らんちゃあ・でっど   不在んソーカル  現在のところ最大の問題というのは、鍋にエリンギを入れるかどうかだった。  エリンギは良い。焼くと油をよく吸うし、ダシは染みわたる。  他の食材と比較してみよう。  ワカメが地球を侵略する宇宙人なら、ニボシはオブ・ザ・デッド。  ドラキュラという高貴な感じはしないのでゾンビ一択だろう。  そこを踏まえると生気にあふれハツラツとし敢然と食卓を席巻する。  エリンギはザ・ゴッド・ジラ。  ゴジラに違いない。マグロなんか食べない。  そういう考えに北沢佐和子が至ったのは、レンタルビデオ屋で働いていたからだ。  「すいません、急いでセイザーXのアドロクロスが死亡する回の入ったDVDが必要なんです!」 という駆け込みのお客様に対して「ダルガ帝国軍のアドロクスの事でしたら、まず登場するのは幻星 神ジャスティライザーで、死亡するのは45話となっておりますから、こちらの巻ですね。良ければ BOX単位でのレンタルが大変お安くなっていますのでオススメしておきます」等と言う事はない。  客層ものんびりしたもので、酒の入ったのが焦れて喧嘩を始めたりはたまにするものの、呼ばれて レジスターに駆けつけても客から不満が出ることはない。  簡単に言うと暇なのだ。特にナウ。  そこで冷蔵庫の中の食材を思い出し、頭の中のホワイトボードに並べていたのだが。  そう言えば、ホラーの棚にガメラを並べた気がするのだ。  邦画ホラーの隣がパニックものの棚。ただ、アルマゲドン・シリーズが他店から流れてきた関係で ホラーの棚を詰め、ガメラがはみ出した形になる。  どうにかならないだろうか。大体、ゴジラは特撮の棚じゃない。  こういうどうでも良い事は一度、気になるとすごく後を引く。  アルマゲドン・シリーズと言いながら実は全然関係ないくせにタイトル順で並べているお陰で如何 にもシリーズみたいに並んでいる連中とどちらが浮いているだろう。  日本が誇る怪獣、対、日本がやらかす邦題。  ファイファン6は決して、日本ではファイファン3ではないのだ。  パワーレンジャーが日本の風景で戦っていても舞台がアメリカなのに似ている。  店内を見渡すと、例ののれんの向こうに人影が一つ。他はレジから見えるところにいない。  人影は成人男性にしては背が低い。多分、ジュブナイルなグレートジャーニーだ。  彼には犠牲になってもらう事にしよう。  レジを離れてホラーの棚を実際に見るのが早そうだ。  入り組んだ店内を佐和子が行く。  すると、棚を曲がったところで小さな子がいるではないか。  手に持っているのは着信アリのパッケージ――じゃない。  ナシでも無い。  ワン・ミス・コールだ。  あー邦画の棚に入れちゃってたかー無いと思ったんだよねー。  不要な敗北感を感じながらも、佐和子は目が合ったので軽く微笑んでおいた。 「綺麗です」  と、その子が言う。 「この中の奴」  ダミーパッケージからDVDの入ったレンタル用の箱を取り出しながらだった。  初対面の女児に綺麗と言われても対応に困るのだが、DVDの読み取り面に負けるとなるとすこし 弱ってくる。この子はカラスか何かだろうか。  カラスというにはどうも白い。肌もそうだが、服――は暖色のはんてんに白いワンピースか何か。  近所の子だろうか。 「それ、借りるの?」 「英語はちょっと」  字幕も吹き替えもあるんだよ。と言いたい所だがそこは家の人に任せよう。 「でも最近のレンタルビデオって凄い」 「何が?」 「これだけ綺麗なダミーを用意して、ビデオテープの保管場所まで確保してる訳で」 「えっ」 「四次元ポケットって完成してたんですね」 「えっ」  どうもおかしい。 「何か探してるものがあるの?」  仕方ないので方向を切り替える事にする。 「ラベルのついてないビデオテープを……」  残念ながら貞子の貸出を当店ではしておりません。 