日月火水木木木  「うるさい」  と言うとソイツは黙った。どこか昔気質の奴で、今の時代に頭にパーマなんて掛けている。  ラッパみたいなズボンの先は完全に透けきっている。  古風な幽霊だ。  せ、せいぴーす。とかボヤいてるが無視。  白いベッドの上でふんぞり返って目の前の食事をじっと睨んだ。  胃をやらかしてもいないのに、お茶碗の中身はあきらかに水っぽい。  お粥。丁寧に小鉢の梅干しまで潰してある。  「おっさん、見てよこれ。どうよこれ。病院食みたいじゃん? ここ何処か知ってる?」  幽霊のおっさんに話しかける。  ふわふわボリューミーな前髪をかきあげて不満気な顔。  二十歳くらいの顔立ちで子供のように口を尖らせていた。  残念ながらおっさんは幽霊。二十何歳というのは享年。  トレンディドラマ(笑)でみるような格好をしている以上は二、三十は足すべきだ。  立派なおっさんと言っていい。よって無視。  では改めて質問に答えよう。実はここは病院だ。  ただ、私は腹を壊して入院した訳じゃない。  ご飯が出るから入院しているのだ。  「梅干しって皮の食感まで含めてじゃない? 台無しじゃん……台無し」  せめてもの抵抗に茶碗に手をかざすと、今日もやっぱり湯気一つ立たない。  患者にやけどされたら困るから。ふぁっきゅー気遣い。  こうなると何かで気を紛らわせながら片付けるしかない。だって農家の人は悪くないんだ。  個室に備え付けのテレビを睨みながらおっさんに尋ねる。  「テレビのカードどこやったか知らない?」  何を隠そう、病院ではテレビを見るのに専用のカードが必要なのだ。  おっさんはというと、隅でいじけていた。よって無視。  「こうして人類は石油を浪費しながら埋蔵量の増減にあえいでいるんだなあ」  ドライバーの一本でもあればどうにかなるかも知れない。  ナースコールで呼べば貸してくれるだろうか。  もちろん、ドライバーの話だ。多分無理だと思う。  「これ配食ミスじゃない?」  空腹という名の最高の調味料に期待しよう。  思い切ってベッドに寝転がると、ナースコールの隣に愛用のタウンページがある。  間に何かうすっぺらいものが挟まっている。とてもラガールカードに似ていた。  テレビのカードにも似ている。  「かっ……!」  勝ったと叫んで引きぬいた瞬間に気付いた。見慣れた猫の写真。  残念ながらタウンページに挟まっていたのは五千円のテレホンカードだった。  「お前かよ!」  引き抜く勢いのままサイドスロー。幽霊のおっさんを通り抜けて壁に跳ねたテレカ。  何を隠そう、以前この病室でプラ製のカードをかっこよく投げる練習をしたのだ。  今ではあらゆる姿勢からカードをかっこよく投げることが出来る。  クラブのJとハートの3、それからダイヤのエースは犠牲になった。  多分テレビの裏にあると思う。  茶碗の中は相変わらず熱視線に揺らぎもしない。  これをもし片付けなかったらどうなると思う?  食欲がないと思われるだろう。  もしかしたら胃に問題があると思われるだろう。  その結果この茶碗の中身は再び私の前に立ちふさがるのである。ふぁっきゅー医療。  目が良くなりそうなくらい睨み続けることにする。  この病院には確かヘリポートがあるはずだ。  信じて待てばオナカヘリノスケも来るに違いない。  「ところでおっさん、太陽にほえろってドラマ、最終回の撃たれたシーンしか知らない」  んだけど、と言う前におっさんが急に熱く語りだした。よって無視。  ラジオの代わりになるかと思ったらそんな事はなかった。  アレとかコレとかが多すぎる。話ベタのベタなパターンだ。  梅干しを混ぜて機械のようにかきこむしか無いのか……?  その時、不思議な事が起こった。 「……明石家さん? ごめんなさい、淀川さんのごはんと間違えちゃって」  と言いながらナースの人が入ってきたのだ。  爆乳だ。  鯖だ。 「鯖だぁぁぁぁああああ!」  跳ね上がるように起き上がる。  爆乳の人も幽霊の人もガチビビリ入ってる。 「はっ、すいません、お鯖さま。こちらをお納めください」  恭しく肉らしき粥ご膳を差し出すと、苦笑いしながら爆乳の人は受け取ってくれた。  ありがとう淀川さん。私の代わりに文句を言ってくれて。  みそ汁までついてくる真の明石家飯に感激しながら、新たな茶碗を手に取る。 「冷めてんじゃんっ!」  病室に吠える。                      木曜日の明石家涼日というのは、大体こういうものだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 15/03/27(金)23:31:12 No.11616026 del ■設定■ 明石家涼日(あかしやすずひ) 頭の中がちょっとおかしな女の子 ボサボサな茶髪にイッた眼をしている 黄色い病院の一室で何事かをぶつぶつ言っている 金曜の夜になると消えたり増えたりするが 医者は何故か気にしない