* * * * * * http://wikiwiki.jp/streetmars/?%CA%BC%C6%B2%A1%A1%C0%C5 >■兵堂 静■  いまどきの女子高生枠。  とはいえ私がリアル女子高生に詳しいわけもなく、一般的な感覚をもった常識人キャラを イメージしています。  格ゲーのお約束でスルーされていること、たとえば「露出の多い格好でストリートファイト」 なんかに「いやないでしょソレ」と突っ込むような。  というわけで寝技が得意な当人も肌の露出をおさえた服装になっていますが、絵でもしっかり 再現されているあたりはやはり設定を読み込んでいるなと。 「うわぁ、なにこの相手」みたいな表情もキャラにあってていい感じです。  ファイトの時には、さらにフードをかぶって頭と顔を防御するのでせっかくの可愛い顔も 見えなくなってしまう残念仕様ですが。  格ゲー的には寝技の扱いが難しいところ。  たとえば立ち技は繋ぎでダメージ軽微、ダウンさせたあとの追い討ちがダメージソースという 感じでしょうか。テンポ悪そうですが……。 ■兵堂静 ストーリーモードED■  ストリートマルスという名の「祭」の空気が、いまどきの女子高生を一人の格闘家に変えた。  祖父に命じられて参加した大会。  旅費、滞在費を出してくれるというので観光のつもりでやってきたが、さすがに何試合かは こなさなければ祖父に怒られるだろう。  ケガをしてもつまらないし、ヤバそうなのは避けて無難な相手を……と選んだ相手が、しかし まさかの実力伯仲で思いがけない大熱戦。  紙一重の勝負をかろうじて制し、人生でこんなにテンションあがったことはないという勢いで ガッツポーズをとったときにはもう、すっかり真剣勝負の魅力にハマっていた。  予選開始から一週間後の夜、マルスタウンのホテルの一室。  下着姿で、全身の擦り傷を治療する静の姿があった。  芝生やビーチなどファイトする場所は慎重に選んでいるが、それでも実戦の激しさは少女の肌を 痛めつけずにおかない。 「乙女が柔肌傷だらけにして何やってるんだか……でも、たまには熱くなるのも悪くないかもね」  しみる消毒液に顔をしかめながら、静は苦笑まじりにつぶやいた。 【END】  * * * * * * http://wikiwiki.jp/streetmars/?%A5%AA%A5%EC%A5%F3%A5%B8%A1%A6%A5%C8%A5%EA%A1%BC%A5%C8 >■オレンジ・トリート■  素肌を露出した服装でストリートファイト云々といった舌の根も乾かないうちに、白ビキニ ファイターの登場ですよ。  いや格ゲー的にはそこは必ずしも拘るべきリアリティじゃないというか、ようはキャラ付けと 「擦り傷できて血のにじむ女の子の肌っていいよね」という自分内需用というか。  さて話をこのキャラに戻すと、もとはカプコンのヴァンパイアみたいな派手なアクションを イメージして作った設定。  必殺技を出すと身体の一部が大きく変化するような、ああいうのをストマル世界観にあてはめると コスプレになるのかなと、ホロドレスというガジェットをでっちあげて。  パンチだとボクサー、キックだとサッカー選手、ジャンプすると陸上競技のユニフォームになったり、 実際にドット絵や3Dモデルでやると大変そうなネタですね。  絵の方は、個人的萌えポイントとして紛れ込ませた「軽く割れた腹筋」の再現がグッド。  本業はフィットネスクラブのインストラクターで、ストマル出場はホロドレス宣伝のためのアルバイト。  エクササイズの一環としてマーシャルアーツをかじっているのでド素人というわけではないものの、 基本フィジカル頼りの門外漢ながら、自信に満ちあふれた表情はプロ意識を感じさせます。 ■オレンジ・トリート ストーリーモードED■  ストリートマルスが終わって半年後。  オレンジ・トリートの存在は全米で誰もが知るものとなっていた。  ブートキャンプ的なエクササイズDVDが大ヒットし、TVのCMにも出演している。  CMで宣伝している商品は、ホロドレスの技術を応用した着せ替えパーティグッズだ。  