「あのね、それも一応ビデオなんだけど」 「ちょっと薄すぎる気が」 「中にDVDが入ってて」 「DVD!?」  透けたプラケースをしげしげと眺める。 「DVDって言うと……一万円はする」 「モノによるかな」 「BOXでも三万円」 「それも商品次第かも」 「この厚みで」 「分厚かったらレコーダーに入らないからね」 「レ……レンタルビデオは何時の間に月極の傘下に入ったのでしょうか?」  二、三ヶ所おかしい気がする。  月極駐車場の由来について話そうかと佐和子は一瞬思った。 「こ、こんなものをもし無くしてしまったら……」  ケースを持ったまま極まっている。 「石油王の私兵部隊が……」 「それはないかな」  思わずツッコんだ。 「ええっと、それでラベルのついてないビデオテープ以外で何かある?」  話を戻すことにする。 「5D’s」  即答だった。 「でもウチにはビデオデッキしか」 「それはまた」  菓子折りの包み紙を綺麗に剥がさんとする繊細さでダミーにケースを戻すのを眺めながら、佐和子 は考える。少ないとはいえ、ビデオテープも何本かレンタル用に置いてあるはずだ。  記憶力にはちょっとした自信があった。 「笑うせぇるすまん」 「週刊ストーリーランドは……」 「無いかなあ」  ホラーの棚にいるだけあってホラーっぽいものをやっぱりお求めらしい。他にビデオとなると―― ダメそうな奴しか思いつかない。佐野氏の顔までちらつく。 「ほら伊藤四郎」  ビデオを棚から引き出して見せる。何故かびくりと後ろに下がる。 「も、妄想代理人」 「それもビデオはね」 「どうしよう、それパッケージから怖いです」  ホラーとしては掴みはバッチリなようだ。 「合意と見てよろしいですね」  いきなり、横合いから声がかかる。今度は佐和子が飛び上がった。  見るとベージュの、  ベージュの。  何だろう――病院で見たような服だ。  胸に抱えているのは明らかに肌色掛かったパッケージだ。君だったの。 「レジを所望する」 「えっ」  伊藤四郎を辛うじて掴む女子を引っ張ってベージュがスタスタと先へ行く。 「声に出すのは大事だからね。しっかりお願いするわ」  他人の肌色を惜しげもなく晒しながらベージュがふんぞり返った。  キタダカワコじゅうばつさい衝撃ロリータ電気地獄。それから笑うせぇるすまん。 「商品名を。しっかりと」  念を押してくる。 「――DVDとテープが一点ずつね。二、三日で良い?」 「よし」  ベージュが鷹揚に頷く。  返却袋に品物を入れながら、ガメラがどうなっているか確認し忘れた事に気付く。  ベージュの病院服でふらつく危険人物こと涼日は、レンタルビデオショップを出た瞬間に。 「相手のゴールにシュート!」  返却した。 「ちょっ、ちょうアバンギャルド……」  ついてきていた幽霊もビビる勢いだ。 「見ないのでしょうか」 「見たかったの?」 「それは」  涼日が愛用のタウンページをパラパラしながら言う。 「ありゃ虚だ」 「ウロ?」 「ホロウでもいい」 「おれ自身が斬月になる事だ?」 「似たようなもん。開いてはいないんだけどね。ちょっとした隙間が出来ていて、色々と呼び込んじゃ うワケよ。ドラマの方はビデオすら出てない」  伊藤四郎がまばたきをしないで頑張ったのに。 「ぼーっとしてるとたまにああいう事があるのよ。本人は気付かない。そして気付いたら終わり」 「今のところ呆然としていて、しかも気付いている人がここに一人」  と、涼日と幽霊の会話に割って入る。 「っていうかなんでビデオ借りてきたの?」  突如として借りたくなったストリートファイターと2001年宇宙の旅を一応確認しながら訊ねる。 「それは!でぃ、DVD――!」  全力でバックステップする幽霊はなかなか無い。 「な、投げて遊んだりしちゃうんですかこのセレブ」  謎の構えを取りながら下手に出てくる幽霊も無い。 「普通に見るんだけど。