らんちゃあ・でっど   デス=サムターン 「誰?」  この質問が飛び出す時、多くの場合はお互いの気持ちが一致を見るだろうと思う。  第三者を――例えばコタツに潜り込んだ幽霊などを挟んでも結果は同じだ。  ドアがやけにガチャガチャ鳴ってるなぁ、と呑気に構えてきたら人が入ってきた。  こちらに向かって訊ねてきた彼女は、次に幽霊を指して言う。 「誰よその女」 「それは気のせい。ボクは森の精」 「そう」  幽霊の言い分にとりあえず納得してくれた。  コタツの材料を森から調達するのだとしたら、コタツの精も進化したらしい。 「あっ、ただいま」 「お構いなく」  我ながらうまく返事が出来たと思う。  ここが彼女の家ではないと納得してくれたかはともかく、意思表示はできた。  入ってきたものは仕方ない。  ああ、さむ。呟きながら見も知らぬ彼女が腕を擦りながら入ってくる。 「で?」 「うん」 「誰よその女」  次に彼女が指さしたのはベージュの病院着だ。  さっきまではいなかった。いつもの事だ。 「急患です」 「そう」  今度も納得してくれた。  いそいそとコタツに入ってくる。  向かって反対側が幽霊のいれぶん。  奥の病院着は人を探して歩いている病人の涼日。  入口側を今しがた入ってきた彼女が専有する。 「それにしても女の臭いがする」  不機嫌そうに彼女が言った。 「どちらかというとみかんが祭りだと思うけど」 「どうぞお納めください」 「ありがとう、森の精」  いれぶんが差し出すみかんを受け取って彼女が軽く微笑む。  少し寄せた眉根がほぐれると十分に美人だ。  それがすぐに寄って、みかんのおなかと格闘を始める。  神経質に皮を剥がしていき、綺麗な人型ができる。  耳の大きさからすると猿かも知れない。縁起物だ。 「住所を間違えたかしら」  出来れば入る前に確認して欲しいところだ。 「ここは何時から診療所になったの?」  猿の首をわざわざ裂きながら彼女が訊いてきた。 「普通の家だけど」 「コタツです」 「気絶するとアイルーに投げ捨てられる場所」  三者三様の答えを返すはめになった。  彼女は目をしばらく瞬かせると、とりあえずミカンを口に入れた。  いちいち一房きれいに分けて食べるので、ひな鳥のようだ。 「まあいいけど。それで、あの人はどこ?」 「あの人って?」  当然の質問を投げると、彼女が少し首を傾げて続ける。 「だから――知らないの?」  いれぶんを見ると、みかんの皮の胴体部分に夢中である。  涼日はみかんを縦に積みだした。三個が限界らしい。  二人を咎める様子もなく、彼女は少し上目遣いになって更に重ねる。 「だから、つまり――」 「うん」 「誰?」 「うん」  このような形で意見が一致する事になるとは思わなかった。 「すずぴー、すずぴー」 「やめて、死ぬから。何?」  幽霊が涼日の袖を引く。涼日は過去のネタを引っ張ってる。 「あったよ。摩擦のあるクッションが」 「でかした!」  みかんタワーに夢中だった。 「そしてこれが最奥にて手に入れた『石版』グラングリモワールより得たもの因果調律槍Sレプリ」 「やめろォ!」  さらに菜箸などを取り出したいれぶんを涼日が止めにかかる。 「名前とかは知らないけど運命を感じるの! あの人はきっと暖かく麻理を迎えてくれるって!」  彼女も張り合うように盛り上がっている。  アパートに住むとお客さんが多い。最近おもった。 「涼日、人探しだって。これ涼日がやるような奴じゃない?」 「名前も知らない奴が死んでるんだとしたら、死んだ方が来ればいいの」  菜箸からみかんを死守しながら答えてくれた。言うこともやることも無茶苦茶だ。 「別に死んでたって構わない! 麻理も一緒にお墓に入るの!」  