来は神経系統を司る経絡 を強打して体機能を一時的に麻痺させる搦め手だが、今のダマスクスの拳速で揮われれば全 ての動きが殺人技となる。繋ぎの次手も待たずに絶命させてしまう。  必殺の突きも、過剰殺戮(オーバーキル)など承知の上での左腕ガイルバンカーの追い撃 ちも、どちらもがレキシーの胸を貫いた。    確かに敵を貫いたその両手が何の手応えも送ってこないと知覚した時、ダマスクスの脳内 シナプスに走った電流は、ある感情を発生させた。  それは、戦慄だった。    突然、背後に感知した殺気目掛けて、右脚だけが後ろに跳ね上がる。前を向いたままの、 水中を泳ぐような蹴りだ。  重い、鋭い衝撃が返って来た。  ダマスクスは迎撃した脚を引き戻す。つま先の装甲が裂けている。――タングステンの超 硬度装甲に劣るとはいえ、魔力すら通さぬ超弾性装甲を、敵は断ってのけたのだ。  おまけに一瞬で後ろを取られたこの体捌き。ダマスクスの黒いバイザーには視野増幅セン サー類が組み込まれているが、それですら捕捉できなかった。貫いたと誤認したのは、その 迅さが生じさせた残像だったのだ。  獣の――いや、いかなる獣も及ばぬ、魔獣の迅さであった。    ダマスクスは地を蹴った。加速装置に損傷はない。回り込んでし止める腹だ。  目の前にレキシーがいた。  思わず距離を取る。一歩たりとも立ち止まらず奔る。  それでも赤目狼の女は隣にいた。奔流のように背後に流れ去る世界の中で、彼女だけが自 分に追いつき、併走している。    しなやかに稼働するその全身に、陽炎のような、赤い薄靄のような揺らめきが纏わりつい ているのをダマスクスは認識した。  闘気だ。視認化できるほどに高められた闘気。  七十五通りの推測が弾きだされ、最も確率の高い解答をサイボーグの演算機構は選択する。    レキシーの革鎧に使われた毛皮は赤目狼――彼女の祖先たちの亡き骸から取られたものだ。 血と魂を繋いだ同胞の遺せし獣気を触媒に、己が身の内に宿る獣≠フ性(さが)を強烈に 呼び醒ます、彼女の氏族に伝わる秘技。  それは膂力を、反射神経を、心肺機能を、驚異的なレベルまで賦活させるのだ。機械化に よる超加速にも匹敵し、或いはそれを超えるほどに。    疾走しながら少女サイボーグは理解し、呻いた。   「データにあった……これが赤目狼族の絶技……!」    「そうだ」とレキシーの唇から牙がこぼれた。     「覚えおけ。――瞬(まじろ)き牙の葬送=v      雌狼は吠え立てた。  たった一匹の遠吠えは、何十匹もの狼の群れが叫んでいるかのように、高く高く轟いた。    攻めへ転じた双槍が稲妻と化す。色は赤、数は――無数だ。  繰り出される十の突きの内、何とか半分は避けるか防ぐかが出来た。残り半分が黒檀のよ うな体表装甲へ孔を穿つ間に、次の百の突きが来た。      ――突進し、秒那の間に全ての瞬撃を叩きこんだレキシーは、ダマスクスの背後で着地し た。二槍を軽く振る。  振り返った。まだ赤光を放ったままの双眸が細められる。   「斃し切れなかったか」 「ええ、まだよ」     ダマスクスは立っている。地面に崩れ落ちる音はしなかったのである。  とは言うものの、全身ひどい有様だった。至る所で黒い装甲が削り取られ、内部機構が露 出している。バイザーにはひびが入り、額から血の筋が幾本も垂れ――巨大なミキサーに飛 び込んで辛くも這いあがって来たような惨状だが、闘気は消えていない。それだけは消えて いない。    ショートした箇所をパチパチと爆ぜさせる手刀が、今までと同じく構えを取る。  その不屈さに応じるように、二本の槍も再び持ち上がり――。    