大会が開かれていた当時――  あらかじめマスコミに根回ししていたのと、一瞬でコスチュームが変化する華やかで目立つ ファイトスタイルから、ホロドレスの売り込みは予想以上の効果を上げていた。  選手、システムともに充分なメンテを行いながら、予選期間を通して五試合。  むろん決勝進出はならなかったが、さまざまな企業からホロドレスの技術を使いたいという オファーが舞い込み、またオレンジもおおいに顔と名前を売ることができた。  そして一年がすぎ、ふたたびめぐってきたストリートマルスの季節。 「ハロー、Martial Maniac TV Showへようこそ。リポーターのオレンジ・トリートです」  知名度と出場経験を買われ、オレンジはケーブルTVのストマル特集番組にリポーターとして雇われていた。  舞台を変え、彼女の活躍はこれからも続く―― 【END】  * * * * * * http://wikiwiki.jp/streetmars/?%A5%DF%A5%CF%A5%A8%A5%EB%A1%A6%A5%E4%A5%F3 >■ミハエル・ヤン■  中国には古くから回民と呼ばれる回教(イスラム教)を信仰する人々がいました。  現在では回族と呼ばれている彼らは、古くから武術を奨励して多くの達人を輩出。また八極拳や 心意六合拳をはじめ多くの中国武術がこの少数民族発祥であるとされています。  ……というような歴史を背景に、イスラム教をカトリックに置き換え「十字掌」なるオリジナル拳法を でっちあげて作ったのがこちらの設定。  打撃面から多方向に衝撃をコントロールできる「交差発勁」や、設定中にダッシュ、空中コンボ、 追い討ちなどのワードがあることからも、比較的ゲームでの活躍がイメージしやすいキャラですね。  絵は空中コンボの起点となる蹴りを放った瞬間。  気合のはいった叫び顔といい、躍動感あふれる姿はゲーム的にも映えそうです。  格闘ゲームで中国人、神父というと、自分などはサイキックフォースのリチャード・ウォンや KOFのゲーニッツ(神父ではなく牧師?)を連想して胡散臭い属性の倍重ねみたいな感じですが、 設定的には礼儀正しく年長者を敬う儒教精神に、敬虔なカトリックらしい生真面目な性格をあわせもつ 温厚篤実なキャラを考えていました。 ■ミハエル・ヤン ストーリーモードED■  貧しい故郷の村を少しでも豊かにしようと、奨学金をとってアメリカに学ぶ苦学生、ミハエル・ヤン。  だが今、彼の故郷は土地開発と環境破壊からくる慢性的な水不足に苦しんでいた。  より深い水脈から水をくみ上げるには、新しい井戸を掘るためのまとまった金がいる。  無茶は承知の上で、ミハエルはストリートマルスに挑戦するしかなかった。  マルスタウンの中華街で仕事の口を見つけ、住み込みで働きながら予選に参加する日々。  だが……予選の終了を待たずに決勝進出の望みは消え、ミハエルは明日にもこの街を去ろうとしていた。 「もう帰ってしまうとは惜しいのぅ。他人の仕合を見るのもよい修行になるのじゃが」 「はい、老師にはお世話になりながら不甲斐なく……」  閉店後の中華料理屋。ミハイルと一人の老人が、ささやかな別宴の卓を囲んでいた。  老人の名は黄(ウォン)。武術の世界では知る人ぞ知る達人である。  料理屋で働くミハエルと出会った黄は、事情を知り、何かと彼のことを気にかけてくれていた。 「ところで、の。餞別というわけではないのじゃが」  しばらくして黄が差し出したのは、一枚の名刺だった。 「知り合いに腕のいい井戸掘り職人がおってのぅ。話はしておいたから、相談にのってもらうとええ」 「ですが、自分の村では支払いが……」 「そっちの方もな、割賦でい良いと言ってくれておるんじゃ。  おぬしの村も大変じゃろうが、長い目で見れば悪くない投資じゃと思うぞ」 「ですが……いえ、ご好意に甘えさせていただきます」  村にとってこれ以上の朗報はない。遠慮などしている場合ではないと、ミハエルは素直に頭を下げた。 「なんとお礼を言えばよいか」 「そこまでのことでもないわ。電話を一本かけてだけじゃて」  飄々と笑う黄だったが、中国では人脈、コネの影響力が非常に強い。  