音が聴こえる。 「ででででん」  ちゃっちゃっ。 「ででででん」  かつ、かつ。 「ででででっでででで、ででででっでででででれれれれれれれれ……」  でれれん!  アダムス・ファミリーからナチュラルにスパイ大作戦に切り替わる。   音の発生源はというと天井からゲームのラスボスの下の方に生えてそうな格好でぶら下がっていた。 「でっで、でんでん! でっで、でんでん!」  こんなスパイはいやだ。大賞の受賞は間違いない。  そのまま天井からじりじりと這い出しながらコタツへ向かっていく。  天井に穴なんか空いちゃいない。彼女は天井をすり抜けていた。  俗に言う幽霊だ。  名前をいれぶん。アパートに憑いている。というかついてくる。  家賃のオマケとしてミカンをしばしば徴収していく。なんて時代だろう。 「愛媛? これ愛媛?」  つま先で器用に天井からぶら下がりながらミカンを取って訊いてくる。  正しくはつま先でぶら下がるフリ、か。幽霊なのでふわふわしているのだし。  いちいち確認を取ってくるのも合わせれば器用というより律儀。  ただ、返答しなくてもミカンは徴収される。 「いっちにーちー二個で」 「にっこにこーっ……て足りるか!」  着込んだ半纏のソデにミカンを放り込みながら綺麗に着地。  白装束はともかく半纏まで自前なのだろうか。どうやって死んだんだこの人は。 「はい今日のオバケ業務はおしまいです。これからテレビで歴史群……」  言いつつコタツにするりと潜り込む。  ?  の。マークが飛び出してきそうな顔でこちらをちらちらコタツをチラチラ。  コタツの電気コードを手で手繰る。  スイッチと温度調節機能のついたコントローラーをずるずると中から引きずりだす。  ないんだな、これが。  コードの先からコントローラーの代わりに飛び出た銅線を触るいれぶんに告げる。 「ここで残念なお知らせですが、本日のコタツは事故のため運用されておりません」  幽霊の白い顔というのは、青くなる。  いま知った。     ■ 第十一の符号 _ eleventh Code 「猿にはなりたくない! 猿にはなりたくない!」  コタツに潜り込んでぐるぐるじたばたする幽霊が目の前にいる。  かなりの必死、かなりの本気。  いざカマクラ……とはいかないだろうけど。まず雪が降ってなきゃならない。 「半纏の中に貼るカイロまで完備した猿は生まれてほしくないなあ」  砂浜から突き出た自由の女神を思い出しながら答えた。 「……となると、このバナナクレープよりはソーダアイスか」  若干かたい冷凍庫の扉を開けながら言うと「クレープは文明だよ!」と返ってきた。 「付け加えるなら別に猿はバナナ好きじゃないよね」  もちろんそうだとも、と幽霊は偉そうに腕組みして頷く。 「文明の方はさよならしてしまいましたが」 「それで、一体全体どうしてそうなったんだ。幽霊としては詳細な説明を要求するものである!」  テレビでは丁度、帝国時代の大山の某というエラそうな軍人さんの再現映像が終わった所だ。  映像と別録りの声優の声でエラそうに言われたセリフのママのエラそうさだ。 「実は昨日……」  顔をあげ、片目で此方を睨みながら顎をちょっと上げて先を促す。 「この電源コードを「暖かそうだから」などという理由で首に巻いて寝ておった者が……」  ?  !  目線を上にあげて、それから目を見開く。 「……過ぎた時代の事は忘れよう。ピテカントロプスになるんだよ……」  そして倒れる。  ピテカントロプスを名乗る幽霊の顛末はこうだ。 「すさまじい寝相だった。圧倒的だった」 「そうですか。本当にすごかったんだと思います」  背を丸めてクレープをもそもそやる幽霊。 「ところがそうは問屋が卸さない」  !?  丸まった背が伸びる。  天井に手を伸ばして、するするとそれを引き下ろすと、ヘビ使いのように伸ばしてみせた。 「こちらに予備のコードがあるのです」  幽霊は動かない。少し躊躇してからコタツに潜り込む。  セット。  レディ……。  かちり。 「ついたー!」  幽霊が全身で飛び上がる。  時刻はちょうど十一時。  残されたコードの首吊り縄の霊だけが、縋るように天井からきぃきぃと音を鳴らして。