唐突に、女戦士たちの頭上が翳った。  レキシーが身構える。  タングステンだった。飛び込みざまにダマスクスの体を小脇に抱えるや、更に離れたのだ。  レイズに断たれた両腕は、それでも丸太のようなサイズがある。小柄な少女サイボーグを 抱え上げるのには十分だった。   「余計な真似はしないで、タングステン。私はまだ戦闘継続が可能だわ」    鋭い声でダマスクスは言った。幼子をあやすように、彼女の相方は小さく笑った。  ひと呼吸置いて、立っていた猫の耳がぱたりと垂れる。   「――判ったわ、タングステン。確かに必要な戦闘データは入手できている。引き時ね」 「ちょ、ちょっと待て、俺たちとの契約はどうするつもりだ」    遠くの方でアルマジロの獣人がわめいたが、サイボーグたちは見向きもしなかった。  タングステンはジャンプした。軽く膝を曲げただけだが、一跳躍で手近な建物の屋根に着 地する。   「斃すべき対象が、もう二人増えたわね。――今夜は負けたわ。次は、コロッセオで逢いま しょう」 「いつでも参れ」    夜空から降って来る対手の言葉に、優しげとすらいえる声でレキシーは答えた。  ガハハハという馬鹿笑いを響かせながら、バネのように跳ねるサイボーグは夜闇のどこか に姿を消した。      呆然とそれを見送っている無頼の獣人たちを見渡し、レイズは「さて」と言った。   「次は貴様らだ。真っ二つにされる時は縦に斬られたいか? それとも横か?」 「孔だらけが好みなら、それでも良いぞ」     二人分の刃金と一匹分の牙が、揃って危険な光を帯びる。  一拍置いて、獣人たちは後ずさった。わけの判らぬ絶叫を上げ、こけつまろびつ逃げ去っ ていく。    ため息をついたレイズの眼前で、光る魔法陣が生じた。――牙鞘≠フ魔術だった。  その中からぬっと突き出る黒鞘に『鉄天龍』を納めつつ、レイズは首をひねった。   「『ローレス』の連中、無傷で帰してしまったが良かったかどうか。……まあ、本当に全員 叩っ斬る訳にもいかんが」 「構わぬ」    レキシーは軽く断じた。  双眸の赤光が消え、全身からも獣気が霧散する。  息が荒い。獣気を満身隅々にまで纏うこの奥技は、身体への負担が大きいのだ。連続して 使える技ではない。    「後は我らの問題。――それに、ああいった手合いは、どの道碌な死に方はしない」       「……く、糞がッ。あの雌豚が、トカゲが、鉄クズ野郎どもがぁ!!」    数ブロック先まで駆け通しに駆けた『ローレス』の獣人たちは、レキシーたちが追ってこ ないと悟ってようやく足を止めた。  揃って身体能力に優れた獣人だが、酒と女に不摂生を重ねた極道の体は、それだけの疲労 にも音を上げていた。  アルマジロの男は唇を噛みちぎらんばかりに歯ぎしりし、   「人をコケにしやがって、あの雌だけは許さねえ。次こそ必ず……!」 「あちゃー、カッコ悪ィっすねえ」    突如嘲笑が湧き、「誰だ!?」と全員が声のした方を向いた。  人影はそこから、すぐ先の曲がり角の物陰から出て来た。  片手に一刀を下げ、赤いサングラスをかけたハイエナの獣人だ。――先程、酒場でレキシ ーを酔い潰れさせた張本人、自称遊び人のシェーさん≠セとは彼らの知る所ではない。  尻に帆かけて遁走してきた不様さは覆い隠し、アルマジロの男はドスをきかせて、   「なんだ餓鬼ィ。見世モンじゃねえぞ、さっさと失せやが――」 「たわけが」と罵倒を遮った声には、それだけで相手を封じる凄味があった。アルマジロの 男などとは桁が違う。「自分の飼い主も判らんのか」    虚を突かれたようになったアルマジロは、相手がサングラスを外した姿を見て潰れた叫び を発した。   