PS2出さなきゃいけないけど」 「ソニーィィィィイイイイ」  社名を叫ぶ幽霊は意外と居そうな気はした。 「いやさ」  と、涼日。 「私が探してるハゲ――フランベは特にね。ああいうのが好きそうだなって思って」 「大人のビデオが好きなハゲってただのおじさんじゃない」 「そっちじゃない」  ツッコまれた。 「フランベは厄介な奴でね。友達が欲しくてたまらないわけよ」 「現代社会の闇だね」 「――問題はフランベが「距離」というものをどっかに落としちゃってて」 「ワープでもするの?」 「殺すところまでいかないとダベった気にならないらしい」 「熱烈だなぁ」 「あの人綺麗だったし、虚に向かって都合よく落ちてくれると楽だなあって」 「人を捕まえてゴキブリホイホイみたいに」 「ま、そんな簡単には行かなかったけど」  これは知ってる。  フラグっていう奴だ。  北沢佐和子はその日、結構な収穫を得ていた。  収支はあっていて無駄な時間は取らなかったし、引き継ぎもうまくいった。  ただ、晩に開いている便利なスーパーが改装中だった。  代わりに来ていたどこぞのトラックが大当たり。  安さの殿堂という感じだ。何せしめさばがワンコイン。  我が家のゴジラを鍋にするには十分なダシジェンデストロイヤーも手に入った。  コンブまるまる一枚がこれほど長いものだとは流石の佐和子も知らなかった。  A4が束になったようなコンブである。  鍋の底にコンブをしいて、その上にニボシの層をつくる。  えのきも白菜もある。そしてゴジラ。じゃない、エリンギ。  シャキシャキの白菜を切りながら、ふと、かつお節はどうしようかと考える。  一時コンビニのおでんの紹介文をじっくりと眺めたことを思い出す。  喧嘩をしそうなほどいろんなダシを使っていた筈だ。  たまにやってみるのもアリかな。  調味料の詰まった棚から削り節をとり出す。 「そいつはダメだ」  声がする。 「歴戦のカツオがそうも哀れな姿になるとはな。そうなっては再戦もままならんか」  やたら渋い声がする。  鍋から。具体的には鍋の縁でぼこぼこいってる端の方から。 「だが、来るというのなら容赦はしない。そいつを開けるか? お嬢ちゃん」  縁に乗り上がって、ぎらりと尖った歯を見せる。  ニボシが。 15/07/04(土)04:07:09 No.11952522 del ■設定■ 北沢佐和子(きたざわ さわこ) 23歳 女 無気力なフリーターのお姉さん。 レンタルビデオ屋と本屋のバイトを掛け持ちしている。 割と美人で社交的な性格で大学時代はグループの中心人物で結構モテていた。 しかし就職に失敗したため止むを得ずバイトで日々の生活費を稼いでいる。 最初は嫌で仕方ないフリーター生活だったが今ではすっかり板に付いた。 むしろぬるま湯の様な今の生活に嵌りつつあり今ではバイトが生活の中心で就職活動もしていない。 いっそ実家に帰ろうかと思う時もあるが両親が煩そうだし面倒なのでそれもしない。 唯一の取り得は人並み以上の顔と記憶力だが営業スマイルと作品タイトルの暗記にしか生かされてい ない。 16/01/09(土)09:51:28 No.12575004 del ■設定■ いれぶん 幽霊の少女 アパートに憑いてるが夢はコタツの精霊の 主にやる気がない感じで脅かしてからみかんなどを盗っていく たまにさよなら人類を熱唱する(シャレではない) 11時にコタツの電気コードで絞殺されたのが原因だが本人は覚えていない 11時に比較的やる気が出るのでいれぶんと名乗っている 15/03/27(金)23:31:12 No.11616026 del ■設定■ 明石家涼日(あかしやすずひ) 頭の中がちょっとおかしな女の子 ボサボサな茶髪にイッた眼をしている 黄色い病院の一室で何事かをぶつぶつ言っている 金曜の夜になると消えたり増えたりするが 医者は何故か気にしない