腕のいい職人が、分割でしか支払いのできない貧乏村の依頼を受けてくれるのは、黄の紹介という 「信用」あってのことだというのは明らかだった。 「じゃが、恩に着てくれるというのなら、ひとつわしの願いを聞いてもらおうかの」 「もちろんです」 「うむ……おぬしの十字掌、話に聞いたことはあったが見るのは初めてじゃった。玄妙な技じゃのぅ」 「いえ、未熟でお恥ずかしい限りで……」 「うむ。たしかにずいぶんと鈍っておるようじゃの」 「は、はい」 「錆びつかせるには惜しい技じゃ。勉学は大事じゃろうが、できれば修行も怠らずにの。  そして来年もこの街で会おうではないか。そこでまたおぬしの十字掌を見せてくれい。  それが、わしの願いじゃよ」 「…………」  うつむいたミハエルの眼から、卓上にぽつり、ぽつりと水滴が落ちる。 「のう、ミハエルよ」 「……はっ」 「面白いぞ、武の道は」 「はい……はい……」  ただそう繰り返しながら、ミハエルは頭を上げられずにいた。 【END】  * * * * * http://wikiwiki.jp/streetmars/?%A5%A6%A5%EB%A5%A5 >■ウルゥ■  相手に背を向けた状態で戦うという一発芸的なキャラ。  まぁ、やられ役枠は全体にアイディア一発勝負の傾向があるのですが、ゲームの画面を想像すると なかなかインパクトがあるのではないかと。  操作するプレイヤーまで前後がこんがらがって戸惑いそうですが。  絵も当然うしろ姿で、描くのは難しかったのではないでしょうか。  しかし顔を見せずにミステリアスでどこか不気味なキャラをあらわす表現力はさすが。  踊っているかのようなポーズといい、一筋縄ではいかない曲者っぷりが見てとれます。  ゲーム的には背中を向けているので防御力は思い切って低く、かわりに相手の意表をつける分 攻撃力はかなり高めとか。  必殺技コマンドも逆向きで、と言っても逆波動は普通に竜巻コマンド、逆昇竜も珍しくはないし、 じゃあガードがレバー前とか前ダッシュがレバー後方二回……単なる嫌がらせですね。  キャラ設定では犯罪組織に雇われてる戦闘要員。  ストマルを対象にした非合法賭博の胴元に命じられ、有力選手を闇討ちしたり、ファイト中の 事故に見せかけ相手を負傷させるなど八百長の片棒を担ぎ、胴元に都合よく掛け率や勝敗を操作する役。 ■ウルゥ ストーリーモードED■  厳しい掟と身分制度、そして命じられるまま他人の命を奪う生活に嫌気が差し、ウルゥが部族を抜けて アメリカに逃れてきたのは三年前のことだった。  だが、パスポートすら持たぬ身元不確かな女が、異国で生きて行くのは容易ではない。  ウルゥが持っているものは二つだけ。己の肉体と、身につけた特殊技能――格闘暗殺術だけであり、 彼女が選んだのは後者を売ることだった。  だが、犯罪組織の下で働く日々は、昔とどこが違うというのだろう。 、そんな自分を恥じるように、ウルゥは「他人に素顔を見せてはいけない」という、捨て去ってきた はずの部族の掟をいまだに守り続けていた。  それでも、ストリートマルスに関する仕事は、他者を傷つけることはあっても殺す必要がない分 まだしも気が楽だったのだが……。  アルフォンス・カロ――通称「アレス」  最近になってマルスタウンで勢力を伸ばしているギャング団のボスだという。  犯罪組織が新たにウルゥに命じたのは、彼の暗殺だった。  だが、期限の一週間がすぎてもアレスは健在で、逆にウルゥの姿が消えてしまった。 (暗殺に失敗して、逆に始末されたのだろう)  そう判断した組織は別の暗殺者を雇い、ウルゥの存在はすみやかに忘れ去られた。  数ヵ月後――  ストリートマルスの余韻もようやく冷めてきたマルスタウンの片隅に、小さなエスニック料理屋が オープンした。  味はもちろん安さとボリュームが売りで、近くの港で働く労働者たちでたちまち賑わうようになった その店を経営するのは、料理人のバラットと、給仕を行うミラという名の若い夫婦だった。  その日も、ランチタイムは戦場のような忙しさだった。 、バラットは厨房で奮闘し、ミラは、店の外にまで並べられたテーブルの間を縫うようにしてきびきびと 料理を運んでいる。  