「ボ、ボス!?」     配下の獣人らも一様に目を剥く。  ――獣の国の暗部そのものたる犯罪結社『ローレス・コミュニティ』。その全てを統括す る首領、シェイド・ブランフォード。  今、その本来の姿を取り戻したハイエナの獣人は、身をすくませる配下どもを無言で見据 えた。暗殺や襲撃を警戒し、人前に出る時は姿を変えるとされる彼と直に謁見できるのは、 本来は幹部連のみなのだ。      その姿からは、酒場で笑っていたお調子者の雰囲気はぬぐったように消えている。  洞のような黒瞳は、目を合わせた者に訳もなく底冷えを起こさせる。赤いサングラスは、 それを防ぐ為に必須な道具だったかに思われた。   「い、何時からお出でになってたんで?」 「一部始終は見た」と、短くシェイドは答えた。口調すらも重々しく変わっている。   「も、申し訳ありやせん。次はもっと手練れを揃えて、あの雌アマ挽き肉にしてやりま――」 「それはもういい。挽き肉になるのはお前だ」 「……へ?」    何を言われたのか判らず、アルマジロは妙な声を上げる。   「賭けの対象への不正操作。おまけに勝手に組織の人員を使い、コロッセオの闘士に刺客を 差し向けた。組織の幹部にそんな不心得者がいたとは、由々しき事態だ。俺は長として、断 腸の思いでこれら元″\成員を始末した。――まあ、落とし所はこの辺りか」 「そ、そんな!? 俺は全部ボスの命令で……!」 「その命令を守ってあの雌狼を始末していれば、全ては丸く収まったんだよ」    感情の起伏など欠片もない声でシェイドは言った。   「お前の差配で殺られるようなら、所詮そこまでだからな。だがそれをくぐり抜けたとなれ ば話は違ってくる。賭けの対象として、もう少し稼がせてくれる駒になるかもしれん。  あの雌を消すのは止めだ。となると要らないのはお前の方だ。簡単な計算だな」    鍔鳴りの音は冷やかだった。それは死刑判決文の朗読に等しかった。  赤い刀を抜き払いながら、どうでも良さそうに、   「しかし手間だからな、ゲンさんにでも頼もうかと思ったが……」    ゲンさん≠ニは『ローレス』に所属する鬼灯ゲンマのことだ。神速の剣を揮う猫族の獣 人は、組織の邪魔者を屠る始末屋として内外に恐れられている。   「まあ、余計な残業をさせることもなかろう。巻き戻り≠ェあるコロッセオでなくて残念 だったな、お前ら」      いくら主人とはいえ、多勢に無勢だ。全員でかかれば――という思考は、アルマジロ以下 の誰一人として浮かばなかった。  あの竜人や雌狼と相対した時と等しい緊張感が、音もなく彼らを呪縛していた。  獣が、より強い獣に捕食される際の感情。確実なる死の恐怖ゆえだ。    刃が完全に抜かれた。閃いた。  絶叫と肉が断たれる音が響いた。それはこの場にいる人数分続いた。    ――通りに静寂が戻って来た時、それまでなかったものが濃密に充満している。  むせかえるような血臭だった。  べっとりと血塗られた刀身をひと振りして、シェイドは「中々、佳い雌だったな」と呟く ように言った。自ら斬殺した配下どもの屍の野を、暗黒街の王は妖々と歩み去ってゆく。   「酒に弱いというから少しからかったが、その程度ではどうにもならんか。――ふふん、外 様の竜風情に喰わせておくのは、少しばかり勿体なさ過ぎるかも、な……」       「しかし、手練れだったなあ、あの二人組」 「ああ」と、レキシーはレイズの言葉に同意した。「次に逢う時は、更に手強くなっている だろう。楽しみではある」    短槍を背中の鞘に収めた。――こちらの通りにも、夜の静寂が戻って来ていた。  