日本分断YAOYOROZ 生徒会長と女教師           ●        さてどうしたものかと、天下無敵系生徒会長の鎌倉大王は思案した。  年末にと皆で騒いでいたわけだが、初詣は各自でとオノレカップルどもという流れになり、一時解散となった。    年が明けてから、集まりたい連中で集まってバカをやるという話だ。    それはいい。    ただ問題は、締めのバカ騒ぎで、バカたちの頂点に立つ巨乳女教師が、酒と肉をかっくらって眠りこけたということだ。    本来は生徒の保護者役として参加していたはずが、途中でドロップアウト。解散時になっても眠ったままだというので始末が悪い。    放置しておいてもいいのではないかと皆は思ったがが、学園の恥を来年一番の話の種にするのも問題だなということになった。    放置すれば風邪はひかないものの、恥。起こそうとすれば鉄拳。――寝相悪いなこの暴力教師! と総ツッコミを受けた後、   「やっぱり最強の相手には最強がいいよな!」    と最強生徒会長に指名がくだった。「VS行き遅れ大魔神ツユミン」などほざいていた篁善治が吹っ飛んでいったのは記憶にしかと刻まれている。    女教師は寝相最悪! 間違いなく記憶に刻んだ。善治がどうなったのかは記憶にない。    そして今に至る。    スーパー自由人、外崎梅雨海は今もなお寝ていた。鎌倉大王の目の前で。                  ●        寝るのはいい。ここは彼女の家だからだ。    問題は外崎梅雨海が寝こけたままにもかかわらず、鎌倉大王が入ってこれたことだ。    てっきり父の国語教師がいるものと考えていたが、どうやら彼も彼で初詣に繰り出しているようだ。  つまり外崎家の玄関の鍵がかかっていなかったことだ。    ……無用心な。    戦闘民族外崎梅雨海ならば、たとえ寝ていたとしても、侵入者を撃退できるであろう。    だがまぁ、盗人は入るだろうし、万が一、億が一にでも、鍵がかかっていなかったため、何かあれば――    そうたとえば、侵入者や報復にきたヤクザを、外崎梅雨海がその寝相の悪さで手加減できず、相手を屠ってしまったとしたら――?    鎌倉大王の背中に寒気が走った。    ……人死を出してはいかん!    外崎梅雨海を放っておくのは簡単だ。だがそれが原因で悲劇に発展した場合、世間の目は野獣の檻の鍵を閉め忘れた、哀れな学徒を責め立てるだろう。    もっとも、鍵が開いていたとはいえ、野獣の折に飛び込む方が愚かなのだが。    ……不祥事は避けねばならん!事実はどうあれ、生徒会長が女教師を野放しにしたためにと、学園の威信に波風を立てては!    誓いも新たに鎌倉大王は外崎梅雨海の家の鍵を探す。    外崎梅雨海といえば玄関あたりで降ろしたにも関わらず、いつのまにやらこたつに潜りこんで寝ている。    ……起きてるのではないのか?    いや、これは彼女の本能なり習性なり物理法則に違いない。   「むにゃ……」    外崎梅雨海が寝言を呟きながら、寝返りをうった。    こたつ布団が形を崩し、外崎梅雨海の肩が露出する。    鎌倉大王はため息をつきながら、こたつ布団を外崎梅雨海にかけなおした。    こうなると、こたつではなく普通の布団まで運んで寝かせなおしたほうがいいのではあろうが、布団をしくためのスペースは別のものに占有されている。    万年床ではなく、起床ごとに布団をたたんでしまっていることは評価してもいいのかとは思うが、その度そのスペースを他のものに奪われていては意味がないとも思う。    ……だからこたつで寝るような進化が起きたのか!    納得! 誰得! と頷きながら見下ろす、外崎梅雨海の寝相は無防備でありだらしない。    ……これで教師だというのだから。    再びため息をつく。    外崎梅雨海の口元についたよだれが気になり、あとでこたつ布団の染みにでもなったらアレだなと、しゃがみ、外崎梅雨海の唇へと指を伸ばした。    あたりで新年を告げる鐘が鳴った。      もうそんな時間か。    時計で時間を確認してみれば、確かに。そして次の鐘の音が鳴る。    ……できるならば、年が変わる前に自宅に戻っていたかったのだが。    過ぎてしまったものはしかたがないと諦めながら、ふと考える。   寝ているとはいえ、目の前にいる相手に何もしないのも問題がある。そう、また寝起きに一撃を放たれるやもしれん。  数年前、お年玉を握り締め、商店街を行く道でランダムエンカウントしたどう見てもお屠蘇を飲みすぎたと思われる女教師に、   「あけましておめでとうございます。略してあけおめ!」    と台詞と同時に軽く鉄拳を入れられ崩れ落ちたことを思い出し、寒中だというのに一筋の汗が流れた。  一応、相手は担任、目上であるからして礼は欠くわけにはいかず、あわよくばこちらにお年玉――という下心もなくはない。いやないな。皆無だ。    まあそれはなくとも、おせちなりなんなりを振舞ってもらえるかもしれない。ありえないが。    部屋を軽く見渡す。散乱するゴミ。――これが女の部屋だろうか?    ともかくとして、生徒の模範となるべきもの礼節を忘れてはならない。    しばしの逡巡のあと鎌倉大王はキリリと姿勢を正して新年の挨拶を述べた。   