客に笑顔で対応し、軽口や冗談にも愛想よくこたえるミラが、かつてウルゥという名の暗殺者だったと 知るのは、彼女の夫だけだった。  バラットとウルゥが出会ったのは一年前のこと。  襲撃した相手に返り討ちにあい、怪我をして倒れているウルゥをバラットが助けたのがきっかけだった。  犯罪組織で汚れ仕事を請け負う暗殺者と、貧しくとも「いつか自分の店を持ちたい」と夢見る料理人。  まったく境遇の違う二人は、しかしたちまち恋に落ちた。  だが、組織の闇の部分を担ってきたウルゥに、足抜けなど許されるはずがない。  アレス暗殺の指令は、一年近く準備を進めてきた二人にとって待望のチャンスとなった。  今のミラを見て、死んだはずの、顔も知らないウルゥと同一人物だと見破れるもはいないはずだ。  死んだという偽装を補強するため、ウルゥがそれまでに稼いだ金には手をつけていない。  かわりに、料理屋の開店資金を、組織が行うストマル賭博で稼いだというのは皮肉なことだった。  もともとマルスタウンでのウルゥの仕事は、八百長の調整役がメイン。  そこで得られる情報があれば、バラットが違法賭博で目立たないよう手堅く勝つことも難しくはなかった。  ようやく手に入れた忙しくも充実した日々。  休む間もなく立ち働きながら、この生活を守りたいとウルゥは願う。  過去に犯した罪を忘れたわけではない。  悪夢にうなされ、夜中に自分であげた悲鳴に驚いて目を覚ますこともある。  だが、たとえ身勝手だと非難されようと、今の平穏な暮らしを手放したくはなかった。  新しく生まれてくる、小さな命のためにも……。  膨らみが目立ち始めたお腹に手を当てると、ウルゥ――いやミラは、日の光を素顔でいっぱいに 受けとめようとするかのように、晴れ渡ったマルスタウンの空を見上げた。 【END】  * * * * * http://wikiwiki.jp/streetmars/?%EF%E7%A1%A1%B2%BB%BA%B5%A1%CA%A4%B7%A4%AD%A4%DF%A1%A1%A4%AA%A4%F3%A4%B5%A1%CB >■閾 音叉(しきみ おんさ)■  私が格闘ゲームにハマっていたのも今は昔。  最近のものにはとんと疎く、見当違いのことを言っているかも知れないのですが……「掴み技」って 減りましたよね?  ストUで言うとブランカのかみつきとか。  大別すると投げ技の一種なんですが、ボタン連打でダメージとヒット数と増すというアレ。  あの要素を全面に押し出そうと考えたのがこのキャラ、閾音叉です。  必殺技ヒット後にボタン連打で超振動を叩き込みダメージアップ。  攻撃を受けた側もボタン連打でダメージを軽減できる。  攻めるも連打、守るも連打、ひたすら連打、連打連打。筐体泣かせの泥臭い連打合戦。素敵です。  そんな思いつき一発で作ったキャラの割にはうまく要素が出揃ったかなと。  戦ってる姿は、ノリとしては暴走庵とか首斬り破沙羅とかヴォルド(ソウルエッジ)とか あっち方面なんだけど実はいい人という。  絵でも非常に悪そう怖そうで、格好とあいまってあふれ出るヤバいヤツ感が嬉しいところ。  ゲーム画面でもいい存在感を出しそうです。 ■閾音叉 ストーリーモードED(ノーマル)■  対戦相手が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。  決着はついた。  ストリートマルス決勝トーナメントへの進出を賭けた大一番。勝利してベスト16に駒を進めたのは、 超振動を操る男、「閾 音叉(しきみ おんさ)」  だが……周囲を埋め尽くした観客からは、歓声も、勝利を称える声もあがらない。 (反則だろ、あんな技) (バケモノ……)  そんなささやきが、戸惑ったようなざわめきに混じって聞こえるばかりだ。  特異な容姿と奇怪な技、そして残虐にも見えるファイトスタイルから、音叉はすっかり憎まれ役、 プロレスで言うところのヒール(悪役)ポジションが定着していた。  ましてや、今回の試合で倒した相手は決勝トーナメント進出が有力視され、また期待もされていた 人気の二枚目選手。  