と、レキシーは食い入るようにレイズの左肩を見た。黒いローブの左腕が裂けている。   「レイズ、お前、手傷を――!」 「ああ、大したことはないが。それよりお前の方もだろう、レキシー」    「いい、私は浅傷だ」と言いながら、レキシーはレイズに近づいた。  有無を言わさず、左袖をまくった。引き締まった二の腕と、そこに刻まれた血を噴く傷が 露になる。  いきなり、レキシーは血の滴りに自分の口をあてがった。    長い舌を出し、鮮血を舐め取る。軽く瞳を閉じて、湧きでて来る出血を口づけするように 吸う。熱っぽい鼻息だけが、二人の間に介在した。  レイズは黙ってされるがままになっていた。赤目狼の一族が他者の負傷を舐めてその血を そそぐのは、彼らの同胞かそれに準ずるものにしか行わない親愛の証だという知識が、彼に はあった。    レキシーは傷口から顔を上げた。唇はレイズの血と自分の唾液とで濡れ光り、紅をさした ようだ。   「お前の味……」と、すぐに恥ずかしそうに言い直す。「いや、お前のにおいは、何ゆえか 心安らぐようだ」 「ほう。すると、お前は俺と戦っている最中も、いつもそんなにくつろいでいたのか」 「莫迦。そんな訳があるものか」    拗ねたように言い、最後の名残りのように傷口を軽くねぶる。  懐から出した布を傷口に巻き、手当を終えた。自分の口唇を手の甲で拭ってから、   「有り難う、レイズ」    ぽつりと言った。  「俺の台詞だぞ、それは」と返したレイズは、そっと巻かれた布の上に触れた。   「――痛みが引いたようだ。今まで知らなかったが、赤目狼の唾液には癒しの力があるのか」 「そんな力はない」    レイズはちょっと自分の鼻先を掻いた。   「ふむ。では、これは魔法か」 「……私は、竜の民のような魔法など使えぬ。知っているだろうに」 「なに、お前だけにしか使えない、俺だけにしかかからない類いの魔法だろうと――そう言 ったのさ」    潤んだような紅い瞳が、彼女がもっとも心安らぐ相手の顔を見上げた。   「いや、埒もないことを言った。戦いの後で、些か気が高揚している所為だ。忘れてくれ」 「レイズ――」    かぼそい声で名を呼ばれ、レイズは赤い宝石のような瞳を見つめ返した。  狼の口が切なげに開いて、     「……は、はきそう、だ」      ウム、とレイズは自分の顎を撫でた。  何ひとつ動じていないと言わんばかりの態度だが、実はずっこけそうになるのを辛うじて 防いだのである。  よくよく見れば、レキシーの瞳は潤んでいるというより単なる涙目だった。第一、顔色が 真っ青だ。懸命に酔いから来る嘔吐と戦っているのだろうが、本人が申告した通り、その戦 線の維持は既に限界に達しているようだった。   「悪酔いした状態であれだけ激しく動けば、まあそうなるな。気を張っていた間はともかく。 ……わッ、ま、待て、こんな往来の真ん中でもどしてはいかん。せめてあっちの隅で、隅で な。まだするな。まだだぞ、いい子だからもうちょっと我慢してくれ……そうそう、こっち だ。こっちなら良いからな、な」  口元を押さえるレキシーを、レイズが抱きかかえるようにして傍の物陰に連れて行った直 後――やんごとない物音と、論評を差し控えさせるにおいとが漂ってきた。    わふん、とアルマが喉の奥で唸る。  ――本当にもう、この子は。とでも呆れたかのように。  そして、スタスタと歩き出した。  「あッ、ちょっと姉上殿、先に帰らんでくれ。そちらの宿が判らなくなる」というレイズ の悲鳴もどこ吹く風である。      ふさふさとした、妹と同じ尻尾が揺れる。  