「としましておめでとうございます。略してとしまめ!」    振舞われたのは右ストレートであった。                  ●   「起きられたのなら私は殴られる前に退散したいところではあるのだが。鍵かけて寝ろと言ってよろしいか?」   「待て。帰るな。一応、お礼もしたいしちょっと待ってて。なんか食ってけってことよ。いい?」   「……どのくらいで?」   「んー? 軽くシャワーで汗を流す程度」    待つこととなった。    よく待つ日ではあるな。と鎌倉大王は思う。    しかしこれでまたシャワー室で寝落ちされでもしたらたまらんな。また待つことになるのか。      ……が、遅いな。    かれこれ半刻ほどになる。軽くシャワーとはこんなにも時間がかかりるものだろうか?    男と違い女は入浴や身だしなみに時間をかけるものとは知ってはいるが、アレは女教師であっても生物的に女ではないからな!    ともなれば、外崎梅雨海のシャワー室で寝落ちの可能性を検討し、鎌倉大王はシャワー室へと足を向けた。    水音、確認。    シャワーから水なりお湯なりは流れているようだ。だがそれが蛇口を開きっぱなしで、外崎梅雨海が寝ている可能性もある。    ……さてどうしたものかな。ノックすべきか、今は待つべきか?    と昨日にかけ、本日何度目かの思案を鎌倉大王は行う。結果として外崎梅雨海に関する思案ばかりだと、軽く苦笑。    ……なんとも手間をかけさせてくれる年上だ。    だがまあ不快ではない。と、思考のため顎に手をあてるポーズをとる際に、鎌倉大王の視界にはいってきたものがある。    ……なんぞ?    ジャージだ。     無造作に脱ぎ捨てられたジャージだ。いつからここにあるのだろうか? 家主ではない鎌倉大王の身ではあるが、洗濯物であれば洗濯籠に入れるが道理。    普段ならば捨て置いていたであろうが、何分慣れてきてしまった現状では、鎌倉大王は自然な動作としてそれを行った。    ……まだ温い。まだ近くにいる!    ジャージを直触りし、体温の残りを確認し、これが外崎梅雨海がシャワーのために先ほど脱いだであろうブツと判断。    ……ものぐさ教師め。    鎌倉大王はジャージを拾い、洗濯物籠の所在を探す。    ……シャツもちゃんと脱げ!    ジャージとまとめて脱いだのであろう。  このまま洗濯しては、双方きっちり洗濯できない。臭いも染み付くというもの。    あきれながら鎌倉大王はジャージとシャツを分離させる作業を行おうとして、ふと手を止めた。     ……やはりムレている。    汗での湿り気、それに加えさっきまで食べていた焼肉と酒の匂い鼻につく。……不快、というわけではないが心地良い香でもない。    ……しかしムレによる残り香か。    世間的にはこれをなんと呼称するのであろうか? 同人女王、麻生拓海あたりであれば即答できそうなものだが、生憎と鎌倉大王は一般的な学徒だ。    言葉や呼称とは的確な組み合わせによって生まれる。だとすれば試しに組み合わせてみるのなら、   「ムレ残り?」   「誰が売れ残りだ!」    声がした。    いつの間にか何者かに背後まわりこまれていたようだ。    くだらぬ戯れに思考を割いていたとはいえ、迂闊――!    この家には鎌倉大王と外崎梅雨海しかいない、不埒な侵入者を捨て置くわけにはいかない。   「――教官、怪しげな賊が!」   「怪しいのはお前だ! 君は誰の何を手にとって眺めているか理解してる!?」    振り向いた背後にバスタオルを巻いて立っていたのは、今しがた鎌倉大王が警告を飛ばしたはずの人物、外崎梅雨海。    ……シャワー中であるはずの彼女が何故?    疑問はあったが、先に相手の質問に答えるのが筋であろう、そう簡潔に述べるべきだと鎌倉大王は礼節を通した。   「このヨゴレ教師!」    飛んできたのはアッパーカットであった。                  ●  大王は天然だと思う。 ■登場人物■ ■鎌倉 大王(かまくら だいおう)■  聖護院学園の生徒会会長、絶対的な結束の名の元において行動する人傑。  兵隊のような学生帽を被り、髪は黒い。  学校では『聖護院大王』と呼ばれ、一部の生徒から信仰されている。  端整な容姿にもかかわらず、豪快で派手な事が好き。  声が大きく、敵前には必ず「大宣言主義!」と銘打った喝をかます。  ヤオヨロズのクズリュウ"は九つの巨大な蛇の集合体。  全てを包み込むように円形の陣形となって戦う。  http://wikiwiki.jp/millions/?%B3%F9%C1%D2%A1%A1%C2%E7%B2%A6 ■外崎 梅雨海(とざき つゆみ) ■  24歳。聖護院で教鞭を振るう女性教師。担当科目は日本史。  足元までの長さの茶髪のポニーテールに赤いツリ眼。爆乳。  授業中にバーベキュー始めたりゲーセン行きたいとか宣い始める出鱈目教師。  使用YAOYOROZは全長1080mある巨大大仏型の「BON―NOW」。  武装らしい武装は何もないが、その単純な巨大さが武器となる。  普段は琵琶湖に沈んでいる。  http://wikiwiki.jp/millions/?%B3%B0%BA%EA%A1%A1%C7%DF%B1%AB%B3%A4