奇妙でダーティな技を使う(ように見える)音叉を、正統派ファイターが堂々と打ち倒す。  そんな筋書きを期待していた多くの観客にとって、ヒーローが鼻血ばかりか目や耳からも血を流して 救急車に運び込まれる目の前の光景は、信じたくない悪夢だったろう。  遠ざかるサイレンの音を振り切るように、音叉が歩き出す。  その前で人垣が左右に割れた。  怖れ、嫌悪、憎しみ……冷たい視線にさらされながら立ち去る音叉に、勝利の喜びは見て取れない。  それがまたふてぶてしく感じられ、観客たちの反発を煽るのだった。  音叉には、彼と同じ能力をもつ妹がいる。  名前は「音色(ねいろ)」  生まれつき病弱な音色は、特異体質が大きな負担となり何年も入院生活を送っていた。  ストリートマルスで優勝し、賞金で妹に最高の治療を受けさせる。それが音叉の戦う理由だった。 (人気者になりたくて戦ってるわけじゃない。どう思われようとかまうものか)  背中に浴びせられるブーイングを無視しようと努めながら、音叉はそう自分に言い聞かせていた。 「オンサ!」  宿に戻ると、主の老婦人が出迎えてくれた。  短いつきあいながら、音叉が見た目に反してごく普通の青年であることを知る老婦人は、なにかと 親身になって世話をしてくれ、また音叉もそんな彼女を信頼して家族の事情などを打ち明けていた。  だが、いつも温和な笑みを浮かべている老婦人の顔が、今は青ざめ、強張っている。  音叉は直感した。  ずっと怖れていた「そのとき」が来たのだと。  よりにもよって今日。念願がかなうまで、あと一歩の所まできたというのに。 「大変なんだよ、オンサ。さっき日本の病院から電話がかかってきて――」  数日後。  華々しく開催されたストリートマルス決勝トーナメント。  そのステージに音叉はあらわれず、一回戦は対戦相手の不戦勝となった。  ゴミゴミとしたスラム街を、幽鬼のような男がさまよっている。  薄汚れたコート姿に、うつろな目。むさくるしく顔を覆った無精ひげ。  口の中でブツブツと繰り返している不明瞭な言葉は、祈りのようであり、誰かの名前のようでもある。  浮浪者の一歩手前と言った姿を見て、彼がストリートマルスで16強に残ったほどの人間だと気づく ものはいないだろう。  ただ、危険な雰囲気を感じとってか、すれ違う誰もが彼を大きく避けて歩いていた。  戦う理由も、生きる意味も失くした男、閾音叉。  彼が再起する日は、果たして来るのだろうか―― 【END】 ■閾音叉 ストーリーモードED(トゥルー)■(条件:一本も落とさずにストーリーモードクリア) 「どう、お兄ちゃん。似合う?」  浮かれた様子でバスルームから出てきた音色を見て、音叉は絶句した。  妹の服装が、彼の戦闘コスチュームと同じレザースーツだったからだ。  入院生活が長かったせいか、発育が良い方とは決していえない音色だが、それでも15歳の娘。  全身のあちこちを皮ベルトで締め上げた、ボディラインがくっきりと出るレザースーツ姿は、 兄にとっても目の毒だった。 「ちょ、ちょちょちょちょっと、だだだだだ大胆じゃないか?」  衝撃のあまり、最近ではほとんど治まっていた吃音症が再発するほど動揺する兄をよそに、 音色は平然と「そうかなぁ、格好いいのに」と、くるりとターンしてポーズをとってみせた。  ストリートマルスの前回大会が、音叉の優勝で幕を閉じてから一年。  優勝賞金によって高度な治療を施された音色は、すっかり健康を取り戻していた。  病室で無為に過ごした日々を取り戻そうと、なにごとにも積極的に取り組むようになった妹の姿は、 もちろん兄として喜ばしいものだったが……まさか「自分もストリートマルスに出場したい」と 言い出すとは。  いくらなんでも活発になりすぎたかもしれないと、複雑な気持ちの音叉だった。  それでも妹に甘い兄のこと。  お願いされては断りきれず、ストリートマルス開催をひかえたマルスタウンまで、こうして 二人でやってきたのだ。 「……こ、この話はあとにして、何か食べに行こう。着替えてきなさい」 「は〜い」  と、そこは素直な返事で妹がバスルームに戻ると、音叉はそっとため息をつく。  