赤い眼をした雌狼の片割れは、朗々と月に吠えた。       【The End】       ■オーバーラップ・コロッセオ■ 剣と魔法を操り、騎士と王が収める竜の血を引く国、竜の国 鉄と銃を組み上げ、民主主義という名の支配構造を持つ国、鉄の国 獣と自然と共にあり、自由を愛する獣人達の国、獣の国 本来交わらざる隣の世界にあった三つの世界は、一つの建造物によって結ばれていた コロッセオ――そう呼ばれるそれは誰が、何のために作ったのかも不明なままで、 しかし、三つの世界は正しく闘技場としてそれを利用していた 求めるものは名誉か、金か、それと己の力試しか 三つの世界が邂逅を果たしてから既に100年が過ぎ、 今日も尚、コロッセオの内から歓声が途絶えることはない     ■オーバーラップ・コロッセオ■ レキシー・ウェレク 獣の国出身の若い女戦士で、赤目狼の一族の血を引く 白い肌に黒く長い髪、赤い瞳。耳や尻尾だけでなく鼻も狼のような形状である 属している氏族が戦乱や飢饉の影響でほとんど死に絶えつつあり、氏族を再興するために 同胞に迎えるべき屈強な男女を捜してコロッセオに来た (彼女の氏族は、狼の血を引いたものでなくとも認められれば同胞として扱う習性がある) 左右一対の短い槍と、氏族に代々伝わる先祖の狼の毛皮を使った革鎧を身に着けており 鎧に宿る獣の気の力により、体力の消費と引き換えに超スピードでの近〜中距離戦闘を可能にする 子供の頃から共に育った雌狼のアルマを「姉様」と慕っており、戦闘でも連係プレイが得意 古風な価値観を持ち、自己を律することにかけては人一倍厳しいが ただ一つ甘いものの誘惑だけには抗し難い     ■オーバーラップ・コロッセオ■ レイズ=エグザディオ 性別:男 年齢:27歳 龍の国出身の魔術剣士、複数の龍の血を濃く受け継いでおり龍頭人身、鱗は少なく細身 一角を生やした凶悪な面構えだが物腰も柔らかく理知的で優しい子供好き、自分の顔が怖いので 子供達が怖がることに悩んでおり嘆息する事が多い 剣術と複数の属性を組み合わせた魔術を操る戦闘スタイル 鋼線やプレートなどが編み込まれた導師服と術式によって操る紫水晶製の短剣や中剣など18本を装備 メイン武装として長剣や鉄の国製のチェーンソーブレード・ガンブレードを気分で選択し使用 探究心が強く他国の文化や文明を調べており他国への定住を考えている     ■オーバーラップ・コロッセオ■ 奈落獣の集い『ローレス・コミュニティー』 闇に生きるならず者たちがたむろする組織。通称「ローレス」。 獣の国都心部に本部が設置されているが、構成員は獣だけではなく竜人や人間もいるようだ 獣の国の発展に多大な貢献をしており、都心部にあるカジノやその他の多くの施設はこの組織が支配している これは他国による獣の国の開発を制限するためでもある 環境テロ組織『プラネタ』とは対立の関係 所属する者たちは情報収集を主な仕事とし、裏では暗殺や誘拐、ドーピング薬の開発といった仕事も請け負っている 組織拡大のための資金集めとしてコロッセオに参加     ■オーバーラップ・コロッセオ■ ダマスクス 鉄の国のサイボーグ少女で頭部以外の生身部位が存在しない。 赤の長髪に猫耳を生やし、目元を視野増幅用のバイザーで覆い隠す。性格は機械的で 開発者である狂人マッド・サイエンティスの命令にのみ従順。頭部以外の全身は 猫の尻尾を生やした漆黒の超弾性装甲躯体で、物理は勿論、魔法現象もある程度 弾く程の硬度を誇る。ちなみに猫耳と尻尾は開発者の趣味。武装として両腕に内蔵された リボルバー型炸薬式ガン・パイルバンカー(略称ガイルバンカー)と脚部内蔵の 加速装置による超高速機動によるH&Aを主戦法とし、データ収集の為、 度々コロッセオに投入されている。