情熱的である。 「まあまあみかんをどうぞ。あーん」  立ち上がりかねない勢いの彼女にいれぶんがみかんを一房さしだす。  きょとんとして、それから少し舌を突き出して素直に待っている。ひな鳥のようだ。 「ん、む。おいしい。さすが森の精」 「それは気のせい。ボクはコタツの精」  アップグレードが完了しました。 「やっと住所まで割り出せたのに! これじゃ麻理のドドメキが止まらないの!」  どうも十五メートルから二十五メートルはあるスタンドをお持ちのようだ。  涼日はというと、タウンページを取り出している。  あわてて外を見てみたけれど、夜のハイウェイに華皇するスタンドなんていなかった。良かった。 「この辺りで大火事があったって言うから、麻理は心配して慌てて来たのよ!?」  それが何よ、とみかんの皮を平手で叩いて続ける。 「火事があったかどうかもはっきりしないし、それが何時かも判らないなんて事ある!?」 「初動捜査が肝心なんだって。人の記憶は薄れていくからね」  と、答えると彼女がこちらをきっと睨む。 「だから。いったい誰なのよ、貴女」  ――俺を見て女に見える人というのは、ここ最近ではかなり珍しい。 「そうか――そうか」  涼日がタウンページを手繰りながら呟く。 「つまり君は、そういう奴だったんだな」  俺の方を見て。  たん、とタウンページが閉じる。  ――気付けば、その表紙と同じ色の壁に囲まれた、白いベッドの上で三人が座り込んでいる。 「テ、テンコー……」  いれぶんが菜箸を掴んだまま言う。 「大した事じゃないわ。いつもと逆の事をしただけ」  タウンページで肩をとんとんと叩きながら、涼日が答える。 「つまり、この病院を軸に私が移動するんじゃなくて、私を軸に病院を移動したの」  なるほど、わからん。 「さすがタウンページだ、何とも無いぜ――こいつは最初から間違ってなんかいなかった」  さっきまでみかんを置いていた三人の中心に、涼日がタウンページを置く。 「店員の応対がおかしいから、私がコイツは出前じゃないって勘違いしたんだ」  涼日もだいぶ悪いという予感しかしない。 「ガソリンをかぶったからって、それが治らないとは限らないものね」  まあ。 「――経験あるけど、一番は呼吸困難かな。ものが燃えるってほんとに酸素使うんだね」 「そうね。あんたも別に隠してた訳じゃないのに」  さあ、と涼日が前に乗り出して言う。 「帯を解こうじゃないか――ね?」  フランベ。  涼日が俺に向けて言う。  一方いれぶんは、食べ物を探してほっつき歩いていた。 16/02/13(土)12:03:47 No.12687646 del ■設定■ 唯井 麻理 縦のラインが走った暖かなニットのサイハイソックスと 厚めの生地のフレアスカート もこもこのついたセーターにマフラーを巻いて ふわふわの髪を揺らしてウチの部屋に入ってきた近所の麻理さん 思わずおかえりって言ったけどここはキミの家じゃない 16/01/09(土)09:51:28 No.12575004 del ■設定■ いれぶん 幽霊の少女 アパートに憑いてるが夢はコタツの精霊の 主にやる気がない感じで脅かしてからみかんなどを盗っていく たまにさよなら人類を熱唱する(シャレではない) 11時にコタツの電気コードで絞殺されたのが原因だが本人は覚えていない 11時に比較的やる気が出るのでいれぶんと名乗っている 15/03/27(金)23:31:12 No.11616026 del ■設定■ 明石家涼日(あかしやすずひ) 頭の中がちょっとおかしな女の子 ボサボサな茶髪にイッた眼をしている 黄色い病院の一室で何事かをぶつぶつ言っている 金曜の夜になると消えたり増えたりするが 医者は何故か気にしない