わざわざ試合着まで用意してくるとは、本気でストリートマルスに出場するつもりなのか?  どう説得すれば無謀すぎる挑戦を諦めさせることができるのかと、音叉は頭を抱えた。 (あれってシキミオンサじゃないか?) (本当だ! サインもらおうか) (バカ、やめとけって)  音叉と、服を着替えた音色が連れ立って街を歩くと、あちこちからそんなささやきが聞こえてきた。  勝負の世界では強者が尊敬される。  前回のストリートマルスで優勝した音叉も、今では憎まれ役なりの人気を獲得していた。 (シキミオンサが小さな女の子を連れてるぞ!) (どうしよう。警察に連絡したほうがいいのかな?)  とはいえヒールに変わりはなく、あたたかい声援を送られるわけでもない。  自分は慣れているが、妹は気にしていないだろうか……と様子を伺う兄に気がついたのかどうか。  音色は隣を歩く音叉を見上げると、 「人気者だね、お兄ちゃん!」屈託のない明るい顔で笑った。  胸の中に、言葉にできないなにか熱いかたまりが生まれたような気がした。 (妹の好きにさせてやろう。自分が試合に出ないで付き添ってやればいい)  不意に音叉は決意していた。  前回優勝者が、わざわざマルスタウンまで来ながら出場しないとなると一騒ぎ起こるかもしれないが、 知ったことではなかった。  賞金はもういらない。「最強」の称号など欲しいと思ったこともない。  大切な人を守る。彼が戦う理由は、いつもそれだけだったのだから。 「……音色、なにか食べたいものあるか?」 「屋台のホットドッグ!」  はじめてのアメリカに物怖じする様子もない妹の姿に、音叉は目を細める。 (もしも音色に怪我をさせる奴がいたら、乱入してぶっ倒そう)  半ば本気で心に誓いながら、音叉は妹の頭に優しく手を置いた。 【END】  * * * * *  以上。  最初は1レス15行以内を意識していたのですが、途中で諦めてからはズルズルと長くなってしまい、 お付き合い下さった方はお疲れ様です。  お疲れついでにもう少し雑感などを。  今回絵化していただいた5キャラのうち4人が「やられ役」  自分としては、SSなどで需要が見込め、枠が多い割には競合相手が少ない、ブルーオーシャン的な おいしいポジションだと思っています。  主役だけでは話が進まないし、格ゲーでも飛び道具に対空必殺技完備のバランスキャラだけじゃ 面白くないですしね。  やられ役とはいえ適当に作っているわけではなく、むしろやられ役だからこそ短い出番の中で 輝けるように特徴づけをしているつもりですがどんなものでしょうか。  ともあれ、ストマルは熱心に活動している人がいておこぼれに与った観はあるものの、設定が 絵化されるとやっぱり作って良かったなという感じです。  絵化されなければこういった妄想を語るきっかけもないですし。  以前、別の設定で「一年後のストリートマルスでこのキャラは……」というネタを投下したことが あって、それを今回のキャラにあてはめると、ミハエル・ヤンは当然参加。  兵堂静はおそらく参加(受験生?)  オレンジ・トリートはリポーターとして背景やストーリーモードのデモ画面で登場。  ウルゥは参加させる理由付けはどうとでもなりますが、出さない方がいいでしょうからやはり背景で。  閾音叉は妹が参加……とはならずに、なんだかんだで音叉本人が参加でしょうか。  龍虎のユリや真サムスピのチャムチャムなど格ゲー続編での妹デビューは定番で、自分も別の キャラ(御盾鏡士郎)で同様のネタをやったものの、音色に関してはファイターじゃないし……  音叉のEDは、当初「5キャラいて全員がめでたしめでたしじゃ変化に乏しい」と現在のノーマルにあたる ものを書いたのですが、さすがに悲惨だったので思いつきでトゥルーを追加しました。  出番もなく死ぬ予定だったキャラ(音色)が、書いてみると意外に可愛くて拾い物。  思いつくままとりとめもなく書いているとキリがないので、いい加減にこのあたりで。  長々と失礼しました。  絵化してくれた方、まとめ登録してくれた方、ここまでわざわざ読んでくださった方、みなさま ありがとうございます。  * * * * *