シングルも強いが、タングステンとのタッグはもっと強く タッグでの登場時はタングステンの肩に乗っている。     ■オーバーラップ・コロッセオ■ タングステン 鉄の国のサイボーグ巨漢。3mもの巨体と圧倒的パワーを誇るゴリラ体型の大男で 脳以外の全てが機械に置き換わっている。頭に輝く銀色のモヒカンとゴーグルアイの頭部を 含めた全身が銀灰色の超硬度装甲躯体となっており、傷付ける事は難しく、特に熱に強い 性格は冷静沈着で開発者のマッド・サイエンティスの命令に忠実だが声が笑い声しか出せず 笑い方や笑い声の抑揚を微妙に変える事により喜怒哀楽を表現している。ちなみに 笑い声しか出せない仕様は開発者の趣味。頭のモヒカンは射出可能な高周波カッターで あらゆる物を切断し、また、十指は一本一本が銃身として構成されており マシンガンやショットガンモードの他、束ねてのガトリングモード等がある。 持ち前の頑丈さとパワーと武装を使い分けての近距離戦を得意とし、データ収集の為 度々コロッセオに投入されている。シングルも強いがダマスクスとのタッグはもっと強く タッグでの登場時はダマスクスを肩に乗せている     ■武器設定■ 伯耆・鉄天龍(ほうき・くろがねてんりゅう) 野太刀を模した高周波ブレード、全長約2m 強度を上げるために超合金やら炭素繊維やらセラミックを使用してるため見た目に反して軽い 黒い刀身を持つがこれは炭素繊維の色 柄の部分に超振動モーターとバッテリーを内蔵 鞘に戻すことにより再充電され繰り返し使用が可能 居合のような高速抜刀には向かないため鞘に特別な仕掛け等はされていない またその長さ故狭い場所では扱いにくい ●使用者募集(シリーズ、非シリーズ問わず)/被り可     ■オーバーラップ・コロッセオ■ レオニード=スカイウォーカー 獣の国出身、獅子の獣人で左腕は義手である。四十五歳 三国を彷徨う旅人で、ただひたすらに強さを求める求道者 他人に厳しく自分にはもっと厳しい、彼にとって人生は戦うことであり、戦いが無ければ生きられない 獅子王流覇道拳の使い手であり、素手での戦闘を得意としているが、旅の道中で得た龍の国の「魔法」(主に強化系の補助魔法)や鉄の国の「武器」(ハンドガンやナイフ)も使用する、強くなるためのその手段に関してはかなり柔軟 また、左腕の義手『TA-X00M1ムラサメアーム』は鉄の国製の戦闘用義手であり、 対物銃弾を弾く耐久性はもちろん、鎧をチーズの様に裂く五指、腕内にはガス圧式榴弾砲、肘には大型高周波ブレードも装備している兵装群である 鉄の国の義肢工の目の前で左腕を切断し、有無を言わせず作らせた一品 その時の義肢工は「彼に勝てる人間なんてこの世に何人もいるものか」と語った 彼は今日も己の限界を知るために戦う     ■オーバーラップ・コロッセオ■ シェイド・ブランフォード 『ローレス』を統括するボス ハイエナの獣人で、黒のコートに黒の帽子を被った服装 口数が少ないクールな性格 スラム出身という過去を持つためか、豊かな自然が破壊されようと過剰なまでに物質的な豊かさを求める 部下の中にはボスの座を狙う者もおり、常に命を狙われている 当然そんなことが発覚した場合、ダダでは済まない 公の場に顔を出すときは変装して偽名を名乗り別人を装う その際はハイテンションな青年を演じる 武器は刀、二丁拳銃、クローなどを気分に応じて使いわける 空中を蹴って移動する体術を習得しており、認識不可能なレベルの速さで飛び回る しかし、ブレーキがききにくいという弱点があるため壁に衝突することもしばしば